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金欠パーティー8

 それは何の変哲もない普通の剣。ドラゴン討伐を――しかも伝説の中でも更に伝説となるブラックドラゴン討伐を夢見る者の武器としては、少々どころかかなり心許ない。

 そんな剣の最初の任務は攻撃を受け止めること。背後から振り下ろされたウェイルからシグルズを守る事だった。その任務を見事達成した剣が受け止めたのは他のヴェスパーの持つ物より二倍ほど大柄のウェイル。

 それもそのはず、そのウェイルを握るヴェスパー自体も他のに比べ二倍ほど大きかったのだから。人で言うところの巨漢とでもいうのだろうか。

 そんな巨体が上から押す込む力は凄まじく、それを表すかのようにシグルズの足元には罅が入った。それに耐える為シグルズも剣を握る手にもう片手を加えた。


「そろそろ俺も戦いに参加しようと思ってたとこだ。丁度いい」


 すると視界の端で自分を狙う巨漢ヴェスパーの尻尾が一瞬光りシグルズは大きく退いた。そんなシグルズと入れ違った尻尾は空を裂き地面に突き刺さった。


「チッ! 忘れてた」


 避けたのにも関わらず若干の苛立ちを現し舌打ちを零す。

 そして右腕に目をやると服が裂かれ肌には一本の傷が出来ていた。浅くも深くもない傷は静かに血の泪を流している。


「このタイプは二又だったか」


 再び巨漢ヴァレリーに視線を戻すとその陰から翼のように二本の尻尾が顔を出す。

 すると二の腕に出来た傷へどこからともなく飛んできた光の玉が集まり、その傷を覆い始めた。かと思えば吸収されるように傷口へと消えていく光。

 光が消えると再び肌が顔を見せるが、そこにはついさっきまであった傷はまるで気の所為だ言うように無くなっており、それどころか跡すら残ってなかった。


「ありがとうフィリア」


 お礼の向かう先に立っていたのは、シグルズが巨漢ヴェスパーの初撃を防いだ際にその場を離れていたフィリア。そして彼女の杖では傷を癒した光の煌めきが丁度消えていっていた。


「シグ君なら大丈夫だと思うけど怪我したら任せてくださいね」

「あぁ、任せた。だが……」


 シグルズは巨漢ヴェスパーに向き直すと剣を鞘に納めた。


「ゴルドさんの手伝いに行く為にもこいつ一匹ぐらいちゃちゃっと倒さないといけねーな」


 そう言うとシグルズは走り出し、真正面から立ち向かって行った。

 ある程度間合いを詰めた所でシグルズが大きく跳躍すると、空中という身動きの取りずらい場所に行くのを待ってたと言わんばかりに二又の尻尾が伸びる。更に巨漢ヴェスパーはウェイルを両手で振り上げた。

 そしてシグルズを貫こうと左右からほぼ同時に襲い掛かる二又の尻尾。

 だがシグルズは冷静に身を回転させると二本の尻尾を流れるように斬り落とした。とは言えまだ最大の脅威は健在。

 振り上げられたウェイルはそんなシグルズの回転直後を襲った。タイミング的にも自らの尻尾を囮にしたのではと思わせるほど絶妙であり、恐らく巨漢ヴェスパー自身も当たることを信じて疑わなかっただろう。

 しかし確信とは必ずしも結果に繋がる訳ではない。今回もそのパターンで、ウェイルは空振りに終わるとそのまま地面へ突っ込み土煙を上げるだけに終わった。そして巨漢ヴェスパーが見失った敵を探すより先――空振りしたウェイルを地面から持ち上げるより前に、シグルズはその姿を見せた。

 それは巨漢ヴェスパーの頭上。剣を両手で構えながら巨漢ヴェスパーへと落ちていくシグルズはそのまま剣を振り下ろした。刃先は脳天から気持ちの良い程スムーズに侵入し、まるで豆腐を切るが如く体を通り抜けていった。先に剣が一本の線を描くと、童話桃太郎の桃さながら真っ二つに割れた巨漢ヴェスパーの体はそれぞれが左右へ。

 それに向こう側では着地し血払いをするシグルズの姿。そんな彼の傍へ杖を手にフィリアが並んだ。


「さすがシズ君! やる時はちゃんとやりますね。でもどうやって頭上まで移動したんですか? 消えたように見えましたけど」


 ウェイルの一撃に呑まれたと思ったがいつの間にかその姿は更に上空へ。その摩訶不思議な出来事への疑問は重いらしくフィリアは首を傾げていた。


「ん? それはウェイルを振り下ろされるのは分かってたからこいつの斬った尻尾を掴んだらたまたま上まで行けたんだよ」


 手振りで空気を握るシグルズ。


「いや、よく掴みましたね」

「ほら手とかぶつけたら咄嗟に引くじゃん? だからこつらも斬ったら尻尾引っ込めるかと思ってさ」


 さらっと説明するとシグルズは視線をゴルドへと向けた。視線先で相変わらず減っている様子のない敵に囲まれながら戦い続ける光景に変わりはない。


「よし! そんじゃゴルドさんの手伝いに行くぞ」

「はい」


 そしてシグルズとフィリアは一息つく暇もない程の戦いを続けるゴルドの加勢へ向かった。

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