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金欠パーティー7

 だが風に吹かれ晴れた土煙の中にゴルドの姿はなく、いつの間にかヴェスパーらの更に上空にその姿はあった。そして世界の法則通り重力に導かれながら忍び顔負けの静けさで接近すると、体を回転させ勢いを増幅させた踵を一匹の脳天へと落とす。

 踵落としにより一気に加速したヴェスパーは地面へ落雷の如く一直線に落ちていったが、勢いの余りバウンドした体は再び宙に浮いた。

 しかしそこまで計算していたのか、ヴェスパーの体と共に跳ね返って来たウェイルの持ち手部分を、ゴルドは足を使い残りの二匹の内の一匹へ蹴り飛ばした。器用に飛ばされたウェイルは空中に停滞するヴェスパーへ頭から突っ込むとそのまま地上へと斜めに落下し連れ去る。

 その間、もう一匹のヴェスパーはウェイルを持ち直し先端をゴルドへ突き出すが、それは片手で悠々と止められた。それどころかむしろ逆に引き寄せられヴェスパーの体は無理矢理ゴルドの元へ。

 そしてその勢いも利用し、握った拳と正面衝突させた。余りの力に顔は変形し、一発で絶命したヴェスパーと地上に着地したゴルドは軽く息を吐き一息ついた。


「これじゃまるで終わりの見えないトンネルだね」


 頬に跳ねた紫色の血を指で拭いながら依然と弥次馬ように周りをぐるりと囲んだヴェスパーの群れを軽く見渡すゴルド。

 そして目が合ったからか丁度視線を向けた正面のヴェスパーがゴルド目掛け走り出す。それに応えるようにゴルドも走り出した。真っすぐ相手だけを見つめがら走る二人の間合いが重なり合ったその時――まるで事前に打ち合わせていたかのように完璧なタイミングで一人と一匹は次の行動へと移る。

 ヴェスパーはウェイルを突き出すのではなく横に振り殴り飛ばそうとした。だがそれとほぼ同時にゴルドは上半身を後ろへ引かせ両足を前に出してはスライディングで躱す。

 ヴェスパーの一振りを避けたゴルドは、勢いそのまま立ち上がりながら地を一蹴すると相手の頭を両手で挟み捕まえた。そして跳躍に乗せ立てた膝を正面から顔面へと突っ込ませる。牙をへし折り頭蓋骨を粉々にした膝蹴りは容易く敵の命を奪った。

 そしてそのまま後ろへ倒れていったヴェスパーと共に着地したゴルドだったが、その足首を尻尾が巻き付き捕らえた。透かさず足を力強く引かれ思わずその場に転ぶゴルド。


「おっと!」


 声を漏らしながら後方へ倒れたものの反射的に受け身をとったお陰でその衝撃は僅か。

 だが地に背を着ける形になった彼の視線の先には重力と羽の力を合わせたヴェスパーがウェイルの先端を真っすぐ向け落下して来ていた。

 常に変わりゆく戦況にどんな手を打つべきか思考している間も平等に進んでいく時間の中、ウェイルはゴルドの額目掛けその距離を縮めてゆく。そして数々の戦いと戦場を経験してきたゴルドが出した答えはこれだった。

 足首に巻き付く尻尾を自らもう一周足に巻き付けると体を折り畳むように足を上げる。逆に引っ張られ宙に放り出された尻尾の先のヴェスパーは、引かれるがまま降下していたもう一匹のヴェスパーへぶつけられた。

 ヴェスパー同士が容赦なくぶつかり、外殻が割れ中の液体が飛び出すまるで虫が潰れるような音が鳴ると、二匹はそのまま放物線を描き地面へ叩きつけられた。

 一方でゴルドは折り畳むように上げた足の勢いそのまま後転する要領で起き上がり片膝を着いた。そんな彼の後ろに転がるヴェスパーの内、ゴルドの足首と尻尾で繋がったヴェスパーにはまだ息があるようで微かに動きがある。

 立ち上がりそんなヴェスパーへ近づくと、ゴルドはその頭に足を叩き込んだ。完全に止めを刺し息の根を止めた足はもう一度上がり、次は依然と足首に巻き付いた尻尾を踏み千切った。

 それからもゴルドは次から次へと休むことを知らないヴェスパーの嵐の中、アステリアよりも高い身体能力を活かし己の体ひとつを武器に戦っていた。


「さすがゴルドさん。無駄のない動き」


 一方で依然と茂みからゴルドの戦いを観戦していたシグルズは静かに敬意の念を込めた拍手を送っていた。


「でもあれって体に悪そうですよね」


 その隣でフィリアは心配気な声を出した。


「確か本人が言うにはドーパミンやらアドレナリンやらベータエンドルフィンやらなんやらかんたららららーの脳内麻薬的なのを分泌させて、一時的に体の不調を感じないようにしてるらしいけど実際医者に診せたらどうなんだろうな」

「本人的には大丈夫らしいですけど、どうなってるのか気になりますね」

「でもゴルドさん雑なとこあるからな」

「トレーニングでも回数適当にしてる時ありますもんね」

「そもそもあの体でトレーニングしてる時点ですげーよ。それにあの肉体を維持してるんだぜ?」


 終始ゴルドへの尊敬が絶えないシグルズ。


「スゴイですよね。だけどゴル君が太ってるのって想像出来ないかも」

「確か――」


 すると途中で言葉を止めたシグルズは後ろを振り返りながら左手で剣を抜いた。

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