表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
秘密結社パンデピス  作者: ゆきやま
44/44

カブトムシの怪人

~前回のあらすじ~

 パンデピスの作戦に参加するため、好美は家族をキャンプに誘うことに成功する。

 その後、家族でお墓参りへと出かけた好美は利きお菓子選手権を見届けたのだった。

 準備万端の好美は予定通りキャンプへ向かい……。

-- 8月14日(月) 6:30 --


 手に持ったミネラルウォーター入りのペットボトルが、太陽の光を反射して輝く。

 朝の新聞配達でもらったミネラルウォーターをちびちび飲みながら、私は家路を辿っていた。

 空にはわた雲が浮かび、まるで行進をしているかのように私の真上を通り過ぎていく。

 天気予報によれば今日は雨は降らないものの、やや雲が多い1日になるようだ。


 坂を上り、家の前まで戻ってくると、上の方から2人のランナーが走ってきた。


「おはよう好美ちゃん!」

「姉さん、おはよう」

「おはようございます、アズマさん。ゆーくんも!」


 1人目は防衛隊員のアズマさんだ。

 暑い日でもいつも通りにウインドブレーカーを着用していて、その顔には汗が光っていた。

 もともと筋肉が凄かったけど、ますます力強さを増しているような気がするなぁ。

 あと日焼けした肌と笑顔が眩しい!


 2人目は私の弟にして新潟県のヒーローの後継者、ゆーくんこと佐藤 優輝である。

 お盆休みの間だけ実家に戻ってきているのだけど、朝練は欠かさず行うつもりのようだ。

 こちらは白い肌だけど、室内で訓練していたから焼けていないだけだろうね。


 それと、昨日、背を比べたのだけど、背丈はあっさり抜かされちゃっていた。

 ゆーくんは私よりも先に家を出て、私より先に職に就いている。

 私より先に大人になっていく気がして、嬉しいけどちょっとだけ寂しいな。


「思ったより平気そうだったな!」

「はい。僕にとって、ここにいる人たちは昔から知り合いですから」


 ゆーくんは帽子を目深にかぶってはいるものの変装などはしていない。

 2人の話しぶりでは何名かに気付かれたっぽいけど、幸い厄介なファンに絡まれたりはしなかったようである。


「えっと、アズマさん、わざわざゆーくんを見に来てくれたんですか?」

「あぁ、朝練がてらだけどな! 優輝は今や人気者だからな~。囲まれた時はガードマンくらいしようって思ってさ!」


 ゆーくんは最年少ヒーローであり、東京で秘密結社ハイドヒュドラを壊滅させた立役者だ。

 すでにその功績は地方の枠を大きくはみ出すものになっていて、人気もものすごい。

 公式ページの会員数はさすがに零くんより少ないけど、それに迫る数字を叩き出しているし、特に新潟県内だけで言えば確実に零くんを上回ると言われているのだ。

 人気が過熱気味だからこそ、アズマさんも何かと気にかけてくれているのだろう。


「優輝、今日は大丈夫だったけど、気を抜いたらダメだぜ? 話を聞いた連中が押し寄せてくるかもしれないからな!」

「大丈夫です。今日明日はキャンプに行くので、ほとんど家にいないんですよ」

「あれ、そうなのか?」

「はい。あと、ちゃんと向こうでも注意しますから」

「しっかりしてるな~。俺がいなくても、なーんにも問題なかったぜ!」


 アズマさんは謙遜しているけど、こうやってゆーくんを気にかけてくれる人が防衛隊員の中にいるというのは、姉としては非常に頼もしい。

 もちろん、零くんも上杉教官もいるから大丈夫だろうとは思っているんだけどね。


「おっと、家族の時間をこれ以上邪魔しちゃ教官に怒られちゃうな! そんじゃ、またな!」

「はい、また基地で!」

「好美ちゃんも、またな~!」

「ありがとございました。また!」


 走り去っていくアズマさんの背中に向かって、見ていないだろうけど手を振って見送った。

 ゆーくんも近くに居て、アズマさんにも会えるなんて、今日はいい日だ。


「姉さん、飛竜さんのこと好きでしょ?」

「うぇ!?」


 ゆーくんが突然そんなことを言った。

 (するど)い! 鋭いよ!

 あまりに的確な一撃に、私の鼓動が急速に速度を跳ね上げる。


「ど、どどどうして……!」

「前々からそうなのかなって思ってたけど? 聞かなかっただけで」


 バレてた……!

 私ってそんなに分かりやすいかなぁ?

 篤人さんにはよく分かりやすいって言われるけど……。


 そういえば、今日は篤人さんには会わなかった。

 昨日の時点で現地集合って言っていたし、単純に新しい情報が無かっただけかな?


「別にそれはいいんだけどさ、疑問があって」

「疑問?」


 どうやらゆーくんは恋愛話の深堀りをしたいわけではないらしい。

 となると、疑問とはいったい何のことだろう?


「飛竜さんは防衛隊員だけど、もし付き合えるなら恋人になりたいって思ってるんでしょ?」

「う、は、はい……」


 改めてハッキリ言われると照れるよぅ。


「でも、氷月先輩の告白は断っていて、頑なに拒絶しているでしょ。その理由が"ヒーローだから"なんだよね?」

「うん、そうだね」


 零くんには悪いけど、恋人になることはできないと思う。

 その人格や容姿については私も認めるところだし、一途な性格だし、1人の人間として見たら文句は無いんだけどなぁ。


「防衛隊員とヒーローって似ていると思うんだけど、姉さんの中でヒーローだけがダメな理由って何なの?」

「ヒーローがダメって言うよりも、有名人が嫌なんだよ」


 目立つとバレる可能性が上がっちゃうからね。


「でも、姉さん自身も既に目立ってるよね?」

「う、まぁ、そうかもしれないけど……ほら、近くに防衛隊員がいたらバレるかもしれないし」

「飛竜さんも防衛隊員だよ?」

「あー、うん、そうだったね……」


 言われてみたらアズマさんと付き合うのも難しい気がしてきた。

 でも、零くんほどの心の抵抗を感じないんだよなぁ……何でだろう?

 自分で自分の判断がよく分からなくなってきた。


「なーんか、ヒーローって苦手なんだよね……」

「姉さん、怪人であることにこだわりすぎなんじゃないの?」

「そ、そうかなぁ……? うーん、そうかも……」


 ゆーくんに言われて、それがストンと腑に落ちた感じがした。

 結局、私が怪人であるからという理由が一番大きい気がする。

 怪人とヒーローが敵同士なのに近くに居ること自体、強い違和感を感じてるんだよね。


「どちらにせよ、私はきっとヒーローの近くには居られないよ。ゆーくんは別だけど」

「そっか」


 セミたちのジージーという鳴き声だけが私たち2人を包む。

 私の答えを聞いて、ゆーくんはそれ以上は何も言わなかった。

 私もこれ以上、何も言えることはない。


「朝ご飯にしよっか?」

「うん、そうする」


 話を切り上げて、私たちは揃って玄関から家の中へと入っていく。

 お母さんとお父さんはまだ寝ているっぽいから、静かにただいまをして朝ご飯の準備を開始した。


 今日は家族総出でキャンプに行く日だ。


 準備は万端!

 ご飯を食べて、ひと息ついたら出発である。

 夜は秘密結社パンデピスの作戦に参加することになるけど、それまでは普通の旅行を楽しもう!


 良い1日になるといいな。



-- 8月14日(月) 12:30 --


 お父さんの運転するミニバンは北陸自動車道を北へ北へと走り続けた。

 パーキングエリアのファミリーレストランでちょっと早めの昼食を食べたのち、今は高速道路を降りて加藻(かも)市に向かっているところである。

 ラジオからは流行りのミュージックが流れ、旅の気分を盛り上げてくれている。


 車が加藻市に差し掛かると、思ったより車の出入りが多かった。

 それに比例するように、人の行き来も多くなってきている。


「なんか、思っていたより人が多いなぁ」

「屋台が出てるね」

「お祭りをやってるのかしらぁ?」

「ひゃっひゃっひゃ! 今日は加藻川の花火大会じゃからな!」


 お父さんは加藻川花火大会のことを知っていたようだ。

 私ももちろん知っていたわけだけども、空っとぼけておいた。

 なんせ、夜に怪人が襲う作戦に参加するからね。

 ゆーくんは勘が鋭いから、最初から知っていたら作戦のことにも気付かれるかもしれないのである。


「何か買ってこようかしらぁ?」

「ふぅむ、その場合、優輝はお留守番が無難じゃな」

「ここまで人が多いと、確かに出られないかも」


 ゆーくん、屋台巡りには行けそうにないもんね。

 夜でも難しいかなぁ?


「お出かけしたのにお留守番なんてダメよ~。花火大会は見送るしかないわぁ」

「ひゃっひゃっひゃ! 花火ならキャンプ場からも見えるかもしれんぞい!」


 うーん、私が知っていようがいまいが、花火大会は諦めることになってたっぽい。

 変に誤魔化す必要なかったかもなぁ。

 それにしても、やっぱりヒーローは色々と誓約があるから窮屈で大変だ。

 せめて好きな物でも買ってきてあげよっかな?


「お買い物してくるくらいならできるけど、ゆーくん、欲しい物ある?」

「ううん、いいよ。姉さんがキャンプ用に色々準備してくれてたから、それで十分だよ」


 お~、嬉しいこと言ってくれる~!

 実際、キャンプ飯の仕込みは完璧だから、きっと満足してもらえると思う。

 今日の私は、屋台にだって簡単には負けないぞ!


「それじゃ、別の寄り道でもしていくかのぅ」

「うふふ、屋台はまた今度ねぇ~」


 結局、買い物はせずに、車は加藻川を逸れて木々の生い茂る山へと向かって行く。

 ほどなくして車を停めて降りた先は、自然豊かな蒼海(あおみ)神社である。


 まずは長々と続く石の階段を上って神社にお参りした。


「はぁ、はぁ、なかなか大変じゃわい!」

「ホントねぇ~」


 相槌を打ってはいるけど、お母さんの表情にはまだまだ余裕が見える。

 お父さんが一番体力無いなぁ。

 逆にゆーくんは息1つ切れていないのはさすがだ。


 参拝を済ませた私たちは目標となる場所へと歩みを進めていく。

 階段を下り、公園の道を進むこと約10分、ここに来た目的地へと辿り着いた。


「ここじゃな! 意外と空いておるのぅ!」

「ラッキーねぇ! さっそく入りましょう!」


 お母さんがルンルン気分で入っていったのは、加藻山公園内にあるリス園である。

 シマリスたちと触れ会える場所で、それなりの人気スポットなのだ。

 リスたちのお腹が空いていたらという条件が付くが、手に持ったヒマワリの種を直接取りに来てくれたりするのである。


 ただ、私は動物たちから嫌われやすいから、たぶん無理なんじゃないかと思う。

 人間の形態でも怪人並みのパワーを持っているからか、動物たちに恐がられやすいのだ。

 私はカメラ係でもやってよっと。


「はいは~い、おやつよぉ~」


 お母さんがヒマワリの種を手に乗せてリスたちに呼びかけている。

 お腹が空いていたのか、さっそく1匹のシマリスがやって来てお母さんの手からヒマワリの種を受け取ってポリポリと齧り始めた。

 ふさふさな尻尾をピンと立てて、小さな口をもぐもぐと動かしている。


「うふふ、リスちゃん、可愛いわねぇ~」

「ふむ、シマリスか……」


 お父さんはまた改造手術的なことを考えているんだろうな。

 ふれあい広場にリスが来たら個人的には大歓迎だけど、そうなったらそのうちリスの怪人とか生まれるのだろうか?


「あ、ゆーくん、ポケット!」

「え? あっ!」


 しゃがんでいたゆーくんのズボンのポケットにシマリスが頭を突っ込んでいた。

 ゆーくんが慌てて立ち上がった拍子にリスが落っこちるが、難なく着地を決めてヒマワリの種をポリポリと食べ始める。

 ポケットにヒマワリの種が入っているのを嗅ぎ付けて突撃してきたらしい。


「ゆーくんなら安心だって思ったんじゃない?」

「えー、お腹が空いていただけじゃないの?」


 面白い絵だったなぁ。ちゃんと写真撮れたかな?

 むしろ動画で残しておきたかったかも。スマホの方が良かったかなぁ?


「姉さんも餌やりしたらいいのに」

「私はいいの!」


 大丈夫だと思ってチャレンジして、何度悲しい思いをしたことか。

 最後まで大人しくしておきますとも!


 それにしても、リスたちがここまで人懐っこいとは思っていなかった。

 動物に好かれやすい輝羽ちゃんがここに来ていたらリスまみれになっていたんじゃないかな?


 その後、心ゆくまでシマリスを眺めてから私たちはリス園を出た。

 入場無料だけど、寄付金の募金箱にはちゃんとお金を入れておく。

 いつかまた訪れた時に、リスたちが元気でいてくれるといいなぁ。



-- 8月14日(月) 14:30 --


「さて、次は少し涼し気なところでもいくかのぅ!」


 お父さんの運転で次に向かったところは下丈川(げじょうがわ)ダムである。

 深い山の中へと車を走らせ、木々の緑に囲まれた道の先にダムがあった。

 有名なダムと比べて規模は小さいけれど、それでも水量はなかなかだ。


「この辺一帯に桜が植えてあるんじゃよ」

「春に来たら綺麗でしょうねぇ」


 そのダムの上をゆっくり車で通り抜けながら、お父さんが蘊蓄(うんちく)を語っていた。

 小さ目のダムとはいえ、上から見た貯水池はなかなかに迫力がある。

 くねくねと曲がった川はダムによって水を湛えた湖と姿を変化させており、そのヘリにはたくさんの桜の木が並んでいた。

 あの桜が一斉に咲いていたらさぞかし絵になることだろう。


「水、けっこう濁ってるね~」

「うん。釣りもできるんだよね? キャッチ&リリースみたいだけど」


 やや緑色をしていて、まさに池といった感じの色合いだ。

 でも、こういう色をした池には生き物も多い。

 実際に魚も多く生息できる環境のようで、ヘラブナ釣りが楽しめるようだ。

 これらは無論、篤人さんからの情報である。


「キャンプ場へ行ったら、またひと勝負するかのぅ!」

「あら、またフグを釣るのかしらぁ」

「おっ、言うたな日和! 今回はちゃんとした魚を釣るわい!」

「うふふ、負けないわよぉ! 私が勝ったらわがまま聞いてもらおうかしらぁ」


 昨日もそうだったけど、お母さんってけっこう勝負事にしたがるよね。

 まぁ、単にじゃれ合うのが楽しいだけなのかもしれないけど。


 緑の葉を揺らす桜の木の横を、私たちを乗せた車が通り抜けていく。

 車は池のような川を右手に見ながらしばらく進み、キャンプ場の駐車スペースに停まった。

 誇科の人の車も何台か停まっていたけど、全員が釣り目的なのかキャンプ場には誰もいないようだった。


「貸し切りだね」

「森の香りがするわぁ」


 私たちにとって、人がいないのはいいことだ。

 これならゆーくんもゆっくりできるだろう。


 キャンプ場は屋根付きの炊事場が1つと、あとは広い原っぱのようなスペースが広がっている。

 近くには森ばかりで、人も、お店も、何もない。

 しっかり準備して来たので、ここで一晩を過ごすことに何の気負いもないけど、もし適当な準備でここに来ていたら不安が勝っていたかもしれない。


 あと、イノシシ出没の看板が出ていた。

 私とゆーくんはイノシシなんて怖くないけど、お母さんが巻き込まれるのは嫌だな。

 火を焚いておけば大丈夫かなぁ?


「まずはテント設営じゃ!」

「はーい!」


 私たちが持ってきたのは細長いトンネル状のテントだ。

 みんなでテントを広げて、わいわい話をしながら順番に組み立てていく。

 ゆーくんは防衛隊の基地の外に出ることはあまりなかったはずなんだけど、訓練でレンジャー的なことも教わっていたのか、凄く手際が良い。

 それとお母さんがこういうことに強いので、この2人の指示でテント設営は順調に進んでいった。


「うふふ、しっかり立てられたわぁ」

「バッチリだね」


 テント、あっという間に完成しちゃった。

 しっかり張りがあるし、ちゃんと安定しているから多少の風にも揺らがないだろう。

 荷物を運びこむついでにちょっとだけ寝転がってみよっと。


「お~!」


 うん、いい塩梅である。このまま寝ちゃいたいくらいだ。


「結構広いわねぇ」

「ひゃっひゃっひゃ! クーラーボックスも持ってきたぞい!」

「これでだいたい全部運んだね」


 荷物を運び終えると、みんなでテント完成祝いとしてお茶やジュースで乾杯をした。

 まだ15時にはなっていないけど、そのままおやつタイムである。

 全員がテントに入って足を延ばし、買ってきたアイスクリームを食べてまったり休んだ。


 ちなみに私とお母さんはソフトクリーム、ゆーくんはカップアイスのバニラだ。

 お父さんはチョコレートの棒アイスを食べていた。

 労働した後のアイスは格別だ。暑い夏にはアイスだな~!


「さて、一息ついたことじゃし……ヘラブナの型で勝負じゃ!」

「うふふ、大きい方が勝ちってことよねぇ? 負けないわよぉ!」


 あー、やるんだ。

 レクリエーションの1つとして魚釣りはするつもりだったので用意は万全である。

 ただ、別に勝負はしなくてもいいんだけどなぁ。


「好美はワシのチームじゃ!」

「へ?」

「じゃあ、ゆーくんは私のチームね!」

「うん、わかった」


 なんか、流れであっさりチームに加えられてしまった。

 まぁ別にいいけど、私には期待しないで欲しい。


 そんな感じのやり取りを経て、みんなで釣り竿を担いで川へと向かう。

 近くで釣りをしていた先客たちに軽く挨拶をしたあと、私たちは少しだけ川上に移動した。

 ゆーくんが気兼ねなく遊べるように、人がいないところまで行かないとね。


 幸い、ほど近くに誰もいない釣り場があったので、そこで釣ることにした。

 全員で一斉に釣り糸を垂らし、勝負開始である。


 延べ竿に付いた浮きをみんなで見つめているのだが、なかなか当たりが来ない。

 魚がいるのは間違いないから、お腹が空いているかどうかが問題なのかも。


(ゆう)まずめって、川魚にも当てはまるのかなぁ?」

「夕まずめって?」

「ほほぅ、好美は少しは知っとるようじゃな! 夕まずめは夕焼けの時間帯じゃ! 魚は日の出と日の入りのタイミングが釣れやすいんじゃよ!」

「そうなると、後半が勝負になりそうねぇ」


 まだまだ日は高く、夕方までそれなりに時間がある。

 勝負は2時間と決めているので、夕方に差し掛かろうかというタイミングで終了だ。

 それ以上に延ばしちゃうと暗い中で夕飯を準備しなくちゃいけなくなるからね。


 お魚はお昼寝でもしているのか、一向に当たりがこないまま時間が過ぎていく。

 釣り竿の先に黒い(はね)をもつトンボみたいなのが止まり、翅を休めていた。


 たまに餌があるかどうかを確認していたのだが、あまりに当たりが無いので、そのうち私とゆーくんは水辺を覗き込んで生き物探しを始めた。

 足元の水の中にも、小さなゲンゴロウや、トンボの幼虫のヤゴが枯れた水草の中でちょこまかと動き回っている。


「おっ! きたぞい!」


 静かに湖を眺めていたお父さんが声を上げた。

 浮きが沈んだのを見てすかさず竿を立てて、見事にフィッシュ・オンしている。

 今回もまさかの1番乗りだ。


「網、網!」

「ここにあるわよぉ」


 敵チームであるお母さんとゆーくんが楽しそうに網を伸ばしている。

 ずっと当たりが無かったから、誰かが釣り上げていること自体が楽しいのだろう。

 お父さんが魚を引き寄せ、ゆーくんがそれをきっちり網ですくい上げていた。


「よぉーし、まず1匹じゃ!」


 今回は狙い通り、ちゃんとヘラブナが釣れたようだ。

 お父さんが竿を片手にガッツポーズして、お母さんがそれを写真に収めている。

 ゆーくんと私はというと、網に入ったヘラブナをメジャーでささっと図っていた。

 だいたい20センチくらいかな?


「ヘラブナの中では小さい方じゃな」

「小学校で飼っていたのよりは大きいよ」

「そいつは違う種類の(ふな)じゃな! 15センチくらいにしかならんやつじゃろ!」


 小学校の水槽かぁ。そういえばそんなのあったな。

 鮒の他にも、タニシが数匹ガラスにくっついていたっけ。


 喋っている間にお父さんが針を外して、ヘラブナを川へ返した。

 ぽちゃんという音を立てて水に放たれたヘラブナは、一目散に濁った水の中へと消えていく。


「ともかく、これでワシらが一歩リードじゃ!」

「なんの! 勝負はここからよぉ~!」


 気合いを入れれば釣れるわけじゃないんだろうけど、その後、お母さんは見事にどでかいヘラブナを釣り上げていた。

 私もゆーくんも1匹ずつ釣り上げることはできたのだけど、結局は誰もお母さんの持つ記録を超えることはできずに2時間が経過したのだった。


「勝利したわぁ~!」

「ぐぬぬ、とんでもないバケモンを釣り上げよって……!」

「大きかったね」

「この川のぬしだったんじゃないかな?」


 竿のしなりが凄かったもん。

 折れちゃうかと思ったよ。


「はぁ、やれやれ。仕方ないわい! で、何が望みなんじゃ?」

「寝る時のポジション、真ん中を所望するわぁ~」


 私とゆーくんの間にお母さんが挟まる感じで、川の字で寝るってこと?

 そのくらい構わないけど、あまりべたべたされたら暑苦しい。

 ほどほどにしてもらえると嬉しいけど、お母さんだからしっかりくっついてきそうだなぁ。

 私、今日ちゃんと寝られるかなぁ?


 釣りの勝負が終わり、竿を片付けてキャンプ場へ戻った。

 ここからは私のターンである。


 飯盒でご飯を炊くのだが、今日はゆーくんにその役目をお願いしてみた。

 ゆーくんも張りきっているし、きっとうまくやってくれるだろう。


 私はもう1つの主役、カレー作りを担当する。キャンプと言ったらカレーである。

 今日はどっさりトマトを入れたカレーに初挑戦するのだ!

 いつも家で作っているカレーと少し違ったものにしたかったから、勉強してきたのである。


「うぅむ、火を着けるのも一苦労じゃな」

「うふふ、そういうのもキャンプの醍醐味よぉ~」


 まずはみんなで、炊事場で薪を使っての火起こしである。

 お母さんはやっぱりアウトドア慣れしているのか、お父さんにアドバイスをしていた。

 ちゃんと火が着いたら2人にはスペアリブを焼いてもらおうっと。

 昨日のうちにタレに付け込んでおいたので、後は焼くだけである。


 程なくして炊事場からはパチパチと火が爆ぜる音が聞こえてきた。

 火に焙られた薪は炭のように黒くなり、ゆっくり灰へと変わりながら炎を上げている。


 ゆーくんが飯盒を4つならべて炊飯を開始し、少しずつ薪をくべて火を強めていく。

 やがて炭が焼ける匂いの中にだんだんと甘い香りが混じってきた。

 蒸気が蓋の間から吹きこぼれてくれば、後はしばらく中火で炊き上げるだけである。

 火加減も上々だし、あれなら完全に任せてしまって問題無いだろう。


 それを横目に見ながら、私が作っていたのはカレーの鍋だ。

 すでにぐつぐつと煮え立つカレーが、周りにスパイシーな香りを振りまいていた。

 水分は少なめにしたけれど、思ったよりトマトが予想より水を含んでいたみたい。

 でも、それがむしろとろみを丁度よくしてくれている。

 思った以上に良い感じに仕上がりそうだ。


 お父さん、お母さんもスペアリブを網の上で焼いている。

 カレーにも負けないくらい、お肉とタレの焼ける良い匂いが立ち昇る。

 その香りに、思わず生唾を飲み込んでしまった。

 肉の欠片を味見と称してつまみ食いしていたことは今回だけ見逃してあげよう。


 やがて……。


「できたー!」


 ゆーくんが珍しく嬉しそうな声を上げた。

 飯盒で炊きあがったご飯は粒立ちも良くて、香りも凄く良い。

 焦げ付いたところも無さそうだし、これは素晴らしい仕事と言えるだろう。


「こっちもできたぞぃ!」

「うふふ、好い匂いがするわぁ」


 焼きあがったスペアリブを大きなお皿に美しく盛り付け、お父さんたちが胸を張る。

 ただ焼いてくれればそれで十分ではあったのだけど、盛り付け方だけでもかなり見栄えが違ってきて、美味しそうに見えるから侮れない。

 こちらも想定以上に良い仕事をしてくれていたと言えるだろう。


「カレーもバッチリできてるよ」


 トマトがメインの中辛カレーの鍋が、湯気と香りをふわりと広げている。

 味見した感じは美味しかったけど、ご飯と合わせた時にどうかな?

 きっと喜んでもらえると思うのだけど、初めての料理だから少し不安だなぁ。


 ちなみにテーブルの準備を忘れていたので、みんなで慌てて準備をして料理を並べた。

 まぁ、このくらいのミスならなんてこともないからね。

 ついでに冷やしてある飲み物も用意して、今日の夕食の完成である。


「みんな準備できた?」

「うん」

「準備万端じゃ!」

「うふふ、飲むわよぉ!」


 みんなでコップを持って、それをテーブルの中心でカチンと合わせた。


「「「かんぱーい!」」」


 私は麦茶を、ゆーくんはぶどうジュースをグッと飲んで、ぷはっと息を吐き出す。

 お母さんは生ビール、お父さんはこのあと少しクルマを運転するのでノンアルコールビールだ。

 乾いた喉が潤うと、目の前の料理から立ち上る香りが鼻を刺激する。

 よーし、食べるぞ~!


 みんな待ち切れなかったのか、さっそく各々が食べたい料理に手を伸ばしていた。


「うむ! 美味い!」

「ビールに合うわねぇ!」


 お父さんとお母さんは自分たちで焼いたスペアリブを真っ先に味わっていた。

 荒い網の焼き目がついたスペアリブからは脂が滴り、タレの焦げ跡をテラテラと濡らしている。

 香り立つ肉の脂の匂いと甘いタレの匂いが食欲をそそる至高の一品だ。

 私も後で食べようっと。


「良かった、ちゃんとできてる」


 ゆーくんは白米の炊き加減にホッとした様子を見せていた。

 私も少し食べてみたけど、歯に感じる弾力と粘り気も良いし、香りも味もバッチリだ。

 おかわりが無いのが残念なくらいである。

 ちなみに菓子パンを買ってきているので、足りない人はそれを摘まんでもらうつもりだ。


「うんうん、カレーも良い出来栄え!」


 私はカレーライスをひとくち食べて、その味に納得していた。

 ご飯との相性もばっちりだし、カレーに含まれたトマトの酸味と辛みが絶妙にマッチしていて、いくらでも食べられそうな味である。

 具材として入れたじゃがいも、ニンジン、玉ねぎ、ナス、ウインナーも良い感じだ。


「ひゃっひゃっひゃ! こりゃ豪華な晩餐じゃわい!」

「カレーも美味しいわぁ~!」

「すぐ無くなっちゃいそうだよ」

「あはは、たくさん食べてね」


 みんなで料理に舌鼓を打ち、味の感想を言い合う。

 他にもどんな料理が良いか、秋のキャンプだったらどうか、と話が弾んだ。

 私も目の前のお料理に舌鼓を打ちながら、早くも次の機会を夢想するのだった。



-- 8月14日(月) 19:00 --


 お腹が膨れてきたところで周りを見ると、いつの間にか日はとっぷり沈み、周りは夕闇に包まれていた。

 焚き火台に火を燃やし、小さなキャンプファイアーをみんなで見つめる。

 それとマシュマロを持って来て、串の先に差して焼きマシュマロを楽しんだ。

 なお、これは篤人さん情報を元に用意してきたものである。

 マシュマロは焦げ目がついたと思ったらトロトロに溶けていく。こんな風になるんだね。


「僕、これは初めてやったよ」

「私も!」

「ひゃっひゃっひゃ! ワシらは知っておったぞ!」

「うふふ、何年ぶりかしらぁ?」


 偉そうに言っているけど、チーズみたいに伸びるマシュマロに一番苦戦しているのはお父さんである。

 なんていうか、身体を動かすことに関してはどんくさいなぁ。

 でも、それが何故か一番おいしそうに見えるし、真似したくなっちゃうんだよね。


「ふぁ……」


 あ、ちょっと眠い。

 まだ寝るには少し早い時間なんだけどなぁ。


「ふむ、そうじゃな。みんなで先に風呂に行っておくかのう!」

「うふふ、背中を流してもらおうかしらぁ」


 気を遣わせちゃったかなぁ?

 でも、時間的にはそろそろ向かわないといけないし、気にするほどじゃないか。

 そんなわけで、車に乗り込んで近場の露天風呂まで直行である。


 向かったのは七山温泉・美人の湯である。

 加藻川を横断した場所にあるので、図らずも通り道を覚える予行練習になったと思う。

 後で花火大会を襲う作戦に参加するために、またこっちに来ることになるからね。

 ともあれ、それはもう少し後の話だ。今はただ温泉を楽しむだけである。

 お母さんと背中を洗いっこして、ゆったりお湯に浸かってきた。


 1日の疲れが抜け出て行くようだ……。

 これで今日が終わりなら言うこと無しなんだけどね。


 お風呂から出てコーヒー牛乳を飲みながらしばらく待っていると、お父さんとゆーくんが揃って男湯から戻ってきた。


「はぁ~、参ったわい!」

「ごめん、お風呂には入りたかったから……」


 まぁ、バレるよねぇ。

 ゆーくんが来たことで、男湯はちょっとした騒ぎになっていたみたいだ。

 後から女湯に入ってきた人が興奮気味に噂話をしていたのである。


「ひゃっひゃっひゃ! このくらい織り込み済みじゃ! どうせこの後は誰もおらんキャンプ場に戻るんじゃから、どうということはないわい!」

「うふふ、どうせなら御用達(ごようたし)ってことでサインでも書いたらいいんじゃないかしらぁ?」


 お母さんは冗談を言ったつもりだったんだろうけど、その後、管理人に見つかって、本当にその通りサインと写真が飾られることになってしまった。

 ゆーくんって、本当に有名人扱いなんだと実感しちゃったよ。

 でも、私まで一緒に写る必要は無かったんじゃないかなぁ?


「姉さんも美人だからじゃない?」

「そ、そうかなぁ~?」


 ゆーくんにそう言われるのは嬉しいが、さすがにお世辞だよね。

 私の容姿は少なくともヒーローに並び立つほどじゃないし。

 それと、その後もゆーくんは何人かに呼び止められて一緒に写真を撮っていた。


「こりゃ長居は無用じゃな! 撤収するぞい!」

「うふふ、また来たいわぁ~」


 これ以上の騒ぎは御免だとばかりに、私たちはキャンプ場へと逃げ帰った。

 なお、写真とサインを飾るのは明日以降にしてもらうようにお願いしてある。

 写真とサインの影響がどの程度出るのかは分からないけど、ひとまずゆーくんが基地に戻るまで周りが騒がしくならなければそれでいいや。


「さぁて、飲みなおすぞい!」

「私ももう少し飲もうかしらぁ?」


 キャンプ場に戻って、お父さんとお母さんが再びビール缶を開けていた。

 今日はもう運転する予定は無いから、今度はお父さんも生ビールを飲むようである。

 クーラーボックスから枝豆を取り出して、また乾杯し直している。


「ふわぁ……」


 何だか本当に眠くなってきた。目を閉じたら30秒で寝付けそうである。


「姉さん、先に休む?」

「うーん、花火、見えるか確かめたかったけど……」


 結局、私はテントの中に潜り込むことにした。

 ゆーくんはお父さんたちのところに行って何やら話をしている。

 私は一足早く就寝だ。おやすみなさ~い。


 ……というわけにもいかないんだよなぁ。


 お父さんとお母さんは酒盛り中、ゆーくんも私が寝ていると思っていることだろう。

 これより他にチャンスは無い。

 私たちが持ってきたのは両側に出入り口があるタイプのテントなので、こっそり抜けだすこと自体は楽勝である。


 私は寝袋に荷物を入れて人が入っているかのように見せかけると、みんなとは反対側の出入り口から外に出た。

 みんなの目を盗み、私は素早く闇の中へと身を眩ませる。


「よぉーし、第一関門突破!」


 上手く抜け出すことができたと思う。

 これでしばらくは誤魔化せるはずだ。


 あとはできるだけ早く、私の小細工が露呈する前に戻ってくるだけである。

 まぁ、それも無事に戦いを切り抜けることが必須条件ではあるのだが。

 とにかく、急ぐに越したことはない。

 森の中まで移動した私は黒いブローチを取り出し、合言葉をこっそり囁いた。


「白き霞よ集え、メタモルフォーゼっ!」


 黒いブローチが私の合言葉に反応して白い光を放ち、中から光の布が飛び出してくる。

 その光の布は私の身体に巻き付き、着ていた服を怪人用の白いコスチュームへと変貌させていく。

 光が収まり、私が怪人の力を開放すれば、怪人ミスティラビットへの変身は完了だ。


「急がないと!」


 私は夜の森をダッシュで駆け抜けていく。

 今日の戦い、簡単に済んでくれるといいなぁ。



-- 8月14日(月) 20:30 --


 ひゅるるるるるぅ……どーん!


「「「おぉ~……!」」」


 加藻川のほとりに陣取った観客たちが、歓声を上げて空を見上げている。

 頭の上に大輪の火の花が咲き、その炎がたくさんの人達の顔と瞳を輝かせた。

 それと同時に、炎は闇に蠢く影の輪郭をも微かに浮き上がらせている。

 今、僕ら秘密結社パンデピスの一行は、川からほど近い森の中に潜んでいた。


「うーむ、わたあめが食べたい」

「……」

「……というのは冗談でな?」

「……」


 今回の指揮官である怪人が唐突にそんなことを口走った。

 怪人の顔は期待に満ちていたが、その言葉に誰も何も言わないでいると、やや間を置いて残念そうな表情に変わった。

 ここに集合してからずっとこの調子だ。


「ううむ、いまいち気分が盛り上がらんな。帰ろうかな?」

「い、いえ、そういうわけにも行きませんから……」

「お、ようやく反応が出てきたな! できればもっと元気があると良いのだが……」

「え、と……はい、頑張ります……」


 ひとことを返してみせた勇気ある戦闘員が顔をひきつらせた。

 戦闘員の態度に、面倒なことを押し付けられたという雰囲気がありありと伺える。

 この怪人に合わせられる人物がここにいないのは正直キツイなぁ。

 ミスティラビット、どうか早く来て。


「おい戦闘員21号、お前どうにかしろよ! 得意だろ、こういうの!」

「いやぁ、悪いんだけど、今日は僕自身も調子が良くなくってね」


 戦闘員の1人が小突いてきたけど、その期待には応えられそうにない。

 本当にしんどくて、僕自身が帰りたいよ。

 つらいというよりは、穴の開いた風船みたいにヤル気がまるっきり出てこない感じだ。


 たった1つの失恋をまさかここまで引きずることになるとは思わなかった。

 我ながら、こんな情けない状態になるなんてね……。


 不毛なやり取りをしているうちに、また花火が1つ上がって夜空に綺麗な花を咲かせた。

 そろそろ始めないと花火大会の方が先に終わってしまいそうで皆も焦り始めている。

 やりきれなさに溜め息をついていると、作戦が始まらないことに業を煮やしたのか、持ち場についていたリトルファングが戻ってきてしまった。


「おい、まだか? さっさと始めろ、バカカブト」

「バカカブトではない。ボルカンカブトだ」


 怪人【ボルカンカブト】

 ヤマトカブトムシの怪人。

 黒い鎧のような外殻を巨体に纏い、パワーを活かした格闘技を得意とする。

 だが、それ以上に支離滅裂な行動や、どこまで本気か分からない言動が目立つ奇人。


「私はボケであってツッコミではないのだが」

「俺だってツッコミ役じゃねーよ」

「お、少し良い感じになったのではないか? この調子なら私の相棒に……」

「寝ぼけたこと言ってんじゃねぇ! さっさと行け!」


 手厳しい返しにもボルカンカブトは嬉しそうな顔をしている。

 それを見たリトルファングの方がげんなりしている様子を見せていた。


「ふむ、リクエストがあったことだし、そろそろ出るとするか」

「くそ、待ちわびたとも言いづれぇ……」


 やっと動き出したボルカンカブトに、微妙な表情のリトルファングが続く。

 組織の中では怪人同士で同格であるリトルファングが相方をしてくれたら嬉しいんだけど、本人はその役割を嫌っているので期待はできなそうだ。

 故ライオーターあたりだったらちょうどよくバディが組めたかもしれないんだけどね。


 とにかく、ようやく事態が動き出しそうだ。

 この機を逃してなるまいと戦闘員たちの意欲が一気に高まり、彼らはすぐさま行動を開始する。

 直後、加藻川に爆弾の破裂音が鳴り響いた。


「うわぁああああ!?」

「な、なんだ!? 花火の事故か!?」


 加藻川の中心にいきなり火柱が上がり、観客が何事かとどよめいている。


「あ、あれを見ろ!」


 叫び声がこだまする中、加藻川の中心を覆う煙が晴れ、ぬらりと蠢く影が現れた。

 その巨体が花火の明かりをテラテラと反射して、不気味さをより色濃く引き出している。

 カブトムシのツノを高く掲げ、怪人ボルカンカブトが吠えた。


「俺は怪人ボルカンカブト! わたあめ屋はどこだぁ!」


 わたあめ? そういえばさっきもわたあめ食べたいとか言っていたっけ。

 わたあめ屋は確かあっちの方にあったはずだけど……。


 そちらを見ると、わたあめ屋は他の屋台を差し置いて真っ先に逃げ出している。

 まぁ、名指しされたらそうなるよね。


「か、怪人だぁあああ!?」

「みんな逃げろっ!」


 一拍遅れて、観客たちが我先にと逃げだした。


「……というのは冗談でな」


 やや大きな声でそう叫ぶと、彼は小さな声も逃さぬようにと手に耳を当てた。

 ボルカンカブトは一般人がツッコミをしてくれるのを期待しているらしい。

 でも、誰も彼も反応する余裕などあるはずもなく、完全に無視されてしまっている。


「ふむ、オーディエンスからのレスポンスは無し、か……」

「一般人に何を期待してんだよ」


 つい口を押さえられなかったリトルファングが口出ししてしまい、ボルカンカブトは嬉しそうな顔を見せていた。

 逆にリトルファングはその顔を見て額に青筋を立てている。


 加藻川には怪人の襲来を告げるサイレンが響き、観客は押し合い圧し合いをしながら一目散に逃げていく。

 やがて、その場に残ったのは怪人2名と川のせせらぎだけとなった。


「ともかく、俺はいったん退くからな! ヒーロー1人を引き付けるくらいの協力はしてやる」

「むぅ、仕方あるまい……」


 リトルファングはボルカンカブトに言い放つと、ジャンプ1つで闇の中へと消えていった。

 ボルカンカブトとしては相方が横に居て欲しいみたいだけど、『今日は戦わない』とリトルファング本人が伝えていたこともあって、無理強いはしないようだ。


 ただ、ボルカンカブトは調子の良し悪しでかなり戦力に差が出る怪人なんだよね。

 その調子を上げるためにはツッコミ役が必要になるのだ。

 特に戦闘員30号は非常に相性が良く、うまくそのピースを埋めてくれていた。

 ボルカンカブトは戦闘員30号をしっかり認識し、重用していた数少ない怪人の1人なんじゃないかな?


「ならば、私のボケのちからでヒーロー達からツッコミを引き出してみせよう!」


 よく分からない決意を口にしつつ、ボルカンカブトが空を見上げた。

 花火は途絶えたが、その代わりと言わんばかりに赤と青の2つの光が空に瞬き、飛行機雲を吐き出しながらこちらに向かって飛んでくる。

 その赤と青の光が真上まで来ると2人のヒーローが舞い降り、水しぶきを上げて着地した。


 予想通り、レッドドラゴンとブルーファルコンだ。

 今日は好美ちゃんとの旅行でクロスライトがいないことは分かっている。

 まぁ、それを周りの戦闘員たちに言うわけにはいかないんだけどね。

 みんな、クロスライトが近くに居ないかと警戒を強めていた。


 レッドドラゴン、ブルーファルコンが戦闘の構えを取る。

 ボルカンカブトを挟み込む位置に降り立った2人のヒーローに対し、ボルカンカブトは腕組みをしながら目を閉じていた。

 ……何を考えているのかな?

 いや、この怪人に対しては、その思惑を考えるだけ無駄なんだろうけどね。


「……はっ!? いかん、眠っていた!」

「は? 眠ってた?」

「……というのは冗談でね」

「いったい何なんだ?」

「気にするなレッドドラゴン。こういう奴には耳を貸しちゃダメだ」


 レッドドラゴンが疑問符を浮かべているのに対し、ブルーファルコンは冷静だった。

 口での戦いが強い分だけ、もしかしたらボルカンカブトにとってはレッドドラゴンよりブルーファルコンの方が苦手かもしれない。


「カブトムシの怪人……こいつがボルカンカブトか?」

「ほほぅ、私のことを知っているとは、もしや私のファンなのか?」

「そんなわけあるか!」


 レッドドラゴンが威勢よく否定すると、ボルカンカブトが嬉しそうな表情を見せた。


「ふむ、相方がレッドドラゴンというのは悪くないかもしれん」

「どういう意味だ!?」

「私と漫才コンビをだな――」


 ボルカンカブトがセリフを言い終わる前に、一陣の風がレッドドラゴンへと放たれた。


「はっ!?」


 それに気づいたレッドドラゴンが咄嗟に身を翻す。

 レッドドラゴンが立っていた場所に刃が突き刺さり、小さく火花を散らした。


 今の攻撃、あれはリトルファングのカッターだね。

 レッドドラゴンから見て真正面から放たれた攻撃だったこともあり躱されてしまったけど、きっとそれも想定の範囲内に違いない。

 リトルファングはどこから攻撃してきたのかをわざと見せることによって、レッドドラゴンの注意を引こうとしているんだろうね。


「ブルーファルコン、もう1人怪人が居るぞ!」

「やはり、2人居るのか!」


 ヒーローたちも、最初から2人の怪人と戦うことを想定していたらしい。

 最近は怪人が2人セットで出撃することが多かったし、不意打ちにも警戒していたから避けることができたのだろう。

 パンデピスは割ととんちきな秘密結社だけど、そんな相手に対してもちゃんと傾向を掴んで対策してきているのはさすがだ。


 ただ、そんなヒーローたちも怪人たちの作戦については間違った判断を下してしまったようだ。


「あの攻撃はリトルファングだ。レッドドラゴン、どこから攻撃が来たか分かるか?」

「あぁ、分かるぜ! 連携されると厄介だ。俺がリトルファングの相手をする! ここは任せたぞ、ブルーファルコン!」

「了解!」


 ありもしない"怪人たちの共闘作戦"を崩すべく、レッドドラゴンが戦場から離脱した。

 見事に策に嵌ってるなぁ。

 実は最初から1対1にさせるために分断するつもりだったんだよね。


 なお、これからリトルファングは、ボルカンカブトとブルーファルコンの決着がつくまで近場を逃げ回る予定だ。

 もちろんナンバーワンヒーローであるレッドドラゴンが相手なのだから、逃げ回るだけでも簡単な仕事じゃない。

 僕ら戦闘員も、ボルカンカブトとリトルファング、両方の戦いを見ながら撤退タイミングを見極めないとね。


「ふむ、どうせならブルーファルコンを連れて行ってもらいたかったのだが……」

「お前らの思惑通りになんか動くものか! 僕が相手だ!」


 気を吐き、力を籠めるブルーファルコンに対して、ボルカンカブトもようやく腕組みを解いて戦闘態勢を取った。

 ここからは1対1、純粋な戦闘能力による力比べの始まりだ。


「それでは、行くぞ! ブルーファルコン!」

「かかってこい! ボルカンカブト!」


 2つの影が走り出し、一陣の風となってぶつかり合う。

 花火の音を思わせるような大きな衝撃音が、加藻川の真ん中から夜の空に響き渡った。



-- 8月14日(月) 20:37 --


 ガンガンと響く戦闘音が遠くから聞こえてくる。

 どうやらもう始まっちゃっているみたいだ。


 私はウーウーとサイレンを鳴らすパトカーの上を飛び越え、花火大会の会場へと忍び込む。

 会場の観客たちは既に逃げた後で誰も残っておらず、加藻川では超人たちが2つの戦いを繰り広げていた。

 私は目立たない場所に隠れると、ウサ耳に意識を集中し、ひとまず周りの様子を確認した。


 戦いと逃げ惑う人たちの喧騒に混じって、知っている声の内緒話が聞こえてくる。

 戦闘員たちは近くの森に潜んでいるみたいで、戦闘員21号もそこにいるようだ。


「早く来てよ、ミスティラビット」

「本当に来るんだよな?」

「来てもらわなきゃ困るんだが……」


 何故だか戦闘員たちからはとても切実に望まれているっぽいなぁ。

 そんなに問題あったの?

 ボルカンカブトは確かに変わった怪人だとは思うけども……。


 なお、来る時にも見ていたけれど、周りは防衛隊と警察が取り囲んでしまっている。

 戦闘員たちにまで気を回すのも難しいと思うし、どうにか自分たちで逃げて欲しい。


 次いで、私は川の上流に意識を向けた。

 そこではリトルファングとレッドドラゴンが追いかけっこをしているようである。

 時折り刃の光と炎の軌跡が迸り、闇の中でのせめぎ合いを演出していた。

 今は逃げおおせているみたいだけど、あっちも何かの拍子で状況が変わるかもしれない。


 そして、川の真ん中にいるのは今回の指揮官であるボルカンカブトだ。

 ブルーファルコンとの戦闘で随分と攻撃をもらっている様子で、片膝をついて肩で息をしている。


「はぁ、はぁ、私のボケが通じない、だと……?」


 それと、相変わらず変なことばかり言う性格は変わっていないみたいだ。


「お前の冗談に付き合うつもりは無い!」

「ふむ、相性は最悪と言わざるを得ないな。いわゆるボケ殺しというやつだ」


 言っていることはふざけた内容だけど、もう結構追い詰められているっぽい。

 撤退しても良さそうな頃合いだけど、ボルカンカブトにどこまでの余裕があるのか誰も把握できていないようで、リトルファングも戦闘員たちも動こうとしない。

 まぁ、あの様子じゃ分からなくても仕方ないよね……。


 隠れていたかったけど、仕方ないか。

 こっそり口だけ出してボルカンカブトに撤退の指示を出させようっと。


「あのぉ、そろそろ撤退の指示を出した方が……」

「む!? その声は!?」


 ボルカンカブトが、がばっと立ち上がって私の方を見た。

 ちょっ! こっちを見たらバレるでしょうが!


 私の嫌な予感は当たり、ブルーファルコンが即時に反応して攻撃を放ってきた。


「そこだ!」

「ひゃあああ!?」


 間髪入れずに放たれるレーザー攻撃に、私は慌ててその場から飛び退いた。

 わたあめ屋の屋台かな? が、たちまち凍り付き、ひんやりとした空気が辺りに立ち込める。

 ブルーファルコンの銃撃は辛うじて躱せたが、私はその拍子に河川敷にまろび出てしまった。


「ミスティラビット! 今日こそお前を倒す!」

「うえぇ!?」


 2撃、3撃と撃ち込まれるレーザーを何とか躱す。

 氷の力は温存することにしたのか、通常のレーザーへと切り替えていたようだ。

 私が躱した先の土手に攻撃が命中して爆発し、炎を上げていた。


「ううむ、これではミスティラビットがブルーファルコンの相方みたいではないか」

「私はツッコミを受けているわけじゃないですよぅ!」


 ボルカンカブトの世迷言を一蹴し、私はとにかく避け続けた。

 もはやボルカンカブトのことなど放ったらかしで、ブルーファルコンは全力でこちらに攻撃を仕掛けてきている。

 だが、それに待ったをかけたのもボルカンカブトだった。


「ぬぅん!」


 身体を大の字にして私の前に立ちふさがり、その身体にレーザーが直撃して火花が散る。

 何ヵ所もバチィンッ! バチィンッ! と火花を噴いて、それでも力強く仁王立ちしていた。


 ただの銃撃ではなくて、ヒーロー専用の銃による重たい攻撃のはずなんだけど……。


「ふん、効かんぞ! 先ほどまでの私とは思うなよ!」

「な、なんだ!? 急にパワーアップした!?」


 闘気が立ち昇るボルカンカブトの姿に、ブルーファルコンがたじろいでいる。

 さっきまで這う這うの体だったのに元気いっぱいになったら、そりゃ驚くよね。


「やはりそのツッコミのキレ、戦闘員31号の時から変わらんな」

「あの、すみません、戦闘員30号です……」


 私のささやかな指摘を受けて、何故かボルカンカブトのオーラは更に高まっていく。

 一応、数字間違いは狙ってボケていたみたいだ。

 そして、後方では戦闘員たちが私の登場に沸いているようだった。


「ミスティラビット様が来ているぞ!」

「よぉし、これでボルカンカブト様の調子もうなぎ登りだ!」

「うちの組織、ツッコミ属性ってこんなに少なかったんだな」


 いや、ボケとかツッコミなんかいなくてもいいでしょうに。

 うちの組織はお笑い事務所じゃないんだから。


「さて、今度はこちらから行くぞ!」


 強烈な踏み込みで、ボルカンカブトが一気にブルーファルコンに迫る。

 以前からテンションの差がそのまま戦闘能力の差になるヘンテコな性質を持っていたけれど、なんだか今日は更に極端になっている気がする。

 そこまでツッコミに飢えていたのだろうか?


「くっ!? 速い!?」

「どうだ、今度の私のボケは冴えわたっているだろう!?」


 ガツン、ガツンと重い打撃音が繰り返し響いてくる。

 ボルカンカブトの言葉とは裏腹に、冴えわたっているのはボケではなく技の方だ。

 攻撃自体はそこまで洗練されているわけではなく、むしろ大振りである。

 でも、そんな大振りな攻撃も的確で重い1発となれば受ける方はたまったものではない。

 調子を上げたボルカンカブトは、確実にブルーファルコンを押し始めていた。


「私のボケは重いのだ!」

「ボケが重いって何なんだ!」

「あっ……!」


 ブルーファルコンがついつい反論してしまった。

 それがボルカンカブトの拳の勢いを更に上げる。


「どないやねんキーーック!」

「くっ!?」


 キックじゃなくて、思い切りチョップで殴りかかってますけど……。


 しかし、そんなふざけた名前の攻撃だったが、その威圧感は申し分なかった。

 身の危険を感じたブルーファルコンが咄嗟に氷の盾を展開するほどである。

 しかも――


 攻撃が直撃して、バキンッ! と強烈な音が響く。

 なんと、ボルカンカブトはその一撃で氷の盾を砕いてしまった。


「うわぁ!?」


 砕けた盾と共に弾かれたブルーファルコンが川に叩きつけられて水しぶきを上げた。

 すぐさま防御態勢に移ったのはさすがだったが、ただのチョップに対して氷の力を使ってしまい、その上で更に押し負けてしまったのである。

 内心、かなり焦っているんじゃないかな?


「……というのは冗談なのだが」

「いやいや、威力はシャレになってないですよ!」


 あの氷の盾を叩き割るってことは、幹部ジゴクハッカイと同等の攻撃力ということである。

 しかも、ジゴクハッカイは専用武器の八海旋を使用しての攻撃だったのに、こちらは素手だ。

 それなのに、なんでこう、微妙に残念な性質を持って生まれてしまったのだろうか?

 ポテンシャルは凄いのになぁ。真面目に戦ってくれればいいのに。


「……」

「なに、私に真面目に戦えと……? 断る!」

「な、何も言ってませんよぅ!」


 心の中を読まれてしまった!?

 変なところで鋭いのはやめて欲しいんですが……。


 それにしても、相性の良いオーディエンス無しだと実力が安定しないのは問題なのに、あくまで今のスタイルを崩すつもりは無いようだ。

 なんだかもったいない怪人だと思うけど、それが彼のスタイルなら仕方ないのかなぁ?


「ふむ、やはり私の相方は戦闘員30号が望ましいな」


 うーん、何だか気に入られてしまっているみたいだ。

 実力が発揮できるなら付き合うのは吝かではないが、せめて名前は更新して欲しい。

 さすがに私の名前を分かっていないわけないと思うんだけどね……。


 まぁ、どうせ名前を呼ぶときもボケに走るんだろうけど。


「くっ! まさか一撃で盾を砕くなんて……」


 無駄話に花を咲かせていると、ブルーファルコンが戦闘態勢を整えて復帰してきた。

 氷の盾を叩き割られ、多少は特殊能力の残量を減らせただろうけど、まだまだ健在である。


「お前の底力には驚いたが、まだまだ負けちゃいないぞ!」

「ふむ、元気いっぱいだな、ブルーファルコン」

「行くぞ! ボルカンカブト!」

「どんと来い!」


 ボルカンカブトが微妙にカッコよくないセリフを連発し、ツッコミを誘っていたが、そんなことお構いなしとばかりにブルーファルコンが突進していく。

 両者の拳が再び交わり、格闘戦の第2ラウンドが開始された。

 ガツン、ガツンと先ほどと同じく強烈な打撃戦が展開され、時折りその攻撃力の高さから、比喩表現ではなく本物の火花が散る。


 さらに勢いを増していくボルカンカブトに、ブルーファルコンは完全に防御一辺倒になっていた。


「くそ、反撃の隙が無い!」

「私の完璧なボケに、ツッコミの余地など無い!」


 ツッコミの余地がないって、それ、ボケとしてどうなんですかね?

 というか、攻撃されること(イコール)ツッコミじゃないんですけど……。

 あ、ボルカンカブトがチラチラとこっちを見ている。

 ツッコミを入れろという催促しているみたいだ。


「戦闘員32号、ツッコミはまだか? そろそろボケエネルギーが……」

「数字、増えてる!? その前にミスティラビットと呼んでくださいよぅ! っていうかボケエネルギーって何なんですか!?」


 ツッコミじゃなくて、思ったことをそのまま口にしてるだけなんだけどなぁ。

 それでもボルカンカブト的には満足だったようで、その力を更に跳ね上げていく。

 ブルーファルコンの防御を突破し、ついに重い一撃がブルーファルコンへと届いた。


 ドッ、と鈍い音を立てて、ボルカンカブトのミドルキックがブルーファルコンの脇腹を撃ち抜いた。


「うわぁああ!?」


 バチィンッ! と火花が散り、ブルーファルコンがフィギュアスケートみたいに身体を回転しながら弾き飛ばされる。

 そのまま再び川に叩きつけられ、衝撃音と共に水しぶきと瓦礫が舞った。


 この一撃はかなり効いたはずだ。

 ボルカンカブト、いったいどれだけの力を秘めているの?

 このままいけば、まさかの勝利になりそうなんだけど。


「これがボケの力だ……!」


 ボルカンカブトが渋く言い放った。

 言い放ったはいいけど、ブルーファルコンに勝てたとして決め台詞はそれでいいのかなぁ?

 いや、本人がいいならそれでいいんだけどね。


「ま、まだだ!」


 それでも、青いオーラを纏ってブルーファルコンが立ち上がってくる。

 かなりダメージを負っている様子だが、本人の言う通り戦意は衰えていないみたいだ。

 ……なんか、少し心配になってきた。

 もし限界なら致命的な一撃を受ける前に撤退してくれないかな?


「その舞台根性は見事だが、真打となった私には太刀打ちできまい」

「自分が主役だとでも言いたいみたいだな、ボルカンカブト!」


 ブルーファルコンの纏ったオーラは、実際にアクアマリン色の輝きを強めている。

 ここで一気に大技を使って攻勢に転じようとしている意図が丸わかりだった。

 重くて正確な一撃に対し、より重い攻撃で真正面から打ち勝つつもりだ。


「いえいえ、私なんてそんな……」

「謙遜している場合ですか!?」

「ふっ、案ずるな、ミスティラビット30号! 私のボケは主役級だ!」

「いや、あの、名前が混ざってますよ。(ミスティラビット)はそんなにたくさんいないです」


 対するボルカンカブトも激しい力(ボケエネルギー)を身に纏っており、周りの景色が揺らいで見える。

 その姿の後ろには茶色いオーラが立ち昇っていた。

 ……カブトムシっぽいとは思うけど、オーラ、汚い色してるなぁ。

 せめて黒であってほしいよ。


「私の全力のボケを出す時が来たようだな。観客(オーディエンス)の拍手喝采は私の物だ!」

「敢えて言ってやる。オーディエンス、たった1人じゃないか!」

「おお、嬉しいぞブルーファルコン! お前がまさかノッてくれるとは!」


 ブルーファルコンのツッコミを受けて、ボルカンカブトのテンションは最高潮のようだ。

 それにしても、まさか相手の調子をわざわざ上げるなんて、ブルーファルコンはいったい何を……?


「お客さんを待たせるのは良くないな。……いくぞ、ボルカンカブト!」

「来い、ブルーファルコン! ここが我らの檜舞台だ!」


 悩む私が答えを探すより早く、2つのオーラが走り出した。

 ブルーファルコンとボルカンカブトがお互いに向かって突進していく。

 お互いが最大の攻撃を繰り出そうと、構えを取った。


「必殺! 【ブルー・スラッシャー】!」

「くらえ! 【マジボケ・フィンガー】」


 それぞれが一番攻撃力の高い技を放つ。

 五の指を吐きたてるかのように前に突き出すボルカンカブトに対し、ブルーファルコンの振るう2つの刃が十字を描いた。


「あれは……!?」


 ブルー・スラッシャーは何度か見たことのある技だったのだが、ブルーファルコンのオーラが一瞬で更に膨れ上がり、氷の刃が更に太く巨大な刃へと変わった。

 今までと違う、全ての力を破壊力に変えたかのような刃の姿に恐怖が奔る。


 2つの必殺技が激突し、バキィン! と金属同士がぶつかるような音が響いた。


 一瞬、時が止まったかのように2人の動きが止まる。

 刹那、ブルーファルコンが腕に持った氷の刃が粉々に砕け散った。

 もしかして、本当に勝った……?


「ナイス、ツッコミ……!」


 しかし、敗北宣言をしたのはボルカンカブトの方だった。

 その腕が徐々に氷に覆われ、腕と胴体の半分が固まってしまう。

 ボルカンカブトはそのまま膝をついた。


「見事だ。まさか、あのテンションになって力負けするとは……」

「……ボケに走らないんだな」


 ブルーファルコンの疑問に、ボルカンカブトはフッとニヒルに笑った。

 普通の反応、できるじゃん……。

 それとも、疲れ果てるとボケる力まで無くなるのかな?


「1つだけ聞きたい。なぜ、さっき、私の力を高めるようなことをした?」

「個人的な理由だ。全力のお前を超えたかった。……俺も、まだまだ強くならなきゃいけない」


 そう力強く宣言したブルーファルコンがアクアマリン色のオーラを再び溜め始めた。

 ブルーファルコンも確実にパワーアップしている。

 その目には、きっと幹部ジゴクハッカイの姿を映しているのだろう。


 対するボルカンカブトは本当に全力だったようで、もう抗う力は残っていないようである。

 私が到着するまでは一方的にやられていたみたいだから、テンションが落ち着いたことで、そのダメージが表面化したことも一因だろう。

 ……ここが、潮時だ。


「2人とも、すごかったですよ」


 私1人で申し訳ないけど、労いの言葉と拍手を送っておいた。

 当然ながらブルーファルコンがこちらを警戒し、氷の能力を溜めながら構えを取る。


 しかしその直後、どこからか飛来した霧玉(ミストボール)が私たちの目の前で爆発し、辺り一帯を白い霧で染め上げた。

 ウサ耳で聞いていなくても分かる。これは戦闘員21号の仕業に違いない。

 私に注意を払っていたブルーファルコンは、その不意打ちに完全に虚を突かれていた。


「しまった! まだ奴らの仲間が……!?」


 私はマジックステッキを携えて2人の間に割って入り、ブルーファルコンへ牽制の一撃を見舞いながら首尾よくボルカンヤマトを担ぎ上げることに成功した。

 そのまま跳躍して、一気に霧の中へと姿を眩ます。


「これで幕引きです!」

「待て! ミスティラビット!」


 叫ぶブルーファルコンが銃を乱射してくる。

 相変わらず見えていないはずなのに狙いが正確でおっかないけれど、勝算はある。

 だって、ブルーファルコンの攻撃が向かう先に、追いかけっこをしていたもう1人のヒーローがいるのだから。


「うわぁ!?」

「な、レッドドラゴン!?」


 攻撃を受けたのはレッドドラゴンである。まぁ、レーザーが掠っただけだけど。

 それでもブルーファルコンを怯ませるには十分だったようだ。

 ブルーファルコンからの追撃が止まり、レッドドラゴンも足を止めている。


 私のすぐ近くにはリトルファングがいて、彼の方から合流してきた。


「うまく行ったな」

「リトルファング! わざとやったの!?」


 彼はしてやったりの表情を見せていた。

 レッドドラゴンに追われながら、私たちの動きも見ていたのか……。

 引き付け役を完ぺきにこなし、逃走も鮮やかだなんて、なかなかやりよる!


「さっさと逃げるぜ」

「うん!」


 作戦がうまくいったからか、リトルファングも上機嫌のようだ。

 私とリトルファングは悠々と戦場を離脱していく。

 2人で逃げおおせた先には、戦闘員たちが撤退の準備を完了させて待っていた。


「あとはお願いします」

「オーケー、任せておいて!」


 戦闘員21号たちとも合流した私は、彼らにボルカンカブトを託した。

 戦闘員21号が威勢よく返事を返してくる。

 ちょっとだけ元気が戻ってきたかな?


 私は彼らの無事を祈りながらその場を後にし、一人、森の中へと姿を眩ました。



-- 8月14日(月) 21:15 --


 テントの裏からこっそり中へ入った。

 よしよし、寝袋はまだ1つだけのようだ。

 今のうちに中身を入れ替えよう……と思って寝袋を開けたのだが。


「姉さん」

「ひゃあああ!?」


 中にゆーくんが居た。

 よく見たら、私が詰め込んだハズのリュックサックの類が全て外に出されている。

 私の偽装に気付いたゆーくんが逆に罠を張ったようだった。


「ついさっき、ミスティラビットが出たっていう連絡が来たんだよ」


 ゆーくんがのっそりと寝袋から出ながらそう言った。

 ついさっきということは、戦いが終わってから連絡が来たってことか。

 クロスライトが居たら、また戦況は違っていたんだろうな。


「うぅ、ごめんなさい……」

「別にいいよ。そもそも、このお盆休み中は、僕は出撃無しって決まってたから」


 ゆーくんは別に怒ってはいないみたいだ。

 いや、それなら何で私の寝袋に入り込むなんていうイタズラを敢行したんだろう?

 やっぱり、ちょっとした意趣返しくらいはしたかったのかな?


「ヒーローたちも、民間人の被害も無しだって。まぁ、怪人には逃げられたみたいだけど」

「あ、あはは、それは、残念だったね……」

「うん、残念だ」


 私の愛想笑いに、ゆーくんは至極まじめに頷く。

 ゆーくんの瞳に、見たことのない光が灯った気がした。


「僕にとって、姉さん以外は倒すべき怪人なんだ。遠慮は一切しないつもり」

「……うん、分かってる」


 ゆーくんは、まっすぐ私に言うべきことを言ってくれた。


 もしも戦闘前にゆーくんが連絡を受けていたら、きっと参戦していただろう。

 私がその場に居たとしても、チャンスがあればボルカンカブトやリトルファングを撃破することを選んでいたのだと思う。

 そして私は……きっとそれでも、ボルカンカブトを助けようとしていたんだろうな。


「言いたかったことはそれだけ。もう遅いから、そろそろ本当に寝よう」

「ふわぁ……。うん、そうだね」


 秘密結社パンデピスの怪人と防衛隊のヒーローの会話が終わると、急に眠気がぶり返してきた。

 今度こそ本当に今日は終わりである。

 ようやく眠ることができそうだ。


「うふふ、お母さんも寝るわよぉ~」

「わ、ちょ、お母さん!?」


 千鳥足になったお母さんがよろよろとテントに入ってきた。

 飲み過ぎだよぅ!?


「ひゃっひゃっひゃ! 明日はカブトムシを捕まえるぞい! 早く寝とけよ~」

「早寝早起きは生活の基本よぉ~……zzz」

「もう寝てる!?」

「母さん、いくらなんでも風邪ひくよ?」


 お父さんもやって来て、寝袋にもそもそと身体を捻じ込んでいく。

 ゆーくんと2人でお母さんを寝袋に押し込み、蚊取り線香を焚いて灯りを消した。

 もうすでに寝ているみたいだけど、約束通りお母さん中心の川の字になるように、私とゆーくんも寝袋に潜り込む。


 星が輝く森のテントの中、虫たちの鳴き声を聞きながら私は眠りに落ちていった。



-- 8月15日(火) 5:30 --


 次の日。

 早朝にカブトムシやクワガタを探し周り、その後、テントを片付けて十日前町に戻った。

 朝ご飯はコンビニのおにぎりだったけど、結構おいしいんだね。

 篤人さんが自炊しないっていうのも分かる気がする。


 お昼前には、父方のおじいちゃんの家に遊びに行った。

 ご飯もご馳走になったし、そこで5千円もお小遣いをもらってしまった。

 まだ年末ですらないのに……。


 ちなみに、おじいちゃんの家はコメ農家であり、私の農業の協力者の1人でもある。

 おばあちゃんも、私にぬか床を分けてくれた漬物の師匠だ。

 今度、私の腕前を見てもらう名目で、お漬物でもおすそ分けしようかな?


 そして――


「楽しい時間はあっという間ねぇ」


 自宅に戻っておやつの時間が過ぎた頃に、お母さんが出発する時間になった。

 出稼ぎのため、1人で新潟市まで働きに行くのである。

 私が生活できるのはお母さんのおかげだ。本当にありがとう。


「次は年末までお預けね。寂しいわぁ」

「ひゃっひゃっひゃ! またすぐ会えるわい!」

「また来るのを待ってるね」

「僕も顔を出せるように、また頑張るよ」

「うふふ、そうね。また会いましょうね」


 名残惜しそうにしながらも、お母さんは元気よく玄関を出て行った。

 お盆休みの3日間、楽しんでくれていたなら良かったな。


「んで、ゆーくんは、お盆休みでやり残したことは無い?」

「別に無いんだけど。……あ、そうだ」


 何事かと思ったけど、ゆーくんが思いついたのは夕食のリクエストだった。

 そんなことくらいならいくらでも頑張っちゃうよ!


 今日の晩御飯は久しぶりに五目おこわを作った。

 それに加えて筑前煮とほうれん草のお浸し、以前に篤人さんにも好評だったアスパラガスの肉巻き、 それと、最近の私の中のトレンド、ナスと豆腐のお味噌汁も。

 ほとんどがゆーくんのリクエストである。


「ひゃっひゃっひゃ! こりゃまた豪勢じゃわい! 優輝がおると飯がグレードアップするのぅ!」

「ゆーくんに感謝してよ?」

「いや、姉さんに感謝じゃないの? ありがとう姉さん」

「えへへ、どういたしまして!」


 3日間の最後のご飯、ゆーくんとお父さんお母さんは美味しいと言ってくれていた。

 私もみんなの嬉しそうな顔が見られて幸せだ。


 私の料理もまだまだ戦えそうである。

 打倒、樋口さんを目標に頑張るぞ!


 晩御飯も終わって、20時ぴったりに家のインターホンが鳴った。

 ゆーくんのお迎えも来たみたいだ。


「じゃあ、行ってきます」

「「行ってらっしゃーい」」


 迎えに来た樋口さんと教官と共に、ゆーくんも家を出て行った。

 またしばらく会えないなんて、寂しくなるなぁ。


「夏休みが終わったらまた会えるじゃろ。まぁ、その前に戦場で会うかもしれんがのぅ!」

「そっちじゃ会いたくないなぁ……」


 昨日の戦いの後、どうやらパンデピスの仲間たちは無事に逃げ切れたらしい。

 ニュース番組では、防衛隊長が警察と連携して行方を追っていると報道されていた。


 それと、民間への被害は全くのゼロだったようだ。

 残っていた花火を今日また打ち上げて、お祭りの続きをするそうである。

 怪人に負けないぞという意思表示だそうだ。


 耳を澄ましても、花火の音は聞こえなかった。

 でも、山の向こうでは、きっと綺麗な花火が打ちあがっているんだろうな。

 誰かがあのキャンプ場から、それを見ていたりするのだろうか?



-- 8月15日(火) 21:00 --


【特務防衛課 新潟県 十日前町市 支部】


 地下950メートルにある防衛隊の秘密基地。

 その会議室のドアを開けて、俺はいつもの自分の席に腰を下ろした。

 すでに零と優輝は席についていて、麦茶の入ったコップを横に菓子を摘まんでいる。

 俺、(あずま) 飛竜(ひりゅう)も含めて現役ヒーローそろい踏みだ。


 今日は新装備の話になると決まっていたので、研究所員のみどりちゃんも会議に参加している。

 みどりちゃんはお盆休みから戻ってきた優輝にべったりなんだよな~。

 優輝の態度は素っ気ないけど。


「上杉教官はまだだけど、先に始めちゃいましょうか」

「いいと思うぜ! 時間も遅いし」


 後で会議の内容を伝えておけば問題無いだろうし、教官のことだから、たぶん新しい装備品の資料自体は読んでいるだろうからな。


「飛竜くんの試供品はこれ! "フレア・シューター"」


 みどりちゃんが赤い銃身を持つハンドガンをテーブルの上に置いた。

 今、持っているレーザーガンより、さらに少し大きめの銃だな。


「これは、零くんの持つ特製レーザーガンを少し機能制限したものよ」

「僕の銃の機能制限? 拡張じゃなくてですか?」

「うん、そうだよ。制限で間違いないわ」


 零が疑問を投げかけていたが、俺も全く同じことを思っていた。

 機能を制限したってことは、できることを減らしたってことだよな?


「具体的に言うと、特殊能力の"炎の力"を篭めて発射すること専用の銃なんだ」

「それじゃ、通常のレーザーガンは使えないってことですか?」

「そういうこと!」


 なるほど、レッドドラゴン(おれ)の能力専用の銃ってわけか。


「でも、何で機能制限を?」

「単純な話で、零くんの力は制御しやすいけど飛竜くんの炎は出力が高すぎなのよ。他の機能を入れてもすぐ壊れちゃうから」

「あー、俺、何度も装備を壊して怒られてたことあったな~」


 試験中に何度も壊して、研究所の連中が頭を抱えてたっけ。

 でも、本気で戦っている最中に信頼のおけない武器を使うのはいくら何でも怖すぎだ。

 悪いとは思ったけど、試験に手を抜いたことは無いぜ。


「その分、威力は"フレア・ナックル"と同等で、使用するエネルギーは少なくて済むはずよ」

「"フレア・ナックル"と同等……!」


 それを当てれば大抵の怪人には大ダメージを与えられるぜ!

 ブルーファルコンの氷のレーザークラスの攻撃がバンバン放てるなら心強いな!


「いいね! 試験が楽しみだ!」

「飛竜くん、あまり力を篭めすぎないでね? 技全体の威力を上げるものじゃないんだから」

「あー、はい、気を付けま~す……」


 調子に乗って壊したら怒られそうだな。本当に気を付けよう。


「続いて、零くんの装備がこれ! "双剣(そうけん) 八剱(やつるぎ)"!」

「えーと、剣、ですか? 2丁の拳銃にしか見えないような……」


 零が指摘した通り、見た目は青と白の銃身を持った銃だった。

 とても剣になるとは思えないんだけど……。


「まぁ、銃として使うのが基本だからね。でも、ここをこうすると……」


 みどりちゃんが片方の銃を手に持ち、リボルバーに弾を込める時のように銃身を折り曲げた。

 銃は形を変え、まるで剣の柄のような形に変わる。

 その状態でトリガーを引くと、パキパキと音を立てて氷の刃が姿を現した。


「おぉ!?」

「少しだけ能力をチャージしておけるから私にも1回だけ使えたのよ。説明用に入れてもらってただけで、もう空っぽだから使えないわ」


 みどりちゃんがトリガーを放すと氷の刃は消えてしまった。

 氷の能力を刃に変えやすくする装備か。

 零も今までは自分の能力だけで氷の刃を作っていたけど、装備によるサポートがついたら、より力を使いこなせるんじゃないかな?


「あと、氷のレーザーの威力もアップするよ」

「そんな効果まで?」

「まぁね。零くんの持っている銃、最近は碌にカスタマイズしていなかったからね」


 零が氷の能力を使いだしたのは十日前町市の支部に来てからだ。

 本部に居た頃には能力の検証もしていたけど、長らく戦闘には使って来なかったもんなぁ。

 きっと今の成長した零の能力を引き出すにはスペックが足りなくなっていたのだろう。


「でも、通常のレーザーガンとしては使えないから注意してね」

「分かりました。覚えておきます」


 熱による攻撃はできないってことだな。

 まぁ、そっちは俺がカバーすればいいだけの話だ。腕が鳴るぜ!


「最後に、優輝くんの装備なんだけど……」

「……多くないか?」

「……多いね」

「……多すぎませんか?」


 7つもあるんだけど……。


「ひいき?」

「そんなわけないじゃない! 私1人が開発しているわけじゃないんだから!」

「武器じゃ無いものが多いですね」

「まさか、残り全部が僕の装備だったなんて……」


 並べられた装備品のうち、柄だけの剣はもう分かっている。

 怪人プロトスレィモスを撃破した"サンライト・ソード"の完成品だ。

 残りはよく分からないな。


「優輝くんの装備品は総称だけ決まってるよ。題して"七つ道具(セブンツールズ)"!」

「セブンツールズ??」

「もしかして、探偵の七つ道具みたいなもの?」

「だから武器じゃないものが多いんだ……」


 探偵っていうか、斥候っぽいな。

 上層部がクロスライトというヒーローに何を求めているか、何となく分かる気がするぜ。


「1つ1つ説明するわね。まずは"サンライト・ソード"! これの説明は省くわね」

「完成版で、出力調整がしやすくなったんだよな?」

「優輝、後で試してみると良いよ」

「はい、そうします!」


 優輝もこの武器については嬉しそうだな。

 ようやく1人で怪人に止めを刺せるようにしてくれた武器だし、ヒーロー活動を続けていくための(かなめ)の装備品だもんな。


「次が暗視スコープ。暗闇でも周りが見渡せる装置よ! 望遠機能付き!」

「クロスライトは光を出せるから、ただ暗いところを照らすだけなら不要だろ? この装備って、暗いまま活動するために使えってことだよな?」


 思いっきり調査任務用の装備を入れてきたな……。

 拠点防衛の監視や、潜入捜査や、人の手の入っていない場所での工作にも使えそうだ。


「次が"発信機"! 特別な周波数を一定時間ごとに発する発信機よ!」

「優輝が求められている任務で、これが一番、重要な装備のような気がする」


 優輝が秘密結社パンデピスの入り口を見つけたらこれを使うわけだ。

 確かに最重要になってくる装備品なのは間違いないな。


「次が4個目、"クレジットカード"! お金です!」

「持ちたくないなぁ……」


 いくら使えるのか知らないが、何かあった時に頼れるものなのは違いないか。

 優輝自身はよっぽどのことがない限り使わないだろうけどな。

 まぁ、だからこそ渡しても良いという判断になったのかもしれないけど。


「5個目は超小型高性能カメラ! 映像用、写真用、集音マイク付き!」

「うわぁ、本当に探偵めいてきたじゃんか!」


 警視庁の横やりも入ってやしないか?

 いや、協力していく分には全然いいんだけどさ。


「6個目! グラスファイバーケーブル!」

「熱に強い紐ですよね? 捕縛用なのかな……」


 零も悩んでいるけど、俺にはどう使うのかさっぱり分からん!

 いや、救助の際に使うことがあるかもしれないか? どうなんだろうな??


「最後が栄養飴玉! 水分も結構入っているタイプ!」

「そんあのあるんだ……」


 最後は栄養補給のための飴玉かぁ。

 なんか、糖分ってゆっくり摂った方が無駄なく摂取できるって聞いた気がする。

 俺はガリガリ噛み砕いちゃうけどな!


「で、それを身に着けるための専用ベルトね」


 比較的大きい装備はサンライトソードとグラスファイバーケーブルくらいか。

 あと、今まで通りレーザーガンもだな。

 それらは丈夫な代物だし、直接ベルトにくっ付けるようだ。

 他は収納ケースに収めて、必要な時に取り出す形になっていた。


 優輝がさっそく身に着けていたが、全部くっ付けても動きを阻害しないようになっている。

 収納ケースは背中側に来るようになっていて、あれなら見栄えも悪くないし壊れにくいだろう。


「まぁ、全部使うかって言われると、ね……」

「いや、いいんじゃないか? 備えはあった方がいいしな!」


 邪魔にならないなら別にそれで構わない。

 優輝は頭もいいし、何か使いどころを見つけ出すかもしれないからな!


 一通り説明が終わったところで、会議室のドアが突然開かれた。


 何事かとみんなでそちらを向くと、ドアの向こうに上杉教官が険しい顔で立っていた。

 ノックも挨拶も忘れて入ってくるなんて……なんかヤバイことが起きたっぽいな。


 上杉教官は大きく1つ深呼吸をすると、テーブルに両手をついた。

 そして、重苦しい声で告げた。


「十日前町市に、"死神"が来ることになった」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ