光のヒーロー
--6月4日(日) 6:15--
先日の雨は夜明け前に上がり、少ししっとりした朝の空気の中を私は歩いている。
まだ遠くの山々には白く雲がかかっているが、真上を見上げればところどころに青空がのぞく、気持ちの良い日だ。
朝の新聞配達ではパトカーが見え隠れしていて、護衛対象として守られているんだなと感じる。
昨日は零くんの厄介なファンに襲撃されたこともあって、まだまだ厳戒態勢は続いているらしい。
今週はずっとこんな感じで見守られていたのかもしれない。
見かける度に頭を軽く下げることにして、僅かながらの謝意を伝えた。
新聞配達はサクサクと進んだ。
配達を終えた私は配達所に戻った後、我が家への家路をテクテク歩いていく。
晴れ間はだんだんと広がってきて、光の暖かさがアスファルトを温め始めていた。
「やぁ、おはよう、好美ちゃん」
「あ、おはようございます、篤人さん」
後ろ側から徐行した車が近づいてきたと思ったら、篤人さんがひょっこりと顔を出した。
さすがに警察や防衛隊が周りにいる状況で追突はできないのか、今週末は2日とも平和な登場である。
「好美ちゃんは今、狙われやすいからね。僕も護衛ってことで」
「いつもは襲ってくる側じゃないですか……」
「いやいや、僕は彼らと違って好美ちゃんを本気でどうにかしようなんて微塵も思ってないよ?」
「思ってないなら、安全運転してくださいよぅ」
篤人さんは私と一緒に活動するパンデピスの仲間である。
私が怪人であることも、人間の状態でも怪人並みの耐久力があることも知っているため、何もない日はいたずら半分で軽トラやら配送トラックで突進攻撃をしてくるのである。
痛いくらいで済むと分かっているからか遠慮もなにもないのだ。
バールのようなもので殴りかかってくるより、篤人さんの方がやってることは凶悪である。
本当にやめてほしい。
「はい、これ枝豆。ご近所さんが分けてくれたんだよ」
篤人さんはそう言って、おすそ分けとは思えない量の枝豆が入った袋2つを取り出した。
袋を受け取って覗いてみると、たくさんの鞘付きの枝豆が入っている。
どっしりとした重量があり、これだけでしばらくお父さんのおつまみには困らなそうだ。
それにしても、篤人さんはいつもご近所さんから物を貰ってくる。
そして私も間接的にそれを貰ってしまっている。
篤人さんにはそれなりにお返しもしているのだが、篤人さんのご近所さんには何も返せていない。
何だか申し訳なく思えてきた。
「いつも貰ってばかりじゃ悪いですよね」
「別に、僕がお礼してるから構わないよ。遠慮なく受け取ってくれればいいからさ」
「うーん……」
私が返せるものって、たかが知れているからなぁ。
同じくらいの農作物……いや、本格的な農家っぽい人に家庭菜園の作物を渡すのは正直ちょっと恥ずかしい。
ここは1つ、お料理でも持って行ってもらうのが無難かもしれない。
「お料理……日持ちするものが良いよね? ナスの漬物とかかなぁ」
「あれ、好美ちゃんって漬物もできるんだっけ?」
「できますよ、失敬な!」
昨年、豊作だったキュウリを私が漬けたんですからね! ちゃんとしたぬか床で!
ちなみに、ぬか床はおばあちゃんに分けてもらったやつである。
おじいちゃん、おばあちゃんは私と違って本物の農家なので色々と教えてもらえるのだ。
「枝豆と比べちゃうと量は少なくなりますけど、持っていってもらえますか?」
「うん、わかった。好美ちゃんがそうしたいならそうするよ」
篤人さんに手招きされたので、私は軽トラに乗り込んで自分の家まで送ってもらった。
警察の人も一時撤退するようである。
本当にお疲れ様です。
私は家に入り、台所でナスの漬物をタッパーに詰め込んで風呂敷で包んだ。
持って行ってもらう準備を整えたはいいものの、篤人さんが家路につくのは早くても午後になるんじゃないだろうか?
今は冷蔵庫の中に入れておいた方がいいかな?
「篤人さん、今日の予定は?」
「あぁ、言い忘れていたっけ。今日は宝探しになりそうだよ」
「宝探し??」
何だろう、聞きなれない言葉だ。
「そのまんまの意味だよ。昨日、防衛課の装備品を狙って襲撃を掛けたんだけど……」
篤人さんはそう言ってテレビのスイッチを入れたようだ。
音量を上げてくれたので、ニュースの声が台所までしっかり聞こえてくる。
『先日深夜、秘密結社パンデピスの怪人が白華峠で防衛課を襲撃する事件が発生しました。ライスイデンが緊急出動し、怪人を撃退することには成功しましたが隊員数名が行方不明になっており……』
ニュースキャスターの落ち着いた声の後ろで、ヘリコプターが飛ぶ音が聞こえる。
台所からは見えないけど、たぶん空撮の映像と共に情報を伝えているのだろう。
それにしても白華峠か。
割と近い場所だ。
「車にいた人たちは森の中に逃亡したんだって。どうやら貴重な代物を持って逃げたらしいよ」
「そうなんですか? でも、十日前町の防衛隊も動いているんですよね?」
既に日は登っている。
人海戦術で探して、すでに回収してるんじゃないかなぁ?
「いや、実は逃げ回っているのは防衛隊じゃなくて科学研究所の所員みたいなんだ」
「そうなんですか?」
防衛隊じゃないことは分かったけど、それがどんな意味を持つのかは分からなかった。
科学研究所の人たちだと何か変わるのだろうか?
「その違いって大きいんですか?」
「まぁね。所員の人たちは戦闘の心得も、体力も無いし、防衛隊との連携もほとんどできない。彼らは息を潜めてひたすら逃げ回っているから、防衛隊もなかなか見つけられないみたいなんだよ」
「なるほど~」
人海戦術といっても限度はあるし、バラバラに逃げているのなら余計に時間がかかりそうだ。
しかも、自分を探している人が敵か味方かも区別がつかない状況なら、逃げ回っている研究所員たちもしばらく隠れて様子を見るように思う。
「んでもって、それを僕らパンデピスも追いかけているわけだね」
「防衛隊と鉢合わせしたりしないんですかね?」
「たぶんしているんだろうけど、お互いに避けている感じかな。ヒーローや怪人が出張ってくることになったらドンパチが始まるだろうけど」
あくまでお互いに"宝さがし"を優先して争いごとを避けている状況のようだ。
普通なら相手を排除してから探索するのだろうけど、一度戦いが始まると全面戦争に突入する空気があるのだと篤人さんが言う。
戦闘になったら森が破壊されたり山火事にもなりかねないし、そうしたら所員も危ない。
それに、装備品が壊れて回収できなくなる可能性もある。
今のところ、両陣営とも人命や"お宝"の回収を最優先として動いているようだ。
「そういったわけで、今回は少数精鋭で、探索や逃げ足に特化した怪人が望ましいってさ」
「……そ、そうですか」
「好美ちゃんには是非とも"宝さがし"に参加して欲しいって」
「やっぱり、そうなりますよね」
私はウサギの怪人なので聴力によるサーチができるし、逃げ足も速い。
それに、戦闘はできるだけ避けるので幹部にとってはうってつけの人選だろう。
この招集を理由もなく拒否したら印象は悪くなるだろうし、のちのち厄介な事態になりそうだ。
「はぁ~……物品強奪かぁ」
「破壊作戦よりはマシだと思うよ。程よく手を抜けばいいじゃない」
確かに一般人の命が掛かるよりは気が楽である。
それに、篤人さんの言う通り、バレない程度に手を抜いてしまうのもいいかもしれない。
私は別に、お宝は欲しくないからね。
「お弁当のご飯はおにぎりにしておこっかなぁ」
私は電子ジャーのお釜に入ったご飯を取り出し、おにぎりを2つほど握っていく。
中身は梅干しとコンブの佃煮でいいや。
「今日は森の中でピクニックだね」
「ピクニックって感じじゃないですよぅ」
篤人さんはいつも通りのお気楽モードだ。
楽しそうにしているけど、防衛隊が多いなら篤人さんも危険なんだけどなぁ。
「まぁ、先に本部に行くんだけどね。僕もこれ以上の詳しい話は分からないから、幹部に詳しい情報を聞いてから行動するようにしよう」
「分かりました」
まずは地下基地へ向かって、それから現場へ向かうことになりそうだ。
私は温めたご飯でおにぎりを作り、銀紙で包んでおかず満載のお弁当箱の上に置いた。
これで昼食は準備完了!
お返しの"ナスの漬物"は帰りに渡すとして、忘れないように冷蔵庫に付箋を貼った。
これで完璧だ。
でも、朝のご飯の量はギリギリかもしれない。
昨日の残りで何とかなるとか思ってたけど、ちゃんと炊きなおした方がよかったかなぁ?
……それにしても、こんなに少なかったっけ?
まぁでも、無い物は仕方ないし、おかずを多めに作ったから誤魔化せるだろう。
卵焼きにもほうれん草を混ぜ込んでちょっとだけ豪勢な感じを演出している。
いつもよりやや少なめに盛ったご飯と、自分の分のおかずを居間に運ぶ。
篤人さんはいつものパンとサラダ、牛乳の組み合わせだ。
私たちは居間でテレビを眺めながら、一緒に朝食を食べた。
ニュースは天気予報へと変わり、晴れマークが並んでいるのが見える。
今日は快晴になるそうだ。
--6月4日(日) 8:30--
「白き霞よ集え、メタモルフォーゼっ!」
地下基地の着替えスペースの一画で、私はできるだけ小さな声でブローチに向かって合言葉を放つ。
ブローチの色が黒から白へと変わり、いつも通りに大量の布が飛び出して私をミスティラビットの姿へと変えていった。
怪人のバッジを胸のあたりにくっ付けて準備万端である。
「お待たせ、ミスティラビット」
篤人さんも戦闘員の姿へと着替えを済ませ、着替えのスペースから出てきた。
今日の篤人さんはいつもと違い、レーザーガンの他に無線の子機を腰にくっ付けていた。
私たちはそろって着替え室を後にして、エントランスへと続く廊下を歩いていく。
「戦闘員21号、今日は連絡用の装備なんですね」
「あぁ、これかい? 戦闘員が多く参加しているから、お互いに連絡を取り合うためにね。みんな張り切っているよ」
戦闘員はいつもなら怪人の後方支援だが、今回は戦闘員たちが主役となって"宝さがし"を行っているため、ここで一気に貢献度を稼ごうとみんな躍起になっているそうだ。
信用している者同士に限るけど、お互いに情報共有しながら任務に当たっているらしい。
「今日はミスティラビットの指揮能力が見れるかな?」
「私、指揮するって柄じゃないです」
むしろ篤人さんが指揮を執った方が絶対にうまくいくと思う。
そもそも、普段の作戦だって篤人さんが考えたものがほとんどなのだ。
私がでしゃばったところで良い方向に転がるとは思えない。
「そんなこと無いと思うけどね」
「一応、協力はするつもりですけど、期待しないでくださいね」
「やる気ないなぁ~」
篤人さんと話をしながらエントランスへと入っていくと、そこにはノコギリデビルとブラッディローズが待ち構えていた。
今回の作戦でブラッディローズが選ばれたのは納得だ。
怪人の参加は少数精鋭という方針だったけど、怪人は私とブラッディローズだけなのかな?
「ふふふ、来たな、ミスティラビット」
「はい、ただいま参上しました」
幹部ノコギリデビルがニヤリと笑った。
ずいぶん嬉しそうというか、ワクワクしているというか、そんな雰囲気を纏っている。
これ、私自身が想像していたよりもかなり期待されちゃっているのかもしれない。
そして、それはもう1人の怪人も同じだったようだ。
「ミスティラビット、今日は思い切りお前と戦えそうで嬉しいぞ」
「えっ? いや、"宝探し"なんだよね?」
「"宝さがし"でも何でも構わん。たまには張り合いたいと思っていたところだ」
ブラッディローズは妙に高揚している様子だった。
これ、もし競争になって手を抜いたことがバレたら怒るだろうなぁ。
もはや頑張るしかなくなってしまう。
今日はのんびりやろうと思っていたのに、森でのピクニックが一転して地獄のオリエンテーリングになってしまいそうだ。
「ふふふ、さっそく本題に入るとしようか。昨日の23時59分、我らは白華峠で特務防衛課の研究施設から来たと思われる車両を襲った。我らの狙いは奴らが運ぼうとしていた荷物一式だ」
ノコギリデビルが作戦の詳細を話し始めた。
今のところ、ニュースでもやっていた情報である。
確かライスイデンが防衛に回っていて、怪人を追い払ったとか言っていたっけ。
「普通の装備品だけならばクルマを置いてさっさと逃げていっただろうが、今回はそうではなかった。アタッシュケースを持った計4名の所員たちが一斉に逃げを放ち、クルマの中から直接ライスイデンが現れて戦闘になったのだ」
ヒーローが荷物を守っていた?
もしそうだとしたら、それは本当に大切なものだったんじゃないだろうか?
ノコギリデビルが"お宝"の中身に期待するのも分かる気がする。
「ふふふ、大当たりを引いたのだろうな。残念ながら追跡の結果は芳しくなかったが、まだまだ事態は動いていない。諸君ら2人にとってはこの上ないチャンスとなるだろう」
心底楽しそうにノコギリデビルがマントをバサッと翻した。
お父さんも恰好つけることはよくあるけど、ノコギリデビルはお父さんと違って様になってる。
「それを持ち帰ったら私にも良い取り分があるのか?」
「ふふふ、当然だ。君の望むものをきちんと準備している」
ブラッディローズが珍しく報酬を催促していた。
彼女が望むものっていうと、序列アップか戦いの許可か、どちらかだろうな。
是非とも頑張ってほしい。
「あの~、それはミスティラビットにも用意されているんですか?」
「え、私?」
「ふふふ、無論だ。ミスティラビットに相応しいものを考えている」
篤人さんが手を上げて発言した内容に対し、ノコギリデビルは大仰に頷いて肯定を返した。
私自身はやる気が欠片もなかったから報酬なんてまったく考えてなかったけど、私に相応しいものとか言われたらどんな内容なのかはちょっと気になる。
「ふふふ、幹部候補の座、というのはいかがかな?」
い、いらねぇ~~~!
絶対に嫌だ。むしろ願い下げである。
どこが私に相応しいものなんだ! 嫌がらせか!
「あ、ありがとうございます?」
「ふふふ、礼は結果を出してから言いたまえ」
一応、空気を読んでお礼っぽいことは言ってみたけど、本心は先ほどの通りだ。
これはうまい事ブラッディローズに頑張ってもらって、手柄を立ててもらわないといけない。
「ノコギリデビル、もういいか? さっそく現場へ――」
「おっとっと、ちょいと待っちゃくれやせんかねぇ?」
「むっ?」
虚空から声が聞こえたと思ったら、景色がゆらりと歪み、怪人ドブロクダヌキが出現した。
ドブロクダヌキには幻影を操る能力がある。
その力を使って、ずっと息を潜めていたのだろうか?
「ふふふ、盗み聞きとは趣味が悪いな、ドブロクダヌキ」
「いやぁ、秘密の会議ってわけでもなさそうだったんでね。拝聴してたってだけですよ」
見た目は朗らかに笑うドブロクダヌキだったが、その瞳にギラついた欲望が見える。
その表情はいいところを盗み取っていこうとするコソ泥の姿として私の目に映った。
事実、彼はまさに手柄を掠め取ろうとしていたことが次の言葉ではっきりした。
「この話、あっしに任せてもらえやせんかねぇ、ブラッディローズさん?」
「お前に? 断る」
やる気になっているブラッディローズは素っ気なくお断りしていた。
しかし、ドブロクダヌキはニヤニヤ笑いながら大仰な仕草で手を広げた。
「いやぁ、気前よく譲ってもらえたら助かったんですけどねぇ。仕方ないっちゅうことで」
「何が言いたい?」
「ここは"優先権"を使わせていただきましょ」
"優先権"かぁ……。
序列が上位にいる者が、下位にいる者に対して発動できる権利だ。
出動の順番を入れ替えることができる権利で、序列が高いほど使える回数や強制力が強くなる。
ドブロクダヌキの場合は年2回ほど使えるが、強制力は高くない。
その申請が通るかどうかはノコギリデビルの気分次第だったはずだ。
「ふぅむ、ブラッディローズの代わりにドブロクダヌキか……」
ノコギリデビルが唸った。
彼はできるだけ怪人たちの希望は汲み取ろうとしてくれる、できる幹部である。
作戦との相性と要望を天秤にかけているのだろう。
「この作戦、ベストはブラッディローズなのでは?」
「ふふふ、戦闘員21号。私もそう考えているが、ここで私が断ったら序列を上げる意味が薄まるとは思わないかね?」
序列のシステムは怪人たちの切磋琢磨を目的とし、それに加えて組織の目的に向かう力を収束させるためのものだ。
ノコギリデビルとしては、怪人たちのモチベーションを下げてしまうことは避けたいらしい。
「さすがはノコギリデビルさん! よぉく考えてくれてますなぁ~」
ノコギリデビルの言葉を聞いて、ここぞとばかりにドブロクダヌキがヨイショする。
対するブラッディローズは何も言わずに成り行きを見守っていた。
「ふふふ、ドブロクダヌキならば悪くはあるまい。お前が作戦に参加するといい」
「はいな、このドブロクダヌキにお任せあれ!」
ノコギリデビルは悩んだ末に、今回はドブロクダヌキに任せることに決めたようだ。
「すみませんなぁ、ブラッディローズさん?」
「気にするな。少々残念だが、私にとって今回の件は、さほど重要というわけではない」
意地悪な顔を覗かせ、挑発したドブロクダヌキだったが、ブラッディローズはそれをさらりと躱してみせた。
どっちかというと、私の方が嫌な気持ちになっているかもしれない。
「ふふふ、成果を期待する。早速、向かいたまえ」
「ひひ、あっしが手柄をいただきます。それでは、どろん!」
ぼふん、という音と煙を残してドブロクダヌキが姿を消した。
登場も唐突だったけど、帰りも一瞬だったなぁ。
「彼には負けられないね」
「は、はい……」
篤人さんが燃えている。
私も同意したいところなんだけど、勝ったら勝ったで幹部候補とかいう特典が付いてくることを思い出して同意しきれなかった。
ドブロクダヌキに負けるのも嫌だけど、幹部候補になるのは論外である。
でも、篤人さんはかつてないほどやる気になっているようだ。
どうしよう?
私は悩みながら移動を開始した。
--6月4日(日) 9:00--
八華峠に向かう軽トラだったが、またもや交通整理の壁に阻まれた。
パンデピスと防衛隊が争っていることが分かっているのだから当然である。
仕方ないので、通行止めの外側から忍び込み、中心に向かって進むことにした。
警察の包囲網は広く展開されており、所員の行動可能範囲の外側を抑えているようだ。
パンデピスの戦闘員たちも、包囲網付近に隠れる者と中を調べる者に分かれている。
両陣営とも、取りこぼしが無いように注意しているようだった。
「こちら戦闘員21号。東側に到着」
『了解。そこから警察の包囲網の内側を探れ』
「了解。……さぁ、頑張ろうか」
篤人さんは協力者とやりとりした後、私の方を見た。
私の耳を使って、周囲に誰かいないかを調べるのである。
相手がじっと潜んでいても、よほど息を殺していなければ見つけられる可能性があるのだ。
「……反応ないです」
「そう簡単には見つからないよね。移動しようか」
鬱蒼と草木が生い茂る森の中を、私たちはがさがさと移動していく。
移動する度に私はうさ耳をそばだてるが、聞こえてくるのは風と鳥たちの鳴き声だけだ。
たまにリスの鳴き声っぽいのも拾うのだが、姿を見ることはできなかった。
「あっ! 誰かいます!」
「ついに、だね」
森に入ってからの初遭遇である。
息づかいから人間なのは間違いない。
あとはそれが所員かどうか、なのだか……。
「ほら、ミスティラビット……」
篤人さんが上を指差した。
その先を見た私は思わず声をあげそうになった。
ヒーロー、ブルーファルコンが木々に紛れて上から偵察していたのである。
篤人さんがジェスチャーで『あれのこと?』と聞いてくる。
私は首を横に振って『違う』と答えた。
私の耳が拾ったのは地上の声で、もう少し先の方から聞こえたものだ。
私たちはブルーファルコンに見つからないように、静かに先へと進む。
今は遠くを見ているようで、足元にいる私たちには気づいていない。
……それにしても、木の枝に停まっている姿を見ると、本当に隼みたいだなぁ。
「ブルーファルコン! 足元だ!」
突然、大声が聞こえてブルーファルコンがこちらを見た。
だ、誰!? 見つかっちゃった!?
「ミスティラビット、前だ!」
今度は篤人さんが叫び声を上げる。
木々の隙間から見えたのは真っ赤なヒーロースーツを纏ったレッドドラゴンの姿と、その周りに展開する防衛隊の姿だった。
ぎゃ~、大外れだ!
私が気づいた音は、防衛隊員の誰かが発したものだったようである。
「せ、戦闘員21号、た、退避です!」
「了解!」
「逃がすか!」
レッドドラゴンが遠慮なしに炎の拳を振るった。
「いくぞ! フレアナックル!」
「い、いきなりぃ!?」
拳から放たれた火炎弾が木々の枝を燃やしながら迫ってくる。
私はとっさにガードしたけど、熱くて痛い!
周囲の木々に火が着き、黒い煙と赤い炎が視界を塞いだ。
このままじゃ山火事になっちゃうよぅ!
お互いに戦闘を避けているんじゃなかったの!?
「上だ! 避けて!」
「うぇ!?」
篤人さんの声に慌ててその場から飛び退くと、私たちの居た場所が凍りついていた。
熱気の中に冷気が立ち込め、温度差で蜃気楼が揺らぐ。
「こちらブルーファルコン、火は僕が何とかする」
「わかった! 全力で行く!」
ヒーローたちが短く言葉を交わし、私に迫ってきた。
正面からは炎のヒーローが、真上からは氷のヒーローが襲いかかってくる。
その攻撃は苛烈を極めた。
時には防御に徹し、時には勘で攻撃を避けるものの、私はすぐに追い詰められていった。
そして、自分の対応でいっぱいになっていた私は、相棒の窮地に気付くことが出来なかった。
「うわっ!」
「戦闘員21号!?」
レッドドラゴンのフレアナックルが篤人さんにヒットし、その体が弾き飛ばされる。
木に激突した篤人さんはそのまま倒れ込んでしまった。
私と篤人さんの間にレッドドラゴンが立ち塞がる。
真上にはブルーファルコンが私に狙いをつけているはずだ。
「2対1でも容赦はしない!」
「そう……」
本来、本部のヒーロー2人を相手にするのは自殺行為だとも思う。
でも、ここで逃げたら、篤人さんは助からない。
私は意識を深く深く集中させた。
--6月4日(日) 9:15--
「もう大丈夫だ!」
目の前から出てきた研究所の所員に声をかける。
半日以上も森をさ迷い歩いていた所員の服はボロボロで、所々に血が滲んでいた。
「良かった! レッドドラゴンが来てくれたなら、他のみんなも助かる!」
所員の男はそう言って安堵のため息をついた。
その彼を引き連れて仲間たちが待っている場所へと進んでいく。
森の一角、断崖絶壁の土壁の下を川が流れている場所へと彼を誘導した。
「あの、ここは? 道路に出た方が安全じゃ?」
「いや、ここでいい」
「えっ?」
呆ける所員の後ろから、パンデピスの戦闘員たちが襲いかかってきた。
「なっ? れ、レッドドラゴン! パンデピスの連中が!」
「そのようですなぁ」
「れ、レッドドラゴン?」
あっしは、どろん! と変身を解いた。
「な、か、怪人!」
「ひひ、ヒーローっちゅうのはやはり信頼されてますなぁ。あっしとは大違いですわ」
驚きに目を見開いている所員の男を、戦闘員たちが完全に取り押さえていた。
「ドブロクダヌキ様、中身は空のようです」
「そうですか、さすがに簡単にはいきませんなぁ」
アタッシュケースを確かめていた戦闘員の残念そうな声にひとまず生返事を返した。
あの戦闘員は何も分かっていない愚か者だ。
ひとり捕まえたらもう十分だというのに。
空っぽのアタッシュケースをちらりと一瞥した時、仲間同士で情報のやり取りをしていた戦闘員が声を上げた。
「報告します! ミスティラビットがレッドドラゴン、ブルーファルコンと接触しました!」
「ほぉ~、本物はそっちに行きましたか」
ミスティラビットさん、運がないですなぁ。
あの2人に見つかったら、いくら命があっても足りやせんよ。
ここで脱落してくれるなら万々歳ですが。
「そんで、どうなりました?」
「それが、ミスティラビットはヒーロー2人の猛攻を掻い潜り、戦闘員1人を抱えて戦闘領域を離脱したそうです!」
「……ヒーローの連中は何をやってるんでしょうなぁ」
どんなドジを踏んだら怪人ひとりを取り逃すことになるのやら。
本当に使えない連中ですな。
「まぁ、いいでしょ。それより、こっちはこっちでやるべきことをやりましょ」
捕まえた所員の男を見下しながら、できるだけ優しく声をかけた。
「あんさんがたの、本物のお宝を持っているのは誰ですか? その中身は? あっしに教えてくれやせんかねぇ?」
そう言って、まずは男の右腕を掴み、軽く捻ってみせた。
べきり、と音を立てて、男の骨がいともたやすく砕けちる。
「うわぁああ!?」
「ひひ、早く答えた方が身のためですよ?」
ひとり捕まえれば十分。
この争奪戦に勝利するのはあっしですわ。
--6月4日(日) 9:30--
「好美ちゃん、大丈夫?」
「うぅ、大丈夫じゃないです……」
レッドドラゴンとブルーファルコンの本部ヒーロー2人組と戦うことになった私は、辛くも窮地を脱していた。
以前にもあった、未来が見える状態に入れたことが大きな要因だろう。
じゃなかったら、そのままやられていた可能性が非常に高い。
「あの力がなかったら危なかったです」
「いやぁ、僕を見捨てていたら何とかなったんじゃない?」
「論外ですよぅ!」
それは逃げられたとは言えない。
私にとって完全なる敗北でしかないのだ。
「無理させてごめん。今回は僕も功を焦りすぎたよ」
篤人さんは迂闊だったと思っているようだけど、私は油断していたとも思っていない。
本当に今回はついてなかったんだと思う。
ヒーロー2人が待っている中に自ら飛び込んでしまったのだから、命があるだけ儲けものだ。
「助かったんですから、気にしないでください」
「わかった。でも反省はしないとね」
篤人さんはそれだけ言うと軽トラのスピードを少しだけ上げた。
いま、私たちは軽トラに乗って自宅に向かっている最中である。
前回同様、私が空腹でダウンしたためだ。
ひもじさを我慢すること約10分、私たちは家に到着した。
お出迎えしてくれたゆーくんが、私の様子を見て血相を変えた。
「姉さん、どうしたの!?」
「お、お腹がすいて死ぬぅ……」
「ちょ、ちょっと待ってて!」
そう言って、すぐにカップ麺やお惣菜を持ってきてくれた。
お昼用に炊き直すご飯の予約を取り消して、炊飯開始してくれている。
「ワシのカップ麺」
「後にしてよ!」
あのカップ麺はお父さんの取り置きを持ってきたみたいで、お父さんがしぶっていたけどゆーくんに叱られていた。
弟が頼もしいです。
私はまた3人前ほどのご飯を平らげて一息つくことができた。
「あの力を使ったんじゃな?」
「うん、レッドドラゴンとブルーファルコンと同時に戦うことになって死ぬかと思った」
「ひゃっひゃっひゃ! その2人を相手にして逃げ切るとはのぅ!」
「逃げ切るっていうか、圧倒してましたよ」
篤人さんはお父さんの言葉に訂正を入れていた。
確かにあの状態の間は避けることについては余裕があったけど、反動で餓死しかけたのだ。
決して楽勝だったわけではない。
「もっとミスティラビットへの包囲網を強くするじゃろうなぁ」
「あの力を使う機会も増えそうですね」
とても嫌な話だったが、今のところ篤人さんの見立ては的中率90%超である。
あの能力を使う機会が増えるという予言も当たる可能性は高いだろう。嫌だけど。
「そんな、このままでは、このままでは……」
「姉さん……」
「食費がぁ!」
「まず自分の身体を心配してよ!」
ゆーくんに怒られました。
だって、そっちの方も心配なんだもん。
ちなみに、篤人さんとお父さんもあきれ顔でこっちを見ていた。
由々しき事態だと思うんだけどなぁ。
「それで、もう今日は終わりなの?」
ゆーくんが心配そうに聞いてきた。
そういえば、"宝探し"についてはまだ決着が着いていないんだよね。
「あぁ、僕だけ戻るよ。好美ちゃんはヒーロー2人と戦ったっていう実績もあるし、休んでいても罰せられることはないでしょ」
確かに、レッドドラゴンたちと戦ったなら離脱してもやむなしと判断されると思う。
ここで脱落しても問題はないはずだ。
でも、それなら篤人さんが戻る理由はあるのだろうか?
「篤人さんは何で戻るんですか?」
「タヌキに負けるのは嫌だからね。まあ、無理しない範囲で頑張ってみるよ。きっと"お宝"を持って帰ってくるからさ。アツトにお任せってね!」
篤人さん、ドブロクダヌキのことが本当に嫌いらしいなぁ。
篤人さんにしては珍しい理由だ。
「それじゃ、行ってくるね」
「本当に無理しないでくださいね」
篤人さんは"行ってきます"の挨拶をして、玄関を出て行った。
家の外から軽トラのエンジンの音が聞こえ、遠ざかっていく。
無事に戻って来てくれるといいけど……。
「お宝?」
「うん、そう。お宝争奪戦だよ」
ゆーくんが反応していたけど、たぶん金銀財宝のことだと思っているんだろうな。
「相手は特務防衛課の人たちなの?」
「え? ……うん、そうだけど」
「そっか」
おや? もしかして、ゆーくんは私が思っている以上に理解しているのかな?
さすがに具体的なことは分からないと思うけどね。
……っていうか、よく考えたら私も"お宝"の中身が何なのかは知らなかった。
もし篤人さんが見つけ出したら教えてもらおう。
「あ、僕はお皿洗っておくね」
「ありがとー」
うんうん、我が弟はやはりできる男だ。
調子が悪い私を気遣って、率先して家事を手伝ってくれている。
「好美、好美や」
「なぁに、お父さん」
それに比べてなにもしないお父さんがこそこそと話をしてくる。
私が食べてしまったカップ麺の再購入のお願いだろうか?
そのくらいなら許可するつもり……。
「優輝のやつ、何か隠しとるぞ」
「うぇ?」
--6月4日(日) 10:00--
お皿洗いを終えたゆーくんが、こっそりと玄関を出ていった。
それをうさ耳パワーで把握した私は、怪人の変身を解き、お父さんと一緒に後をつけていく。
お父さんはゆーくんが隠し事をしてるっていうけど、私は半信半疑だ。
「どこに行くんだろう?」
「そう遠くではなさそうじゃな」
お父さんの言うとおり、ゆーくんは坂の上にある『ふれあい広場』の小屋の中へと入っていった。
なんでこっそり来る必要があるのか分からない。
「お父さん、朝にここ来たの?」
「今日は来とらん。優輝が動物の面倒を見るとか言い出してのぅ」
「任せちゃったんだ」
「別にええじゃろ。今までも何度か手伝ってもらっとるわい」
ただ、急に言ってきたこともあって、お父さんは少し違和感を持っていたようだった。
その時はわざわざ確かめようとは思わなかったみたいだけど、"お宝"に反応したことで今度は確かめる気になったらしかった。
「何の音もしないね」
「踏み込んでみるしかないのぅ」
私はお父さんと頷きあって、小屋の奥へと一気に足を踏み入れた。
ゆーくんが私たちに気づいてギョッとした表情を見せる。
この表情は何か隠し事がバレた時の顔だ。
今回は私にもはっきり分かった。
ゆーくんは隠し事をしている。
「ね、姉さん、父さんも、なんでここに」
「ひゃっひゃっひゃ! しらばっくれよるのぅ!」
「ゆーくん、私たちに何を隠そうとしてたの?」
ゆーくんは何も言わない。
よっぽど隠し通したいことなのだろうか?
「ほほう、それかのぅ?」
「えっ?」
あ、これはお父さんの引っ掛けだ!
分かった振りをして何も分かっていないやつである。
しかし、ゆーくんはつい、隠したいものの方へと視線を移してしまい、本人もその事に自分で気づいて唇を噛み締めた。
視線の先にあったものは、周りに溶け込むように置かれていたアタッシュケースである。
えっ? これってまさか……!
「ゆーくんが隠したかったものって、それ?」
「……昨日の夜明け前に、動物たちが騒いでいたんだ」
「うん……」
ゆーくんは、アタッシュケースが見つけられたことで観念したらしく、何があったのかを話してくれた。
動物たちの様子を見に来たら女の人が倒れていたこと。
ここに連れてきて介抱したこと。
アタッシュケースを置かせて欲しいと頼まれたこと。
「その人、特務防衛課のマークが入った服を着ていたんだ」
「そうなんだ」
じゃ、やっぱりこのアタッシュケースは、パンデピスと防衛隊が必死に探し回っている"お宝"?
「優輝や、なんで家に入れなかったんじゃ?」
「防衛隊をウチに入れるわけにいかないでしょ?」
怪人と改造手術のマッドサイエンティストがいるもんね。
ゆーくんなりに考えた末に、ここで休ませることにしたようだった。
「その人、疲れきっていて、朝にここに来たときはまだ寝てたんだ。でも……」
「もういなくなっていた、ということじゃな」
ゆーくんがお父さんの言葉に頷く。
たぶん、ヒーローか防衛隊の人たちにコンタクトを取るために出て行ったのだろう。
一般人に頼らなかったのは極秘任務だったからかな?
つまり、やっぱりこれが"お宝"なのだろう。
「あっさり手に入ってしまった」
「ふむ、中身は……」
お父さんがアタッシュケースを持ち上げると、蓋が自然と開いてしまった。
ロックすらかかっていない。
「服、じゃなくて強化スーツかなぁ?」
他にもいろいろ入っているみたいだけど、一番目を引いたものがこのスーツである。
「その服を着てたよ」
「ふむ、なるほどのぅ。ひゃっひゃっひゃ! どちらの陣営も一杯喰わされておるわ!」
お父さんが笑いだした。
「包囲網は所員の行動可能範囲を考えて構築しておる! しかし、強化スーツを使えば行動範囲が広がるじゃろ? 最初から、包囲網の外側まで逃げておったんじゃよ!」
そっか。
少なくともノコギリデビルは中身を知らないし、防衛隊も詳しい中身までは把握していなかったのかもしれない。
もしくは、その女の人が装備品を自分で使うことを想定できなかった可能性もある。
「あの人、逃げるのに必死でロックをかけ忘れていたのかな?」
「恐らくそうじゃろ。あるいはロックの掛け方は知らないのかもしれんな」
「そっか~」
普通ならすでにパンデピス側のゲームオーバーだろう。
でも、実際には私の手の中に"お宝"が収まっている。
その人も運がないなぁ。
「で、どうしよう、これ」
「僕が預かっていてもいい?」
強化スーツをきれいに折り畳み、アタッシュケースに戻したゆーくんが尋ねてきた。
ゆーくんはお洗濯ものを畳むのも上手い。
私の教育の賜物である!
……じゃなくて、ゆーくんが預かるというのは、どういうつもりなんだろうか?
「僕が預かるって約束したものなんだ。姉さんがいらないなら預かっておきたい」
「私は構わないんだけど、お父さんは?」
「ノコギリデビルはどうか知らんが、ワシとしては、はっきり言って要らんわい」
そっか、お父さんとしては要らないものなのか。
でもなぁ、ノコギリデビル、怒らないかなぁ?
「防衛隊が来ても、怪人が来ても、すぐに渡すからさ。お願い、姉さん」
「……うん、分かった」
ゆーくんのおねだりに、私はあっさりと陥落した。
まぁ、持って帰ったら手柄になって、幹部候補になっちゃうからね。
私としても誰かに譲った方が都合がいい。
「好美や。お主、優輝にちと甘過ぎやせんか?」
「いいでしょ、別に」
「ひゃっひゃっひゃ! そうじゃな! 別にええわい!」
お父さんも反対はしないようだ。
防衛隊か怪人が来たら渡して、それでおしまい。
私は知らぬ存ぜぬを押し通せばいいだろう。
でも、ドブロクダヌキの序列が上がるのも微妙に嫌である。
できたら防衛隊が来るといいな。
--6月4日(日) 10:20--
突然、街の空にサイレンが鳴り響いた。
このサイレンは、街のどこかに怪人が現れたことを告げる警報である。
街の空気がピンと張りつめた感じがした。
私はどこに怪人が出現したのか確認しようとテレビをつけた。
チャンネルをポチポチ変えていると、今度は玄関のチャイムがなった。
こんな時に誰だろうか?
「やぁ、ただいま。好美ちゃん、いるかい?」
「あ、篤人さん?」
聞こえてきた声から、やって来たのが篤人さんだと分かって玄関へと向かった。
無事に戻って来てくれたようで一安心である。
「このサイレンは?」
「うん、ドブロクダヌキだね。いま人質を取って防衛隊とにらみ合いになっているんだよ」
ドブロクダヌキ、もしかして探すのをやめて強奪することにしたのだろうか?
そんなことをしたとしても"お宝"は『ふれあい広場』にあるから、出てこないんだけどな。
「それで、篤人さんはどうしてここに?」
「ひとり所員を見つけたんだけど、ドブロクダヌキにやられたらしくてね。ひどい有り様だったよ。その彼を助けて戻ってきたのさ」
拷問にかけたのか。
ドブロクダヌキならやりそうだ。
篤人さんの口ぶりからすると、その所員さんは十日前町病院あたりに送り届けてきたのだろう。
「そうですか。"お宝"はもういいんですか?」
「いいもなにも、もう回収されてるんじゃない? 最初から包囲網の外に出ていたっぽいし」
「へ、へぇ~……」
篤人さんは助けた所員さんから情報を得ているようだった。
ちゃんと正確な情報を掴んでいるところが恐ろしい。
これ、私のすぐ近くに"お宝"があることもバレちゃったりしないだろうか?
篤人さんに見つかっちゃったら、巡り巡って私の手柄になっちゃうんですけど!
「ドブロクダヌキはまだ諦めてないみたいだけどね。今も女性の所員を人質に取って大立ち回りしているよ。彼女が"お宝"の所持者だと思うし、『どこに隠した?』って凄んでいたよ」
彼は白昼堂々と、所在を知る人物に"お宝"の在りかを吐かせようと脅迫しているようだ。
ヒーローが出てきても逃げ切る自信があるんだろうな。
じゃなかったら絶対に人前には現れないだろうし。
「見に行くかい? 市役所前の通りにいるけど」
「そうですね……」
本来なら野次馬しにいく意味はないけど、"お宝"がすぐ近くにある現状では話が別だ。
あのタヌキさんは何をするか分からないので不安なのである。
ドブロクダヌキの動きが分かればゆーくんを守りやすくなるかもしれない。
「ゆーくん、お留守番をお願い」
「うん、分かった」
ゆーくんの返事を聞き、私は篤人さんと一緒に玄関を出た。
……もし、この時ゆーくんの顔を見ていたら、私は察することができたのかもしれない。
彼が、ある種の決意を固めていたことに、私は気づくことができなかった。
--6月4日(日) 10:30--
私たちは身を隠しながら一般道を避ける形で現場へと歩いていく。
サイレンの音と共に放送で怪人の居場所がアナウンスされており、道路は車で渋滞していた。
交通整理の警察官を何とかやり過ごし、問題の現場へと到着した。
天下の往来に怪人とヒーローがいることもあって、野次馬がたくさん集まっている。
その中に紛れ込み、私は成り行きを見守ることにした。
「なかなか強情なお嬢さんですなぁ」
「ううっ……」
「くっ!」
現場にはドブロクダヌキと、彼が踏みつけている女性、そしてレッドドラゴンがいる。
レッドドラゴンは人質を前に、なにもできない様子を見せていた。
レッドドラゴンとドブロクダヌキの間には結構な距離がある。
あそこまで離れていると人質奪還も簡単には行かないのだろう。
「それ以上は近づかないでもらいましょうか。天下のレッドドラゴンさんに近づかれたらと思うと、恐怖で足が震えますんでね?」
そう言って足元の女性をグリグリと踏みつけている。
その女性は見るからにズタボロに痛め付けられており、見るも無惨な姿だった。
「篤人さん、ブルーファルコンは?」
「まだ向こうにいるはずだよ」
篤人さんは森にいる間中、ブルーファルコンを警戒していたそうだ。
こちらに向かう直前まで気を付けていたらしく、その動向はかなり正確に把握しているらしい。
残念ながら、ブルーファルコンが来るのはもう少し後になるだろうとの見方だった。
ちなみにレッドドラゴンがここにいるのは補給に戻ってきたからだと思う。
私が装備のレーザーガンを壊しちゃったからね。
補給なんてすぐ済むだろうに、そのレッドドラゴンと鉢合わせするなんてドブロクダヌキも運がないなぁ。
「そろそろ時間切れかも知れませんなぁ。最後のチャンスですから、よぉく考えてくださいな。……アタッシュケースはどこです?」
女性は虚ろな目をして、何も答えなかった。
そして、そっと微笑み、静かに目を閉じた。
彼女は、死を覚悟している。
守りたい物って、そんなに大事なものなんだ……。
「残念ですよ、本当に――」
「待って!!」
市役所の建物の陰から、アタッシュケースを持ったひとりの少年が現れた。
現れた人物に、私は信じられずに目を何度も擦った。
ゆーくん、何してるの!?
「あれ、どういうこと? なんで優輝くんが!?」
篤人さんが私に質問をしてくるが、私に答える余裕はなかった。
ドブロクダヌキとゆーくんから目を離すことはできない。
ゆーくんに何かあったらと思うと、今にも足が震えそうになる。
「優輝くん!? 来ちゃダメ! それを持って逃げて!」
女の人が顔を上げ、ゆーくんに逃げろと叫ぶ。
"持って逃げろ"ということは、"自分を見捨てろ"ということに他ならない。
もし、ゆーくんがその言葉を聞いていたら、きっと彼女の命はそこで終わっていただろう。
ゆーくんはその女の人の言葉に逆らい、ドブロクダヌキの方へ1歩近づいた。
「ほほぉ~、もしかして、それが本物ですか?」
「そうです。僕が預かってました」
「好美ちゃん、あれは本当に?」
「……はい、本物です」
知らぬ存ぜぬをあっさり捨てて、私は篤人さんに本物の"お宝"であることを伝えた。
篤人さんのことは信頼する。
嘘はつかない。だから、助けて……。
私の顔を見た篤人さんは、静かに私に指示を出してくれた。
「ドブロクダヌキがもしあの女性から足を離したら、それは優輝くんに狙いを変えた合図だよ」
篤人さんの言葉を、私は何度も反芻した。
ドブロクダヌキが足を離したら、私は前へ進む。
怪人だとバレたとしても。
「さぁて、勇敢な優輝くん。あんさん、この人を助けるために来たんですなあ。立派な少年ですわ」
「これを渡せば、その人を解放してくれますか?」
ドブロクダヌキはゆっくりと首を横にふった。
「それだけじゃ足らんのですよ。その中のアイテムの説明もぜひ付けてもらわんと。ねぇ、レッドドラゴンさん?」
ドブロクダヌキは再度、女性の身体に乗せた足に体重を掛けた。
"お宝"の、さらにその中身の情報までが人質の交換条件だという。
「くっ! 分かった。俺の知っている情報を伝えよう」
レッドドラゴンはアタッシュケースを指差し、次に自らが付けているブレスレットを指差した。
声を張り上げ、ドブロクダヌキへ質問の答えを返した。
「そのアタッシュケースの中にはブレスレットがあるはずだ。ヒーローになるためのブレスレットだ」
周りにいる野次馬が息を飲んだ。
誰もが声を殺し、固唾を飲んで怪人とヒーローのやり取りを見守っている。
「これ?」
ゆーくんがブレスレットを取り出し、高く掲げている。
「そう、それだ。それと引き換えに……」
「まだでしょ、レッドドラゴンさん? それを使うためには条件か何かがあるんでしょ? じゃなかったら、最初からそれ着けたヒーローがやってくるでしょうからねぇ」
ドブロクダヌキがニヤリと笑ってレッドドラゴンに続きを話せと促した。
レッドドラゴンは拳を握りしめて悩んでいる。
「レッドドラゴンさん、ブルーファルコンはまだ来やしやせんかね?」
「うっ!?」
射撃の名手、ブルーファルコンなら人質奪還も可能だろう。
レッドドラゴンはブルーファルコンが到着するまで時間稼ぎをしたかったようだ。
だが、ドブロクダヌキはそれを見破っている。
「時間切れですかなぁ」
ドブロクダヌキが人質に顔を向けた。
それを見たレッドドラゴンは、一気にブレスレットの情報を捲し立てた。
「待て! そのブレスレットは、誰でも使えるわけじゃない! 適合者は数万人にひとりだと聞いている!」
「ほほぉ、そりゃ大変ですなぁ。でもまぁ、あっしが上手いこと使いこなしてやりぁしょう」
ドブロクダヌキはニヤニヤ笑いながらレッドドラゴンを眺めていた。
そして、もう情報は十分とばかりに、ゆーくんの方へと顔を向けた。
「優輝くん、それを持ってきてくれやせんか?」
「うん、分かった」
ゆーくんがブレスレットだけを持ってドブロクダヌキに近づいていく。
だが、あと一歩というところまできて、ゆーくんの足が止まった。
「このブレスレット、適合者の場合はどうなるの?」
今度は何を思ったか、ゆーくんがレッドドラゴンに質問を始めた。
「おっと、聞いてませんでしたなぁ。どうなるんです?」
ドブロクダヌキも興味を持ったようで、レッドドラゴンに答えを尋ねている。
「あぁ、ブレスレットに光が宿ると聞いている。そこで合言葉を言えば……な、なにっ!?」
「続きはどうしたんです、レッドドラゴンさん……はっ!?」
人質の女性が顔を上げた。
「優輝、くん?」
ゆーくんの持ったブレスレットが光っていた。
優しく、強く、眩い輝きを放っている。
「合言葉は――」
「ぬぅ! おのれ、させるかぁ!」
「もう知ってる。メモに書かれていたから。……姉さん、父さん、ゴメン」
ゆーくんが、少し悲しそうな目で私を見た。
そして――。
「"ホワイト・レインフォース"!!」
輝きはゆーくんを包み込み、人のかたちを取った。
その次の瞬間、更なる強烈な光が溢れ出す。
眩いきらめきはその場に居た全員の視力を一瞬だけ奪い、そして……。
「だぁああーーー!」
「うおお!?」
目を開けると、ドブロクダヌキが弾き飛ばされていた。
そして、新しく生まれたヒーローが傷だらけの人質の女性を優しく抱いている。
白いヒーロースーツが眩く輝き、胸に刻まれた太陽を思わせる意匠が堂々たる風格を与えていた。
「助けに来たよ」
「あ、ああぁ、嘘でしょ。信じられない……!」
絶望の淵から自らを救い出した少年を、その人の目はどんなふうに映していたのだろう?
人質だった女性は涙で頬を濡らしながら、ゆーくんを抱きしめ返していた。
「ぐぬぬぬ、こんなバカなことが……」
「あったみたいだな」
腹の底に響くような、怒りに満ちた声が聞こえた。
いつの間にか、レッドドラゴンがドブロクダヌキの真後ろに陣取っている。
「はぁぁあああっ!」
「ぐほぉ!?」
レッドドラゴンが拳を振り抜く。
驚き、振り返ったドブロクダヌキにボディーブローを一閃し、相手を空高く弾き飛ばした。
そしてそのまま、レッドドラゴンは必殺技の構えへと移行する。
「これで終わりだ、ドブロクダヌキ!」
「ぐがあぁあ!? そんな、あっしはこんなところで終わる怪人では……!」
レッドドラゴンの右腕に灼熱の龍が浮き上がり、ぐるりと回りながら逆鱗を燃やす。
怒りの炎がフルフェイスの黒いゴーグルに映り込んだ。
邪魔する者がいるのなら、まとめて片付ける――!
そんな意志が見えるような、かつてないほど強力なパワーが込められていた。
「ひっさあぁああつ! ブレイザー・キャノン!! 発射ぁあーーーっ!!!」
「う、う、うぎゃあぁああーーーっ!!」
ドォオー……ンッ!
ビリビリと響く爆発音が、ドブロクダヌキの最後を告げる。
私は歓声を上げる多くのギャラリーと共に、ただそれを眺めていた。
「レッドドラゴン!」
建物を飛び越えてブルーファルコンが姿を現した。
2丁拳銃を抜き放っており、臨戦態勢である。
「ブルーファルコン、もう大丈夫だ。ドブロクダヌキは倒したし、人質も救出できた」
「そうか、良かった」
戦いが終わったと知ってブルーファルコンは銃をホルスターへとしまった。
そして油断なく周りを見回し、私に目を留めると変身を解いて近づいてきた。
あれ、何だか焦っている……?
「好美さん? 好美さん!」
変身を解いた零くんが私を揺する。
なんだろう、焦点が合わなくって、零くんの顔がよく見えない。
「あれ? ちょっと、好美ちゃん!?」
「好美さん、しっかりして!」
呼びかけてくる声に篤人さんが加わった。
あれ、私って何をしていたんだっけ?
確か、ドブロクダヌキの様子を見に来て、そこにゆーくんが現れて。
ゆーくんがヒーローに……。
「好美さん!?」
「好美ちゃん!?」
二人の声が遠くなっていき、私はそのまま気を失った。
--6月4日(日) 13:00--
ゆっくりと意識が覚醒し、見慣れた天井が目に写る。
まだ少しぼ~っとする頭で時計を見た。
私は、どうしちゃったんだっけ?
「おぉ~、好美や、目が覚めたようじゃな!」
「お父さん?」
お父さんがやって来て心配そうに私の顔を覗き込んでくる。
「ふぅむ、意識はしっかりしてそうじゃな」
「私、どうしたんだっけ……はっ!?」
思い出した!
目の前でゆーくんがヒーローになったのを見たんだった!
でも、そこからどうなったんだっけ?
その後の記憶がない。
「私、気絶してたの?」
「そうじゃよ。篤人くんが運んでくれたんじゃ」
「そっか……」
今日は篤人さんに負担をかけっぱなしである。
"お宝"のことも黙ってやり過ごそうとしてしまったし、顔向けできないよ。
「それでじゃな……好美、心して聞けよ」
「な、何? 怖いんだけど……」
わざわざ忠告してからの情報とか、嫌な予感しかしない。
普段おちゃらけたお父さんが真面目になるって、結構恐ろしいことだったんだな……。
「優輝なんじゃが、しばらく防衛隊のほうで預かることになったんじゃ」
「ゆーくんが?」
「あやつはヒーローになったんじゃ。しかも、零くんと同じく、正体を公表するヒーローじゃ」
やっぱり、夢だったなんてこと、ないよね。
ゆーくんと敵陣営になっちゃった……。
「ヒーローとして十分に戦えるようになるまで、護衛つきで生活するそうじゃ。残念ながら、優輝はしばらく帰ってこれんそうじゃよ」
「そ、そんな……!」
わ、私の生き甲斐が失くなってしまう!
「まぁ、そのうち学校で会えるようじゃから、大丈夫じゃろ」
「全然、大丈夫じゃない!」
これからお父さんと私だけの寂しい生活が始まるのか。
うぅ、もう泣きそう……。
「ゆーくん、急すぎるよ。それに敵同士だなんて……」
「優輝のやつも、いつの間にかいっぱしの男になっておったんじゃな。色々と覚悟の上でヒーローになることを選んだのじゃよ」
お父さんが少し寂しそうにそう言った。
お父さんも、私ほどじゃないにしても寂しく思っているのだろうか?
「まぁ、お互いに秘密は守るということで話は付けておる。表向きはいつもとかわらんよ」
「表向きは、ってだけでしょ!? あぁ、危ないことしてほしくないのにぃ!」
ゆーくんには秘密結社に入って欲しくないとは思っていたけど、反対陣営に行くとは思わなかった。
しかも最前線で戦うヒーローになるなんて信じられない!
なんでこんなことになってしまったんだろう?
「優輝はあの女性を助けたかったんじゃろうなぁ」
「もう! 見ず知らずの相手を助けるために危ないことするなんて!」
「うぅん? 好美や。お主、それに関しては人のこと言えんじゃろ? ひゃっひゃっひゃ! お主らやっぱり姉弟じゃわい!」
お父さんが大笑いを始めた。
こっちは本当にそんな気分じゃないよぅ!
私はふてくされて、もう一度お布団の中へと潜り込んだ。
--6月4日(日) 19:00--
「みどりちゃんが助かって本当に良かった!」
「他の所員たちも全員、救助完了だ。ひとり痛め付けられた所員もいたが、お前がドブロクダヌキを倒したと聞いて喜んでいたよ」
俺は報告書をペラペラ捲りながら、レッドドラゴンの正体である飛竜と共に今回の戦果について話していた。
先日の夜から続いた秘密結社パンデピスとの装備品の争奪戦は文句なく大勝利だったと言える。
「装備品の奪還と、ドブロクダヌキの撃破、人命救助もバッチリ。何よりも……」
「新しいヒーローの誕生! まさか、あんなことが起きるなんて!」
「奇跡としか言いようがないな。しかも、まさかあの子の弟とは」
何度も俺たちの窮地を救ってきた女子中学生、佐藤 好美。
その弟が、ヒーローの中でも特別適合率が低いヒーローの素質を持っているとは。
「本当に奇跡だよ」
「マスコミもヘッドラインで流してますよ!」
「ドブロクダヌキの撃破だけでも良いニュースだからな」
見えない怪人なんて恐怖でしかない。
それが撃破され、新潟のヒーローの後継者も見つかったんだ。
かつてないほどの大盛り上がりだったな。
「でも、いいんスかね? 実名の報道なんて許して」
「しょうがないだろう。あんなに沢山のギャラリーが見ていたんだからな」
中にはライブ映像を流していた奴もいたようだし、隠すのは無理な状態だった。
俺だって隠せるなら隠したかったよ。
「零の奴は後輩ができてはりきってましたけど」
「良いことだよ。あいつにも色々と協力してもらわなきゃな」
正体を公表しているヒーローである零と、直接話ができるのはありがたい。
暗殺や不意打ちに対する心得はヒーロー全体で見ても一番詳しいだろう。
優輝くんの身の安全に関しては、防衛隊も、俺個人としても協力は惜しまないつもりだ。
「好美ちゃんの弟を預かるんだ! 責任重大だな!」
飛竜が拳をパシンと打ち鳴らした。
あの子に悲しい思いをさせるのは俺もごめんだし、気を引き締めなければならない。
「早くいっぱしのヒーローになれるように、ビシバシ鍛えてやらんとな」
それが新潟のためでもあり、優輝くんのためでもある。
今は自由に行動できないが、強くなったらある程度の自由は与えてやれるだろう。
俺は純粋な親心でそう言ったのだが、飛竜はすごく嫌そうな顔を見せた。
「鬼教官が戻ってくるのか。優輝くん、耐えられるかな?」
「ほほぅ、そう思われていたとは光栄だな。なんなら一緒に鍛えてやるが?」
素敵な評価をいただいたお礼に、少々脅してやろうかと思っていたのだが……。
「うーん、出撃のタイミングを見てですかね」
意外とやる気があったようだ。
嫌そうな顔をしていた割には乗り気だな……。
不思議に思ったことが顔に出てしまったのか、飛竜が真面目な顔で考えを述べた。
「今回、ミスティラビットを追い詰めたと思ったら、急に動きがよくなったんです」
「あー、戦ったとは聞いていたが……。そうか、またアイツか」
「どんな攻撃も当たる気がしませんでした。零も同じだそうです」
いまだに、その力の全容を見せない怪人ミスティラビット。
奴の力は、今になってまだ高まっているような感じがする。
飛竜や零も今回の戦いを経て、まだまだ力を磨く必要性を感じているのだろう。
「俺たち二人とも再訓練を志願してますよ」
「気持ちは分かった。何とか考えてみよう」
後継者の問題は解決と考えていい。
今後はヒーローの力を伸ばすための手伝いを本気で考えていく必要がありそうだ。
俺はヒーローの教官だ。
優輝くんを含め、俺が戦力を引き上げてみせる!




