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秘密結社パンデピス  作者: ゆきやま
24/42

体育祭

-- 5月28日(日) 6:15 --


 朝の光を反射した屋根が白く染まって輝いている。

 吹き抜ける風は心地よく、今日は絶好の運動会日和になりそうな天気だ。

 新潟は日照時間が全国で一番低いらしいことを聞いたことがあるのだけど、本日はみごとに快晴!

 いい天気になってくれて何よりである。


 新聞配達もこの1つを配り終えたら終了だ。

 最後の1つをガコンとポストに入れて、一つ大きく背伸びをする。


 うーっ、と伸びをした後に本町通りに戻ると、前の方から防衛隊員のアズマさんが走ってくるのが見えた。

 今日も日課のジョギングかな?

 いつものウインドブレーカーと帽子のスタイルで、軽やかに地面を蹴ってこちらに近づいてくる。


「おはよう、好美ちゃん!」

「おはようございます、アズマさん」

「零から運動会の話は聞いてるぜ! 今日は宜しくな!」

「はい、よろしくお願いします」


 今日は日曜日だが、南中学校の体育祭なので登校する日だ。

 ヒーロー、ブルーファルコンに変身する零くんが私のクラスにいることもあり、体育祭は物凄く注目されている。

 全国のコアなファンまで押し掛けてくると予想されるので、みんな真剣に準備を進めているのだ。


「何だか大ごとになってきていますよね」

「あぁ、街全体がお祭り気分だな。屋台が出ているのにはびっくりしたよ」


 本町の通りにポツポツと屋台が出ているし、JESCO通りのお店にはバルーンが出ていて遠くからでも見ることができた。

 零くんは下手なアイドルより人気があると聞いていたけど、完全に有名アイドルの扱いである。

 本当に凄い影響力だ。


「ただの体育祭なんだけどなぁ……」


 ちなみにテレビカメラが来ることは確定である。

 私は自分が怪人であることがバレないようにするために出来るだけ注目されたくないのだが、何でこうも逆風が吹くのだろうか?

 とにかく目立たないようにしないといけない。


「騒がしくなるだろうけど、混乱が無いように防衛隊と警察で対処するから!」

「はい。防衛隊の皆さんも大変ですよね」

「これが俺たちの仕事だからね。何も起きないように、しっかり見守ってるよ」


 "見守る"という言葉にこそばゆさを感じる。

 私だけに対して言っているわけじゃないことは分かっているんだけど、大切にされているような感じがして、ついつい頬が緩んでしまう。


 アズマさんも近くで見ていたりするのかな?

 もしそうなら少しくらいは良いところを見せたい。

 ちょっとだけ、どこかで頑張っちゃうのもありかなぁ?


「それじゃ、またな! 活躍を期待してるぜ!」

「は、はい、頑張ります!」


 軽い激励の言葉を投げて、アズマさんはまたジョギングへと戻っていった。

 タッ、タッと地面を蹴る音が遠のいていく。

 その姿が曲がり角に消えていくまで、私は何となくボ~ッと眺め続けていた。


「でもなぁ~、頑張るっていってもなぁ~」


 私は人間の姿でも怪人クラスのパワーを発揮することができるため、頑張ったら確実にバレてしまう。

 私が力を使っても問題ない競技はあっただろうか?

 私が出る種目は確か、徒競走に、騎馬戦に、棒取りに……。


 どごっ!

「うひゃあ!?」


 私が自分の出る種目を指折り数えていると、背中に強烈な衝撃を感じた。

 真正面につんのめるような形ではじき出された私はごろごろと前転を繰り返し、3回転したところで停止した。

 美しく広がる空が目に映るが、背中が痛くて空の青さに感動できない!


「やぁ、おはよう好美ちゃん! 絶好の運動日和だよ、良かったね!」

「良かったねじゃないです! 私じゃなかったら出場どころじゃないですよ!」


 運送トラックから降りてきてにこやかに挨拶してきたのは、私と同じ秘密結社パンデピスに所属している鈴木(すずき)篤人(あつと)さんである。

 私の怪人並みの耐久力のことも知っているため、こうやって車で体当たりするというとんでもないイタズラをしてくるのだ。


「ごめんごめん。今回は特に理由もないけど、とにかくごめん」

「理由があれば轢いて良いってわけじゃないですよぅ……」


 ついに言い訳すらなくなった!

 本当にごめんと思っているならやらないで欲しい。

 大事に至らないってだけで、普通に痛いんですから!


「まぁまぁ、許してよ。体育祭のことでちょっとした朗報を持ってきたからさ」

「朗報ですか?」

「そうそう。すっごく簡単に言うと、今日は出撃する怪人がいないんだよ」


 おぉ、それは朗報かもしれない。

 今日はブルーファルコンやレッドドラゴンの出動は無いだろう。

 零くんや防衛隊員の皆さんも穏やかに過ごすことができるんじゃないだろうか?


「出撃予定の怪人が来れなくなったんだよ。カエルさんだね」

「カエルさんかぁ~」

「彼、実は前回もダメになってたんだよね。三本ヅノの時の出撃予定だったから」

「それは運が悪いですね」


 カエルさんというのは怪人ヒートフロッグのことだ。

 怪人とはいえど社会の中で生活しているので、表側の事情で来れなくなってしまうこともある。

 2回連続での予定変更になるのは珍しいけど、そういうことも(たま)にはあるのだろう。


「あ、代わりの怪人はいなかったんですか?」


 ブラッディローズとかはずっと地下基地にいるイメージがあるし、彼女ならたとえレッドドラゴン相手でも戦いに赴くような気がする。

 それに最近は撤退役の怪人も一緒に行動しているはずだから、そちらが出撃する手もあるはずだ。


 私の疑問を聞いた篤人さんが顔を近づけて、声を抑えて話し始めた。


「ブラッディローズは居たんだけど、彼女が撤退役だったんだ。他に怪人は来ていなくて、好美ちゃん(ミスティラビット)もダメでしょ。彼女1人で出撃するのはノコギリデビルが許さなくてね……」

「なるほど……」


 レッドドラゴンを相手に勝ちを拾うのは至難の業だし、撤退する際にもサポートの怪人無しで逃げ切るのはかなり難しい。

 ヒーローと戦うのは秘密結社パンデピスの義務とも言えることだが、ノコギリデビルとしては怪人を無駄死にさせるようなことは避けたいのだろう。


「そんなわけで僕らはお休みさ。体育祭、心置きなく楽しんでくるといいよ」

「分かりました。連絡ありがとうございます」


 今日の連絡を終えて、篤人さんは運送トラックに乗り込んだ。


「それじゃ、またね~」

「はい、また! 安全運転にだけは気を付けてくださいね~!」


 篤人さんは窓から上半身をのぞかせて手を振り、気楽な感じでそのまま走り去っていく。

 私は手を振ってそれを見送ると、新聞配達の配達所へ向かって歩き出した。


 私の今日のノルマは体育祭でボロを出さないことだけだ。

 それと、ほんのちょっとだけ活躍したい。

 あ、あとお父さんにゆーくんの雄姿を写真で撮るお仕事を頼んでおかなければならない。

 うんうん、少し楽しみになってきた。


 お弁当、頑張って作ろう!



-- 5月28日(日) 8:30 --


 南中学校の決して広くはないグラウンドで選手入場前に並んだ私たち生徒と、その何倍いるの? というくらいの周りの人数。

 既に何度もカシャカシャとカメラのフラッシュが炊かれている。

 私たち、普通の体育祭をやるだけなんだけど、がっかりされたりしないか心配になってきた。


「うひゃー、すげぇなぁ!」

「ホントだよ……」


 揃って青組に行った渡くんと修二くんのコンビが正反対のリアクションを見せている。

 渡くんはやる気十分な感じだけど、修一くんは異様な雰囲気に落ち着きを無くしている様子だ。


「行くぞ修一! 俺たちがこのフィールドの主役だ!」

「お前、元気だな……」

「当たり前だろー! いつか大舞台でサッカーやるんだろ? こんくらいでびびってどうすんだ!」

「……そっか、そうだな」

「よっしゃー、やるぞー!」

「お前って単純だよな。まぁ、乗ってやるけどよ!」


 うーん、さすが我がクラスのムードメーカーの一角。

 青組の他のチームメイトも、あのやり取りを見て恐怖心を吹き飛ばしたようだ。


「すごいね、よっしー! これ全部、私たちの体育祭を見に来てるんだよね?」

「そうだね……」


 そして、もう1人のムードメーカーである輝羽ちゃんは私と同じ紅組にいる。

 ただ、ちなみに私のテンションは恐らくさっきまでの修一くんを下回る低さである。

 こんなに来るとは思わなかったよぅ……。

 輝羽ちゃんは私のことは気にせずチームを鼓舞して欲しいと思う。


「よーし! 私たち紅組が、白組も青組もぶったおすぞー!」

「「「うおぉぉおおおーー!」」」


 ……うちのチーム、元気だなぁ。


「優勝は私たち白組のものですよ~!」

「きぅ、今日は敵同士だ。白黒つけるぞ」


 そして、最後の1組、ぷに子ちゃんと弘子ちゃんが白組に入っていた。

 青組と赤組もテンションが上がっているが、実は一番テンションが高いのはこの白組なんじゃないかと思う。

 その理由はなんといっても零くんが白組に所属しているからに他ならない。


「やるぞー!」

「「「うぉおおおおーー!」」」


 輝羽ちゃんの言葉に負けじと、こちらも声を上げている。

 1年生から3年生まで全員が大盛り上がりだ。

 かつてここまで盛り上がっているチームがあったのだろうかというくらいの盛り上がり方である。


「みんな張り切ってるね」

「お前に良いところを見せたいんだよ、零」


 零くん自身はやや戸惑い気味のようだが、彼はさすがヒーローとして鍛えているだけあって、体つきを見るだけで強いと分かる強敵だ。

 それと久くんまで白組に入ってしまっている。

 もうこの時点で2年生の白組の戦力がヤバイ。


『さぁ皆さま、大変長らくお待たせいたしました! これより十日前町南中学校、体育祭を開催いたします! 選手、入場!!』


 放送部の先輩が高らかに選手入場を宣言し、周りから大きな歓声と拍手が巻き起こる。

 放送委員まで物凄い気合が入っている気がする。

 去年はあんなに声を張り上げてなかったよね?


 軽快な音楽に乗せて入場行進が開始された。

 最初の白組が客席前のストレートに差し掛かり、ホイッスルの合図に合わせて全員がビッと応援席を指さした。

 それだけで大歓声とカメラのフラッシュが降り注ぐ。

 零くんの影響なのか、白組はみんなしてキリッとした表情をしている気がする。


 次に私たちの紅組が正面に来る番だ。

 それにしても、()()、本当にやるの?

 怒られたりしないか不安なんですけど!


 残念ながら時間は止まってくれない。

 行列がギャラリーに一番近い直線に差し掛かると、ホイッスルが高らかに鳴り響いた。


「「「いぇええーーい!!」」」

「い、いえーい……」


 大きな声と一緒に全員が前になだれ込んでいってギャラリーに向かって思いっきり手を振る。

 笑顔いっぱいでピースサインしたり、手をぶんぶん振ったり、走り回ったり、やりたい放題だ。

 私はそんなみんなの陰に隠れて軽く手を振る感じである。


 そして正面のストレートが終わる頃に次のホイッスルが鳴ったら全員速やかに元の列に戻っていく。

 その変わり身の早さに、白組と違って笑いが会場に溢れていた。

 紅組の色は見せつけることができたと思う。

 私は恥ずかしくて仕方なかったけど!


 最後に青組が客席前のストレートに差し掛かり、ホイッスルが鳴った。

 ピーッ、ピッ! という音が終わったが、そのままホイッスルがひたすら吹き鳴らされ、全員がサンバを踊りながら行進を続けていた。


 ピーピープー! ピッピッピプー! ピーピープー! ピッピッピプーッ!!


 サンバというところがなんとなくサッカー部っぽい。

 渡くんたちはどうだろうと探したら、渡くんはギャラリーに向かって投げキッスしてた。

 修一くんも珍しくノリノリで踊っている。

 騒がしさは青組が一番で、ギャラリーも大盛り上がりである。


 客席前のストレートが終わり、青組も綺麗な列に戻っていった。

 全チームの行進が終わって、グラウンド中央に全チームの生徒たちが集まった。


 校長先生の話を聞いて、選手宣誓が行われた。

 この辺りはおふざけ無しでピシッと決めてくれた。

 最初に準備運動としてみんなでラジオ体操を行った後、いよいよ競技開始だ。


『さぁ、それではいよいよ始まります! 栄冠のトロフィーを手に入れるのはいったいどのチームなのか? 最初の競技は100mの徒競走です!』


 最初は100m走。

 先に走るのが1年生、次が私たちの2年生、最後が3年生の、全員参加の競技だ。

 まずは1年生の女子が一番槍を担う。


 ちなみに得点に関しては学年も背の高さも記録の速い遅いも関係ない。

 一緒に走るメンバーの中で高順位をたくさん積み上げることが重要なのだ。

 だからこそ、1年生たちも全力疾走で1つでも上の順位を取ろうと頑張って走っている。


 1着でゴールした人は1位と書かれたフラッグの元へ、2位から6位の人も同じようにその数字が書かれた旗の元へ並んでいく。

 1年生女子の競技が進み、その列がだんだんと長くなってきた。


 女子たちの競技が終わり、次は男子の番だ。

 並んでいる選手たちの間に、我が愛する弟がいるのが見える。

 私は紅組でゆーくんは白組だけど、家族を応援するのはノーカンのはず。

 応援しても決して裏切り行為ではない。


『ゆーくん頑張れぇー!』

『おっとぉ、ここで黄色い声援が飛び出したぁ! 色男はいいところ見せられるか!?』


 あれ、今、もしかして私の声が放送に乗った?

 私の声を聴いて放送委員が囃し立てている。

 ゆーくんは私の弟だから、今のが黄色い声援と言っていいかどうかは微妙なんだけどな。


「優輝、お前には負けねぇ……」

「何でお前だけが……」

「いや、今の姉さんだから!」


 放送委員の人、うちのゆーくんが勘違いで虐められそうです。

 応援しただけなのに……。


 先生がピストルを構え、スタートの合図が鳴った。

 ゆーくんは気合が入りまくった周りの生徒たちに押されるも、最後までスピードを落とさず走っていて結構いい勝負になっていた。

 5位だったけど、周りの生徒たちとほとんど同着である。

 うんうん、ゆーくんカッコイイよ!


『さぁ~、1年生の勝負が終わりました! 今のところは青組が優勢か!? 皆さま、頑張った1年生たちに大きな拍手を!』


 ギャラリーから大きな拍手が巻き起こり、1年生たちが戻ってくる。

 青組の生徒は2年生や3年生たちから『よくやった』と声を掛けられていた。


『次は2年生たちの勝負だ! 青組が突き放すのか? それとも紅組白組が反撃に転じるのか!?』


 その言葉の後、一気にギャラリーがざわざわし出した。

 やっぱり周りのみんなは2年生の零くんが目当てなんだね。

 熱量が一気に上がり、カメラが多くなった気がする。

 とはいっても、最初は女子なんだけどね。

 私も移動しなきゃ。


『さぁ~、注目選手の1人が登場だ! 氷月 零を除けば我が校ナンバーワンの有名人、佐藤 好美の登場だァー!』

『ちょ、やめてくださいよぅ!?』


 また声が拾われた!

 いや、それ以上に私を名指しで目立たせないで!?

 あぁ、なんだかスタート地点に移動しただけなのにどっと疲れが……。


「いろんなところにマイクが仕掛けられてるらしいな」

「いろんな声が聞こえたり聞こえなかったりしますよ~」


 弘子ちゃんたちがキョロキョロとグラウンドを見回しながら話している。

 無駄に高い技術で隠されているっぽく、一見するだけではどこにあるのかまるで分からない。

 嫌だなぁ、どこに仕掛けられているんだろう?


「よっしー、足速いの?」

「ううん、そんなことないよ」


 輝羽ちゃんから足の速さを聞かれたので誤魔化しておいた。

 私が実力を出したら野球選手のストレート並みの速度が出るから怪人バレ必至だ。

 これは謙遜とかそういうレベルじゃなくて生き残るために必要な、いわゆる処世術(しょせいじゅつ)というやつである。


 そうこうしているうちに、すぐに2年生女子の競技が開催される。

 私は背が低い方だから出番は2組目だ。

 1組目のスタートの合図が鳴り、私の前の組がスタートしていった。


「あっ!?」


 その組の1人が派手に転んでしまい、周りから驚きの声が上がった。

 手を変な風についてしまったのかすごく痛そうにうずくまってしまっている。

 こういう時は保健委員がさっと出てきて保護を……。


 そういえば、零くんって保健委員じゃなかったっけ?


 私の予感が的中し、零くんが出てきて大騒ぎになった。

 何か声を掛けているのか、転んだ女子生徒が赤い顔をしており、先にゴールした1着の子がなぜか一番悔しそうである。

 零くんは女子生徒を保険医の先生がいるところに送り届けて男子の列へと戻っていった。


『ハプニングがありましたが、大丈夫のようです! 競技を再開いたします!』


 ようやく私の組も開始できそうだ。

 先生がピストルを構え、スタートの合図が鳴った。


 私は程よく遅めのスタートを切り、頑張っている振りをしつつ、他人から見たメージ通りの順位になるように走っていく。

 このままだとゆーくんと同じ5位になれそうだ。


 しかし、そう思って走っていたところ、ゴール前で異変が起きた。

 なんと私以外の全員が転んだのである。


『全員こけたー!? あ、いや、失礼しました。1人だけ無事にゴール!』


 そのまま走り続けたのは私だけだったので、あろうことか1着を取ってしまった。

 こんなことはあり得ないし、絶対わざとだよ。

 また目立ってしまったし、なんなんだ、もう!


『おや、審判が何やら協議しています』


 後ろを見ると、痛そうな振り? をしている女子生徒たちと、何やら話し合っている審判の生徒たちが見えた。

 その審判たちの協議が終わったのか、代表と思われる1人が中央付近にやってくる。

 そして、おもむろに1枚のイエローカードを取り出し、高々と掲げた。


『あーっと! イエローカードが出ました! どうやらこれはシミュレーションと判定されたようです!』


 何の協議をしているのかと思ったら、ギャグに走っているだけだった。

 当たり前だけど徒競走にそんなルールは無い。

 会場のそこかしこから笑い声が上がった。


 でも一応転んだ人たちは助けるのか、保健委員が出てきた。

 零くんはいないけども。


『審判の人、サッカー部だね』

『あぁ、間違いないな』


 零くんと久くんの会話まで拾われてしまっている。

 本当にいろんなところにマイクが仕掛けられているようだ。


『あ、助けに向かうのはモテない系男子の皆さんです。わざと転ぶ悪い子にはお仕置きだ~!』

『えーっ?』

『零くんじゃないの!?』

『さっきの子ばっかり、ズルい!』


 やっぱり全員、零くん狙いでわざと転んだのか。

 ブーイングが飛び出すが、保健委員の先輩方に促されて観念して立ち上がり、再びゴールへと走っていく。


『ほれほれ、ちゃっちゃとゴールする!』

『それはそうと、アナウンサーは後で(しめ)る』

『おっと、すみません! よく見たらイケメンでした! 訂正してお詫びいたします!』


 アナウンサー弱いなぁ。


 その後、しぶしぶ走った2年女子たちが2位以下のフラッグの元へやってきた。

 気を取り直して競技が再開され、以降はトラブルもないまま競技が進んでいく。

 輝羽ちゃんと弘子ちゃんは組の中で1番を取っていた。

 ぷに子ちゃんだけ4位になっていたけど、周りが速い中で頑張っていたと思う。


 次は男子の番だ。

 こちらはハプニングもなく競技が進んでいく。

 渡くんが群を抜いて速くてどよめきを起こしていたりとか、零くんのレースで大盛り上がりだったりとか、久くんがしっかり1位をとったりしていたとかで、おおむね平和な競技だった。


 そして続く3年生は、いつぞやの零くんを虐めていた先輩方が全員白組に集まっており、ここで恩義を返してみせようと気合が入っている。

 3人とも見事に上位に食い込んでいて活躍していた。


 全員の出走が終わり、総得点が黒板にかき込まれていく。


『さぁさぁ! ただいまの戦績は白組が一歩リード! 次は"大玉送り"です!』


 私はこの競技には出場しないので応援しているだけだ。

 ゆーくんと零くんが出場していて列の中に入っているはず。

 零くんは見えるけど、ゆーくんがどこなのかはよく見えない。

 お父さん、ちゃんと写真を撮ってくれているといいんだけど……。


 競技が開始され、大玉が長い列を転がっていく。

 どのチームも速くていい勝負になっていたのだが、白組の様子が途中から変になっていった。


『白組の列、どうなってるんですかね? 卵を飲み込んだ蛇みたいになってますが……』


 あの部分って、零くんがいた場所じゃなかったっけ?

 その部分を中心にぷっくり列が膨らんでいる。

 反則なんじゃないかという気もするが、その白組が一番遅れているのでスルーされているようだ。

 今も大玉が落ちてしまって、その部分からやり直しになってしまっていた。


「あれ、真ん中に零くんが居るんだよね?」

「たぶん……」


 輝羽ちゃんと一緒にその様子をまじまじと観察する。

 近くに居る人たちが暴走してしまったのかな?

 1~3年生と男女が背の高さで並んでいるから、背の高い女子だったら近くに居たと思うし。


『くっ、羨ましいとか思ってねーぞ!』

『おい渡! 大玉が来てるんだぞ! 集中しろってぇ!』


 あ、渡くんの声が聞こえる。

 青組も集中力を乱したのか、大玉の進みが遅い。


 この競技は2回行われたが、両方とも紅組が終始いいペースを保って1位を獲得した。

 対して白組は両方とも3着と散々だった。

 青組は間に挟まる形の2着である。


『紅組が1着をとって、これで白組を追い抜いて1位です! 青組はチャンスにちょっと焦ってしまったか? 白組はちょっと落ち着け!』


「んで、何があったの?」

「零くん、空いた時間に周りの人にせがまれてハイタッチしてたんだけど、自分も自分もって、ちょっと離れたトコにいる人たちまでやってきたんだよ」


 輝羽ちゃんが弘子ちゃんに事の成り行きを教えてもらっていた。

 零くん、ちょっと責任を感じているっぽいけど、これは零くんのせいじゃないよ。

 切り替えて頑張って欲しい。


『さぁ、まだまだ序盤! 次は障害物競走です!』


「じゃあ、行ってくるね」

「よっしー、ファイトだー!」


 次の障害物競走は私が出場する競技の1つだ。

 これを選べたのはラッキーだった。

 個人競技だし、力加減を間違ったとしてもある程度は誤魔化しがきくだろう。

 ちょっと頑張るとしたらここしかない!

 アズマさん、観てくれているかなぁ?


 私は背が低いこともあって1組目だ。

 応援の声が響く中、スタートの合図がピストルから放たれた。


『さぁ、始まりました障害物競走! 最初はピンポン玉をお玉で運んでダッシュ! 略してピンポンダッシュです!』

『意味変わってるじゃんか!』


 ピンポンダッシュは、競技内容を見た瞬間に誰かが言うと思っていた。

 放送委員の人がきっちりネタを回収していたが、それにツッコミんだ声は弘子ちゃんの声だった。

 もしかしたらツッコミを言いそうな人を探してマイクをONにした?

 それとも偶然かな?


 私は速く走りすぎないように注意しながらお玉とピンポン玉を手に取った。

 私にとってお玉の扱いならお手の物!

 多少の風があろうがピンポン玉を落とさないなんてワケがないのだ!

 ……と言いたいところだけど、風が強くて危うくこぼすところだった。


 神のいたずらか、この時だけグラウンドには妙に強い風が吹いており事故が多発してしまっていた。

 私は運よく耐えることができたけど他の人たちは全滅である。

 ピンポン玉が風に飛ばされて転がっていった。


『ちょ、風つっよ! すみませーん、近くの人、取ってあげてくださーい!』


 さすがにフォローOKが宣言されて、近くに居た人たちが転がっていくピンポン玉を拾ってチーム関係なく渡していく。


「はい、これ!」

「うん、ありがと!」


 ゆーくんがピンポン玉を渡し、受け取った相手は軽くウインクで応じていた。

 同じ白組同士、ゆーくんは純粋に相手を応援する気持ちでサポートしているのだろう。

 短くも息の合ったやり取りだったけど、お互いに好きとかじゃないはずだ、たぶん。


「頑張れ」

「えへへ、サンキュ」


 久くんは紅組の子にピンポン玉を返してあげていた。

 久くん、意外と女子人気は高いんだよね。

 今や零くんの親友としてのポジションを確固たるものにしているし、空手部の1年生エースとして全国ニュースにも出たことがある。

 この学校3番目の有名人なので知名度も高いのだ。


「飛ばされないようにね」

「きゃー、家まで持って帰りたい!」

「おい、それはダメだろ! さっさと行けって!」


 零くんは青組の子にピンポン玉を渡していたのだが、相手の子が暴走しかけていた。

 弘子ちゃんのツッコミがここでも光る。

 青組、頑張らないと得点で引き離されちゃうよ?


「ちぇ、渡っちかぁ」

「諦めろ!」

「なんであっちに飛ばないかなぁ」

「飛ばすな。ほれ、行け!」


 渡くんと修一くんも青組と白組の子にピンポン玉を渡していた。

 この2人に渡された女子生徒たちは文句を言いながらも結構楽しそうだ。


『えー、ピンポン玉をお目当ての相手に投げないようにしてください。減点しますよー?』


 次以降の組に向かって放送委員が釘を刺している。

 その声を聴きつつ、私は一番にピンポン玉を中間地点に収め、次の障害へと進んでいった。


 次の障害は"平均台渡り"だ。

 ただし、平均台は並行して2つ並んでおり、その長さも2倍程度存在している。


 それだけなら渡る人が有利なのだが、平均台の脇にお邪魔ゾーンが設定されており、ソフトバレーのボールを使って邪魔ができるルールになっていた。

 平均台の下はソフトマットが引かれていて、落っこちても平気なようになっている。


「喰らえ好美ぃー!」

「女のかたきぃー!」

「ひぇえ!?」


 鬼気迫る女子生徒たちからの妨害攻撃が、一気に私に浴びせかけられる。

 他の人が遅れに遅れているため完全に集中砲火だ。

 ……あれ? 今、全員がボールを投げてこなかった?

 何で紅組のみんなまで攻撃してくるんだよぅ!?


「わ、と、わぷっ!?」


 バィンッという音を立ててボールが私の身体に直撃する。

 一発頭に貰ってしまったが、ソフトバレーのボールなので痛みは全くない。

 私は2つの平均台を上手く渡りながら、なんとか持ちこたえて平均台を渡り切った。


『トップはボールを受けながらも耐えきって、平均台も突破! 独走状態だ! 誰とは言わないが例の彼女だ!』


 彼女て……勘違いしそうなことを言わないで欲しい。


 私と零くんがこっそり付き合っているんじゃないかという噂は、未だにずっと燻っているのだ。

 ヒューヒューと囃し立てる声がそこかしこから聞こえてくる。

 零くん、また赤くなっているんだろうな。

 ここからじゃ見えないけど。


 平均台を突破した私は、次の障害物、"網くぐり"へと差し掛かっていた。


 投網みたいな網が地面に縫い付けられており、その下を潜っていく。

 私はもともと小柄だし、この網くぐりについては特に苦手にはしていない。

 ささっと潜り抜けておしまいだ。


『トップを追いかけて、次々と平均台へ挑んでいく。あ、そして撃ち落されていくぅ~!』

『いけー!よっしー!』

『お、好美ぶっちぎりじゃん!』

『もう最後のエリアだな』


 放送委員の実況に続いて2年生たちの会話が聞こえてきた。

 ちらりと横を見ると、平均台で強烈な一撃を受けて倒れ込む生徒と、それに巻き込まれて落っこちる生徒が見えた。

 アレを見ると、私は怪人パワーで耐えられただけかもしれない。


 私は目線を前に戻し、最後の障害へと目を向けた。

 最後は"パン食い競走"である。

 目の前には目線より少し上に小さめのパンが吊り下げられている。

 私は軽くジャンプして、あっさりとパンを口に加えることに成功した。


『見ていて気持ちがいいくらい、あっさり取りましたね。全てパーフェクト! これは風のハプニングが無くても1着だったでしょう!』


 放送委員の素直な賞賛を受けて、私は最後の直線を走り切って1着でフィニッシュした。

 輝羽ちゃんがぶんぶんと手を振っていたので、私も手を振って応えた。

 周りからはパチパチと拍手が聞こえてくる。

 これでちゃんとした活躍はできたし、あとはのんびり過ごせばいいかな?


 放送委員の一人がマイクを持って近づいてきた。

 あー、普通にマイクを向けられることもあるのか……。

 別に話すことはないんだけどなぁ。


『おめでとうございます。いやー、すごい差が開きましたね。パン、3つくらい食べられたんじゃないでしょうか?』

『そんなに食べられないですよぅ』

『おお? なぜか今のセリフに、こう、グッとくるものがありました! これが恋なんでしょうか?』


 これは一応、褒められたのだろうか?

 周りからは笑い声が漏れ聞こえてくるけども。


『惚れやすいなアイツ!』

『小動物みたいな感じが出てて良いと思う。パンを咥えたところとか』

『弘子、零、マイクが声を拾ってるぞ』


 2年生のところにあるマイクから白組の会話が拾われていた。

 零くんの声もバッチリ入っている。

 小動物みたいに見えるというのは何だか恥ずかしいなぁ。


『聞きましたか女子! パンを咥えて走るのは恋の予感がするぞ~!』

『あ、ちょっと楽しそうです~。明日にでも』

『ぷにー、変な事考えるなよー!』


 競技以外でも同じことをしようとしたぷに子ちゃんの思考を読んで、遠くから弘子ちゃんがすかさず止めていた。

 弘子ちゃん、ツッコミうますぎだよぅ。


 そのぷに子ちゃんも障害物競走に出場し、ずば抜けた適性を見せて1位を取っていた。

 一緒にスタートしたら負けていたかもしれない。

 私たちは同じ1位フラッグの下でおしゃべりに興じながら競技を眺めていた。


 全員の競技が終わり、この競技は全組がだいたい同じ得点だった。


『午前の部、最後の競技は"借りもの競走"です! これから生徒たちがいろいろと借りに行きますので、観客席の皆さま、どうかご協力をお願いいたします! 一緒にゴールしてくれてもいいので、1位になったら目立ちますよー!』


「うしゃー、行ってくる!」

「頑張ってね、輝羽ちゃん」


 気合が入った輝羽ちゃんが意気揚々とスタート前の集合場所へ向かっていった。

 この競技がこの大会唯一の観客参加型の競技である。

 簡単な借り物であれば道具だけ借りてくればいいんだけど、今回の主催の動向を見る限り、一緒にゴールしなきゃ無理ものが多いんじゃないかな、と思う。


『借りてくる相手は観客席だけというルールですから、放送席に来たり先生に借りたりしないように、注意してくださいね~!』


 注意事項があり、すぐにスタートの時間が来た。

 この競技も1年生から順番にスタートしていく。


『ハンカチ持ってる人、いるー?』

『腕時計、ぷりーず!!』

『"ズボン"って何だよ!』


 借りたい物を叫ぶ選手たちの声をマイクが拾っていく。

 各所に仕掛けられたマイクの力が遺憾なく発揮され、選手たちをサポートしているようだ。


 テレビカメラまで入っていることもあり、それなりに目立ちたい人がいるのだろう。

 たくさんの人が生徒たちに連れられて一緒にゴールまで走っていた。

 その相手も家族だったり、お祭り気分に連れられてやってきた野次馬だったりと様々だ。

 

 1年生たちの競技が終わり、今のところは青組が優勢かな?


 次は2年生の番だ。

 この競技に零くんが出ないことはみんな知っているみたいだけど、テレビに映るチャンスがあると考えたギャラリーはそんなことお構いなしに盛り上がっている。

 中には手ぶらで来たことを残念がっている人もいるみたいだ。


 そんな中、輝羽ちゃんが登場したのだが……。


『カメラ! カメラだー!』


 輝羽ちゃんが何を思ったのか、やや遠めの席へと突撃していった。

 カメラは誰でも持っていそうなものなんだけど、どういうことだろう?

 そう思っていたら、輝羽ちゃんはテレビカメラを抱えた人とリポーターの人と音声の人たち全員を連れて戻ってきた。


「テレビカメラ!?」

「おいおいおい……」


『テレビカメラに突撃すんな! あれ数百万はするんだぞ!』


 放送委員の人が本気で焦った声を出していたが、輝羽ちゃんは気にせずテレビリポーターと一緒にゴールに駆け込んでいた。

 近くにいる生徒たちや一緒にゴールした協力者たちがカメラに写り込もうと群がっていく。


『あのー、本職にインタビューは恐縮なんですが、ひとことお願いできますか?』

『いやぁ、久しぶりに全力で走りました! 私も皆さんの雄姿をお伝えできるように頑張ります!』


 おっかなびっくりインタビューした放送委員に対してリポーターのお姉さんが綺麗な答えを返し、周りから拍手が巻き起こる。

 借り物競争は更に大盛りあがりになっていた。


 女子の部が終わってリポーターさんたちが観客席に戻っていき、少し落ち着いた雰囲気になったところで男子たちの出番だ。


「久、たまには俺が勝たせてもらうからな」

「修一か。厳しい戦いになりそうだ」


 スタートラインに立ち、目の前を睨んだまま修一くんと久くんがバチバチとやりあっていた。

 スタートの合図が鳴り、全員がお題の書かれた札のところへ一目散に駆けていく。

 ほとんど差が出ないまま、2人はほとんど同時にお題が書かれた札を取った。


『腕時計! いいの引いた!』

『犬? 犬って……!』

『珍しいお題が出た~! わんちゃんをお連れのお客様はいらっしゃいますか~?』


 修一くんが借りやすい腕時計を引いたのに対し、久くんが引いたのは面白お題の1つだった。

 朝の様子を見る限り犬を連れている人は増えているし、見つけられなくはないと思うけど……。


 借り物競争に参加した全員がギャラリーの方へと散っていった。

 手を上げ、声を張り上げてアピールを続けているのが見える。


 一番に戻ってきたのは修一くんだった。

 やっぱり借りやすいお題を引き当てたら勝ちにグッと近づくよね。

 その次、その次と生徒たちが戻ってきているが、なかなか久くんが戻ってこない。

 あれよあれよと言う間に、最後の1人になってしまった。


『お、最後の1人が戻ってきたぞ~!』

『さ、行こう! あそこまでダッシュだ!』

『うんっ!』

『わんっ!』


 元気よく飛び出してきたのは久くんとチワワと、その飼い主と思われる小さな女の子だった。

 一生懸命に走る女の子に合わせて、久くんが応援しながら後ろを追いかけていく。

 みんなに応援される中、一緒にゴールラインを駆け抜けていった。


 久くんは最下位の6位だったが、その姿にみんながほっこりしている。

 楽しそうな笑顔を浮かべる姿に温かい拍手が送られ、みんなで意気揚々と6番の旗に並んだのだった。


「あーいうのもいいよな……」

「そうですよ~、厳しい勝負だけじゃなくてもいいと思いますよ~」


 弘子ちゃんがことさら感じ入っているような表情を見せていた。

 久くん、普段は1位ばっかりとっているけど最下位でも(さま)になるのはさすがだなぁ。


 2年生の借り物競争は最後まで盛り上がり、3年生の番になった。

 3年生たちの競技ではお題が更にカオスになり、"可愛い子"とか"イケメン"とか、客観的に判断できないのが多かった。

 ツッコミ多数で笑いの絶えない競技になり、そのカオスっぷりを制した青組が一番得点を取っていた。


『午前の部はこれで終了でーす! みなさん、お疲れさまでした~!』


 前半の競技が終わり、みんながお昼休みを家族と一緒に食べるために散っていく。

 私もゆーくんと一緒に、お父さんを探すために観客席へと向かった。



-- 5月28日(日) 12:15 --


 体育祭の昼食は家族で食べてもいいし、生徒同士で食べてもいい自由な時間になっている。

 今回は普段と比べてギャラリーがすごく多いので、お昼休みの間は保護者だけグラウンドの上にレジャーシートを広げることも許可されていた。


 教室に入って食べる子もいるし、外出して屋台に食べに行くことも今年に限ってはOKである。

 みんなが思い思いに休みを取る中、私とゆーくんはグラウンドの野球のバックネット近くに来ていた。


「ひゃっひゃっひゃ! ここが良いじゃろ!」


 お父さんがそう言ってレジャーシートを広げる。

 出入り口から程遠い位置なので人通りも少ないし、それなりに落ち着ける場所が取れたと思う。

 しかし、シートの上に座ってお弁当を広げていると、静けさは遥か彼方に跳んでいってしまった。


「よっしー、一緒に食べよー!」

「お弁当、たくさんありますよ~!」

「すまん、思ったより酷いことに……」


 元気よく飛び出してきたのはいつものメンバーだ。

 この3人と一緒に食べるのは別にいいのだが、そこに混ざっていたもう1人のメンバーが大問題だった。

 弘子ちゃんが申し訳なさそうに頭を下げ、最後の1人も困惑顔になっている。


「……零くんも?」

「……ごめん、付いてこいって言われて付いてきただけなんだけど」


 零くんがこっちに来てしまっていた。

 そして、零くんとお近づきになろうとしている女子生徒たちもわんさか押し掛けてきてしまっている。

 ここだけ人口密度が凄いことになっており、たぶん記者さんたちにもばっちり見られてしまっているだろう。


「ひゃっひゃっひゃ! 友達同士で食べる方がええじゃろ! ワシはご家族に挨拶してくるわい! 後で適当に食ってくるから、ワシの分は残さんでええぞ!」


 お父さんはそう言うと、おにぎり1つを持って観客席の方へ向かって行った。

 そして輝羽ちゃん達はというと、テキパキとレジャーシートを広げてそれぞれのお弁当を取り出している。

 ただ、弘子ちゃんだけは周りを見て、どうしようか迷っているようだった。


「やっぱり引き上げた方がいいかな?」

「弘子ちゃん、もぅいいよ。零くんも座ろう」

「好美さん、いいの?」

「いいよ。ほらほら、周りのみんなも座ろう!」


 もうすでに目立っているんだから、これ以上酷くはなりようがないのだ。


 いろいろ諦めがついた私は弘子ちゃんと零くんをシートに招き入れ、同時に周りの女子生徒たちにも座るように促した。

 それぞれが自前のレジャーシートを広げてお弁当を広げていく。


 そんな中、私は零くんの持ってきたお弁当? を見て絶句してしまった。

 ブロック状の栄養補給サプリメントとドリンクだけだったのである。

 いくらなんでも、もうちょっと体育祭の雰囲気があるお弁当を選べばいいのに……。


「あの、零先輩、これ食べますか?」


 そう声を掛けたのは我が優秀な弟、ゆーくんである。

 周りの他の女子生徒たちの中にも、零くんに食べてもらおうと頑張って手作りのお弁当を作ってきた子もいるはずだけど、彼女たちを置き去りにしてまさかの一番槍である。


 ゆーくんの場合、打算とか一切抜きに零くんのお弁当に淋しさを感じたからだと思うけど、それが零くんにとって結構いいイメージを与えているようだった。

 まぁ、恋する乙女たちの頑張りに対しても悪し様に言うつもりはないし、むしろ推奨するくらいなんだけどね。


「ありがとう、もらっちゃおうかな。僕もお弁当は用意してもらっていたんだけどね……」

「え、じゃあなんで?」

「置いてもらっていたのを先輩が間違って食べてしまったんだ。防衛隊員みんなで同じ弁当だったから、食べてもいいだろうって勘違いしちゃったみたいで」

「それで、残っていたのがそれだけだったってことですか?」

「そういうこと」


 零くんは受け取ったおこわを美味しそうに食べていた。


「これ、すごい美味しいね」

「それ、姉さんが作ったんですよ」

「んぐっ!? え、これを!? すごい!」


 零くん、私の手作りだと気づかずに食べていたようでびっくりしていた。

 素直に褒められると悪い気がしないなぁ。


「あ、よっしーの得意料理っていう、ニュースにもなったヤツ!? 私にも少しちょうだい! 代わりに私のサンドイッチあげるから!」

「いいけど……」

「私も食べてみたいですよ~! 私からはおにぎりあげますよ~!」

「じゃあ、私はこっちのヒジキ煮と豆腐ハンバーグを交換で」

「あ、ちょっと……!」


 止める間もなくお弁当の交換会が開催されてしまった。

 むぅ、私のお弁当だし別にいいんだけど、できれば許可を得てからにしてほしいよ。


「零先輩、私、お弁当作ってきたんです!」

「零くん、私のも食べてみて!」

「自信作です!」

「え、えーと……」


 そして零くんはお弁当攻撃に晒されていた。

 パッと見ただけで5人くらいいるし、他にももじもじしている女子生徒が多数である。

 全部に付き合っていたら食べきれない量になりそうだ。


「僕から返せるものが無いからさすがに悪いよ」

「そんなの、気にしないでください!」

「私たちが食べていいって言ってるんだから問題ないわ!」

「頑張って作ってきたんです! ぜひ!」


 困った零くんがこっちを見てるけど、残念ながら私にはどうすることもできない。


「ふっふっふ、そういうことなら私の出番ねっ!」

「輝羽さん、何かいい案があるの?」


 輝羽ちゃんが無駄に強者の風格を出しつつ名乗り出た。

 零くんは期待をしているみたいだけど、輝羽ちゃんからお父さんと同じ雰囲気を感じる。

 今すぐにでも、ろくでもないことを言い出しそうだ。


「簡単よっ! 私たちが料理を一口食べて、合格ラインに達したら零くんが食べられるの!」

「一次審査ですよ~!」

「それ、お前らが食べたいだけじゃねーか」


 弘子ちゃんによる冷静なツッコミを受けても輝羽ちゃんたちは乗り気だ。

 というより、勝負の雰囲気がいつの間にか出来上がっていて、周りのみんなも乗り気になっていた。


 勇気を出すことができなかった女子生徒たちもいたのだが、参加の意思を表明することはできるみたいで全員が戦う意思を示している。

 この人数だと輝羽ちゃんとぷに子ちゃん、すぐお腹いっぱいになっちゃうんじゃないだろうか?


「弘子、よっしー、弟くんも参加ねっ!」

「うぇ? わ、私も!?」

「僕も?」

「みんな、それでいいのかよ。こいつらの独断と偏見で決まるんだぞ?」


 弘子ちゃんが念を押したのだが、周りのみんなは覚悟を決めた顔で力強く頷いている。

 本当にどうなっても知らないよ?


 私たちの前にお弁当が並べられ、それぞれが一番得意だと思っている料理を言ってもらって審査を開始した。

 見た目も綺麗で美味しそうに見えるんだけど、ある程度は厳しくしないと零くんのお腹が壊れちゃいそうだし、どうするかなぁ……。


「全員、不合格かな。どれも姉さんの料理の方が美味しいよ」

「ゆ、優輝くん……!」

「そ、そんな、お慈悲を……!」


 お、弟よ、意外と容赦なくばっさりと切り捨てていくんだね……。

 私の料理を持ち上げてくれるのは嬉しいんだけど、ゆーくんの意外な発言にお姉ちゃんは驚きを隠せないよ。


「これが姉さんの料理だよ」


 食べた分は返そうと、ゆーくんが自分のお弁当を一部渡していた。

 それを食べた女子生徒がへなへなと地面に倒れ伏していく。

 えぇ~、そんなに差があった?

 私のお弁当、普通の家庭料理だよ?


「これでは一次審査は通せませんよ~」

「で、でも高級食材を使って……」

「ただ使っただけじゃ宝の持ち腐れですよ~! 食材に対しての冒涜ですよ~!」

「ふぇええん……!」


 ぷに子ちゃんもぷに子ちゃんで容赦がない。

 というより、ぷに子ちゃん相手に高級食材とか、組み合わせとしては最悪なのかもしれない。

 私なら高級感だけでプラスの補正を掛けて合格にしちゃってたかもしれないけれど、セレブなぷに子ちゃんには通用しないのである。


「いーねーっ! 私こういうの好きっ!」

「よーし、やったぞー!」


「うん、これは合格! 美味しくできてる」

「や、やったぁ!」


 輝羽ちゃんと弘子ちゃんは1人ずつ合格者を出していた。

 彼女たちの得意料理は肉じゃがと春巻きかぁ。

 冷めても美味しいってことは、本当にしっかり作ってきたんだろうな~。


 そして、残りは私の番だけになってしまった。

 料理は卵焼き、きんぴらごぼう、麻婆豆腐、おにぎり、たこさんウインナーだ。


 きんぴらごぼうは味濃いめで作られていて、単品だと厳しいかもしれない。

 卵焼きは逆に下味が足りない気がするかなぁ?

 麻婆豆腐は、ちょっと辛すぎる気がする……。


 おにぎりはワカメが混ぜ込まれた奴で、これは文句なく美味しい。

 たこさんウインナーにはちょっとしたピリ辛の隠し味が入っているようで、こちらも文句なしだ。


「というわけで、この2つが合格です」

「ぃやたーっ!」

「ふぅ、厳しい戦いだったぜ……!」


 大喜びの合格組と対照的に、不合格組はがっくりと膝をついていた。

 ちょっとかわいそうだけど、これは仕方ないことだ。

 頑張ってお料理を練習してねとしか言えない。


 ところで、結果は出たけど、この感情のコントラストが激しすぎる現場をどうしたらいいんだろう?

 意気消沈している女子生徒多数の中で食べるのはちょっと嫌だなぁ。


「じゃ、みんなで一緒に食べよっか?」

「「「食べるっ!」」」


 しかし、ゆーくんの一言を聞き、一瞬でみんな元気になった。

 近くに零くんもいるわけだし、一緒に食事できることを思い出して暗い気持ちが吹き飛んだようだ。


「いや~、みんな、なかなかすごいねっ!」

「審査なので厳しく判定しましたけど、みなさん美味しかったですよ~」

「きぅ、ぷに、お前らは料理しないもんな」

「あっ、そうそう、弘子も料理うまいんだよっ!」

「そうなの?」

「まぁそれなりには」


 さっき弘子ちゃんに交換してもらった豆腐ハンバーグを食べてみると、確かに美味しかった。

 豆腐の持つ香りと甘味が感じられるし、お肉で作ったハンバーグのような食べ応えもあってどっしりとお腹に溜まる感じがする。

 普段からお料理していないと、この味は出せないだろう。


「ぷにのも、そこまで高級な料理じゃないんだろ?」

「そうですよー、偏見ですよー! 普通のお弁当なんですから、食べてもいいですよ~!」


 私たちは改めてお弁当の交換会を再開し、その流れはこの場に集まった全員へと伝搬していった。

 合格者たちと不合格者たちの間でも楽しみながら意見交換が交わされ、全員が楽しみながら食事をする雰囲気へと変わっていった。


「みんな、ありがとう。今すぐは返せないけど、何か用意するから」

「やったーっ!」

「あ、お、お構いなく……でも欲しい……」

「素直に受け取っておきなさいよ!」


 零くんが全員にお礼を用意するという言葉で、お昼のお料理対決の騒動は平和に幕を閉じた。

 お腹も膨れたし、今日一番楽しかったかもしれない。


 いつの間にかテレビカメラが近くに居たのにはびっくりしたけど、そんなに変なところは撮られていないだろう、たぶん。



-- 5月28日(日) 13:20 --


 午後に入り、最初は応援合戦から始まった。

 お互いの健闘を祈り、声を張り上げて相手チームを応援するのだ。

 ゆーくんも零くんもケガしないように気を付けてほしいし、個人的には弘子ちゃんやぷに子ちゃんが活躍しているところも見たいと思う。


 お昼休みに思い思いに過ごせたからかみんな英気を補充できているようであり、溢れるくらいに元気いっぱいである。

 応援の声も空高く響き渡り、爽やかな空気の中で午後の部が本格的に幕を上げた。


『さぁ、やってまいりました午後の部です! ここからは一気に得点が上がります! 1戦1戦が重要な戦いですから、気が抜けませんよー!』


 午後の最初の競技は運動会の花形競技の1つ、騎馬戦だ。

 ルールはハチマキを取られるか、もしくは騎手が地面に落ちてしまったら負けで、それ以外は何でもありのサバイバルである。


 紅組、白組、青組の3つ巴の騎馬戦はチームワークや判断力も試される。

 私は背が低いけど判断力を買われて輝羽ちゃんに誘われたため、この競技に出場することになったのだ。


 私は騎馬の先頭側で、3人で騎馬を作って上に輝羽ちゃんが乗っている。

 参加者は1~3年の女子生徒だけということもあって、私の背の低さもそこまでディスアドバンテージにはならないはずだ。


 そもそも大っぴらにできないだけで、持ち上げること自体は私にとって楽ちんだからね。


「ついに、決着をつける時が来たようねっ!」

「お互いに、遠慮はいらないな」


 輝羽ちゃんと弘子ちゃんがにらみ合い、バチバチと火花を散らしている。

 お互いに運動部であり、親友。

 それゆえに勝負事に対しては遠慮する必要など無いのだろう。


「頑張ってね、輝羽ちゃん」

「弘子ちゃん、ちゃんと支えますよ~」


 私と同じく前に出ることになったぷに子ちゃんはどういう基準で選ばれたのだろうか?

 運動部だから実はすごく運動神経が良いとか?

 それとも弘子ちゃんとの相性の良さからだろうか?

 どんな動き方をするのか分からないのが不気味だ。


『午後最初の競技を制するのは何組か!? さぁ、女子騎馬戦が間もなく始まります!』


 ギャラリーを煽る放送委員の声が響き、グラウンドに一瞬の静寂が訪れる。

 スターターがピストルを高く掲げ、『用意』の言葉から一拍を置き、破裂音が鳴り響いた。


「行くぞーっ!」

「「「おーっ!」」」


 輝羽ちゃんの号令に私たちの騎馬は真正面から青組の陣地へ向けて突っ込んでいく。

 どこへ向かうかは私の判断で良いということだったので、紅組の急先鋒の騎馬が青組へ向かったのを見て挟み撃ちを狙ってみようと考えたためだ。


 しかし、私が青組に近づくと相手は目の色を変えて私の方へと向かって来た。


「佐藤 好美、お前だけはぁ!」

「ひぃい!?」

「何で零くんはアンタみたいなのが好きなのよ!?」

「本人に聞いてよぅ!」


 うわぁ、目の敵にされてるぅ!?


 騎馬ごと崩す目的でドカドカと体当たりされ、あっという間に前も後ろも敵だらけになってしまった。

 何とか輝羽ちゃんを守ろうと逃げ道を探すが、見つけることはできなかった。


「よっしーばっか見てていいと思ってるの? それっ!」

「あっ!」

「てーいっ!」

「えっ!?」

「ふんぬぅーっ!」

「うわっ!?」


 逃げ惑う私の頭上で輝羽ちゃんが躍動していた。

 襲い来る騎手を力づくで返り討ちにし、隙を見せた相手から華麗にハチマキを盗み取っていく。

 たくさんいたはずの周りの騎馬たちは、なんと輝羽ちゃんの力によって壊滅させられてしまった。


「ふふん、よっしーに手を出したいなら私を倒してからにしなさい!」


 うぉおお、輝羽ちゃんが頼もしい!


『手に数多(あまた)のハチマキをたなびかせた姫騎士のような騎馬がいるぞ~!』


 放送委員も輝羽ちゃん無双に気が付いたようで、その威容を称えている。

 しかし、放送委員の人が褒め称えていたのは輝羽ちゃんだけではなかったようだ。

 同じくらいにハチマキを集めた弘子ちゃんの騎馬が、中央からゆっくりと現れた。


「雑魚は倒した。後はきぅだけだ」

「ふふーんっ! 私は雑魚とは違うわよ、弘子!」


 言葉の刃を交わした直後に弘子ちゃんの騎馬が突っ込んでくる。

 真正面のぷに子ちゃんの体当たりを受けるつもりだったのに、急激な方向転換を見せて、私たちの騎馬は真横から体当たりされてしまった。

 後ろの2人がスポーツマンで固まっているのか、その速度は群を抜いていた。


「は、速い……!?」

「うふふ、今日の私たちは本気モードですよ~」


 ぷに子ちゃんは弘子ちゃんのやりたいことが分かるのか、阿吽の呼吸で私たちの騎馬を責め立ててくる。

 私たちの騎馬はグイグイと押され、まともに動けずに流されるがままだ。

 輝羽ちゃんは常に不利な体勢で弘子ちゃんの攻撃をギリギリ受け流し続けていた。


『2つの騎馬が激しい攻防! 文字通り、エース同士の一騎打ちだぁ!』

「「「うぉおおおおーーっ!」」」


 輝羽ちゃんと弘子ちゃんの攻防にギャラリーが大盛り上がりだ。


 周りからはいい戦いをしているように見えるのだろうけど、私たちの騎馬は防戦一方である。

 せめて真正面を向かなければいけないのに、相手の騎馬が強すぎてまともに体勢を整えられない。

 それどころか、体当たりの衝撃が強すぎて今にも騎馬自体が崩されてしまいそうだ。


「よっしー、押し負けないで! 何とかするから!」

「えっ!? う、うん、頑張る!」


 輝羽ちゃんの声に、パニックになっていた頭に少し冷静さが戻ってきた。

 そもそも、やろうと思えば私一人でも輝羽ちゃんの足場になることは容易(たやす)いのだ。

 思い切って騎馬を一度解体してから再度組みなおすこともルール上は問題は無いはず。


「輝羽ちゃん、いったん騎馬を組みなおせないかな?」

「それ、いいね! よぅしっ!」

「そんな暇、与えるわけないだろ!」


 弘子ちゃんが勝負を決めようと更に前のめりになって攻めてきていた。

 騎馬も一気に勝負を決めようと更に強く体当たりしてくる。


「いくよ、よっしー!」

「うんっ!」


 私は輝羽ちゃんが何をしようとしているのか、その力の掛け方で理解した。

 自分たちの騎馬が崩れるタイミングが合図となり、私たちは2人で息を合わせ、作戦を実行に移した。


 私が馬飛びの馬のような姿勢になると、輝羽ちゃんの全体重が私の背中に集中した。


「んじゃ、弘子、遠慮は無しってことで。とーぅ!」

「お、おま、わあああぁ!?」


 輝羽ちゃんは私の身体を踏み台にして思いっきりジャンプし、弘子ちゃんの騎馬にダイブしていった。

 まさかの奇策に虚を突かれた弘子ちゃんが初めて輝羽ちゃんに上を取られる。

 輝羽ちゃんは抱き着くような形で相手の腕を封じ、弘子ちゃんの頭から無理やりハチマキをむしり取った。


「うっ、やられた……!」

「よっしー、戻れる!?」

「いいよ、輝羽ちゃん! ……そんなわけで、お返し!」

「えっ!? きゃああぁ!?」


 私たちは騎馬を組みなおし、既に勝負が決したことで呆然としていたぷに子ちゃん達に容赦なく突進攻撃を食らわせ、相手の騎馬をも粉砕する。

 そして輝羽ちゃんは地面に足が着く前に私たちの騎馬に乗りなおして、勝利の勝鬨(かちどき)を上げた。


「完全しょーりっ!」

『決着ぅうーーっ! エース対決は紅組の勝利だぁ!』


 輝羽ちゃんがガッツポーズを取った瞬間、競技終了のピストルが鳴った。


 万雷の拍手が降り注ぎ、その中をウイニングランするかのように私たちの騎馬は自分の陣地へと戻っていく。

 生き残った騎馬たちも同様にそれぞれの陣地へと戻っていった。


『さぁ、しかし、全体の得点ではまだ分からない! 結果はどうだ!?』


 整列した騎馬が数え上げられ、それぞれが奪ったハチマキの数がそこに足される。

 結果、紅組が最も得点を稼ぎ、見事1位を獲得した。


「やってくれるな、きぅ」

「危なかったけどね~。さすが弘子、強かったよ」


 戦いが終わり、お互いに声を掛け合って自軍へと戻っていく。

 お互いに悔いのない戦いができたようで弘子ちゃんも輝羽ちゃんも笑顔である。

 最初は迷惑かけちゃったかもしれないけど、最後は私も何とか役に立てたかな?


「さぁーてっ! 次は俺たちの番だぜ!」

「あんまり張り切りすぎるなって。俺たち別に強くないんだし」


「僕が上でいいのかな?」

「お前が上にいなきゃ暴動が起きかねないぞ」


 女子の後は男子騎馬戦であり、零くんと久くんの騎馬が注目の的になっていた。

 あの2人が組む騎馬は3年生に混じっていても遜色ないと思う。

 それと、青組には渡くんと修一くんのコンビが出場している。

 結果として、私のクラスにいる有名人は全員出場しているようだった。


 そして、その陰に隠れるかたちになってはいるが、ゆーくんが騎手として参加していた。

 お姉ちゃんはちゃんと見てるから、頑張ってね!


『続いては男子騎馬戦です! 1発きりの勝負に勝ち残る騎馬こそがこの戦いのヒーローだ!』


 放送委員のアナウンスにも熱が入り、騎乗している男子がハチマキを引き締めて気合を入れる。

 スタート前の静けさが再び訪れ、一拍を置いて試合開始のピストルが鳴り響いた。


 全騎馬が怒涛の勢いで前へと駆け出していく。

 戦闘にいる騎馬同士がぶつかり合い、さっそく取っ組み合いからのハチマキの奪い合いが発生していた。


 ゆーくんの騎馬はなんと最前線の真っただ中にいた。

 私と同じくらいの背丈しかないゆーくんがそこに居たら格好の餌食になってしまう!

 実際、今も上背の勝る3年生の騎馬に狙われて防戦一方になっていた。


「ゆーくん、頑張って!」

「よっしー、白組を応援してるじゃん!」

「し、白組じゃないよぅ! 弟のゆーくんだけだから……」


 さすがに顰蹙を買うかなと思ってトーンダウンせざるを得なかった。

 周りの人たちはちゃんと自分のチームの応援を――。


「きゃー、零くーん!」

「すごい、カッコいー!!」

「頑張ってーっ!」


 ……してなかった。

 みんな零くんの頑張りに目を輝かせていた。

 既に紅組が不利になっている気がするんだけど、女子たちは誰も気にしていない。

 これではいま戦っているチームメイトがさすがに不憫だ。

 うん、やっぱり私は紅組を応援することにしよう。


 声を張り上げながら見ていると中央の戦いが更に激しさを増していく。

 そんな中、なんとか生き残っている我が弟、ゆーくんが戦場を引っ掻きまわしていた。


 決して強くはなく背も低いのになかなか捕まらず、隙を見せない立ち回りで相手の攻撃を誘っている。

 そうやって動き回り、攻撃してきた相手の裏を取った味方や第三勢力が仕留めていくことで生き残りつつ相手の数を減らすことに成功していた。ゆーくん、すごい!


『くっそー! 罠かよ!』

『囲んでいるように見えて、誘い込まれてるぜ』


 早々にやられてしまった渡くんと修一くんの声がちょうど解説役みたいに拾われていた。

 話を聞いていた感じ、ゆーくんにしてやられたうちの1組っぽい。

 ゆーくんの活躍を悔しさと共に解説しており、その話を聞いたギャラリーから、ゆーくんの騎馬は熱視線を受けていた。


 そして、ゆーくんの前にいるのは先頭に久くん、騎手に零くんが乗った白組のエースの騎馬だ。

 手には赤と青のハチマキがいくつも握られている。


 あの騎馬なら絶対に目立つし狙われるはずなのだが、それでも生き残っていくつもの戦果を挙げている。

 やっぱりあの2人がいる騎馬は強い。今もまた紅組の騎馬がハチマキを取られていた。


 ……あれ、零くんが高く手を突き上げてこっちの方を見ている?


「なんだろ、……挑発?」

「いや、違うでしょ!」

「カッコいいところをよっしーちゃんに見せたいんですよ~」

「零くん、とことん報われないな……」


 私の呟きにみんなが総ツッコミしてきた。

 あれは私に対する活躍のアピールだったらしい。

 零くんって、そういうことをあまりしなそうだから全然わからなかったよ。


『愛しの彼女も見ているぞー。敵軍だけどー!』

「ちょっ!?」


 放送委員の余計な一言でまた周りが湧きたった。

 私、別に零くんの彼女じゃないんだからその言い方はやめてほしい。

 零くん、やっぱり赤くなってるかなぁ?


『零、気にするな。それより俺たちで周りを全滅させてやろう』

『久くんも言うね。よぅし、やってやる!』

『あ、やっべ、茶々入れたら火ぃ点けちゃったっぽい! 紅組、青組がんばれよ~!』


 久くんのフォローが冴えわたり、物理的にも精神的にも零くんを支えている。

 周りも負けじと踏ん張っているが、ギアを上げた久くんと零くんの騎馬にことごとく討ち取られていった。

 零くんたちの騎馬だけが、まるで重戦車にでもなったかのようだ。


 うん、ダメだこれ。

 まるで手が付けられないや。


 そのまま無双状態に入った零くんたちが最後まで大暴れし、紅組は騎馬を全滅させられてしまった。

 青組の残った騎馬も僅かしかおらず、男子騎馬戦は白組の大勝利に終わった。


「零くん、かっこよかったね~」

「えっ?」

「え、じゃないよ、もぅっ!」

「ホント、なんでこんなに興味が無いんだか」


 輝羽ちゃんも弘子ちゃんも、なぜだか執拗に私と零くんをくっつけようとしてくる。

 でも、私は零くんがヒーローである以上、付き合うつもりはない。

 2人が零くんの恋人に立候補するなら応援するんだけどなぁ。


「よっしー、これはお返ししなきゃだよ!」

「え、何を?」

「ふっふっふ、いいこと思いついたんだ~!」


 あ、また輝羽ちゃんがお父さんの雰囲気を……!

 できれば変なことをして欲しくないんだけど、大人しくしていてくれるかなぁ?


『次は二人三脚レースです! チームワークを見せつけることができるか!? なお、この競技には教員も参加しています。担任の先生方の戦いにも注目です!』


 次の競技は二人三脚だ。

 私や輝羽ちゃんグループ、うちのクラスの目立つ男子メンバーにも参加者はいないため、全員が応援に参加していた。

 ただし、この競技には星先生と黒川先生が青組として参加しているのである。


 競技が始まり応援している間、出番を待つ星先生と黒川先生の姿がちらりと見えた。

 いつものスーツ姿ではなくジャージに着替えた星先生と黒川先生が片方の足を紐で結びつけている。


 黒川先生は一度、筋肉痛で休んだこともあるし運動は苦手そうだ。

 背は黒川先生の方が高いけど、たぶん走るのは星先生の方が速いような気がする。


「ねぇよっしー、黒川先生、足速いと思う?」

「……いや、全然遅いと思う」

「やっぱり?」


 輝羽ちゃんも私と同じ考えのようだった。

 黒川先生が足を引っ張るんじゃないかという気がして何となくハラハラしてしまう。


 競技は進み、残るは3つのレースだけとなった。

 ここで満を持して、各学年のクラスの担任と副担任たちの登場である。


『さぁ、各クラスの担任、副担任がチームのために頑張ります! 果たして最強のクラス担任はどのペアなのか!? まもなくスタートです!』


 普段は壇上にいる先生が同じチームの一員になるのは妙に非日常感を感じる。

 私を含む、全生徒たちが不思議な高揚感で盛り上がっていた。

 応援に熱が入る中、スタートの合図であるピストルが撃ち鳴らされた。


「いけー! 金沢せんせー!」

「八木先生、負けるなー!」

「福島先生、ファイトォー!」


 まずは1年生の担任たちのレースだ。

 生徒とは違い、性別も年齢も身長差もごちゃまぜになった先生たちのレースは予測不可能な波乱を巻き起こしていた。


 序盤、まずは若い男女の教員ペアが駆け出し、その後ろに男性同士だが身長差のあるペアが続く。

 最後は年配の先生と若い女性教師のペアが遅れながらも一歩一歩を確実に進んでいった。


 最初は調子よく飛び出していった男女ペアだったが、コーナーに差し掛かった時に息が合わず転んでしまった。

 そのすぐ後ろに居た身長差ペアは、転んだ男女ペアを見てお互いに別の方へ避けようとしてしまったようで、こちらも転倒してしまう。

 結果、年配の先生と若い女性のペアがそれを躱して1着でゴールしていた。


 まさかの結果に、会場は笑いとどよめきに包まれている。

 やがて全員がゴールし、先生方に大きな拍手が送られた。


 そして、興奮冷めやらぬ中、2組目に登場したのが星先生と黒川先生のペアである。


 2年生だけチームがくじ引きだったので、白組の私が表立って青組ペアを応援することはできないが、やっぱり活躍してほしいと思う。

 たぶん各組に散っている2年生たちも、心の中では自分たちの担任を応援していると思う。


『位置について、用意……』


 パァンッ! という音と共に3組のペアが勢いよく走り出した。

 星、黒川ペアも順当な滑り出しで、リズムよく前へ前へと進んでいった。

 だが、同じ組の先生方は両方とも男性のペアであり、次第に息が合ってくると一気に前へと躍り出た。


『お前らには負けねぇ~!』

『羨ましいぞ黒川ぁ、この野郎!』


 他2組のペアは嫉妬混じりのヤジを飛ばしながらスピードを上げていく。

 その言葉をきっちりマイクに拾われてギャラリーからは笑いが零れていた。

 黙って走っていれば恰好良かったのに、残念ながら全国に醜態を晒してしまっている。


『黒川先生、何か言い返しましょうよ!』

『ゼぇ……ゼぇ……、え、なんですか?』


『黒川先生、すでに限界だぁー!』


 黒川先生、相変わらずの運動能力の低さである。

 50メートルくらいしか走っていないのに、いっぱいいっぱい過ぎて星先生の言葉もほとんど聞き取れていないようだった。

 そして、喋ったことで更にスタミナを消費したのか、足をもつれさせて転んでしまった。


 息が合わないとかですらなく、ひとりでコケたように見えた。

 体力無さすぎだよぅ……。


 黒川先生は私と同じ秘密結社パンデピスの怪人、ブラックローチの正体なのだが、あの身体でよく怪人化手術に成功したものだ。

 お父さん、よく手術に踏み切ったなぁ……。


 星先生はというと、黒川先生が予想外の転び方をするので2人仲良くにもつれるように転んでしまっていた。

 うーん、絵にかいたような転倒風景だ。

 なんなら今度、美術部に出た時に本当に絵にしちゃおっかな?


『く、黒川先生、近いです!』

『も、申し訳ない……ぜー、ぜー』


 星先生は黒川先生の顔が間近に迫っていたことを、頬を赤らめて抗議していた。

 星先生、最近は黒川先生とも打ち解けているし、もしかするともしかするのだろうか?

 ……ただ、黒川先生の方はまるっきりそれに気づく余裕はないみたいだけど。


『ねぇねぇ、あれってどう思われます? 戸田先生』

『匂いますなぁ~。高橋先生は?』

『そうですわね、お付き合いするなら節度ある付き合い方を前提としてですね……』


 女性教師陣がにわかに盛り上がっていた。

 あのぅ、声が拾われちゃっていますよ?


 そんな周りのガヤを受けながら、それどころではない黒川先生は星先生に肩を借り、残り半分をぜーぜー言いながら何とか走り抜いていた。

 圧倒的ビリっけつである。


『お、おかしい、少しは運動をしていたはずなのに……』

『体力なさ過ぎですよ。1日3食、ちゃんとご飯を食べてるんですか?』

『いえ、その、1日2食くらいですが……』

『な!? ちゃんと食べないと体力なんか付きませんよ! ……あのぅ、もしかして、今日もお昼を抜きました?』


 教師黒川、沈黙を(もっ)て肯定す――。

 星先生は最初は呆れ顔だったのだが、次第に聞き分けの無い子を叱るような顔に変わっていくのが見えた。


『この後、ちょっといいですか?』

『いえ、お、お構いなく!』

『問答無用です! 給湯室まで来なさい!』


 黒川先生、星先生から料理をお見舞いされることが確定したようだ。

 給湯室は狭いからカップラーメンくらいしか作れないんじゃないかな?

 ちなみに、男性教師陣は嫉妬で射殺すような視線を黒川先生に向けていた。

 星先生って人気あるんだなぁ。


『ケガも無くて何よりでした! ご飯はしっかり食べましょう! さぁ、最後の1組の登場だぁ!』


 3年生のクラスの担任たちがペアを組み、最後のレースが開催された。

 周りの会話は星先生と黒川先生の噂話でまだまだ盛り上がっていたが、最後にゴールする頃には応援の声が出て、決着後には大きな拍手が送られていた。


 この競技では紅組が少しだけリードを奪ったようだ。

 現在の総合得点でも紅組は僅かにトップで、次いで白組、青組と並んでいた。


『さてさて、どんどん行きましょー! 次は全女子生徒の戦い、"棒取り"だぁー!』


 アナウンスが場を盛り立てる中、白組と紅組がグラウンドを隔てて対峙するように移動する。

 準備係がその真ん中に長さ1メートルちょっとの棒を並べていった。

 この競技は、よーいドンで一斉にスタートを切り、いくつ棒を自軍に持って帰れるかを競う競技だ。


 相手が持っている棒でも、自軍の陣地に置くまでは途中で奪うことができる。

 最初はスピード、後半はパワーとチームワークが試される競技なのだ。


 ちなみに、私が出場する競技はこれが最後だ。

 残りは男子の棒倒しとリレーだけなので、この競技が終わったら後は応援するだけである。

 私たち紅組は白組のあと、すぐに青組との対戦になるので移動が少なくてちょっと楽かもしれない。


『位置について、用意……』


 パァンッ! と音が鳴るかならないかのタイミングで、みんな一斉にグラウンドの中央まで走り出した。

 足の速い輝羽ちゃんが一番に棒を掴み、颯爽と陣地へ引き返してくる。

 私も混戦となった地帯をスルリと回避して、誰も取らなかった端っこの棒を掴んで自軍へと戻った。


 次に中央に向かう前には棒の数が一気に減り、数少ない棒を巡って、各所で複数人同士での綱引きが行われていた。

 一気に引き抜こうと乱暴に力を入れる者、人数差に任せてグイグイと引っ張り続ける者など本気の取り合いが発生している。


『すごい迫力です! これが女の本性なのでしょうか!?』

『あいつ、ちょくちょく失礼だな』

『そうだね』


 弘子ちゃんと鉢合わせした私はそのツッコミに同意した。

 放送委員の余計な一言を含めてマイクに拾われたようで、場がドッと笑いに包まれていた。


 弘子ちゃんと私は別々のグループが行っている棒の取り合いに参加し、お互いに棒をゲットしていた。

 最後部に居た私は運ぶ係に任命されたので、ちょこまかと自軍へ向かって走っていく。


『じゃあ、お淑やかにやってみますよ~!』


 なんか、去り際によく分からない言葉が聞こえた気がする。

 振り返って見てみると、棒を運ぶ係を任されたぷに子ちゃんが無駄にお嬢様の風格を漂わせ、お淑やかさ全開で優雅に棒を運んでいた。

 思わず見惚(みと)れてしまったよ。


 周りもぷに子ちゃんの完璧なお嬢様っぷりに注目している。

 ぷに子ちゃん、黙っていたら深窓のご令嬢だもんなぁ……。


『おっとぉ? とても麗しいレディが紛れ込んでいたようです! 先ほどの言葉から彼女は除かせていただきましょう!』


『零、お前も好美さん以外に見惚れることはあるんだな』

『えっ!? いや、うん、まぁ……そうなのかな?』


 ぷに子ちゃんの本領発揮は零くんにも割と効果があったようだ。

 拾われた零くんと久くんの会話に、周りの女子たちの耳が反応している。

 そして、思った以上のカオスがやってきた。


『そろそろ諦められてはどうかしら!』

『まだまだこれからですわよ』


 急にお嬢様? 口調になる女子生徒たちが数多く現れ、優雅さを出そうと頑張っていた。

 やっていることは普通の棒取りなので違和感が凄い。

 それとも、いわゆるお嬢様学校の体育祭ってこんな感じになるんだろうか?


『ごめんあそばせ~!』

『あぁ、奪われてしまいましたわ……』


 勝った側の女子生徒がファッションショーのランウェイを行くが如く格好をつけて自陣へと向かい、負けた方の女子生徒たちが、よよよ、と地面にたおやかに崩れ落ちた。


 みんな零くんにいいところを見せようと思った結果なんだろうけど、さっきのぷに子ちゃんと違って偽物っぽさ全開で違和感が凄い。

 私は我関せずといった感じに動き回り、誤魔化しが効きそうな多人数の組に入って怪人パワーを発揮し、棒を着実に取っていった。

 この異常な光景を早く終わらせたいのである。


『なかなかのお手前で……』

『そちらこそ、ですわ』


 輝羽ちゃんまで白組の先輩とお嬢様合戦を繰り広げていた。

 優雅さを失わずに引っ張り合えるのは器用だけど、それを力に回したらお互いに勝てるんじゃないだろうか?


『あの、まじめにやっていただけません?』


『何でよ!? ぷに子は褒めてたのに!』

『零くーん、見てる~?』


 輝羽ちゃんは放送委員へのツッコミに、相手の先輩は零くんへのアピールにと気を取られていた。

 その2人が争う棒が最後の1本になり、お互いに何人もの生徒たちが集まって1つの棒を引っ張り合う総力戦へと発展していった。


 私は自軍陣地付近で見ていただけだったが、最後の1本はみごと紅組が勝ち取り、輝羽ちゃんが大喜びで自軍の陣地へと凱旋してくる。

 既に飽きたのか、もはやお嬢様っぽさは完全に消え失せて普通の輝羽ちゃんだ。


「よっしー、うちら頑張ったねっ!」

「うん。ところで、なんで輝羽ちゃんまでお嬢様になってたの?」

「え? うーん、ノリ?」

「ノリかぁ……」


 周りの雰囲気に乗っただけっぽい。

 もしくは褒められたかっただけかもしれないけども。


「輝羽ちゃん、しっかりお嬢様の所作を身に着けたら、それっぽく見えるような気がする」

「そぉ? じゃ、頑張ってみよっかなぁ!」


 輝羽ちゃんは今、ぷに子ちゃんの家に居候しているから、もしかしたら本当にお嬢様っぽくなれるのかもしれない。

 ただ、その場合はぷに子ちゃん以上に"話さなければ"という注釈が付きそうだ。


 ちょこまかと暗躍していたのが功を奏したのか、棒取り1回戦目は紅組の大勝利に終わった。

 怪人の力をちょこっとだけ使ったので、ちょっとズルかったかもしれない。


 次いで行われた2回戦目もきっちり勝利し、紅組が2勝である。

 白組と青組の対戦では白組が勝利していた。

 結果として、棒取りの戦績がそのまま得点に現れ、ここにきて紅組が大きく抜け出す形で競技が終了した。


 これにて私の出番はお終い。後は応援するだけだ。


『女子の戦いが終わり、今度は男子の戦いの番です! 男子の競技は荒々しき決闘! "棒倒し"が間もなくスタートです!』


 棒倒しは相手の丸太を倒して先端に付いた旗を奪う競技だ。

 1年生から3年生までの全員が参加し、自軍の丸太を守りつつ相手の丸太を倒さねばならない。


 殴る蹴るは許されていないが突進しての体当たりが許されているため、全速力で相手に突っ込んでいく様子には迫力がある。


 旗のついた丸太が2カ所に立てられ、それを取り囲むように紅組と白組が陣形を組み立てた。

 両方の組ともオフェンスには3年生が多く、1年生と2年生が守りを固めているようだ。


 3年生に体当たりされる1年生は怖いだろうなぁ……。


「よっしー、それじゃ、作戦会議ね!」

「え? 作戦って?」

「決まってるじゃん! 私たちが勝つための作戦だよ!」


 私たちって見てるだけだと思うんだけど、輝羽ちゃんは何をするつもりなんだろうか?

 妨害工作とかしたら反則のペナルティを喰らってしまいそうだし、場合によっては止めないといけない。


 輝羽ちゃんと話しているうちにピストルが鳴り、棒倒しが始まった。

 紅組にもパワータイプの3年生はいるものの、白組にはヤンチャな先輩3人組をはじめとする屈強な3年生と、2年生では零くん、久くんの2人がいる。

 その攻撃力はかなりのもので、あっさり紅組は陣形を崩されていた。


 もう負けそう。


「輝羽ちゃん、もう決着ついちゃいそうだよ?」

「いーのいーの、作戦決行は次の戦いなんだから! 次の青組と白組の戦いの時に……」


 輝羽ちゃんが私にごにょごにょと耳打ちして作戦を告げてきた。

 単純な話、私が零くんを名指しで応援しろということだけである。

 それによって何をしたいのかは教えてくれなかったんだけど、それくらいならやってもいいかな?


 輝羽ちゃんとの作戦会議をしているうちに決着が着いていた。

 白組のやんちゃ3年生の1人が紅組が作った陣に飛び乗って棒を倒すことに成功し、そのまま旗を奪ったのである。

 手に取った旗を大きく掲げて勝利の勝鬨を上げていた。


 次いで2回戦だ。ここでは白組と青組が戦うことになる。

 渡くんと修一くんはオフェンス側に回っているようだ。

 あの2人、足が速いから先制攻撃を入れようということなのだろう。


 そして、私が零くんを応援するとしたらこの戦いしか残されていない。

 ……今更だけど、紅組の勝利のためなんだよね?

 なぜか私の周りの人たちって、私と零くんをくっつけたがるからなぁ。

 私、その人たちに騙されていないよね?


「じゃ、マイクはこれね」

「え?」


 輝羽ちゃんがシレっとマイクを渡してきた。

 どこから持ってきたのだろうか?


「これ? さっき見つけたんだよ! 地面に埋まってたんだ~」

「掘り返しちゃダメだよ、輝羽ちゃん」

「大丈夫、あとでちゃんと埋めとくから!」


 そういう問題なのだろうか?

 まぁ、元の場所に戻しておくなら問題は無いかな?


 無線の超小型マイクを渡された私はOFFになっていたマイクのスイッチを入れた。

 これでたぶん放送委員にも声が伝わっているはずだ。

 それがアナウンスされるかどうかは分からないが。


 ピストルの音が鳴り響き、棒倒しが始まった。

 青組と白組がほぼ同じタイミングで相手の陣地へ到達し、その陣形を崩しにかかる。

 スピードは青組が少しだけ早かったが、そのパワーは白組が圧倒的に勝っているようで、相手の陣地を力づくで崩していた。


 白組は青組の陣営を見て、ちょっとだけ防御面を工夫していたようである。

 その形は相手に一番近い部分が盛り上がった卵型になっていた。

 青組は戦いの中でそれに気づき、薄い側から攻め直すことを余儀なくされている。

 攻防とも白組が短期決戦向きで、このままだと一気に勝利を掴んでしまいそうだ。


『よっしー、ほらっ!』

『う、うんっ』


 あ、放送に私たちの声が乗っている。

 作戦決行の時だ。

 ……とはいっても、普通に零くんを応援するだけなんだけど。


『零くん、がんばって~!』


 応援した瞬間、私の周りからザザッと左右に人が掃けて、私だけ目立つ形になっていた。

 何事かと思ったのだが、輝羽ちゃんを見るとイタズラ成功といった表情をしている。

 いったい何をしているんだ!?


 しかし、その行動は白組のメンバーに多大な効果を与えていた。

 大音量で流れた零くんへの応援と、それを行った私が1人だけ陣地にいることで、その目にしっかり映っていたことだろう。

 結果、零くんが信じられないという目で呆然とすることになった。

 周りのみんなも衝撃的だったのか、全員が一瞬だけ棒立ちになっている。

 零くん、旗を取る直前だったのに……。


『零、罠だ!』

『今だぁーー!』


 冷静さを失わなかった久くんが声を上げたが、一歩遅かった。

 一瞬のスキを突いて渡くんが白組陣営の身体の上を駆け上がり、丸太をそのまま駆け登って旗を奪い取ってしまった。

 青組の逆転勝利である。


『青組、まさかの逆転勝利だぁーーっ!』

『しゃああーーー!! うちとったりーー!』


 渡くんがガッツポーズで勝利を叫んでいる。

 負けた白組はえーっという表情を浮かべている。

 そりゃそうなるよね。


『黄色い声援かと思いきや、甘い罠だったぁ! っていうか、ほとんど全員が彼女を見ていました。これは彼1人の責任じゃないぞー!』


 放送委員の言葉に、白組は悔しそうにしながら競技参加者用の待機所に戻っていく。

 あ、零くんがかなり落ち込んでいるっぽい。

 な、なんだか罪悪感が……!


「ふふーん、完璧な作戦だったわねっ!」

「うぅ、やんなきゃよかった……」


 輝羽ちゃんは白組がこれ以上得点することを防ぐことができておおはしゃぎだった。

 周りの人たちとハイタッチしている。

 これ見たら白組の人たち、どう思うんだろう?

 後で零くんたちにお詫びしないといけないかなぁ?


 その後、最後の戦いで青組と紅組が覇を競い、紅組はギリギリで勝利をもぎ取っていた。

 棒倒しは見事に3すくみの結果となり、総得点の変動なしで終了した。


 結果、未だに紅組が大量リードしており、その後が白組、最後が僅かな差で青組と続く形になっていた。

 このまま行けば優勝できるかな?


『さぁ、泣いても笑っても最後の競技です。最後は選抜メンバーによる男女混合リレー! ここでの勝者が一気に優勝へと近づきます!』


 各学年、各組の選抜メンバー6名がそれぞれ配置についた。

 例年通りだったら全員3年生が最終走者にいるのだが、配置を見たところ最終走者が全組とも2年生になっている。


 白組の最終走者が零くんであるあたり、みんな納得の上での配置換えのようだ。

 実際、もし勝利することになったら映えるだろうなぁ。

 それに対する青組の最終走者は渡くんである。足がすごい速いし納得だ。


 問題は紅組である。


『お前が来るのかよ!』

『何よ、文句あんの!?』

『紅組は思い切った変更をしてきたね』


 そう、我らが紅組の最終走者は輝羽ちゃんだった。

 走者の順番の入れ替えは問題ないとはいえ、女子を最後に持ってくるのは零くんが言った通り思い切った変更である。


 輝羽ちゃんも足が速いが、さすがに男女差もあるし、あの2人を相手に勝つのは不可能だろう。

 輝羽ちゃんより前の走者がどれだけアドバンテージを作れるかで勝負が決まることになる。

 最後の最後まで何が起こるか分からない戦いになりそうだ。


 バトンを持った第1走者がスタートラインに立った。

 全チームが1年生女子を先頭に持って来ており、次の走者も1年生男子で統一されている。

 序盤はハンデ無しの実力勝負だ。


 赤青白のバトンを持った走者たちが前傾姿勢を取り、場を静寂が支配する。


『位置について、よーい……』


 パァンッ! とピストルが撃ち鳴らされた。

 走者が走り出し、同時に歓声が上がる。

 グラウンドに小さな砂煙を巻き起こしながら、各組の最速ランナーが風となって駆け抜けていった。


 飛び交う応援の中、各組の第1走者はほぼ同じ距離を保ったままカーブに差し掛かった。

 ここからはレーンが取り外されて自由な位置取りでレースを行うことになる。

 それまで並行して走っていた3人はここで順位が付けられる形となった。


 1番良いポジションを取ったのは青組だった。

 最前列の内側をキープすることに成功し、最短距離でカーブを駆け抜けていく。

 次が紅組で、やや外に膨らみながら半身差で追いすがっていた。

 一歩遅れた白組だったが、青組の後ろをピッタリと付けており、まだその差はほとんど無いといっていい状態である。


 カーブの真ん中では1年生男子が待ち構えており、バトンが綺麗にリレーされていく。

 ここで白組が気合を見せて紅組青組を追い抜くと、白組応援席だけではなくギャラリーからも大歓声が上がった。

 やっぱり白組が応援されちゃうよね。


 その声援を力に変えてバックストレートを走り抜けると、白組の走者が一番に次の走者へとバトンを手渡した。

 多少遅れているものの、青組と紅組もバトンを渡していく。


 ここまではそこまで差はなかったのだが、紅組が奇策を打ってきたのでここからレースが面白くなっていった。


 白組と青組が第3走者に2年生女子を持ってきたのに対し、紅組だけ2年生の男子である。

 さすがに男子が女子2人を圧倒することになり、ここで一気に紅組が1位に躍り出た。


 次の4番目、5番目の走者の3年生の戦いは、紅組が差を広げようと必死の逃げを見せ、白組と青組が逆転の望みを託すべくひたすら前を追いかけていく。

 遠目からだとその差は変わっているようには見えなかった。


 そして、最終コーナーから直線に戻るところで、2年生たち最後の走者の出番が来た。


『じゃ、先に行ってるわねっ!』

『まずは全組で唯一の女性アンカー、紅組がバトンを受け取ったぁ!』


 輝羽ちゃんが最後のバトンを受け取って駆け出した。

 かなりのリードだが、相手は男子2人。

 それも群を抜いて速い2人なので逃げ切れるかどうかは分からない。

 輝羽ちゃんの全力疾走を見て、握りしめた手に自然と力が入る。


『全力で行く!』

『次いでヒーロー氷月零の白組!』

『全員抜いてやるっ!』

『最後は青組! この2人は紅組を捉えられるのか!?』


 最終走者だけはコースが異なり、カーブに差し掛かるところを最後まで直進してのゴールとなる。

 ストレートを駆ける3人の選手には、ありったけの声援が送られていた。


 直線の半分を過ぎて、輝羽ちゃんと後ろ2人の差が縮まってくる。

 最終ランナーになった直後の約半分くらいの差になっただろうか?

 頑張って、輝羽ちゃん!


『距離は残り僅か! どうだぁー!?』


 最後の30mほど、僅かながら輝羽ちゃんの走る迫力が落ちた感じがした。

 女子の徒競走は80m。

 全力疾走を続けるには100mの距離は輝羽ちゃんにとってやや長い距離だったのだろう。

 残り僅かのところで、残念ながら2人に追い抜かれてしまった。


 そして零くんと渡くんはというと、最後の最後までもつれる熾烈な戦いを演じ、重なるような形でフィニッシュとなった。


『ほとんど同着! これは、どっちが勝ったのか!?』


 ゴールを見ていた審判の先生にマイクが渡され、固唾を飲んで見守る生徒たちとギャラリーが見えやすい位置に移動すると、勝負の結果を発表した。


『ただいまのレースの結果は……1着、青組!』

『勝ったのは青組だァーー! 青組、最後のランナーが見事、白組のヒーローを抜き去ったぁ!』


 青組から地鳴りのような歓喜の声が上がる。

 渡くんが青いバトンを高々と掲げて勝利をアピールしていた。


『2着、白組! 3着、紅組です』

『白組も最後の最後まで分からない、白熱の戦いだったぞ~! 紅組の健闘にも拍手を!』


 あ、零くんと渡くんが握手をしている。

 続いて零くんと輝羽ちゃんも。

 でも、渡くんと輝羽ちゃんはお互いに目が合うとお互いにあかんべーをしていた。


『べーっ!』

『いーっ!』

『紅組、白組、お前ら仲良くしろよ!』


 放送委員のツッコミを合図に、2人はギャラリーに向かって頭を下げて、お互いに軽くハイタッチをして自軍へ戻ってきた。

 さっきのは即興のネタか何かだったのだろうか? 息ピッタリである。


 笑いと爽やかな空気が場に広がる中、全競技の終了が宣言された。



-- 5月28日(日) 15:15 --


『結果発表~!』

「「「いぇーーい!」」」


 戦いが終わっても元気いっぱいの生徒たちが放送委員に合いの手を返した。

 全競技を終えて、白組が1位、青組が2位、紅組が3位になっている。

 しかし、まだ終わりではないのだ。


『各部門賞の発表です! ここでの加点が順位を覆すかもしれません!』


 そう、あらかじめ決められていたいくつかの特別賞が存在しており、それも総得点に加えられるためだ。

 3組とも物凄い接戦になっているので、本当にどう転ぶか分からない状態である。


『まずは応援得点です! 全組の応援がそれぞれ追加点になります!』


 この応援得点だが、実は一番最初の入場行進なども評価対象に入っている。

 全組とも特徴的だったから、正直言って評価する人の好き嫌いに左右されそうな気がするんだけど……。


 黒板に書かれた得点がカバーで隠された状態で出てきた。

 そのカバーを審判の先生が一気にめくり、それぞれの得点が明かされる。


『結果は……!? 白組90点! 紅組87点! 青組98点! 青組がトップだぁ!』


 微妙な差だが、応援を制した青組がここで総得点でもトップに立ち、青組は全員で大喜びである。

 紅組は11点差を付けられての3位だ。

 私ももっと、はっちゃければ良かったかなぁ?


『さてさて続いては、敢闘賞の発表です! 最後まで戦い抜いたガッツを見せた生徒、男女1名ずつに贈られます!』


 マイクが放送委員から実行委員の先生に渡され、その名前が発表された。


『男子、白組1年、佐藤優輝くん! 女子、紅組2年、三条輝羽さん!』


 え、ゆーくんが選ばれた!? それに、輝羽ちゃんも!


 ゆーくんは騎馬戦での場を引っ掻きまわしつつ最後まで生き残ったことが評価の対象になったのだと思う。

 輝羽ちゃんは最後のリレーのアンカーだったし、騎馬戦でも目立っていた。

 それぞれが死力を尽くして戦っていたから、個人的にこの選出には納得だ。


 2人がみんなに拍手されながら放送席の前へと向かっていく。

 先生が賞状を読み上げ、小さなメダルがゆーくんと輝羽ちゃんへ贈られた。


 これは写真を撮らなければ! 撮るのはお父さんだけれども!

 やばい、なんだか一気にテンションが上がってきた!


 白組と紅組への加点が行われ、今度は白組がトップに躍り出た。

 青組が2位で、わずかな差で紅組が3位となっている。

 正直、突き放されるだけかと思っていたけど、意外と紅組も頑張っている。

 もしかしたら逆転もあり得るかもしれない。


『続いて、優秀賞の発表です! 大会を通じて高いパフォーマンスを発揮し続けた生徒に送られる賞です! 果たして、誰が選ばれるのか!?』


 残るは優秀賞と最優秀賞の2つだけだったはず。

 この優秀賞は実質的に総合貢献度の2位と3位に贈られる賞と考えて間違ってはいないと思う。

 でも、紅組(うち)って輝羽ちゃん以上に目立っていた選手っていたっけ?

 思い当たらないし、望み薄かもしれない。


『優秀賞を発表します! 白組、2年、氷月零くん! 青組、2年、大海渡くん!』


 優秀賞にはリレーのアンカーの2人が選ばれ、大きなどよめきと拍手が送られる。

 少し意外なのは、零くんが最優秀賞じゃなかったことである。

 凄く目立っていたし活躍していたという印象しかないんだけど、逆に影響が大きすぎてチームにマイナスももたらしていたから最優秀ではなかったのかな?


 渡くんは徒競走とリレー、棒倒しと要所で目立つ活躍をしていたので順当な選出だと思う。


 それにしても2年生の選出が多いなぁ。

 1年生はゆーくんだけだし、未だに3年生が選出されていない。

 残る最優秀賞は3年生になるんだろうか?

 もしくは久くんとか?


 零くんと渡くんが揃って前へ出て表彰を受ける。

 渡くんはノリノリで、零くんもそれにつられて笑顔でギャラリーに手を振っていた。

 カメラマンたちがこぞって出てきて張りきってシャッターを切っている。

 零くん本人も楽しそうだし、ファンも喜ぶんじゃないかな。


『さぁ、残るは最優秀賞ただ1つ! 今のところ白組が一歩リードしているが、最後の最後まで分からない点差だァ!』


 紅組だけ優秀賞がいなかったわけだけど、たぶんコレを取ったら逆転勝利もあり得る点差だと思う。

 といっても、目立っていた人たちはもう軒並み表彰されている気がするんだよね。

 目立っていた人で残っているのは放送委員の人くらいじゃないだろうか?


『発表します』


 マイクを渡された先生が(おごそ)かな声で最優秀賞の名前が書かれた紙を読み上げた。

 うーん、誰だろう?


『今大会の最優秀賞は……紅組、2年、佐藤 好美さん!』


「は??」

「「「いえーーーっ!」」


 驚く私を置き去りに、紅組が大歓声を上げる。

 紅組に最後の得点が入り、その得点によって見事に逆転優勝を飾っていた。


「やったー!」

「やっぱ、よっしーだったか」

「他にいないですよ~」

「何で本人がきょとんとしてるんだ?」


 前へ出て行く道すがら、クラスメイト達の声が耳に飛び込んでくる。

 みんなは予測していたみたいだけど私自身は全然頭に無かったので、本当に私なのかと今も疑っているくらいである。


『なんと、応援合戦以外の参加種目で全て1位を取っています! 得点貢献度は文句なしの1位! 加えて棒倒しの時の策略も見事でした!』


 放送委員が選出理由を述べる。

 言われて思い返してみると、確かに出場した競技には全部勝っていた気がする。

 私は思ったよりチームに貢献できていたようだ。


 でも、最後の棒倒しの策略の評価は断じて違う!

 あれは周りが勝手にやったことで、私は仕組まれて参加させられただけですよぅ!


『おめでとう!』

『あ、ありがとうございます』


 表彰状と少し大きめなメダルを受け取って、ギャラリーにも頭を下げた後で軽く手を振ってみた。

 数少ない知り合いがきっとあの中にいるだろうし、できれば頑張って警護してくれている飛竜さんや上杉教官にも届いて欲しいなと思う。


 零くんよりは幾分か控えめにカメラのフラッシュが炊かれた。

 私はもう一度、軽くお辞儀をして自分の指定位置まで戻っていった。


『全ての賞の発表が終わり、最終結果の発表です!』


 今度こそ全てのプログラムが終わり、結果は紅組が優勝、2位に白組、3位が青組だった。

 最後までもつれる接戦だったこともあって、発表の際はお互いに心からの拍手を送り合うことができたと思う。

 優勝旗は3年の先輩たちが受け取っていたけど、その姿は堂々としていて格好良かったな。


 校長先生による閉会の挨拶が終わり、音楽に合わせて選手退場となった。

 ギャラリーが温かい拍手で見送ってくれている。

 後は周りのみんなが少なくなってから後片付けをして今日は終了だ。


「好美ちゃん。この後、時間ある?」

「はい、ありますけど……」


 でも、片付けが始まる前に私は星先生に呼び止められた。

 何だろう? 嫌な予感が……!


「零くんもそうなんだけど、記者会見にぜひ出てくれないかって」

「え!? わ、私は、そのぅ……」


 何で私まで記者会見に出なきゃならないんだろう?

 零くんだけでいいのに!


 既にできるだけ目立ちたくないという私の願いは粉みじんだろうけども、更に目立つことになるのは御免こうむりたい。

 何とか言い訳を考えて撤退できないだろうか?


「あの、ゆーくんを待たせるわけにはいかないので……」

「優輝くんなら、もう記者会見の席に向かっているわよ」

「うぇ!?」

「敢闘賞と優秀賞も、うちのクラスから出てるでしょう? あの子たちは零くんと仲もいいし、みんなの話を聞きたいって言われててね」


 輝羽ちゃんと渡くん、それにゆーくんも?

 この状態で私だけいなくなったら後で気まず過ぎる!


「そんなわけで、好美ちゃんもお願い!」

「……はい」


 ちょっと茶目っ気を見せて星先生がウインクしながらお願いしてきた。

 だめだ、これは逃げられない……。


 私は見事に撤退に失敗し、トボトボと記者会見の場へと向かった。



-- 5月28日(日) 20:00 --


【特務防衛課 新潟県 十日前町市 支部】


「よう、お疲れさん!」

「お疲れ様でした、教官!」


 南中学校の体育祭の警護任務が終わり、その後も警戒に当たっていたがパンデピスの襲撃は発生しなかった。

 恐らく今日はもう何も起きないだろう。


 街全体がお祭り騒ぎで活性化し、行き交う人達の多さといったら往年の雪まつりさながらだった。

 成人式や着物祭りでさえあんなに人は集まらんぞ?


「酔っ払いの相手が一番大変だったっスよ」

「大騒ぎしている奴らもいたからな~」


 ケンカなどのしょうもない事件事故もあったにはあったのだが、総じて些細な問題しか起きていなかったと思う。

 これが平和ってことなんだろうか?


「パンデピスが暴れなくて良かったです。零、本気で楽しんでましたから」

「そうだな。いくらレッドドラゴンが居るとはいっても、怪人が出たら気にするだろうからな」


 零にとって、こういった行事に参加するチャンスは限られている。

 ただ参加するとなっただけで騒ぎになるし、警護の関係でどうしても大ごとになってしまう。

 正体の割れたヒーローとして活動していく以上、頻繁に参加することができない宿命だ。


 なお、先ほどから俺の話し相手になっている(あずま)飛竜(ひりゅう)こそが、日本のナンバーワンヒーローであるレッドドラゴンその人だ。

 普段は1人の防衛隊員として働いているが、怪人の襲撃があった際は平和を守るために戦闘へと赴くのである。


「活躍してましたね、あいつ」

「そりゃ鍛えに鍛えてるからな。徒競走で負けたのに驚いたくらいだよ」


 走るのは筋力がものを言うから、零の足は相当速い。

 零が遅いのではなく、同じクラスに久くんとは別ベクトルの才能を持つ子がいただけだ。

 あれで陸上部じゃないっていうんだから驚きだ。


 若い力はいかようにも変わる可能性を秘めているとはいえ、零のクラスの連中は本当に才能に恵まれた生徒たちで溢れているな。

 おかげで零がひとりで浮くようなことになっていないのだろう。


「全体的に面白い大会でしたね。好美ちゃんが最優秀賞ってのも面白かったし」

「それはいいんだが……」


 備え付けのテレビをつけて、さっきやっていたニュースの録画を再生する。

 そこにはデカデカと『ブルーファルコンの想い人!?』という文字が躍っていた。


 街の人達に隠す様子がまるで無かったから、零と好美ちゃんの関係を記者連中も把握している。

 自主的に口をつぐんでくれていたのだろうが、今回の体育祭は全国から記者が集まってしまったから隠すのは限界だと判断してニュースに流したのだろう。


「各地にいる零のファンがあの子に変なちょっかいを出さなきゃいいんだが……」


 零とは違って、好美ちゃんはただの一般人だからな。

 学校にいる間は零に任せるとして、それ以外では少し目を光らせておく方がいいかもしれない。


「俺はアイツが憤っているイメージしか出てこないっスよ」

「あいつって?」

「同じ本部の、……言っちゃなんですけどお荷物ヒーローです」


 飛竜がここだけの話にしてくださいという雰囲気を出している。

 こいつがここまではっきりと悪口を言うとは、正直言って驚きだ。


「教官とは絶対に馬が合いませんから、出会わないで欲しいっス」


 本当にどんな奴なんだか。

 ただ、もし飛竜の言うように本当にお荷物なら来ないでほしい。

 そいつが俺の後継者に任命されるようなことになったらさすがに嫌だしな。

 ヒーロー、ライスイデンの代わりに新潟を任せることができる奴じゃないと、おちおち引退もできん。


「絶対にこっちに寄こさないように群馬の連中にはお願いしていますから!」

「後継者が決まった後なら、俺は構わないぞ」

「どっちかっていうと零のためでもあるんですけど……」

「そうなのか?」


 そいつと零は仲が悪いのか?

 まぁ、対策しているのなら俺から言うことはないな。


 それと、俺の後継者についても、ついに動きがあった。


 俺は知り合いであるDr.(ドクター)哲司の好意にすがる形で動いてもらっていた。

 そして来週、後継者問題を解決することができる可能性のあるアイテムが、こちらに渡されることになっている。


 ヒーロー化を行えるようになる【エーテル・ブレスレット】である。


 飛竜が言っていた"みどりちゃん"がこっちにくることになった理由が、それだった。

 まずは隊員たちに試してもらうとして、見つからなかった場合はどうするべきだろうか?

 生半可な覚悟を持った奴では困るしな……。


「いっそのこと、好美ちゃんがヒーローになってくれたら楽なんだがな」

「教官、何てこと言うんですか!?」

「あ、すまん……」


 いかんいかん! つい自分の勝手な希望を出し過ぎてしまった。

 反省しなくては。


「彼女は守るべき存在です! 俺たちヒーローが戦う理由でしょう!」

「そうだな、その通りだ。今一度、肝に銘じることにするよ」


 それにしても、飛竜も好美ちゃんのことになると怒るんだな。

 零とは違う感情だろうが、飛竜にとっても彼女は大切な存在なのだろう。


「とはいってもだ。万が一、ブレスレットの適合者だった場合はお願いすることになる」

「そりゃそうかもしれませんけど、まずは隊員たちからですよね?」

「もちろんだ。隊員たちの中からヒーローが選ばれるなら、それが一番いい」


 新しいエーテル・ブレスレットだが、その力に適合できる人の確率は恐ろしく低いと聞いている。

 ある意味、厄介な方法を押し付けられたとも言えるだろう。

 俺に、これを身に着けられる奴を見つけることができるだろうか?


「上手く機能するといいですね。ちょっとワクワクしますよ!」


 心配する俺とは違い、飛竜は失敗するという気が微塵もしていないようだ。

 そのことが俺の気持ちを押し上げてくれている。


「そうだな、そのくらい気楽に構えておいた方がいいだろうな」


 幸運は流れの中で掴むものだ。

 いい雰囲気があるだけで成功しやすくなる気がしてくる。


 きっとうまくいく!

 俺は飛竜に倣い、そう信じることにした。


 新しいヒーローの誕生は、もうすぐそこだ。

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