タヌキの怪人
--5月2日(火) 6:00--
十日前町市の街に、小雨が静かに降り注ぐ。
ミミズがコンクリートの道を横断しようと身をくねらせ、水が張られた田んぼにトノサマガエルがどぼんと飛び込んだ。
もうすぐ田植えの季節だ。
ところどころに出番を終えたトラクターが佇み、自らの仕事を誇るように田んぼを見下ろしていた。
雨がっぱを着込んだ私は、土と雨の匂いに包まれた道路を歩いていく。
今日は新聞配達で情報会館の通り付近を練り歩き、JESCO通りを通り抜けて配達所に戻るルートだ。
既に肩掛けカバンの新聞はもう空っぽで、あとは戻るだけである。
ふと前を見ると、白く霞が掛かったような道路の向こうにジョギングを行っている2人組が見えた。
フード付きのウインドブレーカーと、そのフードの下につば付きの帽子をかぶって雨の中を走ってくる。
こちらに向かって結構な速度で走ってきており、すぐにその姿が大きくなってきた。
先頭にいるのは、その動きから何となくボクサーをイメージさせる男の人だ。
雨の日に頑張っている人たちがいるなぁと思って見ていると、そのすぐ後ろから私のよく知っている人物が現れた。
「はぁ、ふぅ! 教官、ちょっとタンマ!」
後ろを走っていたのは防衛隊員のアズマさんだった。
彼は私に気付いたようで、ジョギングのスピードを落とすべく、前を行く男の人に声を掛ける。
大きく息を吐きながら喋っているところを見ると、オーバーペース気味に走っていたようだ。
「ん? お前、バテるには早くないか?」
「この人、なんでこんなに体力あるんだ!? じゃなくて、知り合いが居たから挨拶をですね……」
教官ということは、アズマさんの上司なのだろうか?
アズマさんよりスタミナがあるって、かなりすごい人だと思う。
「おはようございます、アズマさん。今日は2人でランニングなんですね」
「おはよう! こっちは朝っぱらからしごかれて大変だぜ」
「おいおい、お前が誘ったんだろうが」
苦笑いしながら教官と言われた男性がアズマさんに突っ込みを入れている。
見た感じ、歳は30代後半から40歳くらいかな?
以前にアズマさんがお土産を渡そうとしていた人が、この人だったりするんだろうか?
「初めまして、佐藤好美と言います」
「初めまして。俺は上杉一誠。防衛課で指導員をやっているよ。コイツの上官みたいなもんだ。よろしくな」
そう言ってニヒルに笑う上杉さんは、熟練の隊員が持つ風格みたいなものを感じさせた。
いわゆる、いぶし銀というヤツだろうか?
苦しい時ほど何とかしてくれるような、そんな雰囲気が漂っている。
「新聞配達か。何か買いたいものでもあるのかい?」
教官にとっては何気ない質問だったのだろうが、私は大いに焦ってしまった。
私は新潟高校を目指しているのだが、それは秘密結社パンデピスから遠ざかるためだ。
お父さんはパンデピス所属のマッドサイエンティストなので、組織のものと思しきお金に頼りたくないのである。
「えっと、い、行きたい高校があって、親に頼りたくないので、少しずつ貯めてるんです!」
慌てて用意した言い訳を、かなり早口で答えてしまった。
挙動不審で怪しまれないかなと心配になったが、私の早口言葉を聞いた教官は静かに目を閉じた。
「立派だな……」
どうやら、思惑通り両親のために頑張っているのだと受け取ってくれたようだ。
うまく誘導できたものの、お父さんのためと思われることは非常に癪である。
むしろ、父親がマッドサイエンティストだったことで私が苦労しているのだ。
悩む私の頭の中で、お父さんの『ひゃっひゃっひゃ』という高笑いがこだました。
「頑張れよ。俺には何もできんが、応援している」
「あ、はい、ありがとうございます」
私が勝手に葛藤していると、教官は先ほどのニヒルな笑みとは違う優しい微笑みを見せた。
「よし、俺たちも負けてられんぞ、飛竜! 久しぶりに全力で走るか!」
「ケガした直後なのになんでそんな元気なんスか! 散歩のつもりで誘ったのに!」
今にも駆けだしそうな教官に、アズマさんがタイムをかけた。
さっきまでのランニングも結構なスピードだったと思うのだが、まだまだ全力じゃないらしい。
いや、それよりも……。
「ケガしているんですか? 無理しない方が……」
「なに、かすり傷さ」
そう言ってまたニヒルな笑みを見せるのだが、そこにすかさずアズマさんの突っ込みが入った。
「嘘だっ! 何針も縫うケガだったじゃないっスか!」
「あんなのケガの内に入らないだろ。もう治ったよ」
「治るわけないでしょ! おとといの出来事っスよ!?」
教官は結構マイペースな人みたいだ。あのアズマさんが振り回されている。
ただ、この一連のやり取りもどこか優しさに溢れていて、見ていて不安になることはなかった。
仲が良いんだなと微笑ましくなる。
「頑張りすぎないでくださいね」
「あぁ、ありがとう。無理はしないさ。それに、身体は鍛錬を求めているみたいでな!」
グッと腕に力を籠める教官の姿を、アズマさんはげんなりした表情で見つめていた。
ランニングがつらいのか、教官が無理しそうなので心配なのか、どっちなんだろう?
「くそー、誘わなきゃよかったよ、ホントに」
「今さら言うな。ほれ、行くぞ!」
「へーい! それじゃ好美ちゃん、またな!」
「はい、また!」
私は手を振ってアズマさんたちを見送った。
すぐにハイスピードで駆けていく教官を、アズマさんも逃がすものかと食らいついていく。
その姿は一気に小さくなっていった。
遠くなっていく2人を見ていると、私が進む方向から車がやってくる音が聞こえた。
まっすぐ続く道路では、車が水を弾きながら走ってくる姿が遠くからでも良く見える。
そこには見慣れた軽トラがいて、ゆっくりと私に近づいてきた。
「あっ、篤人さん。おはようございます」
「おはよう、好美ちゃん」
いつもの軽トラから篤人さんが顔を出し、挨拶を交わす。
彼は鈴木篤人さん。
表向きはトラック運転手、裏の顔は秘密結社パンデピスの戦闘員であり、私のパートナーだ。
私が怪人の力を持っていることを知っているからか、毎回、挨拶代わりにクルマでタックルをしかけてくるのだが、今日は彼にしては珍しく安全運転の日だったようだ。
「配達、終わったんでしょ? 乗せていくよ」
「そうですか? ありがとうございます」
軽く水を払い、雨がっぱを脱いで助手席に乗せてもらう。肩掛けカバンは荷台の上だ。
近くの脇道でUターンをして、車は配達所を目指して走りだした。
「はい、これ。おすそ分けね」
「おすそ分け?」
篤人さんがビニールの袋を私に渡してきた。
中を見るとアスパラガスが詰められている。
ツヤツヤで瑞々しい。これはかなり鮮度がいいのではないだろうか?
「ありがとうございます。これ、もしかして採れたてだったりします?」
「そうなんだよ。買ったんじゃなくて、ご近所さんからのおすそ分けなんだ」
「それを更に、私におすそ分けですか?」
「そういうこと。僕じゃ、ちゃんとした料理にはしてあげられないからね。この方がいいのさ」
篤人さんは自称、料理下手だ。
何でもそつなくこなせるし、練習すればうまくなりそうなものだが、その気が無いらしい。
野菜の類も調理方法は知らないみたいで、私に頼ることが多いのである。
ただ、こういったおすそ分けは非常にありがたい。
いただく以上はお料理にしてお返しすることにしよう。
篤人さんもそれが望みだろうし。
「アスパラかぁ……」
茹でてそのままマヨネーズで食べるのもいいのだが、お父さんがちょっと苦手っぽいんだよね。
せっかくのいただきものだし、肉巻きアスパラにでもしようかな?
「今日の出動なんだけど、誰が何をするのかを教えるよ」
アスパラガスを見ながら献立を考えていた私は、その言葉を聞いて篤人さんの方を振り向いた。
「え、先に確認してたんですか?」
「そうだけど、いつもはこうだったじゃない? 今までがいろいろと慌ただしかっただけだよ」
「あー、確かにそうかも」
最近はイレギュラーが多かったので、基地に行ってから予定を立てることが増えていた。
しかし、今日は久しぶりに篤人さんが余裕を持って情報を得ることができたようである。
少しずつパンデピスの内部も落ち着きを取り戻しているのだろう。
「今日は、ドブロクダヌキが出動する予定だよ。場所は腿内市の圧宝寺だね」
「へぇ~、ドブロクダヌキだったんだ」
ドブロクダヌキは、アルマンダルの作戦を教えてくれたタヌキの怪人である。
アルマンダルの次の日が出撃だったとは知らなかったが、それを聞くと納得だ。
出撃準備で基地に来ていたため、アルマンダルの作戦を聞いてしまったのだろう。
「ただね……今回は、"謎の怪人"に来て欲しいと、相手から言われていてね」
「あれ、そうなんですか?」
それは初めてのパターンだ。
"謎の怪人"の正体が私だとバレるまでは、私が勝手に動き、作戦にちょっかいを出す形で怪人を助けることが多かった。
しかし、今回は名指しで来て欲しいと言われている。
怪人バレしたことで、他の怪人との関わり方も大きく変わっていくんだなとしみじみ実感した。
「のんびり構えているみたいだけど、僕としては不安があるよ。彼はタヌキだからね」
「まぁ、見たまんまのタヌキですけど……」
「そうじゃなくて、彼は狡賢い怪人だってことさ。何を企んでいるか、分からないよ?」
ドブロクダヌキを評する言葉の端っこに、小さなトゲが付いていた。
篤人さんはどうやら彼のことを良く思っていないらしい。
でも、私としてはもし助けられそうなら助け出すつもりだ。
この間はお世話になったわけだし。
「単に、負けそうな時に助けてもらいたいだけじゃないんですか?」
「そのくらいならいいんだけどね……。行かないっていう選択肢は無いんだよね?」
「行きますよ。邪魔って言われても行ったんですから、来て欲しいと言われているなら、遠慮なくお邪魔しますよ」
アルマンダルは強い拒絶を示していたが、それでも現場へ向かったのだ。
来いと言われているなら、なおさら行かない理由は無い。
「わかった。だけど好美ちゃんも、彼の言動には気を付けておいてね」
「う~ん、一応、気を付けるようにします」
篤人さんの勘が、要警戒だと告げているようだ。
何をどう気を付ければいいのかもよく分からないが、一応は頷いておく。
「まぁ、作戦は午後からみたいだし、僕らものんびり行こうか」
軽トラが配達所へと到着し、私はささっと配達用具を返却して戻ってくる。
篤人さんの運転で家まで運んでもらい、私はさっそく台所へと向かった。
貰ったアスパラガスをひとまずまな板の上に置く。
篤人さんは色々と準備をすると言って車で走り去っていった。
お昼ごはんの時間になったらまた来る予定である。
午前中は少し時間がある。
せっかくだからちゃんとしたレシピに沿って肉巻きアスパラを作ってみよう!
私はレンジの横に置いてある料理本をとりだしてペラペラとページをめくった。
--5月2日(火) 15:00--
肉巻きアスパラは大成功だった。
篤人さん、お父さんも気に入ってくれたようで、篤人さんにはお土産用もお願いされてしまった。
料理人冥利に尽きるというものである。
まぁ、私は別に料理人というほどでもないけども。
ゆっくり昼食を済ませた私は、篤人さんの軽トラに乗って高速道路を進んでいく。
東北自動車道の左右には広く広がる田園地帯、越後平野と呼ばれる場所を通り抜けた。
そのまま新潟市へと入り、海へ注ぎ込む阿賀野川を越えて更に北へ進む。
腿内荒川インターチェンジで一般道に降りたら、あと少しで圧宝寺だ。
ゴールデンウィークも中間へと差しかかり、高速道路もそれなりに混雑していたのだが、幸い渋滞に巻き込まれることはなかった。
胎内市に向けたドライブの最中に雨も止み、時折り光の筋が雲間から差し込んでは、街並みをほんの少しの間だけ明るく照らしていた。
約2時間のドライブを終えた私は軽トラから飛び降り、ぐっと背中を伸ばす。
「んぅ~……」
「お疲れ様。思ったより時間がかかったね」
ドアに鍵をかけながら、篤人さんも降りてきた。
作戦開始まではあと1時間ほどだ。
きっと襲撃の準備も済んでいることだろう。
ドブロクダヌキと接触して作戦会議をしてもいいのだが、単に最後に助けるだけでもいい気がする。
「篤人さん、彼らの居場所は分かりますか?」
「山の中にいるはずだよ」
圧宝寺の奥にある山のどこかに隠れているらしい。
その場で情報収集して決定することもあるし、ダメだと判断して別の場所にいる可能性もある。
接触はもしかしたら難しいかもしれない。
「どうします?」
「一通り見て回ろうよ、せっかく来たんだから」
そう言って、篤人さんは小さな手荷物だけを持って、圧宝寺の門をくぐった。
私も慌ててそれに続く。
まずは偵察ということだろう。
すっかり観光気分になっているように見えるのは、周りを欺くための演技に違いない。
たぶん。
門を潜り抜けて緑に囲まれた境内を進み、右側にある手水で手を洗う。
触るとけっこう冷たくて、長いドライブで鈍った身体を目覚めさせてくれた。
また道に沿って進むと、そこには三重塔が建っている。
約400年前に建てられた国指定の重要文化財なんだそうだ。
「国の重要文化財かぁ……」
ドブロクダヌキ、壊したりしないよね?
400年前の遺物を壊すとか、取り返しがつかないんだけど。
真正面から見た三重塔は、古びてはいるが堂々とした佇まいを見せている。
遥か昔、今から400年前に作られたものがここまでしっかり残っているって、本当に凄いことだ。
鉄筋コンクリートの建物の歴史はまだまだ浅いけれど、いつかこれを越えて残り続ける建物が文化財になったりするのだろうか?
「好美ちゃん、どうせならお祈りしておくかい? このお寺、学問成就の御利益もあるみたいだし」
「そうなんですか? それなら……」
それは是非ともお参りしていかねばなるまい。
私はお賽銭箱に5円を投げ入れ、二礼二拍一礼を行いつつ、高校受験の成功を祈っておいた。
聞きかじった知識でしかないが、このやり方で合っているはずだ。
「好美ちゃん、信心深いよねぇ」
「えぇ? そうでもないと思いますけど……」
私自身の感覚では世間一般のレベルだと思う。
仏教に詳しいわけでもないため、今も不安になっているくらいだし。
クリスマスやハロウィン、お正月も楽しんでいるし、宗教感も希薄な典型的日本人である。
私が祈っていると、後ろの方から3人組の男の人がやってきた。
そのうちの1人はどうやら案内役らしく、三重塔の前に立って講釈を述べている。
「ここの三重塔は約400年前に建てられたんですが、実は棟梁が一度、夜逃げをしていまして……」
「はっ!? 夜逃げ!?」
「なにそれ!?」
解説に後ろの2人組がいい反応を返し、興味深そうに話を聞いている。
あまり他の人が雇ったガイドの話を盗み聞きするのは良くないことだと思っているが、どうにも気になってしまってついつい耳を聳てて聞き入ってしまった。
「海岸で子供たち3人の石積遊びを見て、これだ! と言って戻り、この塔を建てたんです。その子供たちは、ここに祭られている3つの仏様が顕現した姿だったのではないかと言われているんです」
「「おぉ~……!」」
大いに盛り上がっている3人を見ていたら、そのうちの1人、白いTシャツを着た男性と目が合った。
いけない、ついつい盗み聞きしてしまっていた。
さすがに悪かったかなと思った私はとりあえず謝ることにした。
「すみません、面白そうな話をしてたので、つい……」
「いいよいいよ、構わないよ」
「そうそう、ガイド料自体はタダなんスよ」
タダという言葉にまた驚いてしまった。そんなので大丈夫なのだろうか?
案内人を見ると小さく何度も頷いていた。
「えぇ、無料でやらせてもらっています。でも、お店でお土産に肉まんでも買って行ってもらえると嬉しいです」
そう言う男性の服にはお店の名前が刻まれていた。
本業は肉まん屋さんみたいだけど、自分自身を広告塔として使っているということなんだろうか?
何にせよ、既に私は肉まんを買って帰ろうという気分になっていた。
「うちの肉まん屋、圧宝寺のお坊さんから酒を使った皮の作り方を学んだっていうご縁がありまして、それからもう200年にもなるんですが……」
そう言って話す歴史がまた面白かった。
自然と肉まんの話も飛び出し、膨張剤や添加物がない江戸時代から続く製法であること、失敗すると膨らまずにぺしゃんこになってしまうことなどが語られる。
肉まんを作ったことはなかったけど、今度作ってみようかな?
立派な蒸籠なら持ってるし。
すっかり聞き入っている私を、相手も好意的に受け取ってくれたのか、その後もずっと一緒にお話を聞きながら境内を回ることになった。
境内は参拝客で賑わいを見せており、時折り私と同じくその話に聞き入る人もいる。
歴史の説明の最中、歴代天皇のちょっとしたクイズに私だけが正解したのは少し嬉しかった。
時期がもう少しだけ早ければ桜が満開で、その時はもっと混むらしい。
もはや散ってしまった後なので緑の葉が揺れるだけだが、周りの木々が織りなす陰影にも風情を感じてしまうのは、お寺という特別な空間のマジックなのだろう。
3人と別れる際に、篤人さんがお饅頭屋さんの場所を聞いていた。
後でお邪魔することにしよう。
あと、できれば今回は人的被害だけではなく、建物全般に被害が出ないようにしたい。
--5月2日(火) 15:50--
作戦開始まではもう少し。
そろそろ着替えを済ませなければならない。
私たちはもう一度見て回る振りをして境内を歩き、お堂や重要文化財の三重塔、血の池の看板などを眺めながら、人目が切れたところで一気に奥の山へと向かって身を翻した。
そのまま木々に紛れるように身を隠すと、私はぼそぼそと小さな声で合言葉を唱えた。
「昏き力よ出でよ、メタモルフォーゼっ!」
黒いブローチから布が飛び出して、私の身体に巻き付いていく。
身体を黒いローブで覆い、ウサギの耳を付けた"謎の怪人"が密かに顕現した。
篤人さんも物陰で着替えを済ませたようで、いつもの戦闘員の姿になっていた。
「僕も一瞬で着替えられる装備が欲しいよ。ドクターに頼んでみようかな?」
「便利ですけど、変な合言葉を言わないといけなくなりますよ?」
「いやぁ、それは勘弁してほしいなぁ」
篤人さんが『メタモルフォーゼっ!』と叫んでいる姿を想像して、ちょっと噴き出してしまった。
でも、私はそれをやってるんだと思い出し、ちょっと凹んだ。
便利なんだけどね。便利なんだけどさぁ……!
「さて、ドブロクダヌキ様はどこにいらっしゃるかな?」
戦闘員モードに入った篤人さんが、ちゃんと組織の一員としての言葉遣いを取り始めた。
篤人さんもどこに彼が居るのかは把握していないようなので、遭遇した時のことを考えて下手なことは言わないようにしたのだろう。
私も気を付けろって言われていたし、そろそろ気を引き締めないといけない。
「いやぁ、ようこそ。もしや来てくれないのかと肝を冷やしましたよ」
「あ、どうも。お邪魔します」
いつの間にそこにいたのか、ドブロクダヌキがのっそりと姿を現した。
良く見ると、後ろには戦闘員が3名ほど隠れている。
なんで気付かなかったのか分からないくらい、すぐ近くに居たようだ。
「そろそろ仕掛けようかっちゅう所でしてね。"謎の怪人"さんがいてくれたら大助かりですわ」
「えーと、どんな作戦なんですか?」
なんだかやけに頼りにされている気がするが、戦えと命令されているのはドブロクダヌキだ。
もし代わりに戦ってくれと言われたらさすがに断るつもりだ。
「いやぁ、ね。真正面から戦うのはさすがに無謀だと思いやしてねぇ。この山で戦いたいんですけど、相手が付いてきてくれるか不安でしてねぇ……」
そう言って私を見る。
これはつまり、私に誘導役を頼みたいということなのだろう。
その口ぶりから察するに、何かしら罠を仕掛けているのではないだろうか?
それなら願ってもないことだ。
お寺をできるだけ壊さないようにしたいという私の願いにも合致している。
私は二つ返事でその願いを了承した。
「分かりました。それなら、その役割は私が担当します」
「いよっ、さっすが"謎の怪人"さん! そう言ってくれると思ってましたわ! あっしが見込んだ通り、恩義には恩義で報いるお方! 最高ですわ!」
自分のおでこをぺしん、と叩き、ドブロクダヌキが噺家めいた口調で私のことを褒め称えた。
持ち上げ過ぎという気もするが、悪い気はしない。
「あぁ、それでアルマンダルの作戦を伝えてきたんだね……」
逆に、篤人さんは疑惑の表情を強めて小さな声で呟いた。
私に手伝ってもらうためにアルマンダルの作戦をリークしたと考えると、確かに打算的なものを感じなくもない。
でも、世の中は持ちつ持たれつだ。
誘導くらいならさせてもらおうと思う。
「あっしはひと暴れした後で奥に引っ込みますから、本堂の真裏から真っすぐ進んだ広いところまで誘導を頼んます」
「分かりました。……そろそろ時間ですよね。私は別の場所に隠れます」
「お任せしますわ。そんでは、始めましょ」
ドブロクダヌキがそう言うと周りの戦闘員たちが動き出した。
ドブロクダヌキも出っ張ったお腹を揺らしながら、のそのそと戦闘員の後に続いていく。
私と篤人さんは別行動をとり、境内を見渡せる場所へと移動した。
「それで、どうしましょうか?」
「守りたいものの近くに行けばいいと思う。ひとまずは、三重塔あたりでいいんじゃない?」
一番に守るべきものは人の命なのだが、お客さんは境内中にいるから場所の決定には不向きだった。
そうなると、次に守りたいものは何かと考えると三重塔になる。
このお寺には宝物があるらしいが、地下にあるということだし、後回しにしても問題ないだろう。
篤人さんの提案に頷いて三重塔へと向っている途中、轟音が鳴り響いた。
そして、目の前で信じられないことが起きたのである。
ドゴォッ!
「ええぇ!?」
「ずいぶん思い切ったことするねぇ……」
私と篤人さんがそれぞれ目の前で起きたことに反応した。
今しがた辿り着いた三重塔が、目の前で思い切り爆破されたのである。
国の重要文化財が、一瞬にして瓦礫に変わった。
何という罰当たりな所業だろうか。
私は目の前が暗くなるような感覚に襲われた。
あまりの事態に、もうすでに泣きそうである。
ふらついた私を見た篤人さんが肩を抑え、支えてくれた。
「戦闘員21号……。私、呪われたりしないかなぁ?」
「罰が当たるとしても、"謎の怪人"じゃないと思うよ?」
何が起きたか分からないといった表情をした参拝客も、火の手が上がるとたちまち大騒ぎになった。
その騒ぎの最中、本堂の真ん前にあるお香を踏み潰しながらドブロクダヌキが空から降ってきた。
「さぁて、どうぞ御三方。この世には神も仏もないことをあっしが証明してさしあげやしょう」
そう言うや否や、またしても爆発が起きる。
六角搭、本堂、方丈殿、客堂、その他のあらゆる建物から火が立ちのぼる。
ついでに駐車場の方角からも大きな爆発音が聞こえた。
もしかして、駐車場にまで爆弾を仕込んでいたのだろうか?
それを聞いて大いに焦ったのが篤人さんである。
「ちょっ!? クルマ見てくる!」
篤人さんも、まさか駐車場を爆破するとは思っていなかったようだ。
私の返答を待たずに一目散に駆け出していく。
それを呆然と見送った後、大騒ぎになっている参拝客の悲鳴が聞こえて我に返った。
周りは既に火が回りつつある。
幸い、お寺の外まで出られる道は多く存在している。
まずは、間違っても山に入らないように何らかの警告をしておいた方が良いだろう。
私は火がくすぶる木々を通り抜け、お寺の裏手まで一気に移動した。
山の入り口に立つと大きくジャンプし、着地の瞬間に地面に拳を叩きつけた。
「こっち側は危ないですよ、っと!」
爆発音に似た音と衝撃波が辺りを振るわせた。
それを何度か行うと、そのたびに周りからはワーワーキャーキャーと叫び声が聞こえる。
これで、山の方は危険だということがアピールできただろう。
後は、できるだけ早く建物を見て回って、危険な状況にある人をレスキューしなければ!
その時、私の立てた音を聞いたのか、私の目の前にドブロクダヌキがひょっこりと姿を現した。
「"謎の怪人"さん、わざわざおっきな音を出して、何をされてるんで?」
「あ、いえ、ヒーローが来た時におびき寄せるために……」
「お~、さっすが、効果的ですなぁ!」
まったり話をしてる場合じゃないんですけど!
とにかく、早く出ていって欲しい。
でも、それを顔に出したら怪しまれることは間違いないので、私は努めて無表情を装った。
「それより、準備があるでしょうから、ここは私に任せて下がってくださいね」
「いやはや、恩に着ますわ。そんじゃ、お言葉に甘えてあっしは下がらせていただきやす」
ドブロクダヌキは恭しく礼をすると、大きなおなかを揺らしながら、のそのそ山の方へ向かっていった。
よし、何とか追い払うことに成功した。
彼が見えなくなると私はすぐさま地面を蹴り、煙が多く上がっている場所を目掛けて駆け出した。
お寺の境内は、もはや火の海と言っても過言では無かった。
ほとんどの人が既にお寺の外へと避難しており、聞こえてくるのは炎が爆ぜる音だけだ。
文化的な建造物は全て吹き飛ばされ、火の手が上がり、無残な姿を晒している。
周りの木々も徐々に炎が燃え移ってきており、このままだと山火事にもなりかねない勢いだ。
「もう、誰もいないかな……」
耳に意識を集中し、建物の中に人の気配がないことを確認しつつ、次の建物へと向かう。
そうやって一回りして要救助者がいないことを確認した後、私は唯一まだ形を保っている本堂の前まで移動した。
後はここだけだと思い、耳に意識を集中する。
『貴方だけでも逃げてください』
『和尚、んなことできんって!』
居る! 何らかのトラブルで逃げ遅れた人がまだ残っていた。
本堂も爆破によって壊され、火が広がり、いつ崩れてもおかしくない状況になっている。
どこか、そっと本堂に入れる場所は無いだろうか?
よくよく目を凝らすと、入り口のお賽銭箱の上に崩れた瓦屋根が積みあがり、僅かな隙間が開いているのが見える。
熱気で揺らめく空気を見つめ、覚悟を決めた私は声の向かう方へと飛び込んでいった。
文字通り焼け付く空気の中で、一人の男性がお坊さんを助けようと悪戦苦闘していた。
砕けた柱がお坊さんの足に重くのしかかり、その動きを封じてしまっている。
助けようとしている男性も体格が良さそうだったが、それでも持ち上げることができないようだった。
「くっ! 動けぇ! ぐぅぅうううう!!」
近づいていくと、助けようとしていた男性は面白い話をしてくれた案内役の人だった。
肉まん屋のロゴが入った服を汚しながら、必死に柱をどけようと力を込めている。
燃え広がっていく炎が畳を焦がしていく。
時間の猶予は無い。しかし、この状況なら救い出すことができそうだ。
少なくともこの建物から逃げるだけなら私のパワーで何とかなるだろう。
やがて和尚と呼ばれた人が私に気付き、大きく目を見開いた。
その様子に気付いた男性も振り返り、私の登場に絶句している。
「貴方は……」
先に落ち着きを取り戻したお坊さんが問いかけてくるが、私は何も言わずに柱を持ち上げた。
「さぁ、早く!」
「……あ! わ、わかった!」
最初、男性は私に怯えを見せていたが、持ち上がった柱を見てすぐにやるべきことを思い出し、お坊さんを引っ張り出した。
煤に汚れ、汗がにじんでいる男性の顔を、物言わぬお堂の御本尊が見つめている。
「和尚! 良かった」
「ありがとうございます」
お坊さんが手を合わせて感謝の言葉を述べる。
ちらりと私の方を見ると、私にも合掌したまま頭を下げた。
でもまだ完全に助かったわけではない。
まずは入り口の瓦礫を吹き飛ばして……。
「和尚、"金の搭"は!?」
「まだ地下にあるはずです」
「俺、取ってきます!」
「そんなことを言っている場合ではありません。すぐに逃げなければ」
男性が駆け出そうとしたところをお坊さんが引き留めた。
今はまだ建物の形を保っているが、そもそも爆風で屋根が一部崩れているのだ。
木造建築のため火の回りも早いし、下手をしたら生き埋めになる可能性もある。
「和尚、この寺にはもうアレしか無いんです! 他の建築は全てパンデピスに吹き飛ばされちまった。あれが無きゃ、この寺はもう……」
男性が悔しそうにそう言った。
歴史的建造物も、風情のある桜の木も、立派な門も、何もかもが火に包まれている。
先ほどの男性の案内を受けた時に、私も聞いていた。
"金の搭"は古くから伝わる宝物で、仏様の御遺体の一部が収められていると言われている。
圧宝寺の"宝"を表す由来にもなっており、男性が是が非でも守りたいと考えたのも当然だろう。
建造物が全て崩壊してしまった今、何かしら1つでも名物となるものがなければ圧宝寺がお寺としてやっていくには厳しい状況に違いない。
しかし、お坊さんはその話を聞いてなお、首を横に振った。
「諸行無常。形あるものは、いずれ失われるものです」
悲しそうな顔をしている男性に、お坊さんが落ち着いた様子で話を続ける。
「仏様の教えが尊いのは、人の幸せを願っているため。そのために御本尊は悟りを開かれました。お寺があるのも、人の幸せを願ってのことです。ここで貴方を死地に向かわせたとしたら、私は極楽浄土で仏さまに顔向けできないではありませんか」
そう言って、今度は小さく微笑んで見せた。
「それに、貴方は"金の搭"よりも私を助けようとしてくださった。今度は私の番というだけです。きっと大丈夫ですよ。さぁ、早くここから出ましょう」
「和尚……」
その時、ガラガラと瓦屋根が崩れる音がした。
おしゃべりしている時間は無い。
私は入り口にあった瓦礫へと向かい、外に誰もいないことを耳で確認した後で拳を振り上げた。
「せぇい!!」
パンチを加え、景気よく瓦礫を吹き飛ばす。
思いっきりやったのが良かったのか、逆に建物への衝撃を出さずに道を開けることに成功した。
お坊さんに諭された男性が、お坊さんに肩を貸しながら建物から外へと脱出してきた。
そして、そのまま出入り口の門の方へと向かっていく。
彼らは逃げる際に少しだけこちらに顔を向け、小さく会釈をして出て行った。
これできっと全員が避難できたことだろう。
周りを見渡せば、もう完全に火に巻かれ、時代劇の討ち入りかとも言うべき様相に変わっていた。
ふと、燃えていくお堂の中の仏像が目に留まる。その表情はただただ穏やかなままだ。
「お前は、"謎の怪人"! この惨状はお前の仕業か!」
びくっとして声が聞こえた方を向いた……のだが、その声はちょっと遠かった。
声の感じからして間違いなくレッドドラゴンなのだが、その姿が見えない。
どこから私を見ているのだろうか?
戸惑っている私が声のした方向、確か六角搭と呼ばれる建造物があった方を見ていると、そこから信じられないものが私の目に飛び込んできた。
「え、私がいる……?」
それは、レッドドラゴンに追いかけられている"謎の怪人"だった。
ローブだけならまだしも、顔が露出してウサ耳が露わになっており、間違いなく私の姿である。
そのもう一人の私が壊れかけの本堂の屋根へと飛び移った矢先、姿が揺らいだと思ったら煙のように消えてしまった。
混乱する私はそれを呆然と見ていたのだが、レッドドラゴンが屋根の上に現れたところで我に返った。
今、ここに残っているのは私とレッドドラゴンのみである。
「行くぞ! とぁあっ!!」
「え、ちょっと、ひゃあああああ!?」
既に口上を済ませて、戦闘態勢に入っていたレッドドラゴンがエンジン全開で攻撃してくる。
慌てて飛び退いた先は門の方角で、逃がすものかと更なる追撃が来た。
ドブロクダヌキに頼まれた作戦では、山はお堂を挟んで反対側である。
逃げるにしても反対側に行かなければいけないのに、レッドドラゴン自体が邪魔になっていた。
炎に巻かれて逃げ場を見つけにくいし、下手にジャンプしたら格好の的だ。
しかたなくその拳を受けとめようとするものの、格闘術なんかまったく知らない私は良いように打撃を受けてしまい、身を縮こまらせて耐えるだけになっていた。
下手に作戦を守ろうと踏ん張ってしまったのが良くなかったのだろうか、ガードの隙間を縫って飛んでくる拳で更にボコボコに殴られてしまう。
今日は私の番じゃないんですけど!? といった文句を思い浮かべるが、ヒーローたちにとってはそんなことは知ったことじゃないだろう。
もはや痛みに呻くことしかできなかった。
もう、自分の実力でどうにかできる範疇を越えていた。
もはや作戦とか関係なく逃げるしかない。
ドブロクダヌキには申し訳ないが、どうにかして自分たちのフィールドに誘導してもらいたい。
そう思って踏ん張っていた足の力を抜いた瞬間、レッドドラゴンのボディブローがさく裂した。
「うぐっ!?」
何とかガードは間に合ったのだが、その強烈なパワーで上の方へと弾き飛ばされてしまう。
「今だ! これで決める! うぉおおおおおおっ!」
「や、やばい!?」
レッドドラゴンが突き上げた右腕に力を入れたまま目の前に降ろした。
必殺技の構えを取ると、お寺を包んでいた炎までもがレッドドラゴンに味方したか、いつもより速く、かつ大きな炎の龍がその腕に巻き付いた。
「ひっさぁあああつ! ブレイザー・キャノン!! 発射ぁああーーーーっ!!」
「うひぃい!?」
空中で身動きが取れない私に、容赦なく必殺技が放たれた。
拳から飛び出した龍の火球が超高速で飛来してくる。
大きさはビーチボールサイズなのに、プレッシャーが凄くて太陽が迫ってくるかのように感じた。
上手く姿勢を整えることもできないまま、その熱が近づいてくるのが分かる。
もうだめかも……。
「ブラッディ・バインド!」
「うぇ!?」
小さな太陽が私に迫る中、伸びてきた蔦が私の身体に巻き付いた。
その蔦に思いっきり引っ張られて、私の身体は空中を横滑りする。
私は蔦の持ち主の元へと手繰り寄せられ、その両手で受け止められた。
龍の火球はというと、私の居た場所を通り抜けて、空中で爆発して巨大な花火を咲かせていた。
「大丈夫か?」
「ぶ、ブラッディローズ!? 何でここに?」
そこには薔薇の怪人、ブラッディローズがいた。
彼女は私を受け止めていた手を離し、蔦を掃除機のコードみたいに回収して自分の手に巻き付けると、レッドドラゴンの方へと身体を向けた。
「くっ、仲間がいたのか!」
「邪魔をして悪かったな。存分に戦うといい。ただし、"謎の怪人"ではなく、コイツとな」
そう言って、ブラッディローズが親指を立てて背中側を指さした。
そこには、もう一人の私が根っこにグルグル巻きにされた状態で捕まっている。
良く見ると、ブラッディローズの膝下から根が生えて地面に突き刺さっていた。
ブラッディローズの足から生えた根は地面をくぐり、もう一人の私を拘束しているようだ。
ブラッディローズは捕まっていたもう一人の私をぶんっとレッドドラゴンの方へと放り投げる。
投げ出されたもう一人の私が地面に倒れ伏すと、ぼふん、という音と共に煙が噴き出し、その姿が大きく変わっていた。
「あ、あれは、ドブロクダヌキ?」
「いやぁ、バレてしまいましたなぁ」
でっぷりとしたお腹を揺らして、ドブロクダヌキが起き上がった。
私に変身していたのはドブロクダヌキだったのか。
「ドブロクダヌキ、お前は最初から"謎の怪人"を戦わせるつもりでいたな?」
「ひひっ……。いやはや、どうでしょうかねぇ?」
にやにやと笑いながらあやふやな答えを返し、ドブロクダヌキは頭を掻いた。
なんとも空っとぼけている感じがする言い方だ。
「違うと言うのなら戦え。どのみち戦わなければ命令違反になるだろう」
「やれやれ、そいつは余計なお節介っちゅうもんですわ」
「ブラッディローズ、元々は山で戦うための準備がしてあったから……」
「そうか? 罠も何も、仕掛けがあるようには感じなかったがな」
ブラッディローズがそう断言した。
もしかして、ずっと山に潜んでいたのだろうか?
植物を操るブラッディローズは地中に根を張り、その範囲をある程度まで把握することができる。
その能力を使っていたのだとしたら、もしかして本当に何も準備していなかった?
「ドブロクダヌキといったな! お前がこの騒ぎの元凶か!?」
「おっと、レッドドラゴンさん、待たせてすみませんでしたな。いかにも、あっしが元凶で間違いありやせんよ。どうぞ、ごひいきに」
飄々と答えるドブロクダヌキがレッドドラゴンの方へと向き直る。
その様子には気負いがなく、まるでいつもの様子と変わりが無かった。
「そんじゃ、すこ~しだけ頑張りましょか」
そう言って両の手のひらをがしっと組み合わせると、呪文のようなものを唱え始めた。
「般若ハ~ラ~ミ~タ~……ぬぅん!」
ぼふん、という音がして、煙がドブロクダヌキを包む。
妖しい白煙が辺りを包むが、すぐに晴れてドブロクダヌキの姿が現れた。
これから一体何が起きるんだと思って目を凝らして見ていたのだが、何も起きない。
ドブロクダヌキは何故だかきょろきょろと周りを見渡すばかりだ。
「来ないなら、こちらから行くぞ!」
『行くぞ』などとはと言いつつ、レッドドラゴンも警戒しているようで、ホルスターに入っていたレーザーガンを取り出してドブロクダヌキへと発射した。
打ち出されたレーザーは正確にドブロクダヌキを捕え、その腹にあたって火花が散る。
「うがああああっ!?」
「えっ、ちょっと、ドブロクダヌキ、大丈夫!?」
何が起きるでもなく、ドブロクダヌキは普通に攻撃を受けてしまった。
叫び声から察するに、かなり大きなダメージを受けてしまっているように見える。
悲鳴を上げ、情けなく逃げ惑いながら二発、三発とレーザーを撃たれてダメージを受けていく。
結局、ドブロクダヌキは何をしたいのだろう?
「これで、とどめだ! うぉおおおお!」
警戒しつつも、近づかなければ大丈夫と判断したレッドドラゴンが必殺技の構えを見せた。
風が逆巻き、周りの炎が吸い込まれ、先ほどより2回りほど大きな炎の龍が右手に宿る。
見るからに先ほどの一撃よりも威力が高そうだ。
まさかとは思うけど、あのブレイザーキャノンも全力じゃなかったのだろうか?
「た、助けてくれぇ!」
「なんだ? 頑張るんじゃなかったのか?」
「ブラッディローズ、ちょっとまって!」
ブラッディローズの言葉を遮り、耳を澄ませた。
何で気付かなかったのだろう、この声はドブロクダヌキの声ではない。
でも、聞き覚えがある気がする。たぶんこれは……。
「ひっさぁああああつ! 【ブレイザー・サイクロン】!! いけぇえええーーっ!!」
「うぇ、新技!?」
聞きなれない必殺技が放たれた。
それと同時に、私はドブロクダヌキの元へと飛び出していた。
龍の火球ならぬ、龍を輪ゴムみたいにした炎の輪が迫ってくる。
私は跳ね返すのを最初から諦め、彼の身体を抱きかかえて回避に全力を注いだ。
ドブロクダヌキの身体が見た目よりずっと軽い。
そのおかげなのか、目と鼻の先まで迫りくる業火を辛うじて躱すことに成功した。
本当にギリギリだったため受け身すら取れず、地面をゴロゴロと転がる。
炎の輪が地面に当たった瞬間、炎の輪から閃光が立ち上った。
強烈な回転が掛けられていたのだろうか?
炎の熱が竜巻となって荒れ狂う。
もし真上に躱していたら今ごろ焼きウサギになっていたかもしれない。
肌で感じたその威力は馬鹿げていて、熱気に包まれているはずなのに背筋が凍った。
「ぐぅう、俺は、まだ生きてる?」
「やっぱり、ドブロクダヌキの声じゃない」
ぼふん、という音と共にドブロクダヌキの姿が変わった。
思った通り、彼は怪人ではなかった。
ドブロクダヌキに連れられていた、戦闘員の一人がドブロクダヌキの姿になっていたのである。
「なっ、戦闘員!? 本物はどこに……」
「あっしをお探しで? レッドドラゴンさん」
全員が声のした方を振り向くと、ドブロクダヌキが門の外に立っていた。
その方には金箔が張られた三重塔のミニチュアが担がれている。
もしかしなくても、あれが"金の搭"なのではないだろうか?
「さすが、ナンバーワンヒーローですわ。全然かないません。でも、手ぶらで帰るのもなんですから、お土産をいただいていくことにしますわ」
「逃がすか!」
レッドドラゴンがレーザーガンを構えた。
「おっと、あっしを撃つんですか? ……撃っていいんですかねぇ?」
「く、くそっ!」
ドブロクダヌキがいるのは門の外だ。
そこは、先ほどまで避難する人たちでごった返していた場所である。
戦闘員ならまだしも、もしも一般人がドブロクダヌキの姿にさせられているのだとしたら、レーザーガンの一撃は間違いなく致命傷だ。
レッドドラゴンが射撃を諦め、ホルスターにレーザーガンをしまって駆け出した。
しかし、またもや、ぼふん、という煙がドブロクダヌキを包み、そのままどこかへと消えてしまった。
レッドドラゴンが周りを見渡すが、その姿を見つけ出すことはできないようだった。
「レッドドラゴン、私たちも失礼する。拳を交える時を楽しみにしているぞ」
「あ、待って、ブラッディローズ、私も!」
私は戦闘員を担ぎ上げ、ブラッディローズと一緒に山の方へと撤退した。
レッドドラゴンがこちらに来ないうちに、さっさと逃げきらなければいけない。
山を駆けながら撤退について作戦会議をする。
戦闘員はレーザーガンによるダメージを受けていたが、何とか動けるとのことだった。
一緒に逃げるか聞いてみたのだが、それには及ばないとのことである。
ブラッディローズも撤退の手段はあるようだ。
話し合いの結果、私たちはその場で別れることにした。
それぞれが自分の秘密の方法で撤退するために別々の方へと駆けていく。
私はレッドドラゴンが居ないことを確認しつつ、篤人さんの待つ駐車場へとこっそり戻った。
篤人さんがその場に居るかどうかが不安だったが、きちんと軽トラで待機してくれていた。
「見てよ、ドアが凹んじゃってる! 酷いと思わないかい?」
「愚痴は後で聞きますから、撤退をお願いします!」
私は愛車が被害にあったことに嘆く篤人さんを励ましつつ撤退した。
--5月2日(火) 19:20--
ストレス発散のためなのか、速度超過ぎみな篤人さんの運転で地下基地へと戻ってきた。
すでに、圧宝寺に居たメンバー全員が地下基地へと戻ってきている。
エントランスに集まり、これから幹部への報告会である。
「ふふふ、面白い土産を持ってきたようだな、ドブロクダヌキ」
「へへっ、どんなもんでも裏に流せば小銭にゃなるでしょ? お納めください」
ドブロクダヌキが火事場泥棒してきた"金の搭"を、幹部のノコギリデビルへと手渡した。
あれには仏様の遺体の一部が入っているんじゃなかったっけ?
何とも罰当たり極まりない所業である。
……私、本当に祟られないよね?
「レッドドラゴンには敵いませんでしたわ。まぁ、自分でも最初から分かってやしたけどね」
「ふふふ、確かにお前は逃げはしたが、私は負けたとは考えておらんよ」
戦ったっけ?
というくらいにレッドドラゴンとの対決は薄っぺらい気がするけど、ノコギリデビルはそれなりの評価を与えるつもりらしい。
でも、ドブロクダヌキは仲間の戦闘員を捨て駒にするような方法を使ったのだ。
私を戦わせようと画策していたし、高評価になるのは納得できない。
ノコギリデビルはこのことを知っているのだろうか?
「それでは、これで解散ですわ。みなさん、お疲れ様です~」
気分よくドブロクダヌキが解散を宣言し、エントランスから出て行こうとする。
ドブロクダヌキが横を通り過ぎようとした時、ブラッディローズが彼に声を掛けた。
「私はお前が自分の力で戦ったとは思っていない」
「いやはや、その通りですなぁ。それが何か?」
ドブロクダヌキはあっけらかんと言い放った。
悪びれる様子すらない。
「味方を利用し、使い捨てるようなやり方は好かんな」
「やれやれ、分かっとりませんなぁ」
大げさにやれやれ、といったジェスチャーをしたドブロクダヌキが薄気味悪い笑顔を見せた。
「あっしは、戦闘狂のアルマンダルのようなおバカさんとは違うんですわ」
「なんだと?」
「戦いに正々堂々なんて必要ありゃしません。どんだけ卑怯なことをしても勝てばいいんですわ」
「味方を犠牲にする方法でもか?」
ブラッディローズがちらりとこちらを見る。
私も今日はドブロクダヌキの策略でレッドドラゴンと相対する羽目になった。
捨て駒にされた戦闘員はもっと悲惨だろう。
「もちろんですわ。何か問題でも?」
「……そうか、もういい」
ドブロクダヌキの言葉に、ブラッディローズが目を閉じた。
ああ、これが、ドブロクダヌキの本性か……。
ブラッディローズは僅かな怒りと、それ以上に残念そうな表情をしている。
私もきっと、同じような表情をしているのだろう。
「ひひっ、我ら怪人なんて悪人の集まり。利用するものとされるものがいるだけ。素直なお子さん方はよぉく覚えておくんですな」
ドブロクダヌキが勝ち誇ったように笑い、エントランスを出て行った。
何とも言えない空気の中、ノコギリデビルが私たちに近づいてきた。
「ブラッディローズ、君の序列は1つ降格とする」
「えぇ!?」
「なぜだ?」
突然の宣告に私もブラッディローズも驚愕する。
ノコギリデビルはドブロクダヌキが出て行った方向を見ながら溜息を吐いた。
「ドブロクダヌキから聞いたぞ。無断で作戦への参加と妨害があったと。そのために、戦闘員の一人に無理をさせることになってしまったとな」
あいつ、戦闘員を捨て駒にしたことをブラッディローズに押し付けた!?
普通に逃げることができていたんだから、わざわざ戦闘員を危険な目に会わせるは必要なかったでしょうに!
「作戦を邪魔したと言われればそうかもしれない。だが、奴は"謎の怪人"を騙してレッドドラゴンと戦わせていた」
「ふふふ、奴のやりそうなことだな」
ブラッディローズの指摘についても、ノコギリデビルは織り込み済みだったようだ。
いつもの含み笑いをして態度を変えることは無かった。
「ふふふ、いい勉強だと思いたまえ。うかうかしていると騙され、利用され、使い潰される。まぁ、これは怪人社会だけの話ではないが」
「そんなの、理不尽じゃないですか!」
「ふふふ、世の中には汚いものもあるということだ」
私たちのやり取りを聞いていたブラッディローズが頷いた。
「分かった。処分を受け入れよう」
「そんな、ブラッディローズ!」
「全て知っているうえでの判断なら文句はない。私の脇が甘かったということだろう」
ブラッディローズは私を見て、ふっ、と小さく笑った。
そんな風に笑われたら怒れないよ……。
結局、私はそれ以上弁護することはできなかった。
「だが、私は奴の考えは好かん。私は自分のやり方でやらせてもらう」
「ふふふ、結構だ」
笑みを深めたノコギリデビルはマントを翻し、カツカツと靴音を立ててエントランスを出て行った。
戦闘員たちも既に解散し、残るは私とブラッディローズ、篤人さんだけである。
寂しくなったエントランスに、私はただ突っ立っていた。
行き場のない感情が胸の奥に渦巻いている。
私は何か間違っただろうか? どうにかできなかったんだろうか?
篤人さんの言う『気を付けろ』を守れたら、結果は変わったんだろうか?
形を成さない後悔が私の心に広がっていき、それは瞳から零れ落ちた。
「おい、何でお前が泣いているんだ?」
ブラッディローズが呆れたような表情で私に声を掛けてきた。
悔しいのか、怒りからか、情けなさからか。
私は何で泣いているのか、私にも分からない。
「ごめん、だって、ブラッディローズを助けられなくて……」
「気にするな。降格処分1つ、どうとでもなる」
「でも……」
グズる私を、ブラッディローズは昨日と同じく、優しく抱き寄せた。
柔らかい感覚と小さく香る薔薇の匂いに包まれて、少しずつ気持ちが落ち着いてくる。
何で私が慰められているのだろう?
私が励まさなければいけないのに、助けられてばかりだ。
そうだ、私は今日、もう1個ブラッディローズに助けられていた出来事があった。
まだ感謝を伝えていない。
「ブラッディローズ、助けてくれてありがとう。貴方が来てくれなければ、私は死んでいた」
「お互い様だ。お前にはいつも助けられている」
ブラッディローズの目を見てお礼を言うと、僅かばかり彼女の顔に照れが混じる。
落ち着いたのを見計らって、私はブラッディローズから離れた。
名残惜しそうにしているように見えるのは、またウサ耳の触り心地を堪能していたからだろうか?
今度、本当にぬいぐるみでもプレゼントしようかな?
「そもそも規約違反をしたのは私だ。まぁ、あの場に行ったことに後悔はしていないがな」
「あ、そういえば何であの場に居たの?」
「ドブロクダヌキがお前を利用しようとしてる気がしてな。少し様子を見に来ただけだ」
「そうなんだ。みんなちゃんと見抜けるんだね……」
彼女は最初から私が貧乏くじを引かないように気にかけてくれていたようだった。
その代わり、ブラッディローズが嫌な目に会うことになってしまったのが心苦しい。
「ブラッディローズ、もしよければ私と序列の順位を交換してくれないかな?」
「断る。もっと強くならねば序列が上がっても意味はない」
お詫びと、少しの打算もあって提案してみたが、そっけなく断られてしまった。
「それと、冗談でもそんなことは言うな。その順位はお前に相応しいものだ」
「いや、冗談じゃないんだけど……」
「お前の場所までは自力で辿り着く。要らない気遣いだ」
めちゃくちゃ本気だったのだが、ブラッディローズは取り合ってくれなかった。
でも、自力でのし上がろうと考えているのは彼女らしいと思う。
放っておいても彼女の目標は達成されることになると私は信じている。
「"謎の怪人"、そろそろ行こう」
「戦闘員21号……そうですね。帰りましょうか」
篤人さんの一言で解散となった。
"謎の怪人"の力を利用しようとする怪人は、今後も出てくるかもしれない。
より気を付けて行動するように心がけていかねば!
ちなみに篤人さんは随分と大人しかったが、愛車が凹んでしまったことで傷心だったためである。
今も軽トラを運転しながらでっかい溜息を吐いていた。
私もブラッディローズみたいに篤人さんを抱きしめてあげた方が良いだろうか?
--5月2日(火) 21:30--
【特務防衛課 新潟県 十日前町市 支部】
暗い部屋の中で、飛竜のやつが道着を来て座禅を組んでいる。
部屋の明かりは小さな蝋燭が1本だけだ。
いきなり修行僧みたいなことをやりだしているのには面食らってしまったが、奴なりに思うことがあっての行動なのだろう。
今回、圧宝寺は全壊し、ドブロクダヌキや"謎の怪人"を取り逃してしまうことになった。
あのお寺も傷跡が癒えるまでに長い時間がかかることだろう。
せめてもの救いは死者が出なかったことだろうか?
幸運だったとしか言えないが。
「教官、来ていたんですね」
「あぁ。もう瞑想はいいのか?」
飛竜が座禅を崩したので、とりあえず電気をつけた。
飛竜も蝋燭の火を消して立ち上がる。
「仏様には謝りましたけど、後悔しかないです」
「わざわざ座禅を組んでいたのは、そのためか」
飛竜としては、直接、お寺の関係者に謝りたいんだろうけど、それは許されない。
その代わり、仏様に謝ることにしたのだろう。
ヒーローは基本的に正体を隠さなければいけないからな。
もちろん、多少の例外もあるが。
「お前が現場に到着した時には全焼していたんだろう? 世の中、どうにもならないこともある」
「分かってますよ! その後が問題だったから悔しいんっスよ!」
あのバケダヌキにまんまと出し抜かれたのがやはり悔しかったようだ。
奴はパンデピスの中でも搦め手に優れた奴だからレッドドラゴンとしては相性が悪い気はしていたが、やはり一筋縄ではいかなかったか。
「せっかく、特徴まで教えてもらっていたのに……」
「あれは、アドバイスになっているか微妙なものだけどな」
ドブロクダヌキと戦う時は、相手をマジシャンだと思って戦えと伝えていた。
悔しいが、俺も奴が使うよく分からん術は攻略できていない。
恐らく幻覚のような特殊能力だとは思うのだが、攻略方法となると悩ましい。
攻撃していいかどうかを見極める手段はまだ見つかっていないのである。
「もし一般人だったらと思うと、攻撃できませんでした。今後もずっとそれを気にしながら戦わなきゃいけないんですかね?」
「奴と決着をつけるまでは、そうなるだろう」
俺の答えに、飛竜が唸りながら腕を組んだ。
怪人相手に出足が鈍ることになるのは避けたいが、今すぐ解決策を見い出すのは難しい。
「そうだな、まずは取っ組み合いをしてみることだ。奴はそんなに力は強くない」
「一度戦って、確かめるしかないっスね」
一般人かどうかについては、それで分かるだろう。
戦闘員の場合でも負けはしないし、そのまま叩きのめしてやればいい。
ドブロクダヌキの場合でも問題はないと思う。
強い怪人がドブロクダヌキに化けることもありうるが、レッドドラゴンなら何とかするだろう。
「奴の術を見破れたら一番なんスけどね」
「そうだな……」
今は特務防衛隊も巻き込まれないように避難しているが、サーモグラフィーや音波探知機を使ってみてもいいかもしれない。
どうにかして用意できないだろうか?
「調査用の装備を整えておくか。どうせ、あのバケダヌキはしばらく現れないだろう」
「え? そうなんですか?」
「あぁ、同じ怪人が連続で暴れることはほとんど無いよ」
1か月以内に同じ怪人と戦うこと自体が非常に稀だった。
最近だとシザーマンティスが該当するが、ブラッディローズに連れ戻されそうになっていたし、あれは組織の方針に沿った行動というより個人の暴走だと俺は睨んでいる。
ちなみに"謎の怪人"に至っては完全に例外で、いない時の方が珍しいくらいだ。
「弱い怪人ほど、長く出てこない傾向がある。絶対とは言い切れないが」
「いや、教官が言うならそうなると思います」
飛竜はそれが真実みたいに言ってくる。
信頼してくれているのは嬉しいが、俺だって完璧に未来が予測できるわけじゃないんだからな?
「すぐにでもリベンジしたいところですが、切り替えてやるしかない!」
飛竜が気合を入れるために、パシンと拳を打ち鳴らした。
思ったより落ち込んではいないみたいだし、これなら心配は無さそうだ。
「そういえば、ブラッディローズも現れましたよ」
「あぁ、聞いた。最近はあの怪人も頻繁に出てくるな」
怪人ブラッディローズの成長スピードには目を見張るものがある。
彼女も、あまり放っておいていい怪人ではないかもしれない。
「それより、連続で出撃しているが問題ないか?」
「大丈夫ですから、休んでいてくださいよ!」
俺が出撃しようとしていると受け取ったのか、飛竜は結構な剣幕で返事をしてきた。
ただ労おうと思っただけなんだがな。
ゴールデンウィークも残り半分だし、そろそろ疲れが出てきてもおかしくないはずだ。
「必要になったらいつでも出るぞ」
「そうならないようにします、絶対に!」
俺の冗談に即座に反論して息巻いている。
こりゃ、意地でも乗り切ろうとするだろうな。
まぁ、見た感じではまだまだ元気そうだし、きっと大丈夫だろう。
俺も、しばらくは情報収集と自分の鍛錬に注力するかな。




