第9話 運(2)
やはり、ぼくには、ツキがありません。
天の加護などという甘い言葉の恩恵など、これっぽっちも、持っていません。
最悪の凶運の持ち主です。
…先ほど危惧していたことです……。
「あれっ? こうじ先輩? なにしてんッスか?」
突然、カート軍団のひとりから、声をかけられました。
よく見ると、知った顔です。
モロ、知った顔です!
峠仲間のひとりです!
めちゃくちゃ焦りました。
こんなことが、仲間に知られるわけには、いきません。
合コンバーベキューなどという、ハイカラなことに、参加しているなんて、知られるわけには、いかないのです!
…そのときのぼくの行動は、電光石火だったと思います。
悟空も、どびっくりのスピードだったと思います。
まさに、瞬間移動したかのようなスピードで、後輩くんのそばへ…。
「ごめん! このことは、みんなに内緒ね! 今度、おごるから!」
「…いいッスよ! へぇ~。でも、こうじ先輩も、やりますねぇ~。」
なんか、大幅に勘違いしている後輩くんですが、約束は、守ってくれそうです。
一安心です。
…うっ! でも…いらぬ出費が……。
まぁ、背に腹は、変えられませんから……。
無事に、口止めを成功させたから、とっとと移動しましょう。
しかし……当然、こちらからも、追及がありますよね。
「知り合い?」
けんじが、聞いてきます。
もちろんでしょう。
友達が、ほとんどいないぼくですから……。
不思議そうな、けんじの顔です。
「…うん。バイトの知り合い。」
「そうか…。おまえの車仲間かと、思ったよ。」
さすがけんじ。
ぼくのことを、よく知っていますね。
「…うっ。ごめん……じつは…。」
「いや。別にいいよ。 おまえが楽しくやっているならいいさ。 今日の運転だって、ていねいだったから。」
「……ありがとう。」
そう…。
けんじは、ぼくが車オタクということを知っています。
まぁ、小学校のときからの友達だからね。
…でも、ぼくが、この南畑ダムをホームグラウンドにしている走り屋とは、知りません。
けんじは、ただの改造オタクと、思っていますから。
では、ヘンな勘ぐりをされる前に、移動しましょう!
とっとと!
ふぅ~。
すみませんでした。
無事に、用事も片付けましたよ。
こうじくん。
いい友達がいて、ほんとうによかったね。
けんじくんは、キミの趣味のことは、わかっていると思うよ。
友達は、大切にしてね。
さて、次回は、やっとバーベキューに突入ですね。
こうじくんの意外なスキルが、発揮されそうです。
そして…もちろん、ハプニングもありますよ。
では、お楽しみに。