第84話 番外編 その2
「……あんなマネ?」
浩一郎のキョトンとした顔に、賢一郎は、微笑む。
別に、オッサンのキョトン顔に、萌えたわけじゃないようだ。
賢一郎は、話しを続ける。
「……もう、8年くらい前かなぁ~。
どこかの親バカが、かわいい娘をイジメた……として、その親のところに、乗り込んだ話しだよ。」
「……なんで、おまえが知っと~と?」
浩一郎は、驚きを隠せない。
それもそのはず……。
この件は、極一部の者しか知らないことだったからだ。
「まぁ……狭い業界だからね。
福岡でも1~2位くらいの実力を持つ擁壁会社「盛福」が「廣池」から切り捨てられたら……
そりゃあ、ウワサになるよ。
いちおう、廣池は、大手だからね。」
「……まぁ、
アレは、俺もやり過ぎだったよ。」
「いやいや。
娘を冷たい川に落とされて、それを助けた兄も重傷を負わされたら、どんな親でも、黙っていないよ。
おまけに、兄は、10対1で戦ったんだろう?
地元じゃあ、英雄譚だよ。」
「……えっ?
そうなん?
……って言うか……そこまで知っと~と?」
浩一郎は、この友達の地獄耳に、少し呆れていた。
「うん。
だからぼくは、妹のために、体を張れる浩司くんだから、カヤちゃんとのことを認めたんだ。」
「……そりゃあ、どうも。」
息子のことを褒められて、少しテレる浩一郎だった。
「香なんて、すっかり浩司くんの大ファンだしね。
それに、もし……
あのとき、キミが泣き寝入りをしていたら、それこそ「擁壁の盛福」は、終わっていたよ。」
「……そうかな?」
「そうだよ。
あの事件で、キミが矢面に立ったおかげで、職人さんも、安心したと思うよ?」
「……いや。
やっぱり……
アレは、社長としては、ダメだったかもしれない。
どんな理由があっても、取引先と……
しかも、重役ともめたんだからな。
そのせいで、みんなに迷惑をかけたことは、事実だからな。」
「それでも、みんなは、キミについてきてくれたのだろう。
だから、アレは、正解だよ。
もし……あのとき、キミが泣き寝入りしていたら……
職人さんたちは、
「何かあったら、自分たちは、捨てられる。守ってもらえない。」
……と、思ったはずだよ。
あのときのキミの行動で
「何があっても、社長は、自分たちを守ってくれるんだ!」
……と、職人さんたちは、感じたんだよ。だから……
今の盛福がある……
と、ぼくは、思うよ。」
「ありがとう……な。
そう言ってもらえると助かる。
……ほんとうに、おまえには、感謝しているよ。」
浩一郎は、もう一度、深く頭を下げた。
「よせよ。
水くさい。
友達としては、当然のことだよ。
それに……
さっきも言ったけど……
ウチは、いい施工会社と、契約できただけだから。
それに、あの「盛福」だったら、他にも声が掛かったんじゃないの?」
「……いや、それは、厳しかったかもしれん。
安田は、色々と手を回して、本気で俺たちを潰そうとしていたらしいからな。」
「……ああ~。
そういえば……
そんな話しもあったね。
でも、実際は、キミのところに頼みたいところは、多かったはずだよ。」
「……そうかもしれんけど……
やっぱり、おまえに救われたことには、間違いない。
おまえは、恩人だ。」
「ふふ。
ありがとう。
じゃあ、キミには、ひとつ貸し
……ということで。」
「ああ。
当然だ。
何かあったら、すぐに声をかけてくれ。
力になりたい。」
「ありがとう。
やっぱり、キミは、いい男だね。」
「当然だろう。」
オヤジたちは、ふたりして微笑みあった。
そう……アエカがイジメられていた件で、浩司が叩き潰した安田とは、浩一郎の仕事相手だった企業の重役だったのだ。
その取引先の重役宅に、浩一郎は、乗り込んだ。
そのときのやり取りは、極秘だが……
結果……
「盛福工業」は、仕事を切られて、倒産の危機に陥った。
その盛福工業を助けたのが、賢一郎の会社だったのだ。
「ふふ。
ああ~、ついでだから、安田重役のその後を教えてあげようか?」
「いらん!」
「まぁ……そう言わずに、聞きなよ。
恩人からの頼みだよ。」
「………じゃあ、手短に頼む。」
「じゃあ、手短に。
左遷されて、沖縄にいるよ。」
「……左遷?
……沖縄?
……手短過ぎるやろ!
……しかも、沖縄って……
バカンスじゃねえか!
左遷になっていないぞ!」
「だよね~。
でも、実質、左遷だよ。
もう……重役でも、なんでもない。」
「……なんで?
左遷?」
「……なんでって?
そりゃあ……
擁壁の盛福を切ったんだ。
現場じゃ、大混乱だよ。
おまけに、安田重役が紹介した擁壁会社は、あの現場の安全基準を満たしていなかった。
だから、国からも作業停止を通達されてね。
……で、廣池社長が怒って、盛福追放の原因を調べたら……
あのイジメ事件が発覚したのさ。
おまけに、安田重役は、その会社との癒着が発覚してね……。」
「……自業自得だな。」
「まぁ……
ウチとしては、新規事業の開発に、キミのところを参入できて、恩の字だったけどね。」
「……安田の件は、どうでもいいが……
あのときは、ほんとうに助かったよ。
あらためてお礼を言いたい。
ありがとう。」
「気にするなよ。
ウチは、単純に優秀な施工会社と契約できただけさ。
おまけに、造園業者も紹介してもらったし。
ウチとしても、新規のゴルフ場の開発に、成功したわけだしね。
win-winだよ。」
「そう言ってもらえると、助かるよ。
……で、そのゴルフ場は、どんな具合だ?」
浩一郎は、賢一郎に、お酌をした。
そうですか~。
お父さんたち同士、色々とあったのね。
それにしても、親バカの賢一郎が、浩司くんのことをアッサリ認めたのは、そんな理由だったんだ。
そんな浩司くんだったら、カヤちゃんを守ってくれる……と、感じたのね。
頑張ってね。浩司くん。
さて、次回もオヤジたちのトークが続きます。
お楽しみに。




