第83話 番外編「オヤジたちの夜」
水曜日 PM 7:30
場所は、海鮮居酒屋「あじまさ」である。
「久しぶり。
今日は、すまないね。」
里美 賢一郎は、久しぶりに会う友達に挨拶をする。
「久しぶり。
いや、かまわんよ。
俺も丁度、おまえに話しがあったから。」
そう返事を返すのは、盛福 浩一郎。
長身で短髪のいかにも職人気質の男だった。
そう……この男は、盛福 浩司の父親だった。
「ぼくに話し?
それは、浩司くんのことかい?」
賢一郎は、笑顔を崩さない。
「……白々しい。
そのつもりで呼んだんだろ?」
一方で、少し不機嫌そうな浩一郎だった。
「まぁ、とりあえずは、座りたまえ。
乾杯しようじゃないか。」
「……ああ。
そうだな。」
「ビールでいいかい?」
「もち!
キリンな!」
「わかっているよ。」
賢一郎は、グラスを渡すと、浩一郎にお酌をする。
「サンキュー。」
浩一郎は、素直に受ける。
「では、お疲れさま。」
「お疲れサン。」
ふたりは、グラスを合わせて、ひと息にビールを飲んだ。
「ゴクリ!」
ふたりとも、その喉越しに、満足げな表情だった。
「ふぅ~。うまい!」
そして、突き出しに箸をのばした。
今日の突き出しは、「里芋の煮付け」と「アジの南蛮漬け」だ。
「いただきます。」
ふたりは、その美味しさに、
「うん。」と、うなずく。
「……で、用件は、なんだ?」
浩一郎は、箸を止めて尋ねる。
「いや、なに。
たまには、キミとゆっくり話したい……と、思ってね。」
賢一郎は、答える。
しかし、その表情には、「含み」があった。
「キミこそ、ぼくに話しがある……と、言っていたよね?
その話しから、聞こうか。」
「……わかっているくせに……。
相変わらずだな。」
「いやいや。
ぼくは、昔から、友人をたててきたよ。」
「……まぁ、そうだな。
じゃあ、話しは、わかっていると思うけど……俺のところの「バカ息子」と、おまえのところの「かわいいお嬢ちゃん」のことだ。」
「やっぱり!
ぼくの話しと同じじゃないか!」
「……まぁ、それは、否定しないよ。
……にしても、よくおまえがふたりの交際を認めたね?」
「……ん?
どうして?」
「だって、おまえ……
親バカやん。」
「……まぁ、そこは、否定しないよ。」
「……人のマネすんな!」
「あははっ。
ごめんごめん。
カヤちゃんから初めて名前を聞いたときには、
……まさか?……とは、思ったけどね。」
「俺もいっしょだよ。」
「盛福……と聞いて、
もしや?だったけど……
この前、久しぶりに見たときには、かっこいい青年になっているじゃないか。
思わず、うれしくなったよ。
ぼくが最後に浩司くんを見たのは、中学生だったからね。
あの様子じゃ、キミも自慢の息子だろう?」
「……どうだか……。」
浩一郎は、ごまかすように、アジの刺身に箸をのばす。
「うまいな!
さっきの突き出しもそうだが、刺身もうまい!」
「ふふ。
突き出しは、そのお店の顔だからね。
突き出しで、そのお店のレベルがわかるよ。」
「ああ。
この店は、うまい!
最高だ!
……でも、よくこんな店を見つけたな?」
「だろ?
じつは……この店は、カヤちゃんから教えてもらったんだよ。
カヤちゃんは、「彼氏」に教えてもらったみたいだよ。
……ふふ。」
「……ふぅん。」
「浩司くんは、けっこうなグルメみたいだね。
それに、料理のウデもいい。
この前は、ウチで、立派な鯛をキレイにさばいてくれたよ。」
「浩司には、俺が叩き込んだからな。」
「やっぱり、自慢の息子じゃないか!」
「……ほっとけ。」
「ところで浩一郎くん。
ひとつ物申すけど……
香のことは、了承済みだけど、カヤちゃんに関しては、どういうことかな?」
「……ん?」
「とぼけてもダメだよ。」
「……ああ。
………スマン。
そのことに関しては、ほんとうに偶然なんだ。
アエカが……あのネコちゃんをもらってきて……
見た瞬間に、名前を決めたらしくて……。なんでも、芸能人から、とったみたいだけど……。
俺が帰ったときには、もう……決定事項だったよ。
だから……なにも言えなかった。
ほんとうにスマン。」
浩一郎は、気恥ずかしそうに、頭を下げた。
そう……
「カヤ」という同じ名前の……
この1件は、ほんとうに偶然だったのだ。
ことの始まり………
昔、盛福家に、1匹の子ネコが持ち込まれた。
もちろん、持ち込んだのは、里美 香。
香は、無類のネコ好きだった。
だけど、当時の里美家は、マンション暮らしだったので、ペットが飼えなかった。
そこで、親交があった盛福家に、子ネコが持ち込まれたのだ。
「おねがい!
この子ネコちゃんを助けて!」
香の願いは、快く受け入れられた。
「ネコちゃんの名前は、わたしと同じ「コウ」なの!」
……ということで、盛福家の子ネコちゃんの名前が「コウ」に、決まったのだった。その「コウ」も、今年で12才のかわいい茶トラのネコちゃん。
その性格は、香譲りの女王様性格で、気高く気品がある。
とくに、歩く後ろ姿は、お尻フリフリのレースクイーンのようなのです。
「いや。
別に、怒っているわけじゃないさ。
カヤちゃんみたいに、かわいいネコちゃんなんだろ?」
「……まぁ……な。
……やっぱり親バカやん。」
「もちろんだよ。
でも、ひとつ……
不満があるとしたら……
なぜ……「ミヤちゃん」が仲間ハズレなのかな?
キミのところは、全部で4匹いると、聞いたけど……
今からでも、1匹増やして、「ミヤ」にしてくれよ。」
「……は?
……ウチを里美家コピーのネコランドにする気か?」
「冗談だよ。
ぼくも、そこまでは、親バカじゃない。
……でも、聞けばキミも親バカだろ?
そうじゃないと、あんなマネは、しないよね?」
「……あんなマネ?」
オヤジたちのトークは、さらに盛り上がっていく。
こうじくんのお父さんと、カヤちゃんのお父さんは、お友達同士だったんですね。
久しぶりの飲み会で、オヤジたちが色々と語ってくれますよ。
では、次回もお楽しみに。




