第81話 廊(3)
お兄ちゃんが、中学2年生のときに、女子からヒドいイジメを受けていました。
……榊 純子………
この女は、許しません!
ぶっ殺したいです!
「あんな女たちなんて、ぶっ飛ばしたらいいのに!」
……と、わたしは、お兄ちゃんに言いました。
でも、お兄ちゃんは………
「女の子に、手をあげたらダメだよ。
それよりも、アエカにまで、迷惑をかけて、ごめんね………」
……とか。
「あの娘に、迷惑をかけてしまった………」
……とか。
人のことばかり、心配していました。
(あの娘……とは、お兄ちゃんが好きになったクラスメイトのことらしいです。)
そのあたりのことは、後に、けんじ兄ちゃんから聞きました。
やっぱり、やさしい………
やさし過ぎるお兄ちゃんでした。
………一度、榊 純子が率いる女子中学生たちが、わたしの前に、現れました。
そのときは、お兄ちゃんがダッシュで来てくれて、わたしを護ってくれました。
………なんとなく、わかりました。
あの女たちは、お兄ちゃんをイジメるために、わたしを「ダシ」にしたことを……。
それからです。
お兄ちゃんは、学校に行かなくなって………
代わりに、アルバイト生活を始めました。
なぜか……
お兄ちゃんは、楽しそうにアルバイトをしていました。
ほんとに、楽しそうに………。
造園のアルバイトです。
職人の世界です。
お兄ちゃんは、毎日、ドロだらけになって、帰ってきます。
わたしから見ても、キビシイ世界だと、わかりました。
でも……お兄ちゃんは、楽しそうに………。
そして……
だんだんと………
職人の世界に、毒されていくお兄ちゃんでした。
わたしがビックリしたのは……
夜ごはんのときに、ビールを飲んでるし!
「お兄ちゃん!
なに飲んでんの?」
「……ん?
ビールだよ。
仕事のあとのビールって、最高においしいよ。
アエカも飲んでみる?」
「いるか! アホ!!」
わたしは、少し呆れましたけど………
お兄ちゃんの楽しそうな笑顔に………
だから、わたしも、あまり心配していませんでした。
……でも、そうじゃなく………
お兄ちゃんは、わたしたちに、心配かけないように、ムリをしていたんですね。
………そう気付いたときには、
もう………遅かったです。
お兄ちゃんは、他人と……
とくに、女の子に……
ひどくおびえるように、なっていました。
わたしとお母さんには、なんとかあいさつするだけの………
イビツなお兄ちゃんに、なっていました。
わたしも当時は、思春期の複雑な年頃で………
わたしは、お兄ちゃんに、やさしくすることができなかったのです。
ほんとうは、お兄ちゃんが大好きなのに………
大好きで大好きで、たまらないほどなのに…………。
お母さんとお父さんも……
「今は、こうじの好きなように、させよう……」
……と。
そんなイビツな生活を続けて………
わたしとお兄ちゃんの関係も、イビツになってしまって………
わたしは、お兄ちゃんを罵倒しながらも、お兄ちゃんのそばにいる「イビツな兄妹」を選択したのです。
それは、わたしの責任です。
女の子に対して、まったくの拒絶反応を示すようになったお兄ちゃんの態度は、わたしの友だちからは……
「気持ち悪いお兄ちゃん」
……にしか、見えなかったのです。
だから友だちは、お兄ちゃんのことを
「キモヲタ!」
と言って、さげすんでいました。
そのうちにわたしも、友だちといっしょになって………
お兄ちゃんに、ヒドいことを……
ヒドい言葉を………
たくさん言ってしまいました。
それでも、お兄ちゃんは、わたしには、なにも文句を言わずに…………
ほんとうに、最悪の妹です。
昔……
命がけで、わたしを助けてくれたお兄ちゃんに………
大好きなお兄ちゃんに…………。
アエカちゃんにも、いろんなことがあったのですね……。
まだ、少し……続きます。
アエカちゃんの気持ちを聞いてください。
では、次回もお楽しみに。




