第80話 廊(2)
先日は、失礼いたしました。
途中からの続きです。
……それからです。
イジメがひどくなったのは……。
安田という男は、
「親に言ったら、おまえの兄貴に、ひどいことをしてやる!」
……と、脅してきたのです。
すごく、恐かったです。
お兄ちゃんは、わたしにやさしくて、いつも一緒に、いてくれました。
わたしは、お兄ちゃんが大好きだったから、迷惑をかけたくなかったのです。
結果……
エスカレートしていくイジメと、暗くなっていくわたしを………
お兄ちゃんは、気づいたのでしょう。
頻繁に、わたしを護るように、いっしょに登下校してくれました。
わたしを護る……王子サマのように。
そして、あの日……
わたしの下駄箱に、手紙が入っていました。
「ひとりで、樋井川の河原に来い!
兄貴に言ったら、承知しないぞ!」
……と。
わたしは、怖くて恐くて……
誰にも言えず…………。
そして、放課後……
お兄ちゃんが、迎えに来る前に、わたしは、学校を出ました。
安田の言う……「樋井川の河原」は、すぐにわかります。
いつも、わたしをイジメていたところです。
学校から少し離れていて、橋があったから、人目にも、つきにくいところです。
………わたしは、覚悟を決めていました。
「安田に、これ以上ない……
ヒドイことをされるんだろう……な。」
もう……
ふつうの精神状態では、ないですね。
それほどわたしは、追い詰められていました。
それに、10歳だったわたしには、もう……どうすることも、できませんでした。
河原に、やって来たわたしには……
案の定………
「災厄」しか、待っていませんでした。
河原で、10人くらいの男子に、囲まれて……
川の中へと、突き落とされました。
あのときの男子たちの醜悪な笑顔は、いまだに、わたしの記憶にあります。
「わたしは、死ぬんだろう………な。」
………でも、死ななかったです。
だって、お兄ちゃんが助けに来てくれたからです。
そのときのわたしは……
ただ………
川の冷たさに、体が震えていました。
………そこからは、あまり覚えていないのですけど……。
ただ……お兄ちゃんが、安田たちを叩き潰した!
……ということだけは、わかりました。
でも……
でも…………
お兄ちゃんは、血だらけでした。
いっぱいケガをしていました。
顔じゅう……
体じゅう………
ケガだらけでした。
服もビリビリに、破けていました。
そんな、瀕死状態のお兄ちゃんなのに………
「アエカ……
護ってあげれなくて………
ごめんね………。」
そう言って、やさしく抱きしめてくれました。
わたしは、死ぬほどうれしくて……
ただ………お兄ちゃんに、しがみついて……泣きました。
「お兄ちゃんが命がけで、わたしを護ってくれた!」
ことを………。
お兄ちゃんの友だちのけんじ兄ちゃんが、わたしたちを家まで、連れて行ってくれました。
お兄ちゃんは、左腕と右足の骨が折れていました。
でも………
「お父さんたちに、迷惑をかけるから……。」
……そう言って、病院にも行かず………。
そのあと、けんじ兄ちゃんが、お母さんたちに、事実を話してくれて……
あまりにも、ひどい腫れだったから……
お兄ちゃんは、強制的に病院に、連れて行かれました。
……でも、お兄ちゃんは……
「入院は、しない!」
……って、言い張って……。
たぶん、それは、わたしのためだったのでしょう。
お兄ちゃんが学校を休んだら、その間に、またわたしがイジメられる……と、考えたのでしょう。
ほんとうに、やさしいお兄ちゃんです。
自分のことより、わたしのことだけを心配してくれる……
そんなお兄ちゃんを………
わたしは、泣きたいほど、大好きだったのです。
そのあと、わたしのイジメは、なくなりました。
……いえ。
「なくなった。」……というよりは、
「いなくなった。」……と言った方が正しいでしょう。
だって、お兄ちゃんが安田たちを「病院送り」にしたからです。
そして、我が家では、お父さんが、ほんとにブチ切れて、安田という男子の家に、乗り込んだらしいです。
そのことは、いまだに、わたしには、内緒です。
お母さんも、教えてくれません。
……まぁ、だいたいの想像は、つきます。
あのお父さんですから。
こうして無事に、イジメがなくなったわたしは、さらに、「お兄ちゃん大好き妹」に、なってしまって……。
もう……
どうしようもないくらいに。
……でも、平穏な日々は、そう……長く続きませんでした。
今度は、魔の手が、お兄ちゃんに、やってきました。
……どうして神様は、あんなにやさしいお兄ちゃんに、そんな仕打ちをするのか?
本気で恨みました。
「神様なんて、信じません!」
アエカちゃんの気持ちが、暴走しますよ。
気の済むまで、語ってください。
…ということで、まだまだ続きます。
次回をお楽しみに。




