第70話 納(6)
ぼくの前を走るシルビアには……
「初心者マーク❤︎」が、輝いています。
うしろから見た感じ……
少し、ギクシャクしていますけど、初めてシルビアをドライブする里美さんは、ていねいで上手だと思います。
助手席に、お父さんが乗っていることは、いい安心感になっているのでしょうね。
あちらの車内は、にぎやかそうです。
しきりに、賢一郎さんのゼスチャーが、ぼくたちからも見えます。
その代わり……
こっちは……ちょっと静かです。
いえ……失礼。
ぼくだけが、静かです。
レクサスの車内に、女性と2人っきりです。
いくら里美さんのお母さんといえども、立派な女性です。
しかも……美人の………。
とびっきりの…………。
ぼくのメンタルは、耐えきれるのでしょうか?
女性恐怖症なのに……。
そんなぼくをよそ目に、香さんは、少しはしゃいでいます。
「カヤちゃん。上手よ!」
「そうそう。
ちゃんと、左右の確認をしてね!」
……などと、里美さんの運転を 心配していました。
ぼくも、その光景に、少し微笑みます。
…………不思議でした。
ぼくは、女性恐怖症です。
間違いなく、女性恐怖症です。
女性が……
女性の視線が……
とてもコワイです。
でも……
香さんには、まったく……
恐怖しませんでした。
(………???)
ぼくの女性恐怖症は、治ったのでしょうか?
克服できたのでしょうか?
………そんなこと、あるはずがありません。
そんな都合がいいことは、ありません。
ただ……
香さんのウツワが大きいのです。
こんなぼくでも、包み込むほどの……。
まぁ……香さんの前では、ぼくもただの男の子ですね。
車オタクとか、関係なく、ひとりの男の子として、話してくれています。
そのおかげで、ぼくも素直な男子に、戻っているのです。
「こうじくん。
あなたの運転……ほんとうに、やさしいね。」
「あ……ありがとうございます。」
「カヤが……
あなたのことを 好きな理由がわかるわ。」
「…………。」
「カヤは……
知ってると思うけど……
男の人が苦手なの。
中学のときに、ちょっとしたことがあって……
それ以来………」
「……はい。
カヤさんから、聞きました。」
「だからか……
カヤは、車にハマッていって……。
まぁ……あの人の影響もあるけど……。」
「……そうみたいですね。
香さんは、カヤさんの趣味を どう思っているんですか?」
「わたし?
……わたしは、もちろん、賛成しているわ。
カヤがやりたいことをやってほしい。」
「そうですよね。
……でも、香さんも、たいへんですね?
賢一郎さんもカヤさんも、車オタクで……。」
「そうでもないわよ。
わたしも、車オタクだから。」
「……えっ?
香さんも……?」
「ふふふ。
だって……あの人の妻よ。
あたりまえじゃない!」
「……なるほどです。
理解できます。
じゃあ……車関係で、賢一郎さんと知り合ったんですか?」
「ふふふ。
その通りよ。
当時……わたしは、レースクイーンをしていたの。
そして……あの人は、チームのスポンサーだった。
まぁ……そのときのあの人は、ただの車オタクの2代目だったけど……。」
「……えっ?
香さん……って、レースクイーン?!
……どうりで……
その美しさには、納得しました!」
「あらあら?
こんなおばさんに、うれしいことを言ってくれるわね。
うれしいわ!
……こうじくんって……
ほんとに、女性恐怖症?」
「………あっ……はい。
でも……おかげさまで……
カヤさんと、友だちのおかげで、だいぶ治まってきました。」
「……そうみたいね。
あなたも、その若さで苦労しているのね?」
「はは……。
まぁ……ぼくの苦労は、自業自得ですから。」
「ふふふ。
かわいいわね。」
「……えっ?
………かわ……?」
「ふふ。いいの。
気にしないで……。
あらためて言います。
カヤを………
カヤを よろしくお願いします。」
香さんは、助手席から、ぼくに向けて、深く頭を下げました。
「……そんな!
ぼくの方こそ、よろしくお願いします!」
「ふふふ。
ほんと、こうじくんって……
かわいい。」
「……どうも………です。」
ちょっと脱線気味なところもありましたけど、香さんや賢一郎さんの想いは、十二分にわかりました。
おふたりが、どれだけ里美さんを愛しているのか………。
痛いほど、わかりました。
香さんは、ただ……
最後にひと言………
「カヤを悲しませないで………。」
それだけです。
……いや。
それがすべてですね。
ぼくも、全身全霊で答えます。
カヤさんを幸せにします!
……とは、ぼくのエゴだけど……
あの笑顔が絶えないような……
お付き合いをしたいことを……。
「がんばります!」
余談ですけど………
香さんの愛車は……
真っ赤な「ミニクーパー」でした。
(新型の……)
いや~。
緊張しましたね~こうじくん。
でも、香さんからも、認めてもらったみたいで、よかったね。
まぁ……香さんは、はじめから、こうじくんのことは、認めていたんですけどね。
自分の娘が選んだ人だから……。
お母さんとは、そういうものですよ。
さて、次回は…シメですね。
シメと言えば、宴会ですよ。
では、お楽しみに。




