第66話 納(2)
土曜日 AM9:30
「ガボガボ―――――」
低速で……
2速で……
カブらないように……
ゆっくり、坂をのぼります。
ご近所さんの迷惑に、ならないように。
そして、もちろん……助手席には、貢ぎ物の「もちきち」を 携えています。
里美さんのご両親に、ご挨拶するためですね。
大人の礼儀は、わきまえています。
………えっと………
里美さんの話しては……
このあたり………
「げっ?
……ここ??」
いちばん最上段にあるお宅……
まぎれもなく、「豪邸」と呼べるシロモノかと……。
(ああ……納得です。)
里美さんの……
あのふわふわした雰囲気は………
おそらくは……
お嬢様なのですね。
……社長令嬢なのですね。
………里美さんは。
納得です。
ぼくのセブンの排気音が聞こえたのか、女の子が、豪邸から出てきました。
そう……里美さんです。
うす紫のパーカーに、ゆったりしたジーンズ。
今日も、とてもかわいい格好です。
そして、ガレージ入り口のシャッターが、開きます。
このガレージ……
車が6台くらいは、余裕で入りそうな、広いガレージです。
とくに、気になるのは……
あのシートが、かぶった車です。
シルエットで、スポーツカーなのは、一目瞭然です。
あれが、里美さんのお父さんの愛車でしょう。
車種は、わかりませんが、「オープン・ツーシーター」ということは、はっきりしています。
さてさて……楽しみですね♪
とりあえずは、ガレージ前に、セブンを停めます。
もちろん、エンジンは、切りますよ。
うるさいですからね。
「おはようございます。カヤさん。」
「おはようございます。こうじさん。
……今日は、すみません………」
「いえいえ。大丈夫ですよ。
ぼくも、カヤさんのお父さんには、ご挨拶したかったですから。」
「ありがとう、こうじさん。
あのぅ………
それでですね………
もうひとつ……おねがいが………」
「はい。なんでしょう?」
まぁ……ここまでくれば、おそれるものは、ないはずです。
………たぶん。
そして、里美さんのお口から……
またもや………
「今日……
お母さんもいっしょで、いいですか?」
「………はい?」
………「お母さんと、いっしょ!」
某テレビ番組に、そんな題名が、ありました。
お母さんと、いっしょ……
幼い子供たちは、いつでも、お母さんといっしょです。
お母さんだけですか?
お父さんは、どこに行ったのでしょう?
……もちろん、お仕事ですね。
この日本経済と、愛する家族を守るために、日々、お父さんは、働きまくりです。
だから……
お家には、お父さんがいないから、幼い子供たちからすると、
「お母さんと、いっしょ」
……が、ふつうなのです。
ある意味、悪しき風習となる題名ですね。
……おっと?
脱線している場合では、ありません。
娘の納車に、お父さんとお母さんが、いっしょ……。
里美さんのお家は、すごく平和的で、家庭的なご家族なのでしょう。
家族みんなが、仲良し……
そんな感じを受けますね。
……ぼくからすると、かなり、うらやましい関係です。
……ぼくは、家庭でも、孤立していますから。
……おっと?
ぼくのことは、おいておいて……。
ふつうならば、問題ないでしょう。
なにも………。
でも、今日は、ふつうでは、ないのです。
それは……
ぼくが、いっしょだからです。
娘の納車に、彼氏のぼくがいる。
ほんとうは、ぼくの方が、お邪魔虫でしょうね。
………しかし!
ぼくには、避けて通れない道があるのです。
それは……
里美さんのご家族とのご挨拶ですね。
………はい。
十分に、理解しました。
里美さんは、お嬢様です。
社長令嬢です。
しかも、箱入り娘!
鉄壁のチタン製ボックス……
「ガール・イン・ザ・ボックス」です。
……そんなガール・イン・ザ・ボックス=カヤさんの恋人に、なってしまったぼくですから。
……いまさらですね。
そして……
今から、ぼくは、吟味されるのです。
里美さんのお父さんとお母さんから……
「ぼく」という人間を……。
「お手柔らかに、おねがいします。」
緊張しまくりのぼくに、里美さんが、説明してくれます。
「お母さんがいた方が、絶対にいいです。」
……どういうことですか?
里美さん曰く。
里美さんのお父さんは、文字通りに、里美さんを溺愛している様子です。
目の中に入れても、全然痛くないようなハイクオリティーのコンタクトレンズのごとく。
まぁ……
それは、仕方がないことでしょう。
こんなに、かわいい里美さんですから。
……で、その「娘バカのお父さん」を制御できるのは、お母さん!
……ということですね。
(ふむふむ。)
すごく、納得しました。
まぁ……
どこの家庭でも、いっしょです。
お父さんは、お母さんには、弱いのです。
だから、お母さんがいっしょに行く理由は、
「お父さんの暴走を止めるため!」
なのですね。
ほんとうに、理解しました。
もし……ぼくのお家だったら………
アエカに、彼氏ができただけでも、ウチのオヤジは…………
……おっと?
また、脱線しそうでした。
現実に、戻りましょう。
ガレージ前で、話しているぼくたちに………
「やぁ。はじめまして。
カヤちゃんのお父さんです。」
紳士が現れました。
少し白髪混じりの髪は、リーゼント……
いや、失礼。
オールバックに、セットされた、ダンディーお父さんです。
表情は、穏やかで、ほんとうに、「やさしいお父さん」って、感じです。
身長は、ぼくと、変わらないくらいですね。
ぼくは、ビンボーのおかげで、やせっぽちですが、お父さんは、ガッシリした体格です。
なにか、スポーツをしている体格ですね。
「……あっ?
……はじめまして。盛福 浩司です。
よろしくお願いします。」
ぼくは、きちんとあいさつできました。
噛まなくてよかったです……
ホッ。
「ふふふ。
よろしく。浩司くん。
キミのことは、娘から、よく聞いているよ。」
お父さんから、差し出された手を しっかり握ったぼくです。
(げっ! こぶしが………)
このお父さん……間違いなく、体育会系です!
しかも……格闘系ですよ!
こぶしが、ツブれています。
おそらくは……極真空手?
「……あっ?
つまらないものですけど、どうぞ!」
ぼくは、貢ぎ物を 差し出しました。
「ご丁寧に、ありがとう。」
笑顔のお父さんです。
第一関門は、突破したみたいです。
ふぅ~。
無事に、お父さんとのご挨拶を 済ませたこうじくん。
よかったね~。
やっぱり……というか、カヤちゃんのお父さんは、いい人でした。
車オタクだしね。
そして……「カヤちゃん命」のバカオヤジでもあります。
こうじくん……がんばってね~。
ふたりの握手を見た、ガール・イン・ザ・ボックスのカヤちゃんも、ホッと一安心でしょうね。
その……カヤちゃんは、社長令嬢でした。
さて、次回は、こうじくんとお父さんとのオタク談義が、始まります。
カヤちゃんも、たのしそうに……。
ですが………ある人物の……
では、お楽しみに。




