第6話 接
…で、座席ですが……。
あっ?
ちょうどいい機会です。
メンバーの紹介をしましょう。
運転席は、もちろんぼくです。
助手席には、「里美 カヤ」さん。
彼女は、ポニーテールにした、少しおとなしい感じの女の子です。
服装も、ふわふわした感じで、どこか、かわいいようすです。
ほんと、新入生って、感じですね。
悪い娘には、見えませんが……
名前が少し…。
ぼくのうしろのシートに「山中 けんじ」くん。
言わずと知れた、ぼくの友達です。
今回の仕掛け人です。
そのヨコに、「天野 ミウ」さん。
彼女は、しっかり者の雰囲気がありました。
どちらかといえば、お姉さんタイプのようです。
ゆるりとしたヘアスタイルは、色っぽいですね。
今回の仕掛け人のひとりです。
最後部に、けんじの友達の「城山 ともや」くん。
ともやくんは、陽気で明るいやつです。
こんな合コンバーベキューには、もってこいの人材でしょう。
ちょっと、暴走してしまうきらいがありますけど、けっこういい男です。
なにかと、ぼくをイジりますけど、悪気は、なさそうです。
ぼくも、だいぶ慣れました。
そのヨコに、「大沢 レイナ」さん。
彼女も、しっかり者のタイプみたいです。
ストレートのロングヘアが、大人びてみえます。
けっこうな、美人さんですね。
こんな感じのメンバーです。
しかし…余裕で6人が乗れました。
普通車…ほんとに、スゴイです!
では、お待たせしました。
ほんとうに、出発です!
「ブウ~~~~~。」
エンジンが静かです。
排気音も、静かです。
振動も、ゆるやか……。
ちょっと…静かすぎ……
では、なかったようですね。
うしろの席は、すでに盛り上がっています。
まぁ、その方が、ぼくとしても、運転に集中できますから。
…しかし、ともやくんから、鋭い指摘が入ります。
「こうじ! おまえ、運転…ノロすぎ!
もっと、スピード出せよ! また他の車に抜かれたぞ!」
……えっ?
別にいいやん。
競争してるわけじゃないし……。
それに、こんな車で、スピード出す自信ないし……。
おまけに、スピード違反で捕まったら、誰が罰金を払うんだよ?
この道は、白バイが多いんだぞ!
…でも、ぼくは、大人のフリをしているので、こう答えます。
「女の子が3人も乗っているんだよ。安全運転がいちばん。 みんなで、楽しいバーベキューにしようよ。」
…と。
一堂拍手。
…ちょっと、罪悪感です……。
じつは、初めてのオートマだから、コワイんです。
だから、いつもよりも安全運転なんです。
…でも、みんなを乗せているから…
ということは、本当ですよ。
ぼくの握るハンドルに、みなさんの命を預かっていますから。
だから、トロくても、安全運転で、いいんです。
途中…マルキョウに寄って、買い出しをします。
お肉、ウインナー、お野菜、お菓子、飲み物を入手します。
「盛福先輩の運転……とっても、やさしくて…ていねいで…助手席でも、安心しました。」
助手席の女の子が、突然、話しかけてきました。
驚きです。
車の中では、ぼくたちは、ひと言も話さなかったのに……。
でも、この女の子は、ぼくの運転を褒めてくれました。
…でも、また罪悪感が……
しかし、ここは、大人のフリを続けているぼくです。
がんばりました。
「あ…ありがとうございます。 でも…ぼく…運転、トロいから……。」
「そんなことないです。 発進もスムーズだし、やさしいアクセルワークだと、思います。」
(…ん?)
「それに、ブレーキングだって、車が止まる直前に、少しブレーキを抜いて、ガクッて、ならないようにするなんて…やさしい運転です。」
(……んん??)
「ステアリング操作も、ていねいで…曲がるときにも、ヘンなヨコGがかからなくって…ほんとやさしい運転だと、思います。」
(………んんん???)
なんです? この女子大生は??
妙に、車に詳しくないです???
…アクセルワーク?
…ブレーキング?
…ステアリング操作?
…おまけに、ヨコG?
とっても、マニアックな表現ですね。
「あ……ありがとうございます……。
……えっと………。」
「わたし、里美です。 同じ教育学部の1年です。新入生です。 よろしくお願いしますね…盛福先輩♪」
「あ…どうも…です。 よろしくです……
里美…サマ……。」
「あははっ。様なんて、いりませんよ。
里美…でいいですよ。 もしくは、カヤちゃん…でいいですよ。先輩❤︎」
(……カヤ……って?)
なぜか女子大生は、ぼくに向かって、ウインクをしてきました。
はっきり言うと、そのウインクは、とってもかわいかったです。
かわいすぎです!
ぼくの愛読している「さくらちゃん」に匹敵するほどです。
まさか、現実の…3D立体の……実体化している女の子の笑顔が、こんなにかわいいなんて………ちょっと、衝撃でした。
でも…この里美さんという女子大生は、どうして、ぼくみたいなオタクに、笑顔で話しかけてくるのでしょうか?
理解できません。
なにか、目的があるのでしょうか?
やっぱり…お金ですかね?
…いちおう、社長の息子だし……。
いや。
そんな情報は、みんなには、知られていないはずです。
(けんじは、知っているけど…誰にも言わないし……。)
ぼくは、見るからにビンボー学生だから
…お金目当て……
それは、ないかな?
ジャージだし…。
唯一…金目のモノといえば……
セブンくらいですけど…。
この娘が、知っているはずも、ありません。
(…お金以外だとすると……。)
ぼくには、なにもありませんが……。
う~ん……わかりません。
やはり、女子大生という人種は、不可解です。
「大丈夫ですか? …先輩?」
トリップしていたぼくの顔を のぞき込むように、女の子の顔が……
目の前にありました。
(近い! 近い! 近すぎです!)
「な…なんでもないです……カヤ………
あっ?!」
思わず言ってしまいました。
誤算です…いや、誤解です。
まったく、見当外です。
…反射…というやつです。
「ご…ごめんなさい。あの………」
ぼくは、必死に謝りました。
…だって、「カヤ」って名前は…
実家のネコちゃんと、同じ名前なんです。
呼びなれているせいもあって、思わず口に出してしまいました。
「ほんとうに、すみません。 いきなり名前で…実家のネコちゃんと同じ名前だったから……つい…。」
ぼくは、人生でも3本の指に入るほど、ドキドキしていました。
いきなり、ぼくのような男に、呼び捨てにされて……
この女子大生は、どんな罵声を…ぼくに向けてくるのでしょうか?
めちゃくちゃ、コワイです。
でも…ぼくが悪いので……謙虚に反省します。
さあっ…どうぞ。里美サマ!
おもいっきり、ぼくをいたぶってください!
…覚悟は、できていますので……。
「あっ? そうなんですね~。 へぇ~先輩のネコちゃんと同じ名前ですか~。
ちょっと、驚きましたけど……先輩だったら、「カヤ」…でいいですよ。」
(………??????)
罵声を浴びせるどころか、この女子大生は、ぼくを許してくれました。
しかも、名前で呼ぶことを 了承してくれたのです。
…理解できません。
「……いえいえ。それは、初対面の人に対して、失礼です。気をつけます。」
「ふふふ。先輩って、やさしいですね。」
(…ん? やさしい? ぼくが…?)
…なにを言っているんでしょうか?
この女子大生は?
でも、不思議です。
5年ぶり以上に、女の子という人種と、言葉を交わしたぼく。
女の子と、フレンドリーにお話しできるようなスキルを ぼくが持っているはずがありません。
なのに…この人とは、話すことができました。
ぼくの女性恐怖症が、突然、治った…ということは、ないでしょうから……。
ほんとうに、なぞです。
…でも、やはり意識したのか……
そのあとは、ただうなずくことしか、できなかったぼくです。
それでも、ぼくの心臓の回転数は、すでにレッドゾーンです。
いけません…あぶないです!
ぼくの心臓は、ロータリーとは、違い…
レシプロの4ストロークです。
あまりの高回転には、耐久性がありません。
このままだったら、絶対にブローします。
ブローということは…
ブローということは……ぼくは、死にます。
死ぬんです!
ああ……さよなら…セブン……
…っんなことあるかい!
思わず、自分でツッコミました。
ぼくの性格って、こんなんでした?
どうも、調子が狂っています。
メインジェットの番数を間違えています。
…絶対に………。
う~ん…。
こうじくん…あなたは、脳ミソがほんとにメカチューナーされていますね。
まぁ、今からでも、いいですから、リハビリしてください。
しかし、この里美カヤちゃん…。
この娘も、ちょっとヘンな娘?
妙に、専門知識があるみたいですね~。
こうじくんに、車の話しをするのは、
ポイントが高いかも?
でも、こうじくんの安全運転の真実は……?
ともやくんには、悪意は、ありません。
ただのイジりです。
では、次回は、目的地に……
その目的地とは……
やはり、あそこです。
お楽しみに。
追申。
「里美カヤ」ちゃんのラフ画を「みてみん」さんに、投稿しています。
興味のあるお方は、「ラビットアイ」で検索してみてください。