第40話 妄(6)
燃える女……里美 カヤです。
「先輩の彼女に、なるもん!」
……と、意気込んだわたしですけど……
乙女心全開のわたしですけど………
やっぱり、車オタクでした。
わたしは、セブンくんの運転席に座らせてもらいました。
おかげで……当初の目的を忘れて………
先輩のセブンくんに、夢中なのです。
だって………
先輩ったら……
「エンジンかけてみます?」
……って。
マジですか~~?!
いいんですか~~?!
わたしなんかに、大切なセブンくんのエンジン始動をさせてくれるなんて………
とっても、しあわせです。
とっても、ドキドキです。
しあわせいっぱいのわたしは、フルバケットシートに、包まれて、ちょっと小さめのハンドルを握ります。
その感覚は、なんともいえず、レーシーでした。
シートポジションが、先輩仕様なので、わたしの足は、かろうじてペダルに届く程度です。
そうしたら、先輩が……
「シート、前にやっていいですよ。」
……って。
きゃあ~~~!
やっぱり、先輩って、やさしいです!
ふつう、自分の愛車の運転席のポジションは、自分だけのポジションです。
他人に、扱われることをイヤがる…と、聞いたことがあったからです。
でも、先輩は、気持ちよく、わたしに合わせてくれました。
ほんと、ありがとうございます。
………ふぅ~。
気を取り直して、エンジン始動をします。
先輩のレクチャー通りに、セルを回して、
少しアクセルを踏み込むと………
「ボボンッ!
ボロボロボロボロ―――――!」
エンジン始動に、成功したわたしです。
レシプロエンジンとは違う、ロータリー特有のエンジン音でした。
もう……最高ですよ!
しかも、かなりの排気音です。
………こんな夜遅くに、いいんですか?
……と、疑問もあったけど………
先輩のアパートには、誰もいなかったみたいですし、まわりも、田んぼだらけで……。
大丈夫みたいです。
安心しました。
「軽く吹かしても、いいですよ。」
……と、言われて、アクセルを踏むと……
「ガフッ!」
という、キャブの吸気音と、
「フォンッ!」
という、エンジン音。
このふたつの心地よいサウンドが響きます。
このエンジン……
軽やかに、吹けあがります。
それを証明するように、タコメーターの針は、機敏に動きます。
きゃあ~~~!
まるで、レーシングマシンです!
大・大・大興奮のわたしですよ!
フルバケに、包まれて……
目線は、かなり低いです。
室内の内張は、すべて除去されて、鉄板がむき出しです。
その鉄板には、張り巡らされたロールバーが、ガッチリと取り付けられています。
さらに、雰囲気があがりますね。
ステアリングも、重くて、少し小さめです。
追加メーターの存在が、またシブいです。
ポジションランプをつけると、メーター類が、ミドリ色に染まりました。
正面真ん中は、タコメーターです。
「ボボボボ…………」
アイドリング状態では、1000rpmくらいで、揺れています。
少し、左側に目線を向けると、追加メーターの「油圧計」と「油温計」があります。
このメーターも、ミドリ色に光っています。
メーターには…「OHMORI」の文字が……。
カッコよすぎです。
ちなみに、油圧計は、「1.5㎏」くらいを指し、油温計は、まだ動きなくて、「80」の位置に、ありました。
もう……この視界……ほんとうに、カッコイイです。
ひとつ、気になることが……
「先輩…。ワイパーが立ってますけど…。
しかも、1本だけですか?」
そうなんです。
このセブンくんには、ワイパーが1本しかついていません。
しかも、垂直に立っています。
「ああ~。
それはですね……
昔のヒストリックカーレースでは、みんなワイパーを立てていたんですよ。
高速域の空気抵抗で、ワイパーがガタガタしないためですね。
そのモノマネです。
だから……ぼくのは……
ひらたく言えば、カッコつけですね~。」
ちょっと、テレて笑う先輩です。
かわいい!
「レインエックスは、欠かさず塗っていますよ。だから、ワイパーは、ほとんど動かしません。」
……なるほどです。
旧車ならではのワザですね。
納得しました。
それから、隅々まで、先輩のセブンくんを堪能させていただいたわたしでした。
………んっと。
だいぶ、寒くなってきましたね~。
この季節でも、夜になると、冷えますね。
先輩も、わたしのことを心配してくれたのでしょう。
「続きは、部屋の中で………」
…と、誘っていただきました。
そういう気遣いは、うれしいです。
……反対に、緊張もありますね。
……先輩の部屋……
ほんとうに、すっきりしています。
……て、いうか……シンプルです。
わたしは、男の子の部屋なんて、初めてだから……。
この緊張感は、フルブーストですね。
………さぁ、いよいよです。
………覚悟を決めましょう!
………恋する乙女は、最強……のはずです。
………ああ………神様………力をください。
……やっぱり、カヤちゃんも、オタクでした。
セブンくんの前に、撃沈したのですね。
でも、いいんですよ。
その方が、こうじくんにも、よかったからです。
さて、次回は……
いよいよカヤちゃんが、行動しますよ。
こうじくん。
男を見せないとね。
お楽しみに。




