第23話 蘇
「お…おめでとうございます。」
「ふふふ。ありがとうございます。きのう合格しました。なので…先輩に、いちばんに見せたくて…この教室で、張り込んでいました。」
「………えっ?」
「だって……先輩には、なかなか会えなかったんだもん! 山中先輩からは……あいつ、バイトが決まって、忙しいみたい…って、聞いたから……。」
「あっ? ……そうなんです。 バイトが決まって…極貧生活から、少しは、脱出できました。」
「ふふふ。よかったですね~。 じゃあ、あの約束も大丈夫ですね?」
「………約束?」
(……まさか……?)
「ああ~っ! ひど~い!
忘れてますねっ先輩! 免許が取れたら、お祝いしてあげるって、約束したじゃないですか~?」
里美さんは、またホホをふくらませて、ぼくをのぞき込んできます。
「だ…だいじょうぶです。
おぼえています。」
(だから……近いですって!)
……でも、内心は……
とってもウキウキ、ワクワク、ドキドキ……の3段活用です!
あの言葉………ぼくの社交辞令を 里美さんは、ちゃんと覚えてくれていたみたいです。
こんなに、うれしいことは、セブンを買ったとき以上かもしれません!
そして……この笑顔の前に……
ぼくは……今までの自分の行動に……
猛烈……激烈反省します!
だから……その罪ほろぼしもかねて……
あっ? でも……
ゴールデンウィークは、バイトだらけだった。
……それに、里美さんにも、予定があるでしょうから…。
………どうしよう?
「……どうかしました?」
「……あっ? …いえ…あのぅ……
ぼく……ゴールデンウィークも、ずっと……バイトで………。」
「そう……なんですか………?」
少し…淋しげな表情の里美さんです。
それくらいは、ぼくにだって、わかります。
「あのぅ……ゴールデンウィーク明けでは、どうですか?」
「……えっ? いいんですか?」
「はい。まかせてください。」
「やったぁ~~!
先輩からのお祝い、楽しみにしてますね!」
ほんとうに……笑顔の里美さんは、かわいいです。
かわいすぎます。
「……あっ? でも…ぼく……あまりオシャレなお店とか、知らないんですけど……。」
そうです!
ぼくは、女の子をおもてなすオシャレなお店なんて、知りません。
知っているはずも、ありません。
そんなお店に行ったことがないのですから…。
いえ、それ以前の問題に、女の子といっしょに、お食事したことも、ありません。
大問題です!
ですが……
ぼくの懸念を 軽く吹き飛ばす天使が……
「いえいえ。そんなお店でなくっていいです。 先輩がいつも行っているようなお店がいいです。」
「………ほんとうですか?」
「はい。ほんとうです。
だから、よろしくおねがいしますね♪」
(ズギャンっ!)
この娘の「はい。」って……
好きかも!
「はい…。了解しました。」
ほんとうに、里美さんの笑顔は、すごいです。
こんなぼくを………
こんなぼくにも、幸せを与えてくれるのだから……。
ぼくは、里美さんの笑顔のためなら…
なんだってしてあげたくなります。
なんだってです!
「じゃあ、約束ですね!」
里美さんは、そう言うと……
左手の小指を立てて、ぼくの方へと、向けてきました。
その行動の意味くらい……
ぼくといえども、わかります。
「はい。約束します。」
ぼくも、右手の小指を立てて……
里美さんの小指に、誓いました。
「……あっ? 先輩って、携帯持ってました?」
そうです。
新たな問題がありました。
ぼくは、携帯電話を持っていないのです。
連絡方法がとっても、とぼしいのです。
この現代社会において、若者の間では、
99%の割合で、所有している携帯電話。
24時間営業のように、いつでもどこでも、連絡がとれるのです。
携帯電話とは、それほどまでに、若者の必要アイテムなのです。
けんじからも……
「はよう、携帯くらい持て!」
…と、よく言われています。
それにもかかわらず、ぼくが携帯電話を持たない理由は……ただひとつ。
「ビンボーだから!」
……です。
携帯電話の毎月の料金なんかを けんじたちの話の中で、聞くことがあります。
けっこうな料金だと、思います。
ぼくなんかにすると……
「そんなお金があるなら……セブンのパーツ代にしたい!」
だったのです。
(………ですが……はい!)
たった今……携帯電話を持つ覚悟が、確立しました。
ぼくの本音は……
「里美さんと、連絡がとりたい!」
なんとも、不純な動機ですけど………。
「…いえ。持っていません。
でも…バイト始めたから、そろそろ持とうかなぁ…って、思ってました。」
「じゃあ、どこの携帯にします?」
「どこって…………?」
「……………??」
「あっ? すみません。
ぼく……携帯電話のこと…なんにも知らなくて………。」
(恥ずかしい……ですね。)
「ふふふ。ほんと、先輩って…おもしろい人ですね~。
もしよかったら、携帯買うの…わたしが付き合いましょうか?」
「……えっ? いいんですか?」
「はい。」
本日2度目の最強笑顔をいただきました。
里美さんの笑顔のおかげで………
ぼくは、「御臨終」から、見事によみがえりました!
復活しました!
ゾンビのように、よみがえりました!
ほんとうに、ありがとうございます。
里美さん!
そうか………ゾンビか?
ふふ…。
ぼくのようなオタクには、いい表現かもしれないですね。
………プッ。
いいですよ~こうじくん。
それでいいんです。
好きな人といっしょに話したい。
好きな人といっしょにいたい。
そんな単純なことでいいんです。
それが………
いえいえ。
わたしが言うことでは、ないですね。
しかし、こうじくん。
よく決心しました。
携帯電話を入手することを……。
たしかに、携帯電話の料金は…高いけど……
今は、けっこう安くなったから、安心していいよ。
カヤちゃんも、いっしょに付き合ってくれるらしいからね。
彼女に、頼りなさい。
女の子に、頼ることは、悪いことではないよ。
ちゃんと、感謝の心を持っていれば、大丈夫!
では、次回は……
携帯電話を入手したこうじくん……
やっぱりオタク?
お楽しみに。




