第107話 挑(3)
わたしの初峠デビューの練習が終わり、再び、うどん屋さんで、休憩していると……
「パ――――ンッ!」
いい排気音を響かせて、1台の車がやってきました。
S13の黒いシルビアです。
足を固め、車高を落とし、もちろん、マフラーも換えています。
見るからに、走り系ですね。
そのS13シルビアは、わたしたちの目の前をあっという間に、通り過ぎて行きました。
一体、何キロ出ているのでしょうか?
これは、ちょっと……
引くレベルかもしれませんね。
一般人だったら。
でも、わたしは、大丈夫です。
逆に……
わたしは、一瞬……
「ドキンっ!」
と、しました。
そのスピードと排気音の迫力に。
これが
……「走り屋」……
と、呼ばれるものなんだ。
感動です。
実のところ、わたしは、峠を走っている走り屋さんというものを目の前で見たことがなかったのです。
動画でしか見たことがなかったのです。
……で、
実際に目の前で走っているシルビアの迫力に、釘付けでした。
ぜいたくを言えば、いちばんはじめに、こうじさんの走りを見たかったんですけど……ね。
こうじさんには、まだ……
わたしの目の前では、その走りを見せてもらっていなかったんです。
残念ですけど……。
まぁ、そのあたりは、徐々にですね。
こうじさん自体、自分が走り屋であることをまわりには、言いませんから。
だからこそ、わたしだけが知っていることなんです。
わたしの特権です。
おそらく、わたしの運転が上達してきたら、見せてくれそうな気がします。
それまで、わたしもがんばりましょう。
うん!
「あのシルビアは、宮久くんだね。」
「お知り合いですか?」
「うん。
ここ(南畑ダム)の仲間だよ。」
「へぇ~~。
そうなんですね~。
じゃあ、常連組ってやつですか?」
「うん。
そういうやつですね。
なので、みんな……
週の半分以上は、ここにいますよ。」
「あはは。
みなさん、立派な車オタクですね~。」
「だね。
付け加えるなら、オタクを通り越して……「車バカ」だね。」
「あははっ。
じゃあ、そのおバカさんたちは、どれくらいいるんですか?」
「え~とねぇ……。
ぼくたちの仲間で……7台かな。
全体では……15台くらい。」
「15台?
けっこういるんですね~。」
「うん。
でも、ぼくが2輪のときには、30台くらいは、いたよ。」
「えっ?
そんなに?!」
「ボボボ―――――」
そんな話しをしていたら、
先ほどの13シルビアが、このうどん屋さんの駐車場に入ってきました。
「ガンッ!」
強化された足まわりが黒い車高を小刻みに揺らしながら。
やっぱり、チューンドマシンは、かっこいいです。
はやく、わたしのシルビアちゃんもイジりたいですね。
「オッス、こうじ!
今日は、早いね~?」
シルビアから降りてきた人が、こうじさんに話しかけてきました。
「うん。
今日は………」
「あれ?
……誰?
………その娘?」
「あっ?
……じつは……
ぼくの彼女で………」
テレて、口ごもるこうじさんに代わって、わたしから挨拶しましょう。
「こんばんは。
里美カヤといいます。
こうじさんの彼女です。
よろしくおねがいします。」
「……えっ?
こうじの彼女?
マジで?!」
かなり、驚いている様子ですね。
「マジです。」
「ああ~っ!
とうとう、こうじにも、春が来たのか~!」
「ふふふ。」
「あっ?
俺……宮久です。
「宮ちゃん」って、呼ばれてます。
よろしくね、里美……さん?
……「ちゃん」でもいい?」
「はい。
こうじさんのお友だちだったら、
「ちゃん」でいいですよ。」
「う……
うぅ~(泣)
ええ娘や~~。
ありがとう。」
「いえいえ。
よろしくです。」
「じゃあ、このイチヨンは、里美ちゃんのシルビア?」
「はい。」
「ふぅ~ん。
まだ、ノーマルやね。
……って、言うか?
初心者マーク?!」
「はい。
4月に取ったばかりです。
そして、今日が初めての南畑ダムです。」
「ああ~。
それで、今の時間ね。」
「……えっ?
時間帯で変わるんですか?」
「うん。
まぁ、だいたい12:00過ぎたら、常連組が多くなるから、練習は、しにくいかなぁ~?
……あっ?
でも、里美ちゃんだったら、大歓迎だよ!」
「ふふ。
ありがとうございます。」
なぜか、こうじさんを置いてけぼりにして、わたしと宮久さんは、ヲタトークをしていました。
わたしも普段は、男の人と話すことが苦手なのに、この宮久さんとは、平気でした。
まぁ、こうじさんのお友だちということもあるし、同じ車好きだからかもしれませんね。
決して、わたしの男性苦手意識が改善されたワケでは、ないようです。
「よかったね、宮ちゃん。
シルビア仲間が増えて。」
「うんうん。
俺は、いつもひとりで、さみしかったよぉ~(泣)」
「うんうん。」
こうじさんが慰めています。
「なんでここ(南畑ダム)には、日産が俺以外に、いないの~?(泣)」
「ほんとですか?」
わたしは、少し驚きました。
この南畑ダムには、日産ファンがわたしと宮久さんしかし、いないとは!
これは、いけません!
なんとしてでも、日産ファンを増やさないと!
秘かに誓うわたしです。
「うん。
あいつら(仲間)は、こうじを筆頭にセブンが3台。
……あっ?
ボロのサバンナは、こうじだけね。
あとのセブンは、FCね。
あとは、86(ハチロク)が2台。
そして、CR-Xかな。
なんで、マツダとトヨタとホンダだけなんじゃ~!
なんで、日産がいないんじゃあ~!
ほんと、不思議だよ!
よその峠じゃあ、シルビアと180SXだらけなのにっ!」
「どうどう。
落ち着いて~宮ちゃん。
でも、ボロは、よけいだよ。」
「うぅ~(泣)
でも、これからは、里美ちゃんが仲間だから、今までひとりで、耐えていてよかったよ~(泣)」
「うんうん。
もう、ひとりぼっちじゃないね~。
よしよし。」
またも、こうじさんが宮久さんを慰めています。
今度は、頭をよしよししています。
(こうじさんって、仲間内だと、こんな感じなんだ……)
ふだん、あまり見れないこうじさんの態度に……
わたしは、なぜだか……
とっても、幸せな気分でした。
同士ができました。
カヤちゃんも一歩ずつ、沼にハマッています。
さて、次回もヲタトークが続きます。
お楽しみに。




