第106話 挑(2)
「ちょっと、休暇しましょう。」
「はい。」
わたしは、うどん屋さんに、シルビアを入れます。
「ふぅ~~。」
シルビアから降りると、足に力がうまく入りませんでした。
「あれっ?」
「おっと!
大丈夫ですか?」
こうじさんが、よろけるわたしを支えてくれました。
(きゃっ♪)
「けっこう疲れるでしょう?」
「あ……ありがとう……
ございます。」
そんなに、スピードを出していたわけでもないし、ゲームでも、長時間、平気だったのに……
やっぱり、実践は、違いますね。
両足と両腕の疲労がハンパでは、ないです。
ガクガクです。
「ドライビングには、スタミナがいる!」
自分の身をもって、体験しました。
「ゆっくり、座っていてくださいね。」
こうじさんは、わたしをやさしく、ベンチに座らせると、自動販売機へと。
「ふぅ~~。」
夜風が気持ちいいです。
「これ、どうぞ。」
「……ありがとうございます。」
わたしに手渡してくれたのは、よく冷えたポカリでした。
「いただきます。」
飲むと、疲れた体に、染みわたるのを感じました。
「おいしい!」
「運転って、意外にもスタミナを消耗するんですよ。
とくに、ミッションは、両手両足をフルに使いますからね。
それに、ヨコGに耐えるために、体幹に力が入ります。
だから、けっこう全身が疲れるんですよ。」
「……そうですね。
わたしも、はじめて知りました。」
「あはははっ。」
こうじさんとふたりで峠に来ることは、わたしの夢でした。
それが叶って、ほんとうにうれしいです。
そして……
こんな風に、車のことをたくさんお話しできる相手に、めぐり会えて、ほんとうに感謝します。
その後も、ブレーキのやり方から、コーナーのまわり方とかを こうじさんからたくさん、詳しく、マニア的に聞きました。
とくに理解……
実感したのは……
「加重移動」です。
走るための基本になるテクニックです。
レースなんかでも、よく聞く言葉です。
でも、実際には、よくわかりませんでした。
加速GやヨコGは、体感しやすいですけどね。
だから、こうじさんは、具体的にわたしにレクチャーしてくれました。
そのおかげです。
「カヤさん。
40キロでこのコーナーを曲がります。」
「はい。
40キロですね。」
わたしは、ただ素直に実行します。
シロウトですから。
このキツくないコーナーを40キロで曲がることは、なんの問題もありません。
大丈夫です。
「じゃあ、カヤさん。
そのまま40キロで……
ステアリングだけで曲がってください。
アクセルもブレーキも無しで、クラッチを切って、惰性で行ってください。」
「……はい。」
わたしは、コーナーのRにそって、シルビアのステアリングを入れました。
ていねいに……。
「キキキ~~~!」
タイヤのスキール音です。
(はて?
このスピードなのに?
なぞです?)
「これが、フロントに加重がかかっていない状態です。
だから、グリップ力が低下しています。
なので40キロでも、タイヤが鳴きます。
じゃあ、もう一度行きましょう。
次は、50キロで進入して、ブレーキをかけて、40キロに落としてから曲がりましょう。」
「はい。」
わたしは、こうじさんの言う通りにやってみます。
それにしても、こうじさん………
自動車学校の先生みたいでかっこいいです!
さぁ、
もう一度、チャレンジしますよ。
今度は、コーナー手前でブレーキングして、40キロに落としてから、ステアリングを入れます。
「………!」
今度は、素直にステアリングの舵角にそって、シルビアが曲がりました。
ハンドルにも、手応えを感じます。
そして……
スキール音も、ありませんでした。
………なるほどです。
これが、「加重移動」というモノですね。
ブレーキングによって、加重がフロントタイヤにしっかりと、かかっているのです。
だからタイヤは、しっかりと路面をグリップしているんですね。
すごいです!
こんなにハッキリと、わかるなんて!
「これが加重ですね!」
わたしは、答えます。
「そうです。
カヤさんは、すごいですね。
一発でわかるなんて。」
「いえいえ。
こうじさんのレクチャーのおかげです。
ありがとうございます。」
「ふふ。
お役に立ててよかったです。
あと、加重のかけ方としては、コーナー進入前にアクセルを抜いて、エンジンブレーキを利用する方法や、
左足ブレーキで、チョンチョンとやる方法なんかがメジャーですけど、
そこは、自分に合ったやり方でいいと思います。
そのあたりは、今からカヤさんが経験して、自分のやり方を見つければいいですよ。」
「はい。
よくわかりました。
ていねいな説明で、ありがとうございます。
こうじさんは、走りの師匠ですね♪
これからもよろしくです❤︎」
「はい。
ぼくにできることがあれば……
いつでも。」
「ふふふ。
こうじ先生♪」
「…………」
こうじさんが思いっきりテレています。
かわいい!
またひとつ、オタクへの道を極めているね……
カヤちゃん。
加重移動は、大切なスキルだから、がんばって、覚えてね。
さて、次回は、走り屋さんとの遭遇ですよ~。
カヤちゃんは、ドキドキ?
お楽しみに。




