第104話 絆
「ねぇ、けんじくん。
ひとつ聞いていい?」
「ん? なにを?」
里美ちゃん事件が終わったあと、ミウがあらためて質問してきた。
「けんじくんにそこまでさせる、こうじくんとの絆って、なにかなぁ?」
「俺とこうじの?」
「うん。
聞いてもいい?」
そう言うミウの表情は、どこか甘えん坊でかわいかった。
だからというか……
その問いに、俺は……
「いいけど……
誰にも言うなよ。」
話すことにした。
決して、ミウのかわいさに負けたわけじゃない。
ミウには、こうじのことを もっと知ってもらいたい気持ちがあるからだ。
これはもちろん、俺自身の勝手な判断だ。
事実、ミウと里美ちゃんは、大親友だ。
その親友の彼氏がこうじなので、こうじのことを誤解しないでもらいたいんだ。
実際のところミウは、こうじのことをあまり……
良くは思っていない……と、思う。
まぁ……
それは、こうじの学校生活態度に問題があるんだけど……。
だからこそ俺は、こうじのいいところを ミウにも知ってもらいたいんだ。
別に好きになれとは、言わない。
……いや、好きになってしまって、俺との三角関係になるのはイヤだが………
じゃなくって!
ただ、少しだけでも、こうじのことを知ってもらいたいんだ。
偽りのないこうじのことを。
ミウの関心は……
里美ちゃんに笑っていてもらいたい。 幸せであってもらいたい。
ただそれだけだろう。
その気持ちは、俺もわかる。
だからこそ、その不安要素であるこうじの印象が……
少しでも、よくなれば……と。
なので俺は、話すことにしたんだ。
こうじと俺とのことを。
でも、他言無用でおねがいしますよ。
「わかってますよ♪」
笑顔のミウ。
やっぱり、かわいい!
……ん?
やはり、ミウのかわいさに負けたのかなぁ?
もう、いいか。
どっちでも!
「あれはね………」
だったら、おもいっきり語ろうじゃないか!
俺とこうじの「絆」っていうか……「きっかけ」の始まりを。
そう……
それは、ほんとうに些細なことだった。
俺が小6に上がる前の春休みだった。
俺は、趣味のブラックバス釣りに、早朝から自転車で出発したところだった。
「ガチャガチャッ!」
突然、自転車のチェーンが外れた。
当時の俺は、あまり器用じゃなかったから、チェーンを戻すことができなかった。
………どうしよう?
なので、その場でひとり、途方に暮れていた。
半泣き状態だった。
その時だった。
「どうしたの?」
ひとりの男の子が話しかけてくれた。
早朝の誰もいない中で……
ジャージでランニング中?
……いや、背中に大量の新聞紙を背負った男の子だった。
その男の子は、新聞配達の途中だったみたいだ。
当時、春休みや夏休みに、新聞配達のアルバイトをする小学生は、少なからずいた。
この男の子も、そのひとりだろう。
「ああ……。
チェーンが外れちゃったんだね。
ぼくにまかせて。」
その男の子は、そう言うと………
「カチャカチャ………
シャ――――!」
あっという間に、チェーンをつけてくれた。
その手際は、まるで自転車屋さんのように。
「あ……ありがとう。」
「うん。
別にたいしたことじゃないから気にしないで。
じゃあ、気をつけてね。」
その男の子は、すっごくいい笑顔で、走り去っていった。
「……あっ?
なまえ聞くの忘れた!」
それもそのはず………
男の子の走るスピードは、とっても速かった。
マジで速かった。
あっという間に、遠くなる男の子の背中を見送るだけだった。
あの男の子の名前は、なんていうんだろう?
学校で見かけたことは、あるんだけど……。
俺の疑問は、新学期に解決した。
あの男の子と同じクラスになった。ちょっと……
いや、かなりうれしかった。
男の子の名前は、
「盛福こうじ」くん。
俺は、盛福くんのことばかり、目で追った。
盛福くんの普段は、「おとなしい」のひと言。
目立つことは、しないようだ。
友だちも決して多い方じゃないようだ。でも、話しかけられると、ちゃんと対応している。
それに……
友だちと話すときには、明るい男の子だった。
どっちが盛福くんのほんとうの姿かなぁ?
俺は、断然、盛福くんに興味がわいた。
教室での休み時間……
静かに本を読む盛福くんは、とってもカッコよかった。
盛福くんの手には、ハードカバーの厚手の本。
でも……
その本って、なに?
とても難しそうな………
機械の専門書?
表紙には……
「自動車工学」の文字が。
自動車が好きなのかなぁ?
それにしても、マニアックな!
意味わかんのかなぁ?
あんな本を読むくらいだからか、勉強はできるみたいだ。
とくに、算数と理科は、かなり成績がいい。
理数系だね。
しかも、運動神経がめちゃくちゃいい!
足の速さでは、学年トップ!
……と、俺は、思った。
やはり、新聞配達で鍛えているんだろう。
ドッチボールでも強いし、なんといっても、ソフトボールがうまい!
バッティングがすごかった。
特大ホームランを打った!
かっこいい!
でも、ソフトボールチームには、所属していないようだ。
なぜだろう?
盛福くんを見る限り、苦手なスポーツは、なさそうだ。
中でも、球技は、得意そうだった。
そして……
意外にも優等生の盛福くんは、妹思いだった。
やっぱり、やさしい人なのだ。
いつも一緒に、妹さんと登下校している。
ひとりっ子の俺としては、とてもうらやましかった。
妹っていいな~。
そんな盛福くんとお友だちになりたい!
俺は、そんな願望を持ちはじめた。
でも……
引っ込み思案な俺は………
いつも、機会を逃していたけど………
およそ半年後に、達成されたけど……ね。
「それだけ?」
「そう。そんだけ。」
ミウは、不思議そうな顔をするけど……
仕方ないかな。
人の関わりなんて、そんな些細なことから始まるんだよ。
……たぶん?
まぁ……この話しは、俺本人じゃないとわからないことだからね。
ミウには、
ただ……知ってもらいたいだけだ。
ただ……知ってくれればいい。
あの日……
自転車のチェーンを直してくれただけ。
たったそれだけのことだけど、俺にとっては、宝物だ。
いえば……
あのときのこうじの笑顔に……
一目惚れしたんだ。
「こいつと友だちになりたい!」
この欲望が核心なんだから。
あれから、7年たった。
あのこうじとの出会いが………
俺の楽しい青春のはじまりだから。
ほんとうに、こうじくんのことが好きなんだね~。
けんじくんは。
ミウちゃんは、まだわからない顔をしているけど、
自分とカヤちゃんのことにダブることもあるから、理解は、できたみたいです。
まぁ……
人同士の付き合いには、時間がかかるよ。
焦らずにね♪
さて次回は、カヤちゃんの念願が叶うお話しですよ~。
お楽しみに。




