第1話 始
春うらら。
めっきり、陽射しもやわらかくなり、過ごしやすくなってきた、今日この頃です。
世間は、新入生だの、新入社員だので、「新」「新」「新」…と、舞い上がっています。
春=新。
「新」って、言葉は、なんかウキウキしますよね。
新…おニューです。
新作の服、新作のお菓子、新作のゲーム、新作のガンプラ…新しいって、素晴らしい!
…おっと?
ぼくのオタク度が出て、すみません。
とにかく、4月って、新しいものがスタートする、いい季節ですね。
なぜ、ぼくが「新」に、こだわっているのかというと、理由は、簡単です。
おニューのタイヤに交換したいからです!
ぼくの大切な大切な…大切なセブン……
RX-7(SA22C)のリアタイヤが、丸坊主だから…つるつるだからです。
つるつるで、スベりまくりです。
ドライでも、スベりまくりです。
グリップという言葉を忘れてしまったタイヤです。
雨の日では、まるで、氷の上を走っているかのように、つるつるです。
ふつうの交差点でも、カウンターをあててしまいます。
(恥ずかしい……。)
おかげで、今は、ドリフトばっかりして、遊んでいます。
もちろん、低速で…。
高速だと、間違いなくバーストする危険があります。
でも、低速ドリフトでも、けっこう面白いんですけど…。
ドリフトして、遊んでいると、さらにつるつるに、磨きがかかって…もう、ひと皮むけて…
地肌が……もう、ひいおじいちゃん状態です。
ドリフト中には、リアタイヤから火花が出ています。
仲間からは、ウケているようですが……。
昔…2輪で峠を攻めていたとき、ヒザに空きカンをツブして、ガムテープでとめていました。
「空きカンバンクセンサー」が、なぜか流行った時期を思い出します。
その空きカンバンクセンサーが、コーナリング中に路面と擦れて、火花があがるのです。
みんなで大爆笑です。
……ほんとに謎でした。
そんなバカなことが流行ったときを…懐かしく思い出します。
でも…この火花は、キケンです。
いささか、キケンすぎます。
完全にワイヤーが、露出しています。
触ると、金タワシみたいで、痛いです。
この状態は、はっきり言って、マズいです。
路面にも、マズいです。
先輩からは…
「ワイヤーがなくなったら、バーストするぞ!」
と、言われています。
おまけに…
「白バイに、見られたら、一発やな!」
とも…。
白バイは、マズいです!
ぼくたち「走り屋」にとっては、天敵です。
パトは、なんとかなりますが、白バイだけは、どうにもなりません。
罰金を払うくらいなら、中古でもいいから、タイヤを換えたいです。
ぜいたくを言えば、新品に換えたいです!
心の叫びです。
…でも、その中古タイヤさえも、買えるお金がありません。
ぼくは、ビンボー学生。
両親の反対を押し切り、少し遠い国立大学に入学しました。
オヤジは、ぼくを経済学部に入れて、会社を継がせようと、考えていたみたいです。
でも、ぼくは、教師になりたいのです。
もちろん、金八先生に憧れています。
だから、家を出て、教育学部のある国立大学にがんばって入学しました。
親からの援助は、見込めなかったから、学費が安い国立大学は、もってこいでした。
でも…国立大学は、学費が安いけど、偏差値は、高かったから、苦労は、しましたけど…。
無事に、合格をはたして、いちおう両親を説得したけど……。
ぼくは、会社を継ぎたくないわけではなく、教師になりたいのですよ。
…で、説得に少しは、成功したのか、学費だけは、出してもらえました。
ですが…オヤジは、社長だけあって、お金にはシビアです。
借入金の契約書を書きました。
出世払いでの返済です。
がんばって、教師になって、全額返済したいと思います。
しかし、生活費は、自前です。
経費節減が必然です!
そして…今住んでいるこのアパートは、ぼくの希望を叶えてくれています。
家賃は、2万円です。
安い!
ありがたいです!
ちゃんと、お風呂もトイレも、付いています。
シャワーは、ありません。
給湯器も、ありません。
ガスコンロは、あります。
6畳一間と、4畳半の台所。
これで、十分です。
雨、風をしのげれば、恩の字です。
決定的な恩恵は、駐車場代が無料ということです。
このアパートは、少し田舎に立地しているおかげですね。
まわりは、田んぼばかりです。
その分、助かっています。
ぼくの愛車セブンくんは、少々排気音がうるさいからです。
ロータリーエンジン特有のボロボロ音です。
だから、あまりご近所さんに、ご迷惑をおかけしないですみます。
それに、今の時代…大学生に人気なのは、オシャレなフローリングのワンルームで、ロフト付きの物件なのです。
だから、この昔ながらの昭和アパートは、人気がないようです。
だけど、ぼくにとっては、かなり気に入っています。
台風のときには…少し恐いけど……。
まぁ…それは、おいておいて…
田舎だから、大学までは、少し遠いです。
でも、全然大丈夫です。
通学は、もちろんママチャリです。
ガソリン代は、かからないし、体も鍛えられます。
一石二鳥です。
雨の日も、風の日もがんばって、毎日、全力でペダルをこいでます。
ちなみに、ぼくは、数学科です。
見た目は、体育会系ですが、数学科ですよ!
あっ? すみません。
自己紹介が遅くなりましたね。
ぼくは、「盛福 浩司」。
♂ 20才の大学2年生です。
…ん?
ラブストーリーですよね?
盛福浩司くん…なんの話し?
まぁ…いいです。
今から始まる、恋話しに期待しましょう。
さて、次回は……
まだまだ、浩司くんの語りが続くそうです。
彼は、オタクだから…話しが長いんです。
では、お楽しみに。