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第7話 “公爵”って、なんじゃい

 そうなるか。なるじゃろうな。アリウスを害そうとしたのは、どう考えても公爵家内の権力争いじゃ。おおかた長子(わし)を引きずり下ろして、家督を我がものにしようという腹じゃろ。

 小人のなすことは、どこも似たようなものじゃ。


“へーか、公爵、たすける?”


 う〜む、それはいささか悩むところじゃな。

 そもそも父親というたところで、公爵とは面識もなければ為人(ひととなり)も知らん。誰に害されようと知ったことではないが……。

 このままアリウスとして暮らすとすれば、ゴタゴタが続くのも面倒なだけじゃ。


「エテルナ。いまミセリアたちがどうなっとるか、わかるかの?」

“わかる〜♪”


 どうやら意識と能力を平行化した万能スライム(エテルナ)が、魔界だけでなく王国にもいくつか()るようじゃな。

 わしの頭に王国の地図情報が映し出され、王都の北に光点が現れる。


“光ってる赤いのが、ミセリアたち〜”


 義母(アヴァリシア)の生家、プルンブム侯爵家の屋敷に入ったところだという。

 もうひとつ、別の光景が映し出されとるな。なんじゃこれは……と思うたが、平行化したエテルナの見ておる景色じゃな。扉の隙間からするりと部屋に潜入。なかにいる連中に気づかれもせんとは大したもんじゃ。


「この怪しげな男どもは、廊下で倒した暗殺者(れんちゅう)の同類じゃな」

“そー、アヴァリシア、公爵の宿、襲えっていってる〜”


 命ぜられた者どもが、部屋を出て外へと駆け出してゆく。あやつら、下衆だけに己が利の絡む判断は早いのう。


「公爵の位置は」

“光ってる緑のとこ〜”


 ふむ。王都の北西……六十キロ(十五里)ほどかの。公爵邸(ここ)に戻るのは明日と言っておったから、まだ距離はある。


「騎馬で飛ばせば、着くのは夜中か。寝込みを襲うには、お誂え向きじゃな」

“へーか、どうする〜?”


 エテルナは半分心配そうに、半分面白そうに尋ねてきよる。

 こやつは賢く勤勉で強く、根が善良で優しい。魔界でそれは、必ずしも美徳ではないがの。わしも、こやつの同類じゃ。


「……せっかく手に入れた休暇じゃ。財源(さいふ)(たか)有象無象(こむし)は払っておくのもよかろう」

“ふふっ♪”


 公爵とやらがさほどの人物でなければ、そのときはそのときじゃ。


◇ ◇


 王国中北部の宿場町、フェリキタス。かつては美しい森と湖を誇る景勝地だったが、水源が枯れてからは寂れて見る影もない。

 公爵領と王家直轄地(天領)の境界に近いため、公爵が王都に向かうときはここで宿をとるのが通例となっておるらしいのう。


「となれば狙うのは容易い、か」


 公爵ともなれば王族の末裔(すえ)じゃろうに、自分の身が狙われると思っておらんのかのう。魔界の住人ではありえん警戒心のなさじゃ。どんなもんかと興味半分心配半分で、わしは宿の様子を見守っておる。

 いうても見守っとるのは、王都の公爵邸からじゃがの。


「ええぞエテルナ」

“はいなー♪”


 分裂・平行化したエテルナは宿の周囲と屋根とに散らばり、公爵一行の動きを監視しながら敵の刺客を待ち受けておるわけじゃ。


「チラチラ人影が見え隠れしとるのう」

“きたみたい〜”


 近くの物陰から黒づくめの男たちが現れ、宿の様子を伺うと静かに近づき始める。その数、十二。今度は魔導師抜きの暗殺者のみじゃ。


「宿のなかは、無事なんじゃな?」

“みんな、寝てる……あ”

「どうした?」

“ひとり、起きてきた〜”


 部屋の窓が静かに開いたかと思えば、何者かがひょいと屋根によじ登ってきよった。屋根の上でエテルナの横に立ったのは、下履きひとつに量産品(かずうち)らしきボロボロの剣を担いだ中年男じゃ。


「なんじゃ、こいつは」

“えーと……”


 信じられんことに、男は不可視の隠蔽魔法で姿を隠したエテルナに気づきよった。しかも首を傾げただけで警戒もせず、ぷにぷにと撫で回して笑いよる。

 これは肝が据わっとるのか気が触れとるのか、どうにも判断に迷うのう。

 静かにしとけとばかりにポンポンと手で押さえると、男は階下の連中に目を移す。面白がるような表情で、唇に歪んだ笑みを浮かべて。


 十メートル(五間半)はある屋根から、迷いなく飛び降りよった。


「なッ⁉︎」


 わしが驚いておる間に、宿の入り口に忍び寄ろうとした暗殺者たちを、男は踏み殺し、捻り殺し、叩き殺す。

 音もなく殺し回る様は、まるで魔物じゃ。わざわざ担いどった剣をまったく使っとらんあたりに、異常性を感じるわい。

 裏口に回った連中が仲間の異変に気づいた頃には、男に背後から首をへし折られておった。


「……おい待てエテルナ、あれは公爵の敵か? 味方か?」

“どっちでもなくて……あれが、公爵”

「は?」


 わしは手元のエテルナを見て、遠隔地からの光景で勝ち誇る野人のような男を見て、またエテルナを見る。


「嘘じゃろ」

“ほんと”


 公爵は屋根の上に()るエテルナを見て、ニッと嬉しそうに笑いながら手を振りよった。


「なんじゃそりゃあ⁉︎」

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