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第19話 “武勇”って、なんじゃい

 なんぞ沙汰でもあるのかと、しばらく待ってはみたんじゃがの。護衛も取り巻きも見ているだけで動かん。

 だったらお前がなんぞ言わんかいと、わしは弟王子(エダクス)に目線で促す。


「きッ、貴様との婚約を、破棄する!」

「それは願ってもないのう」


 わしは返答して踵を返す。もったいぶって要求はそれだけか。おまけにそれは、この場で、この状況で言うことか? 公の場で大勢の前で宣言せんことには意味がなかろうが。


 視線に気づいて横を見ると、兄王子(プリームス)が驚いた顔でこちらを見ておった。なにに驚いておる。弟の馬鹿さ加減であれば、周知の事実であろうに。

 第一も第二も使えんのは一緒じゃ。まったくもって、無駄な時間であったな。


「待て! まだ話は終わっていない!」

「……だから、今度はなんじゃ」


()()()()()()アダマス公爵家には、ダンジョンからあふれる魔物討伐の最前線に立ってもらう」


「「!!」」


 周囲の連中は息を呑み、空気は強張ったが……だからなんだというんじゃ。


「かまわんぞ」


 そんなもん、公爵家に限らずやるべきことじゃろうが。グズグズと手をこまねいておっては、王国全土が最前線なんじゃがの。お粗末な頭では理解できておらんのか、他人事のように言いよる。


「貴様らは惨めな敗将の家門にありながら力があると思い上がっているようなので……なに?」

「かまわんと言うておる。どのみち、()()スタヌム伯爵領に赴こうと思っていたところじゃ」


 わしが言うと、エダクスは悔しげに鼻息を荒げる。あれこれ要求しておいて受け入れたら不機嫌になるとは、いったいどういう料簡じゃ。


「婚約破棄も派兵も、望むところじゃがの。それは、成人前の王子ごときが決められることではあるまい?」

「陛下のお心を慮り、国のため最善を尽くすのは、臣下の務めだろうが!」

「物は言いようじゃの」


 取り巻きどもが目を逸らすところからして、国王の裁可なしに進める腹じゃな。公爵家が負けても責任を取る気はないというわけか。王弟アルデンスを魔界に送った頃から変わっとらんのう。功を成せば自分の功績として吹聴する気じゃろうが……。


「……いや。わしらが功を成すと、こやつの首を絞めるのではないかの」

“ねー?”


 となれば、エダクスの目が泳いでおるのは、公爵家の足を引っ張る方法を必死に探しているところじゃな。まったく、考えなしなのは知っておるが、ここまでとはの。

 アホはアホなりに頭を巡らしたらしく、ボンクラ王子は急に小賢しい顔になりよった。


「公爵領軍は王家直轄地を、そして王都を護る盾だ。領地から動かすことは、まかりならん!」

「お飾り王子に言われるまでもないわ。たかが穴倉の魔物退治に、軍勢を率いて何の意味があるんじゃ」


 平地(ひらば)に溢れた大群を押さえ、駆除するのであれば軍勢も役立つがの。公爵領周辺のダンジョンでは、まだ状況はそこまで進んでなさそうじゃ。


「ではの」


 立ち去るわしの背後でなにやら偉そうに喚き散らしておるが……あの小坊主、わかっとるのかの。

 公爵家の武勇が際立ってしまえば、第二王子だけの責に留まらん。いずれは王家の首を絞めることになるのを。


「アリウス様」


 立ち去りかけたわしの前に、女生徒が出てきて頭を下げおった。

 後ろに従えたメイドを見る限り、それなりの家格を持った貴族家の令嬢のようじゃがの。後ろで同じく頭を下げておるメイドよりも、むしろ下げる頭が低い。


「なんじゃ、いきなり」

「我が父、そして我が領地の民に代わり、お礼を」


 なるほど。この学舎に通っておったのじゃな。エテルナの解説を受けるまでもなく、察しはついたわ。


「スタヌム伯爵令嬢」

「はい。どうか、テネルとお呼びください」

「うむ。すまんがテネル、伯爵領までの案内を頼めるかの」


 顔を上げた彼女は聡明そうな顔をわずかに歪め、目を潤ませながら笑った。


「はい、喜んで」

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お読みいただきありがとうございます。

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