梅と人魚、紫陽花と君
『八尾比丘尼(ヤオビクニ)』を知っていますか?
不老不死となった少女を総じてそう呼ぶのだそうです。
彼女は幕末の頃に生まれ、現代まで二百年近くもの間、当時の姿のままに生き続けてきました。
数多くの出逢いの中で、彼女の秘密を知った人間は皆彼女を恐れ離れていきました。
いつしか秘密を知られるということは彼女にとって、別れと同義となっていきます。
そんな彼女には、秘密を知らないまま逢えなくなった人がいました。
秘密を抱えてから初めて、心から傍にいたいと思った人でした。
過酷にして残酷な歴史が、彼女たちを引き離した後もずっと色褪せずに彼女の中に留まり続けた人でした。
彼にもう一度逢いたいという願いだけが、永く苦しい永遠の中で彼女を生かす灯でした。
数え始めてから二百回目の春。
彼女は町の図書館で、一人の少年と出逢います。
その出逢いが、永らく凍ったように眠らせてきた彼女の心を溶かすことになろうとは、その時はまだ、知るよしもなかったのでした。
不老不死となった少女を総じてそう呼ぶのだそうです。
彼女は幕末の頃に生まれ、現代まで二百年近くもの間、当時の姿のままに生き続けてきました。
数多くの出逢いの中で、彼女の秘密を知った人間は皆彼女を恐れ離れていきました。
いつしか秘密を知られるということは彼女にとって、別れと同義となっていきます。
そんな彼女には、秘密を知らないまま逢えなくなった人がいました。
秘密を抱えてから初めて、心から傍にいたいと思った人でした。
過酷にして残酷な歴史が、彼女たちを引き離した後もずっと色褪せずに彼女の中に留まり続けた人でした。
彼にもう一度逢いたいという願いだけが、永く苦しい永遠の中で彼女を生かす灯でした。
数え始めてから二百回目の春。
彼女は町の図書館で、一人の少年と出逢います。
その出逢いが、永らく凍ったように眠らせてきた彼女の心を溶かすことになろうとは、その時はまだ、知るよしもなかったのでした。