1話 かませ犬VS悪役令嬢
俺の通う学園には、とある有名な公爵令嬢が通っている。
彼女が“有名”なのは、王国一の大貴族の長女であるという肩書きもあるが、その最も大きな理由は――。
「――そこの貴方!入学試験で首席だったって聞いたわ!今すぐ私と魔術の試合で決闘しなさい!」
この何者にも平等に向けられる、勝気で負けず嫌いな性格である。
自分よりも上の実力を持つものを叩き潰さずにはいられない。その容赦の無さは、あらゆる場面で自身の上に立つ人間に例外なく向けられた。その抜群の行動力に天性の才能が加わり、いつしか彼女を上回るものは居なくなった。
……という話を俺が聞いたのはその公爵令嬢――クラリス様に俺がその矛先を向けられた時から、しばらく後のことだった。
そんなわけで、しばらく最強の座を欲しいままにしていた彼女からすれば、俺は久々に見つけた格好の『好敵手』だったのだろう。
隠れた壮絶な努力の末、晴れて王国最高峰の魔法学校に進学し、入学試験で首席を勝ち取った俺は、貴様を逃がすものかという猛獣の如きギラギラとした瞳にじっと見つめられていた。
今思えば、わざと点を落としてでも、俺は首席になる事を回避すべきだったのだろう。高貴な貴族の家の後継ぎに生まれたと言っても天下の公爵家からすれば道端の犬っころに過ぎない。公爵令嬢の誘いを断れる訳が無いし、ましてや公爵令嬢との勝負に勝って良い訳がないのだ。
だが、ここに来るまで僻地の城で未来の領主として魔術の修練を積んでいた俺が彼女のことを知るはずがなかった。それになにより――。
「……いいだろう。誰だか知らんがこの俺に挑むとは。中々骨のある女じゃないか」
二ヒルな笑みでそう言って、公爵令嬢に躊躇なく顎クイする俺。
そう――あの時の俺は余りにも調子に乗りすぎていたのだ。