デートだ! 以外な真実を知る・・
日本酒を暫く呑んだ時、店員が注文を取りに来た。
「どうしますか、お肴は?」
「そうねぇ・・。」
ユリは翼に相談する。
しかし翼は初めて来た店なので、オーダーはユリに任せた。
ユリはメニューを見て、適当に注文をする。
店員が下がった後、ユリは翼に話しかけてきた。
「この店は家族経営なの。」
「そうなんだ・・。」
「今の女性は、マスターの妹さんで気さくな方よ。」
「ふ~ん・・。」
「あら、随分と無関心な様子ね?」
そう言ってユリは微笑んだ。
だが、翼はユリとその会話を楽しむ余裕がない。
ここに来る途中のユリの様子が気になって仕方がなかった。
「ユリさん・・・。」
「・・・・。」
「先程、何を怒っていたんですか?」
「・・・。」
「ユリさん?」
「答える前に、いったい誰にカッパと長田神社の話しを聞いたの?
答えて。」
「・・・・。」
翼はどう答えてよいか悩んだ。
まさかカッパから聞いたなどとは言えない。
そんな事を言ったら、それこそ呆れられてしまう。
ユリさんに呆れられたら、それこそ会社を辞めてしまいたいくらいだ。
悩んでいる翼に、ボソリとユリが呟くように言う。
「カッパに会ったとか?」
「え!!」
翼の驚いた顔に、ユリは納得した顔をした。
そしてユリは独り言のようにボソリと呟く。
「なるほどね・・。」
「え? あ、あれ! ゆ、ユリさん!!」
「・・・そうか、そうだったのね・・、どうしよう・・・。」
「!」
翼はユリの言葉を途中から聞いていなかった。
ユリにカッパの事を言い当てられ動揺しまくっていたのだ。
そして今ここで何故カッパの事が分かったのか聞けば、自分がカッパと出会い話したと認めたことになる。
自分がカッパと話したなどと認めたならば、ユリに病院に行けと言われそうで気が気では無い。
だが翼は肝心な事を忘れている。
それは話してもいないのに、ユリがカッパの事を言い当てたことだ。
それを翼は不思議に思う冷静さを失っていた。
ユリはそんな翼の様子など目に入らないのか、ゆっくりと翼に話し始めた。
「私の家はね、長田神社の縁者なの。 まぁ、遠い親戚なのだけど。」
「え?」
その時、タイミング悪く店員が肴を運んできた。
そしてユリに話しかける。
「お待たせしました。」
「ありがとうございます。あ、それでまた日本酒をお願いします。」
「はい、マスターにそう伝えますね。」
店員が下がると、また暫くユリは押し黙った。
翼はそんなユリをボンヤリと見つめた。
やがて店員が先程と同じように冷えたグラスを持ってきた。
どうやら日本酒を注文するたびにグラスをかえるようだ。
こだわりのある店である。
そしてマスターが一升瓶を抱え、お酒の説明を端的にしてまた去った。
翼は新たに運ばれてきた日本酒をグラスに注ぎ、一口飲む。
「旨い・・。」
そう思わず呟いた。
味わいはマスターの説明にあった通りである。
ふとみると、ユリは翼が美味しそうにお酒を飲む姿を、微笑しながら見ていた。
やがてユリは話し始める。
「本家である長田神社の方は、カッパなどの物の怪については知らないわ。」
「そう・・なんだ。」
「長田神社の分家である私の祖先は。物の怪について研究していたらしいわ。」
「?」
「私の家がなぜ物の怪について調べていたかというと、物の怪を見る事ができたからよ。」
「え?」
「いわゆる霊能力者の家系なの。」
「え? 全員が?」
「いえ、そういう訳ではないの。隔世遺伝じゃないかな?
全員が霊能力者というわけではないの。
祖父は霊能力者で、父はそうではないわ。
でも連綿と霊能力が受け継がれる家系よ。」
「そうなんだ・・。」
「で、私には霊能力があるの。」
「・・・・。」
「貴方には申し訳ないことをしたわ・・・。」
「へ?」
「貴方、たぶんカッパが見えるようになって困って、カッパから聞いたんでしょ?
長田神社ならカッパの事を知っているかもしれないと。」
「何故、それを?」
「そりゃあ、分かっちゃうわよ。 カッパを知っているかとか、長田神社は、とか言えば。
カッパが言ったのは、長田神社の血筋に、という意味よ。
まあ、カッパからしたら長田神社の血縁だから、長田神社ってなっちゃうの。
そして我が家の血筋にカッパなど見ることができる能力者はいる。
そしてご先祖様が、物の怪について残した資料もあるの。
物の怪の間では、我が家は有名みたいよ。
だからカッパに自分達が見れる理由など聞かれたら、長田神社の名前を出しても不思議はないの。」
「・・・そうなんだ。」
「たぶん、貴方がカッパを見られるようになったのは、私に近づいたせいよ。」
「?・・・・。」
「我が家の古い文献にあるの。
私の家系の者と接した人の中には、霊能力者になる人がいると・・。
ただし、そのような人はもともと霊能力者の素質がある人らしいわ。
いうなれば私の血縁は、霊能力者を開花させる霊媒的要素もあるということよ。
私は過ちを犯したわ、貴方に近づいてしまうなんて。
貴方の霊能力を開花させてしまい、ごめんなさい・・。」
そう言うとユリはテーブルから少し離れ、翼に向かって土下座をした。
「ゆ、ユリさん! な、何をしているのですか!」
「・・・。」
顔を上げようとしないユリに、翼は席を立って近づき、ユリの背中に優しく触れる。
「止めて下さい、困ります。だから、顔を上げて!」
だが、ユリは土下座を止めようとしなかった。
翼がなんども顔を上げるように説得をしても。
翼は暫く考えたのち、ユリに言葉をかけた。
「分かりました。では、僕もユリさんに土下座をします。」
「え?!」
驚いたユリは慌てて顔を上げた。
すると目の前に土下座をしている翼がいた。
「な、何をしているんですか!」
だが、その言葉に翼は何も応えず土下座を続けた。
ユリは困惑し、焦る。
「翼クン! お、お願い、土下座なんてやめて!」
すると、土下座をしたまま翼が答える。
「分かりましたか? 僕の気持ちが。」
「・・・・。」
翼はゆっくりと顔を上げ、土下座をやめた。
そして翼は微笑む。
「翼さん、貴方という方は・・・。」
そう言ってユリは一粒の涙を流した。