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異次元邂逅  作者: ずくなし
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デートだ! え?なにか雲行きが怪しくなってきたのだが・・

 ユリの笑いが止まるまで大分時間を要したが、なんとか止まった。

今、ユリはハンカチで(うる)んだ目の周りを(ぬぐ)っている。


 「それにしても笑いすぎだよ、ユリさん。」

 「ごめんなさいね、翼くん・・・。」

 「しかし以外だったなぁ、ユリさんに彼氏がいないなんて。」


 「それをいうなら翼クンだってそうだよ。

総務部の女子の中に、翼クンを狙っている子もいるんだから。」


 「へ?」

 「何驚いた顔をしてんの?」

 「いや・・、だってさ、総務の女性陣はいつもツンケンしているよね?」

 「え?・・・・。」


 翼のその言葉を聞いて、ユリは唖然とした。


 「あのね、もしかして女性からニコニコして話しかけてくれると思っているの?」


 「え? あ、うん。

女性って(たお)やかで、(やさ)しくて、微笑んでくれるというイメージなんだけど・・。」


 「それって男性が私達女性に理想を押しつけていないかしら?」

 「え?」


 「あのね、私達の職場は女性が多いし、すこし特殊な職場なの。

新人の私達は、先輩から色々と注意をうけたわ。

それというのも総務部は、時と場合により経理にも関わることがあるの。

まぁ隣接した課である事や、人手不足でもあり有能な人が多いという事で。

私達の会社、結構自由な社風で、課の垣根に囚われていないからかな。

普通なら経理は経理、総務は総務なんだけどね。

だから総務部の女性は、会社の経理方針や、会社の経営状況を知っている事があるの。

だから誤解されないように気をつけているのよ?」


 「え? どういう事?」


 「私達から会社の情報を得ようと、近寄って来るお客様が中にはいるの。

場合により社員もね。

でね、以前に男性に貢ぐために不正経理に携わっていた女性がいたと聞いた事があるの。

あるいは一方的に総務の女性に声をかけてきて、うまく目的が達せられなかったからか、男に媚びを売っているとか、二股をかけているとか、根も葉もない噂を流された事があったらしいわ。」


 「そんな事があるの?!」

 

「ええ・・、だから私達は気をつけているのよ。

誤解されないよう安易に声をかけないし、かといってツンケンしていると見られないようにもしているの。」


 「そう・・なんだ。総務や経理って大変なんだね。」

 「うん。 でもね、私達も女性よ?

素敵な男性がいたら、声をかけてみたいと思うし、声をかけて欲しいの。

だから難しいのよね。」


 「そうか、誤解していた。ごめんね。」

 「謝る事はないわ、貴方がそう思ったように私達を見る人がいるのも事実だもの。

だから翼クン・・。」

 「ん?」

 「貴方に総務部の女性で好意を持っている人が結構いるのよ、口にはしないけど・・・。」

 「そう? でも、どうでもいいや。」

 「え!?」

 「だって、ユリさんとこうしてデートできてるんだから。」

 「!・・・」


 ユリは目を見開いた。

そして見る見るうち顔が真っ赤になる。

やがて顔を俯けた。


 「え? ユリさん?」

 「・・・・。」

 「・・・ユリさん?」

 「嬉しい・・・。」


 ボソリと、蚊の泣くような声でユリが呟いた。

翼はキョトンとした。

か細くユリが言った言葉が、頭の中でエコーする。

そしてユリの呟いた言葉の意味を理解した。

翼の顔が真っ赤になる。


 暫く翼は何も言えなくなった。

そして翼はハッとする。


 何も言わないのは、気まずいのではないか、と。

何か話さなくては、と思い立ち、あたふたとする。

だが、ユリの言葉が嬉しかったのと、恥ずかしい気持ちが話そうとする動作を邪魔する。


 翼はユリの様子をみた。

するとそこには、はにかむユリがいた。

そして、思うのだった。

はにかむユリを見ていたいと。


 だが、このまま黙っているわけにはいかない。

翼は覚悟を決め、話すことにした。

だが、何を話したらいいかわからない。

だから、何も考えずに思いつきで話す。


 「あ、あのさ、えっと・・・・。」

 「・・・なぁに?」

 「えっとね、あ、カッパって知っている?」

 「え? カッパってキュウリのこと?」


 「あ、違う・・、妖怪というか、物の()のカッパ。」

 「ああ、あのカッパね。」

 「うん。」

 「知っているけど。それがどうしたの?」

 「いや、なんか突然に思いついて・・。」

 「?」


 「あ、そうだ! 長田(ながた)神社って知っている?」

 「!」


 ユリは驚いた顔をした。

そして翼に確認をした。


 「長田神社って若穂(わかほ)にあるあの神社のこと?」

 「ええっとね、地名は分からないんだけど関崎(せきざき)橋という橋の近くにあるらしい。

そういえば神社のすぐ近くに保科川とかいう川が流れているらしいんだけど?」


 「それ、長野市若穂にある長田神社の事だわ。」

 「そっか、長野市若穂にあるんだ・・・。」

 「神社自体はそれほど大きくないけど、欅の道の参道がみごとな神社よ?」

 「ふ~ん・・・。」


 「で?」

 「ん?」

 「長田神社がどうしたの?」


 翼はそれを聞いてどう答えたらいいのか迷った。

まさかカッパを見ただの、見れるようになってしまっただのとは言えない。

考えあぐね当たり(さわ)りのない話しにすることにしたのである。


 「ちょっと聞いたんだけどさ・・・。」

 「何を?」

 「いや、なんていうかカッパと縁のある神社だと。」

 「・・・・。」


 ユリは眉間に皺を寄せた。

翼は、おや? と思った。

ユリには似合わない人を疑うような、なんともいえない表情をしたからであった。


 「あ、あのユリさん?」

 「・・・翼クン。」


 ユリの声が低い。

今まで和気藹々(わきあいあい)とした雰囲気から、警察で尋問を受けるような雰囲気になった事を感じだ


 「その話し、誰に聞いたの?」

 「だ、誰だったかなぁ~?」

 「・・・・。」

 「ゆ、ユリさん? ど、どうしたの?」


 翼を見るユリの目が怖い・・・。

翼は思わず椅子から上半身をのけぞらせ、ユリから離れようとした。


 「あのね、長田神社がカッパと縁があるなんて聞いたことはないわよ?」

 「そ、そうなんだ? だ、だったら、か、勘違いかな、べ、別にどうでもいいんだ、ね、ねぇ?」

 「良くない!」

 「え?」

 

 「ねぇ、いったい誰に聞いたの?」

 「そ、それは・・・。」


 そう言って翼はユリから目を()らした。

すると周りにいるお客が、こちらを見てヒソヒソと話していた。

どうやら痴話喧嘩(ちわげんか)を始めたと思われたようだ。


 ユリも周りの様子に気がついた。


 「ねえ、場所を変えましょう?」


 その言葉に翼はいやな予感がした。

今日は、これで解散した方がよいと思えてならない。


 「ユリさん、門限とかあるんじゃない? そろそろ家に帰る時間かな?」

 「それどころでは無いの!」

 「へ?!」

 「つきあいなさい!」

 「は、はい!」


 翼はユリの剣幕におされた。

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