デートだ! あはははのうふふふのふ
翼とユリは駅ビル内をなんとなく見てまわり、東急ハンズで小物を見たり、お菓子売り場をなんとなく見てはどのようなお菓子が好きかと互いの好みを聞いたりして歩いた。
そして駅ビルの1階に戻りスタバ(書くまでもないがスターバックスである)に入った。
ユリと暫く歩きながら話したことで翼は落ち着いた。
そして多少なりとも、破壊的威力のユリの笑顔になれて舌を噛まずに話せるようにはなっていた。
マグカップを前にした二人は一口飲む。
そして翼は目の前の窓ガラスを通して見える駅前の風景を見ながらユリに話しかけた。
「今日はごめん、こんな雪の中でのデートになってしまって。」
「うふふ、じゃあ翼さん、今、雪を降り止ませてお月様を出していただけますか?」
「へ?」
「ね? 天気を翼さんは変えられないでしょ?」
「ええ、まぁ、そうですけど?」
「それにこの天気にしたのは翼さんではないでしょ?」
「・・・ええ、私には雪など降らせる超能力なんて無いので・・。」
「ならば翼さんが私に今日の天気を謝ることなんてないじゃないですか。」
「!」
「ね?」
そう言ってユリは小首を傾げて微笑む。
翼はそれをみて、また一瞬呆けた。
まだ免疫機能の習得は無理のようである。
しかし、なれてきたのか直ぐにフリーズ状態から復帰した。
誰かが翼のリセットボタンを押したのかもしれないが、そのような人はたぶんいない。
復帰をはたした翼はユリにニコリと笑って答える。
「そ、そうだね、天気のことは・・確かに。」
「それに私、今日のデートを楽しみにしていたんだ。」
「え?! 本当!」
「うん!」
「・・・!」
翼は驚いて口をアングリと開けた。
「ん? 翼さん、どうしたの?」
「まさかユリさんが楽しみにしていてくれたなんて・・・。」
「え!」
ユリはその言葉に思わず翼を見た。
翼はというと、ユリのその言葉にあまりにもホッとした様子を見せていたのである。
翼はユリにポツリと話す。
「心配だったんだ。」
「?」
「もしかしたら新年会の乗りでデートをOKしたけど、実は後悔しているんじゃないかと・・。」
ユリはそれを聞いて、自然と笑顔が浮かんだ。
「うふふふふふ、有り難う、私とのデートを楽しみにしていてくれて。」
その言葉を聞いて翼は顔を真っ赤にする。
今日何度目であろうか・・。
その後、二人はたわいのない話しをして、スタバを後にした。
そしてレストランに入った。
メニューを見ながら、翼はAセットに決めた。
ステーキメインのセットである。
ユリはBセット、ヘルシーな女性向きのセットである。
店員を呼ぼうとした時、ユリから声がかかる。
「翼さん、お酒は呑まなくていいの?」
「え?」
その言葉に翼はポカンとした。
男同士なら、食事より真っ先にお酒を注文はするのだが・・。
さすがに初デートでいきなりお酒を注文していいのだろうかと?
どうしたものかと悩んでいると・・・
「私も呑んじゃおうかな?」
そう言って悪戯ッ子のような笑みを浮かべる。
「お酒を飲む女性は嫌いですか?」
「え?! あ、いや、そんな事はないよ? 一緒に呑んでくれる女性の方がいい。
話しも弾むしね。」
「よかった。父が一緒に呑まないと寂しがるの。
だから、そんなに強くないけどつきあいで呑むことが多いの。
そんな父を見ているから、男性はお酒が好きだというイメージが強くて。」
「そうなんだ、君のお父さんがお酒好きなら、いつか一緒に呑んで見たいな。」
「うふふふふ、そうなれば素敵ね。」
ユリのその言葉に思わず目を見開く。
結婚を前提につきあって下さい、という意味だろうか?
いや・・初デートで、そのような事は考えないだろう。
リップサービスだろうか?
いや、そんな事をする女性ではない。
たぶん、何気ない会話の一部で意味なんて無いのだろう。
そう翼は思い至り、落ち着きを取り戻した。
でも、もしかしたら、この先またデートを了承してくれるかもしれない。
そういう期待もした。
その時、一度、心臓がドキンと跳ね上がる。
もしもう一度ユリさんがデートをしてくれるならもう死んでもいい!
そういう心境であった。
とはいえ、本当に死ぬ気などないのであるが・・・。
翼は気分をかえて、お酒の注文をどうしようかとユリに相談した。
「じゃあ、どうしよう・・何がいい?」
「翼さん、ステーキでしょう? それに合わせて。」
「そう? なら赤ワインでいい?」
「うん!」
二人は店員を呼び注文をした。
先にワインが来るようにして。
二人が少し話しているとグラスワインがテーブルに届けられた。
「じゃぁ、乾杯でもしようか?」
「ええ、でも、何に?」
「二人のデート記念日に。」
「うん!」
そう言って二人は軽くグラスを合わせた。
お酒が入り翼は肩の力が抜け、友人である男どもと話すときのように舌も噛まず、リラックス状態でユリと話せるようになった。
ユリもそれが分かったのか、笑顔が今まで以上に多くなり、話す時に手振り身振りも多くなる。
やがてセットがテーブルに置かれ、二人は軽い会話をしながら、笑顔を絶やさず食事をする。
食事が済み、食後のコーヒーがテーブルに置かれた。
会話はお酒が入ってからというもの、二人は軽快に話し会話が止まることはなかった。
翼は思い切って聞いてみた。
「ユリさん、なんで僕とのデート、受けてくれたの?
他にもたくさんの人からお誘いがあったと思うけど?」
「ふふふふ、そう思うの?」
「うん、だって技術部では総務のユリさんの話題が途切れることはなかったしね。
誰それがデートを誘って断られただの、デートに成功した人がいるとかね。」
「そうなの!!」
「え? うん、そうだけど?」
「それ、酷い!」
「え?」
「私、デートしたことないもん!」
「へ? え? あ、あれ? え?」
「翼クンが初めてよ!」
「え?! ええええええ?」
「もう! 酷くない? その反応!」
「いや、だって・・・。」
「私ね、女子高校から女子大学、そしてこの会社。
どこに男性とつきあう要素があるのよ!」
「だって、コンパとか・・。」
「行ったことない!」
「え?」
「なのになんで彼氏がいるような事を言われんの!」
頬を膨らませ抗議をするユリに翼は唖然とした。
だが、その直ぐ後、翼は吹き出した。
「あははははははは!」
「!」
「いや、ごめん、ごめん、笑っちゃって!」
「?」
「だってさ、ユリさんのような美人を見たら、だれだって一人や二人彼氏がいると思うって。」
「・・・。」
ユリはポカンと口を開いた。
「もしかしてユリさんも勉強が楽しかった?」
「え? あ、うん。」
「それと同性と遊び歩くのが楽しかった?」
「うん!」
「あはははははは、僕と同じだ。
僕も工業高校、工業大学、友人は男だらけ。
女性とつきあうよりドライブ、パソコンという世界だった。
すごく楽しかった。」
「そうなんだ!」
「うん。」
「以外だなぁ・・。」
「え? 何が以外なの?」
「私、翼クン、彼女がたくさんいるかと思ったの。」
「へ?!」
今度は翼が素っ頓狂な声をあげ、唖然とした。
「私ね、翼クンと新人歓迎会で会ったとき気になっていたの。」
「え?」
「それと会社ですれ違ったときも。」
「へ?」
「翼クン、私と会っても軽く挨拶するだけでしょ?
それもすぐに通り過ぎちゃうから、私から話しかけようにもできなかったもの。」
「え? ええええええ~!」
「それにすれ違うときも、私と目も合わせようとしなかったでしょ?
だから、私、嫌われているかと思っちゃった。」
「そ、そんな分けないでしょ!貴方のような美人が何を言ってるんだ!」
思わず声を大きくして叫んでしまった。
すると周りのテーブルの人が、一斉にちらっと翼を見る。
慌てて翼は立ち上がると、右、左、前、後ろに頭を軽く下げまくる。
そして魂が抜けたかのようにストンと椅子に腰を落とした。
まるで糸がきれた操り人形のように。
ユリはそれを見た後、俯いて肩を小刻みにふるわせる。
笑っているのだ。
「・・・あの・・、ユリさん?」
「ご、ごめんなさい・・あははははははは!」
ユリは顔を上げ謝る。
笑いを抑えようとしたが声が漏れた。
なんとか周りが気がしない程度に笑いを押さえている姿が可愛い。
だが、翼はその様子を見て複雑な顔をした。
その顔を見て、またユリは笑い転げる。
「ひ~、ひ~、ひぃ、お、おかひぃ、く、苦しい~、た、たすけて!」
「あのさぁ、ユリさん、それ、ひどくね?」
「ひ~、ひ~、や、やめて! は、話しかけないで!」
そう言ってユリはお腹を押さえ、顔を俯かせた。
翼は何も言えず、ユリの笑いが収まるのをジッと待つしかなかったのである。