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異次元邂逅  作者: ずくなし
41/42

退治屋としての舞台へ その9


 「う・・ん・・」


 ユリの意識がゆっくりと浮上する。

しばらくして(まぶた)を開こうとしたが、億劫(おっくう)に感じしばらく目を(つむ)っていた。


 やがてユリは、何とか重い瞼を持ち上げた。

目に入ってきたものは、どことも知れない暗闇の山の中の風景であった


 「あれ・・・、ここはどこ・・・。」


 周りに明かりはなく、雲間から(のぞ)く星だけが頼りだ。

とはいえ、真っ暗な山の中では、以外に明るく感じる。


 ユリは上半身を起こした。


 「ええっと、何で私はこんな所にいるんだろう?」


そう(つぶや)いて、ハッとした。


 「翼くん!!」


 そう小さく叫ぶと、ユリは(あた)りを見回した。

だが暗闇で見える範囲に、翼の姿は無かった。

少し離れた場所にいるかもしれない、そうユリは思った。

ユリは立ち上がると、翼を探すため、翼がいた大岩の方へ走り出した。


 ユリが気を失っていたのは、イノボウが爆発したのが原因だ。

爆風で飛び散ってきた枯れ枝でユリは頭を打って軽い脳震盪(のうしんとう)をおこし気絶したのである。

だが、怪我らしき怪我を負うことはなかった。

すこしタンコブができただけであり、不幸中の幸いとでもいえばいいのだろうか・・。



 翼を見失ったことで、ユリは焦っていた。

翼を影で見守り、いざというときに助けるはずだった自分が気を失ってしまっていたのだから。


 翼に何かあったのではという不安と恐怖がユリを襲う。

焦りから走っていたユリは、足をもつらせて倒れた。

だが直ぐに立ち上がると、また翼が居た大岩へと走る。

痛みを感じる余裕さえユリにはなかった。


 そしユリは翼を見つけた。


 大岩のさらに先、50mほど離れた場所で、翼は両膝を突いて天を(あお)いでいた。

翼を見つけたユリは、肩の力が自然と抜ける。


 だがホッとしている場合ではない。

ユリは翼の周りにイノボウがいないか探し始めた。


 イノボウが居ないのは霊的な気配がしていないのは分かってはいた。

だが、目で確かめずにはいられなかったのだ。


 気配でも、目視でもイノボウの姿が無い事に、ユリはホッとしてその場にペタンと座り込む。

暫くボンヤリとした後、ハッとする。


 「翼くん、怪我は!」


 勢いよくユリは立ち上がると翼のもとへと走った。



 翼はユリが近くに来ていることに気がついていなかった。

人がいない山奥では、夜になるとことさらに川の音が思った以上に大きく聞こえる。

翼の側を流れる川の音が、ユリの足音や声をかき消していたのだ。


 物の怪の気配はそれなりに感じられる翼であったが、人の気配となるとさほど感じられない翼である。

さらに、イノボウを退治して気が抜けた翼は、やり遂げた安心感から隙があった。

そのため、ユリの接近には気がつかなかったのである。


 ユリがある程度まで近づいたとき、やっと翼の耳に走ってくる足音が届いた。


 「ん? 足音? まさか物の怪じゃないよね?」


 翼は慌てて後ろを振り返る。

物の怪の気配はしていなかったから、物の怪でないことはたしかだ。

だが、人がいないはずの山での足音である。

翼は警戒した。


 翼の視界に、こちらへと走ってくる人らしきシルエットが見えた。

見ているとそのシルエットが暗がりの中で(ころ)んだ。


 「え? 転んだ?

そんなドジな物の怪、普通はいないよね?

やはり人だよね?

何をそんなに慌てて、俺の方に走って来ているんだろう?」


 翼は目を(すが)め暗がりの中のシルエットを見る。


 「う~ん、どうも女性のようだけど・・。」


 そう思ったときだ。


 「翼くん!! 怪我は!!」

 「えっ! ゆ、ユリさん?!」

 「そう、私よ!」


 そう叫んでユリは立ち上がり、また走り始める。

やがてその勢いのまま、翼に飛びついた。


 「ゆ、ユリしゃん!! あ、あの!」

 「心配したんだから!」


 ユリはそう叫んで翼にしがみつく。

翼は柔らかいユリの胸を感じ、恥ずかしさと(あせ)りで右往左往する。

だが、ユリが自分の事を心配して、ここまで来てくれた事が嬉しかった。

そう思うと自然と翼は落ち着きを取り戻した。

落ち着きを取り戻すと同時に、ユリへの(いと)おしさがこみ上げて来る。


 翼はそっとユリを抱きしめた。


 「ユリさん・・、ありがとう。

心配して来てくれたんだね?」


 ユリは何も言わずに、胸につけた頭をコクリと振って(うなず)く。

翼はユリの(ぬく)もりに、安らぎを感じ、心がじんわりとした。

何とも言えない幸福感が身を包む。


 翼はユリの(あご)に右手をそえた。

そしてユリの顔を優しくゆっくりと上げ、そっと口づけをする。

ユリもそれに答えた。


 やがてどちらかともなく顔を離す。

(しばら)く見つめ合って・・


 「わぁっ!!」


 翼は突然(さけ)ぶと同時に、慌ててユリから離れた。


 「ごごごごごごごご!!」

 「ご?」

 「ごめんなしゃぃ! ユリしゃん!!!」

 「え?」


 「お、おおおおおおお、俺、な、なんてことを、あわわわわわわわ!!」


 ユリはキョトンとした。


 「えっと・・翼くん?」


 翼は顔を真っ赤にして、両手を胸の前でアワアワと激しく振る。

その様子を見て、ユリは笑い出した。


 「あはははははは、おかしな翼くん。」

 「い、いいい、いやいや、ご、ごめん、口づけなんてしてしまって!」


 その言葉にユリはキョトンとした。

そういえば、口づけ・・したよね、今・・、私?

うん、そうだ、私、口づけをされたんだ。

って!


 「え?! えええええ~~~!!!」


 ユリは叫んで、真っ赤になり顔を両手で(かく)した。

翼はユリが叫んだことで、さらにパニックになる。

アワアワという謎の行動を続けながらアタフタとしていた。


 それからしばらくの(のち)、翼は落ち着いた。

そしてユリに声をかける。


 「そ、そのゴメン、ユリさん・・。」


 その言葉に、指の間から翼を(のぞき)き見た後、ユリは顔から両手を(はず)す。

ユリは何とも言えない顔をしていた。

そして・・言いにくそうに翼に声をかける。


 「あの・・。」

 「?」

 「翼くん、私とのキス、後悔しているの?」

 「え!! な、なんで!」

 「何でって・・、(あやま)ってばかりで・・。」


 「いやいやいや!! そうじゃない!

キスできてすごく(うれ)しい!

もう、死んでもいい!!

後悔なんかするわけがない!!」


 「え?」


 「ユリさんが心配して抱きついてくれて、嬉しくて嬉しくて!

それで気がついたら、キスをしていた。

キスはつきあい初めてからしたくて、でも、できなくて、でも、したくて・・。

それが・・なぜか・・、その・・、今、自然に・・・。」


 「嬉しい・・。」

 「え?」

 「嬉しい、私・・。」

 「ユリさん・・。」


 そう言って翼は、ユリを再び抱きしめた。

ユリもそれに答えるかのように、そっと翼を抱きしめた。

暫くそのまま抱き合ったあと、どちらからとも無くすこし離れる。


 ユリはまじまじと翼を見た後・・


 「翼くん、どこも怪我(けが)をしていない?」


 「え? あ、大丈夫だよ。

多少の打撲なんかあるかもしれないけど、大したことないよ。」


 「よかった・・。」


 「ユリさんは?」


 そう言ってユリを見た翼は目を見開いた。


 「ユリさん! 泥だらけじゃないか!」


 「え? あ・・。そうかも。

イノボウが爆発したとき、爆風から身を守るため地面に()せたから・・。

だから、その時に土が付いたんじゃないかな。」


 「怪我は!!」

 「無いよ。」


 そう言ってユリは大丈夫をアピールしようとして、その場でくるりと(まわ)ろうとし・・


 「痛い!」

 「え?!」


 「うううう、そういえば翼くんの所に駆けてくるとき転んでた・・。

その時にちょっと足をぶつけたりしたみたい。」


 「大丈夫!?」


 そう言って翼はユリの前に(ひざまず)き、足を確かめようとした。

あまりに自然に跪く翼に、ユリは目を丸くした。

まるで中世の騎士が、跪いて愛の告白をするかのようだ。

翼から愛の告白をされているわけではないが、ユリは焦った。


 「だ、大丈夫よ!

軽くぶつけただけだから!

ね! 跪くの、やめて!」


 「そう? それならいいんだけど・・。」


 「とりあえず、ここを移動しない?

荷物を取りに行かなきゃいけないし、テントも張らないと、ね。」


 「そうだね・・・。」


 二人は互いに寄り添い、来た道を戻りはじめた。

 

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