え? カッパだったりして・・・ またか! その2
翼はそのカッパ・・女性に再び訴える。
「あのですね、人というのは人と違う能力を持つというのは困るんです!」
「え~? だって百年前には居たわよ、そういう人は。」
「・・・いたって何人くらい?」
「う~ん、10人くらいかなぁ。」
「え? それってどのくらいの人口の割合ですか?」
「そうねぇ、あの当時、どのくらいの人口だったかしら?」
「江戸時代だとして一つの農村で、それだけいたって結構な割合ですよね?」
「何いってんの? 全世界の人口の中でよ?」
「!・・・・。」
あまりの少なさに、ガクリ、と翼は肩を落とした。
「いいじゃん、そういう人が10人もいたんだからさぁ、気にする事は無いじゃん、ね?」
「ちが~~う~!!!」
「あらあら、面倒くさい人だわね。」
翼は思った。
やはり物の怪といわれる人々?は、考え方が人とは違うのだと。
翼はため息をついた。
その様子を見て、その女性は肩をすくめる。
「まぁ、どうでもいいわ・・・。」
「どうでもよくない!」
「だって、私、貴方が何故私達が見えるようになったかなんて分からないわよ。」
「・・・そ、そうですか。」
「でもね、あの家系の人なら知っているかもよ。」
「え?」
「人と物の怪を研究していた家系があるの。」
それを聞いて翼はパァッと顔を明るくした。
「でもね、貴方たちからみたら何代も前のご先祖様での事よ?
だからその家系の子孫がそれを知っているという保証はないわよ」
「え?・・・。」
ぬか喜びだったと翼は感じた。
だが、女性は翼のガッカリしたようすなど意に介さず話し続ける。
「人ってさ、昔の人の知恵を馬鹿にして聞こうとも覚えようともしないでしょ?
それに古文書を見つけたとしてお金にならないと捨てちゃうじゃない。」
話しが逸れてきていると感じながらも、翼はその話しに答える。
「まぁ、そうですね。
それに古文書なんて読める人が少ないから、内容なんて確認できないですしね。
それに汚れていたり、虫喰いがあったりして捨てたくなるんじゃないですか?
またTVでやってますけど、読める人に読んでもらったら大した内容でなかったりしますから。」
「それがいけないの!
下らない言い伝えが書いてあるとか、眉唾物の知恵が欠いてあるとか決めつけちゃうか!
そういうものの中には、実は貴重な事が書いてあるものがあるの!
昔の人の知恵や、知慧が書いてあるのよ。
まぁいいわ・・、ともかく人はお年寄りから教わろうとしないでしょ?
だからさ、子孫がご先祖様が知っている事を知っているなんて珍しい事よ?」
「はぁ・・、そういうものですか?」
「そうよ、で、どうする? その家系の人を知りたい?」
「・・・。」
どうしようか翼は迷った。
子孫の方に、カッパが見えるんですけど、などと相談したら相談に乗ってくれるだろうか、と。
普通は精神異常者が尋ねて来たと思われるのが関の山である。
だが、今はそれしか糸口がない。
翼は女性に頭を下げた。
「教えて下さい。」
「ええ、いいわよ。」
「ありがとうございます。」
「貴方、長田神社って知っている?」
「長田神社?」
「そうよ、その神官がそのような事を調べていたわ。」
「そうですか・・。」
「じゃあ、この話しは終りね。」
「あの、長田神社って、どこに在るんですか?」
「え? 知らないの?」
「ええ・・・、神社仏閣などで知っているのは諏訪大社と善光寺くらいです。」
「はぁ~・・、仕方が無い人ねぇ。
ええっとね、確か、人が関崎橋とか呼んでいる橋があるの。
千曲川にかかっている橋ね。
その近くの神社よ?」
「あの~、もう少し詳しく・・。」
「そうねぇ、神社のもっとも近くに流れる川は保科川とか言っていたわ。
でも、あの川、浅いし変に川の中を工事して使い勝手が悪い川になったのよね~・・。
淀みくらい残しないさいよ、それに芦とかもさ。
まったく人間てなんで要りもしない工事とかしたがるのかしら。」
「あの~、近くの川とかじゃなくて神社のある地名とか番地とかは?」
「そんなの知らないわよ、人が勝手につけている土地の名前なんて。
それに最近、地名を面白がってやたら変えているでしょ?」
「いや、面白がってはいないとは思うけど。
あれは利権がからんだ権力者らの・。」
「そう? そんなのどうでもいいわよ。
人間の考えることなんて、私らには関係ないし分からないわよ!
川を綺麗にし、護岸工事などの自然破壊なんかするなって~の!」
やばい!
お怒りスイッチが入ってしまった。
カッパの人達は、人が川に行う護岸工事の類いにお怒りのようである。
このままでは、やぶ蛇になりそうだ・・・
翼は慌てて話しを変えようとする。
「す、すみません!
で、でも私は国土交通省でも、県の役人でもないので聞いてもどうしようもありません!」
「あ、それも、そっか。平民だもんね。作事奉行でも代官様でもないもんね。」
「平民・・・、ま、まぁ、そうですけど・・。」
「うん、で、もういいかしら、私は行っても?」
「はい、ありがとう御座いました。」
「でもさ、貴方も何か用事でこんな日に歩いていたんじゃないの?」
「あ!! そうだった!」
「暇人かと思ったけど、そうでもないのね。」
「はぁ、まぁ、暇人といえばそうなんですけど、今日に限ってはそうじゃないんです。
それより済みませんでした、呼び止めてしまって。」
「うん、まぁ彼氏捜しの邪魔をされちゃったけどね。」
「申し訳ない。」
軽く頭を下げて謝る翼を見ながら、女性は何かピンときたようだ。
すこし口の端を上げニヤリとした。
「ねぇ、ねぇ、もしかして、貴方、今日はデート?」
「!」
「あ、そうなんだぁ~、ヒュ~、ヒュ~、やるじゃん!」
「え? あ、いや、あの、その・・・・。」
「あのね、坊やの様子を見ていると、彼女なんてできそうもないと思ったのよぉ~。」
「そ、そうですか、それはどうも・・・。」
「でも蓼食う虫も好き好きっていうの、本当にあるのね。」
余計なお世話じゃ、と、翼は思った。
「うん、せいぜい頑張んなさい。」
「あ、ありがとうございます。」
「あ! そうだ! 思い出した!」
「?」
「まずはないとは思うけどさ。」
「??・・。」
「霊能力の強い人が側に居るとね、それに感化されて物の怪を見れるようになると聞いた事があるのよ。」
「はぁ?・・・。」
「貴方、最近、霊能力者と知り合いになったとがない?」
「いえ、無いです。」
「あら、そう・・。じゃぁ違うわね。」
「ええ、違うと思います。」
「そっか、じゃぁね、私は行くわね。」
「はい。」
こうして翼と、その女性は別れた。
翼は、また雪の中を行軍する。