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異次元邂逅  作者: ずくなし
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退治屋として舞台へ その6

 翼は立ち上がり、イノボウと対峙した。


 「ふん、人間風情(ふぜい)にしては度胸があるな。

まぁ、よかろう・・。

変化した体にまだ馴染んでおらんので、体をならすのに丁度よい。

我の良い(まと)になれ。

なに、気にするな。

俺は今、気分がすこぶるよい。

だから楽にお前を死なせてやろう。

とはいっても、直ぐには死ねないだろうがな。」


 そう言ってイノボウは背筋が寒くなるような視線を翼に向け、歯茎(はぐき)を出して笑う。

それを聞いて翼はカチンときた。

それまでは、イノボウのおぞましさに躊躇(ちゅうちょ)していたというのに・・。


 「ふ~ん、的になるのは俺の方じゃないと思うが?」

 「?」

 「有害な物の怪は退治されると知らなかったのかい?」


 「ふはははは! 面白いことをいうな人間。

それは退治屋という(やつ)の言う台詞(せりふ)だ。

お前のような小僧が虚勢をはって言う事ではないわ!」


 イノボウはさも可笑(おか)しげに、(きば)をむきだして笑う。


 「悪いな、その退治屋だ。」

 「?!・・・・。」

 「俺と会ったのが運の()きだ、悪いな、イノボウ。」

 「退治屋だと?」

 「そうだ。」

 「まさかお前か? 菅平(すがだいら)で一度だけ出たという退治屋は・・。」

 「たぶんな。」


 「はははははは、そりゃぁいい!傑作(けっさく)だ!」

 「?」

 「まさか自分から殺されにくる退治屋がいるとはな。」

 「誰が殺されに来たと言ったかな? 頭が悪いんじゃないの?」


 「ふん、今まで活躍もしていない青二才がよく言えたものだ。

そこらの雑魚(ざこ)さえ退治できないお前が。

それに(われ)はそこらの雑魚とは違う。

物の怪の強さもわからない退治屋に、儂が倒せるわけがなかろう?

片腹(かたはら)痛いわ!

いや、可笑しくて涙が出るぞ! はははははは!」


 「まぁ、今のうちに笑っておけ。退治されたら笑えないからな。」


 「今まで物の怪一つ、退治したことのない奴にそう言われるとはな。

我の恐ろしさを知らんようだ。

なら、身に()みてわかるようにしてやろう。

楽に死なせようとしたのはやめだ。

泣き叫び、後悔しながらあの世に行かせてやる。」


 「そうか? まぁ退治されるモノにそう言われてもなぁ。」

 「口だけは回るな、よかろう、後悔して死ね!」


 そういうやいなや、突然イノボウは突進してきた。


 「あ、あっぶねぇ!!!」


 翼はその場に腰を抜かしたかのようにへたり込んだ。

イノボウは翼の頭を通り過ぎ、数メートル先に降り立つ。


 「ふん、腰を抜かして助かったか。」


 「いやいやいや、腰は抜かしていないぞ?

まぁ、それに近い体制にはなったけどさ。

こうしないと、俺の頭と胴が離れていただろう?」


 「そうだ。」

 「いや、ちょっと待て!」

 「何だ?」


 「いや、さっき簡単に死なさないと言ってなかったか?」

 「そうだったか? どうでもいいだろうそんな事は?」

 「よくないだろう! 言った事は守れよ!」

 「馬鹿か、お前は?」

 「はぁ?」


 「人間になど約束などしてどうする?」

 「約束は守るものだろうが!」

 「人間風情に約束する物の怪がいるか、本当に頭の悪い退治屋だ。」

 「頭が悪いだとぉ! それは貴様だろうが!」

 「なんだと!人間風情が!」

 「おう!上等だ!」

 「ほざけ!人間!」


 イノボウが今度は牙を下に向け突進してきた。

翼は慌てて立ち上がると同時に、横に飛びイノボウの突進を(かわ)す。


 どうやらイノボウは物の怪になってもイノシシの習性があるようで、突進すると急には曲がれないようだ。

イノボウは()けられた直後、急停止し振り返る。

急停止したとはいえ、勢いがあり翼から10mほど先での停止である。


 翼は自然体となり、イノボウと向かいあった。

そしてイノボウに抗議をする。


 「危ないじゃないか! へたり込んでいる者に突っ込んでくるなんて卑怯だ!」

 「人間風情が何を偉そうに言ってんだ。」


 イノボウは再び突進する。

今度はただの突進ではなさそうだ。

長い折れていない牙に、靄のような黒いものが巻き付けている。

その霞は不規則に動き形を変えていた。


 呪いか・・。


 翼はそう言うと、手のひらを相手側に向け両手を前に突き出す。

そこにイノボウが体当たりをしてきた。


 ガキッ!


 重い物がぶつかった音がすると同時に、翼の手から眩い(まばゆい)光が放たれた。

するとイノボウは弾かれ、翼の頭上を一回転しながら通過して数メートル先に頭から落ちる。


 ドスン! という重低音が響く。


 翼が後ろを振り返ると、イノボウが頭を地面に突き立て直立していた。

イノボウの牙が岩を切り裂き、そこに牙が挟まっているのだ。

イノボウは首や腹部を曲げ、四肢を地面につける。


 牙をめり込んだ岩から外そうと、首を動かしてジタバタしはじめた。

もし、これが物の怪でなければ、その様子がおかしくて笑えたことであろう。


 やがて牙が岩盤を、ガキン! という音で割るとともに、牙が地上に現れた。

牙は折れることもなく、黒い靄をまとったままだ。

イノボウは何事もなかったように、その場で立ち上がり翼の方を向く。


 翼はというと、先ほどイノボウと衝突した衝撃で足元の岩が少し割れ、そしてわずか後方に移動していた。

ケガはしていないようだ。


 「痛てててて! おう~いてぇ!」


 そういって翼は両手をぶるぶると降った。

そして後方にいるイノボウと向き合う。


 「人間! 貴様! 退治屋をどこで行っていた!」


 イノボウはそう言って翼をにらんだ。

翼はキョトンとした。


 「へ?」

 「どのように物の怪から隠れて、退治屋をしていたと聞いているんだ!」

 「何を偉そうに聞いてんだ?」

 「答えろ!」

 「やだよん、だ! 誰が言うか、この馬鹿チンが!」


 イノボウは、それを聞いて首を軽く左右に振った。

コキコキと、小気味よい音がした。

どうやらそれは威嚇(いかく)したつもりのようである。

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