退治屋として舞台へ その2
喜美は翼の目をジッとみつめた後、翼に今日来た目的を告げた。
「翼くん、あなたに卒業試験をしてもらうわ。」
「卒業試験?」
「そう、退治屋として一人前になったという証明よ。」
「え? ちょ、ちょっと待って下さい!」
「あら、何かしら?」
「確かに僕は霊波が出せるようになりましたよ、ですが、色々と未熟な面があります!
まだ、修行が必要です!」
「何を甘えたことを言っているのかしら?」
「え?!」
「いいこと、あの物の怪にあなたが退治屋だと悟られてから、かれこれ一年経つのよ?
その間に活動をしていなければ、退治屋として未熟で活動できないと分かるわよ。
それならば今のうちにあなたを殺そうと、物の怪の動きが活発になっているの」
「!」
「あなたがここに居るのが見つかるのは、もう時間の問題よ。
なのに修行をまだまだしたいなどと甘えていてどうするの?」
「・・・。」
「それにね、私から教えることはもうないわ。
実践をし腕を上げていく時期なの。
修行などと言ってユリに甘えている場合!」
「す、すみません・・。」
「分かったなら、今日、物の怪を退治してもらいます。」
この喜美の言葉に、ユリが反応した。
「お母様! 今日ですか? 今日、実践ですか!」
「そうよ、ユリ。何か問題でも?」
「・・・い、いえ。でも、あまりに急ではないですか!」
「急? ユリ、貴方が翼くんに甘々でどうするの!」
「え!」
「物の怪は、いつ、どこで、翼くんを狙ってくるかわからないのよ?
あなたが翼くんを甘やかして、翼くんがそれに甘えていたらどうなると思っているの?
何かあればユリが助けてくれるなんて、貴方に依存したらどうなるかしら?
そんな甘ちゃん、簡単に物の怪にやられるわよ?」
「・・・そうですね。すみません・・。」
「分かればいいわ。」
ユリは喜美の言葉に、そっと唇を噛む。
翼はおずおずと、喜美に聞く。
「あ、あのお母さん、卒業試験というのは・・。」
「この山を二つ越えた山に、貴方を探し廻っている物の怪がいるわ。
それを退治しなさい。」
「えっ!・・。」
「怖い?」
「はい・・。」
「そう、でも、それでいいわ。怖いと思わなければ隙が生まれる。
常に怖いと思い、隙を見せないよう注意深くする事が大切よ。」
「はい。」
「それと退治は一人でしてきてちょうだい。」
「え!」
「え、じゃなくて、ご返事は?」
翼が答えようとした時、先にユリが喜美に反論した。
「お母様! それはダメ!」
「なにがダメなの?」
「初めての退治よ! 最初くらいは二人で行うべきです!
翼くんがメインで戦って、私はそれの補助を行います。」
「何を甘えた事を言っているのかしら?」
「え?!」
「初めての退治だからどうしたというの?
一人ではできないとでも?
そんな退治屋など、これから先、やっていけないわよ?」
「・・・。」
「それによ、最初に二人で退治して、ユリがいたから安心してできたと思ってもいいのかしら?
深層心理に依存性を植え込んでしまうわよ?
ユリ、あなたはそれでもいいのかしら?」
「そ、それは・・、でも・・。」
「いい? 今の翼くんははっきり言って、貴方より退治能力は高いのよ?
ただ、実践経験がないだけ。
でもね、ユリ、貴方は物の怪退治の実践経験を翼くんに教えてたわよね?
それを翼くんがしっかりと身につけていれば、初めての実践経験でも十分に対応できる。
それとも翼くんには、その教えが身についていないのかしら?
あるいは貴方の実践経験など、役に立たないのかしら。
貴方の教えって、二束三文にもならない物だったの?」
「お母様、教えたことに自信はあります。
でも・・、最初の相手が翼くんより強かったらどうするの、お母様?」
「ああ、それはないわ。」
「え?」
「昨日、気配を確かめてきたけど大した物の怪ではないから。」
「え!」
「それでも不安かしら?」
「・・・それなら大丈夫かもしれませんが、でも・・。」
「あら、私の霊能力での感知など信用できない?」
「・・・いえ。」
「なら、いいわね?」
「・・はい。」
「じゃあ翼くん、この山の稜線に沿って南に進み、2つめの山に行って。
今から行けば夕暮れには着くわ。
物の怪が出やすい時間でちょうどいいでしょ?」
「・・・わかりました。」
「じゃあ、あなた、渡して差し上げて。」
「翼くん、このリュックにテント、携帯食、水など一式入っている。
一泊二日の野宿に必要な物を揃えておいた。」
「ありがとうございます。」
「言っておくが退治に失敗したら、逃げ帰って来るんだぞ。
無理をしてはならん。
ああ、それとだ・・形代を用意しておいた。
形代の使いかたは知っておるな?」
「はい、以前、ユリさんからもらったことがあります。
それを物の怪になげると、僕だとおもってそちら側に襲いかかるとか。」
「そうだ、それを5つ程、このリュックのサイドポケットにいれてある。
くれぐれも水に濡らしたり、汚したりしないように。
いいね?」
「はい。ありがとうございます。」
すると喜美が翼に声をかける。
「公一郎さんが言ったことは守るのよ。けっして無理と油断はしちゃだめよ、いいわね。」
「はい、お母さん。」
翼がユリを見ると、心配そうな顔をしてこちらを見ていた。
「ユリさん、大丈夫だよ。」
「翼くん・・。」
「だから、心配しないで待っていて。」
「うん・・。」
翼は、ユリの父、母、そしてユリの顔を順にもう一度見た。
そして
「では行ってきます。」
そう行って翼はリックを背負い、小屋を出た。
ユリの両親と、ユリは翼を小屋の前で見送る。
翼の姿が見えなくなると、ユリはポツンと呟いた。
「大丈夫、だよね・・。」
「あら、心配?」
「心配よ、お母様。」
「だったら貴方も行きなさい。」
「え?! だって翼くんに一人で行けと・・。」
「あら、私は翼くんに一人で物の怪を倒しなさいと言っただけよ?
翼くんをメインに二人で倒すのはダメだけど、危険な状態になったときの保険として、ユリが付いて行ってはダメなんて言ってないけど?」
「え? あ、え? でも、翼くんだけ今、送り出したじゃない・・。」
「ユリと一緒にいけば、ユリに依存しちゃうでしょ?」
「あ!?」
「やっと分かったみたいね。」
「お母様、有り難う!」
「ふふふふふ、いつも通りのユリに戻ったわね。」
「もう・・、お母様ったら!」
「でもね、いいこと? 翼くんに最後の最後まで気づかれないようにしなさい。
そして、翼くんが多少の怪我や、軽い呪いを受けるぐらいは我慢し手を出さない事。
ただし命や、重傷を負うような危険な状態なら助けなさい。
それから貴方の補助なしに翼くんが一人で倒したら、あなたは翼くんに気がつかれないように戻りなさい。
約束できる?」
「・・はい。」
「では、そこの木の陰を見てみなさい。」
「え? あ、はい・・。」
木の陰に何があるのだろうか?
ユリは怪訝な顔をして小屋の側の木に向かう。
そこにはリックが隠してあった。
喜美の用意周到さに、ユリは苦笑いをした。




