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異次元邂逅  作者: ずくなし
32/42

退治屋の修行・・・

 翼が退治屋になるための修行を開始してから、3ヶ月が過ぎようとしていた。


 今、翼は滝行(たきぎょう)をしている。

つまり、滝に只管(ひたすら)打たれ続けているのである。


 季節は8月に入り、普通なら水遊びが楽しい季節であるのだが・・。


 「ゆ、ユリひゃん!! も、もう、い、いいんじゃない!」

 「だめよ、まだ打たれてから1時間しか()っていないじゃない。」

 「い、一時間もやれば十分じゃないかなぁ! こ、これ以上やったら死んじゃう!!」

 「・・・。」

 「ユリひゃ~ん!!・・・、ぐすっ・・・。」


 翼は水の冷たさにガクガクと震え、半泣き状態である。

同じように滝に打たれているユリは、何処(どこ)吹く風といった様子であった。


 あまりに懇願する翼に、ユリは一つため息を吐いた。


 「はぁ・・仕方(しかた)ないわね、今日はこれで終わりにしましょう・・。」

 「た、助かった~・・・。」


 そう言うや(いな)や、翼はよろよろと滝から身を乗り出した。

そして、滝壺(たきつぼ)に足を(すべ)らせ(ころ)んだりしながら、なんとか川から上がる。


 今居る場所は、とある標高の高い山の奥のまた奥。

道なき道を歩いて、こんなところに滝があるの?という場所である。


 滝の側には粗末な小屋があり、そこを住処(すみか)としての修行である。

その小屋でユリと二人だけで()らしての修行であったのだが、二人の間には若い男女間のそれはなかった。


 それというのも修行が厳しく、欲情をしている暇?がないこと。

それに翼がヘタレであったことが大きいのである。

そしてユリはというと・・まぁ、その・・、そういう事である。

つまりヘタレ同士だったのである。


 言うまでもないが、二人だけでの修行はユリの父が断固反対し、自分も付きそうと言っていたのである。

しかしユリの母の一喝でそれはなくなった。


 どうやらユリの母は、二人がそうなってもよいと考えていたようだ。

つまり、ユリに翼と仲良くやりなさい、という事である。

ユリの父親は、かなりこの件で落ち込んでいたのは言うまでもない。


 とどのつまり、ユリの母・喜美が父より権力が上なのである。

結婚前は大和撫子(やまとなでしこ)そのものとたたえられ、聖母マリアのようだと言われた喜美であったが、結婚するということはそういう事なのである。

女は弱し、されど母は強し、この格言がいかに人生を現しているかがわかる。

いや、男とは女性に決して敵わないようにできている生物なのかもしれない。


 定期的にユリの母はここを訪れて翼に指導をしており、どうやら翼は退治屋としての筋はよいようである。

ただ、ちょっとしたきつい修行で翼は()を上げた。

それはユリと二人きりのときであり、ユリの母や父の前では毅然としていたのである。

つまり、ユリには甘えていたという事である。

だが、言葉では甘えるが修行を怠ることも、手を抜くこともなかった。


 ユリはというと、そのことが分かっており、甘えてくる翼を軽くあしらっていた。

良妻賢母となりそうなユリなのである。


 翼の修行は、深夜、山の中の道なき道をかけまわり、明け方近くに睡眠を取る。

そして滝行(たきぎょう)

座禅に、霊波を出すための訓練と、びっしりとしたスケジュールが組まれていたのである。


 そして翼がいる山は、ユリの一族の所有している山だ。

物の怪も沢山生息しているがユリの一族と親交があるため、他の物の怪には翼がここにいる事が伝わることがない安全な山であった。


 そして翼には課題が課せられていた。

翼はこの山では、物の怪に姿を見られないようにするという課題である。


 つまり霊的な索敵で物の怪の存在を知り、その物の怪を避けて修行をするのである。

もし、物の怪に見られたらご飯が抜きになる。

1回みつかると一食が抜かれるのである。


 この山に来た当初、三回どころではなく十数回見つかっていた。

さすがに三食抜くのは忍びないので、夕飯だけは出されたのだが・・。

今ではほとんど物の怪に見つかることはなくなっていた。

格段の進歩である。


 霊波も出そうとして10回に5回は出せるようになった。

5割の確立はとても実用的ではないが、1ヶ月ほど前まで出せなかったことを考えれば格段の進歩である。


 ユリはその進歩に驚愕していた。

ユリの母・喜美もまさかそこまで短時間でなるとは思わなかったようで、驚きと嬉しさで一度翼に抱きついたくらいである。

とうぜんユリは母に怒り心頭となり、喜美は笑いながら謝るという状況になった。


 翼はというと喜美に抱きつかれ顔を真っ赤にしていたため、喜美にからかわれ、ユリからは怒られたのは言うまでも無い。

翼にとっては災難な・・いや、女性に抱きつかれて嬉しい?記念日となったようである。


 さて、言い忘れていたが翼もユリも会社は辞めている。

これは仕方がない事である。

会社に物の怪の退治屋になるための長期休暇を下さい、と言って、はい、わかりました、受理します、などということはないのだから。


 ただ、ユリと翼が一緒にやめたことで会社では、かなり噂が立った。

ユリの家は旧家でお金持ちである。

そのため推測が飛び交ったのだ。

結婚して婿入りするための準備だとか、家の格式で結婚が許されず駆け落ちをするとか言われたのである。


 それと翼はユリの意外な一面を知った。

それはユリが物の怪を退治するときは、仏具である独鈷(とっこ)を使う必要があることだ。

翼は仏具を必要としていない。

つまりユリは霊波を体内から出すときは、仏具を介して出す必要があったのである。

それが純粋な退治屋かどうかの違いであった。

仏具を触媒にすると霊波を出しやすくなる反面、霊波の威力が小さくなるのが、この業界?での常識であった。


 それを知った翼は、さらにユリは自分が守らねばならいと思ったのである。

しかしユリは、口にはしないが、自分の命に代えても翼を守る気でいるのである。

それというのも、翼が物の怪と関わるようにしてしまったという負い目と、翼に惚れてしまったからである。

互いが互いをなんとしてでも守る、そう口に出さずに思い合っていたのである。


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