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異次元邂逅  作者: ずくなし
31/42

翼の決意・・

 ユリが物の怪を取り逃がしたということに驚く両親を見て、翼は首を傾げた。

やがて翼は驚いたのではなく、取り逃がしたことを問題にしているではなかろうかと考えた。


 翼はあわてて、物の怪を取り逃がした責任が自分にある事を話す。


 「す、すみませんでした!

あの物の怪を取り逃がした責任は僕にあります。

物の怪が逃げたのは、ユリさんが驚いて隙ができたからであって・・。

それというのも、僕が物の怪の犬を蹴飛(けと)ばしてユリさんを(おどろ)かせたからです。

もし僕が余計な事をしなければ、ユリさんは物の怪を逃がすことなく退治できたはずです。

申し訳ありません!」


 そういって翼は頭を下げた。


 するとユリの両親、そしてユリまでもが、ため息を吐いた。


 「え?」


 翼はなぜ三人が同時にため息を()いたのか分からなかった。

それに気がついた公一郎は、翼に驚いている理由を話し始めた。


 「違うんだ、翼くん・・。」

 「えっと・・、何が違うんですか?」


 「いいかい? 物の怪を逃がすことなんて珍しいことではないんだ。

あのモノ達は本能で生きている。

だから危ないと思ったら即座に逃げ出すんだ。

だから退治しようとして、逃げられたとしてもしかたがない。

確かにその後、物の怪が人を襲う可能性はある。

それは仕方のない事だ。」


 「そ、そうなんですか?・・。

あ! でも逃がしたら次から逃げ回って捕まらないのでは?」


 「物の怪というのはね、ある意味楽天家なんだよ。

今度は勝てるかも知れないと思い逃げないから問題ない。」


 「はぁ・・、では・・?」


 「問題なのは、翼くん、物の怪が君を認識して逃げたという事だ。」

 「え? だって僕はもうカッパ達に既に認識されていますよ?」


 「そうじゃない、君を退治屋だと物の怪が認識してしまったという事だ。」

 「?」


 「逃げた物の怪は仲間にこのことを話し、物の怪に情報が共有されてしまう。

それの意味するところ、わからないかね?」


 「あの・・分かるかどうかという前にですね、僕は退治屋じゃないですよ?」


 「わかっていないね・・君は。

いいかね、君は今日、物の怪に霊波を放っただろう?」


 「霊波って、もしかして僕が物の怪を蹴ったときの、あの閃光(せんこう)ですか?」

 「そうだ。」

 「あれが霊波だというなら、そうなのかもしれませんが・・。」


 「いいかい、霊波は退治屋が使う物だ。つまり、退治屋しか霊波を出せないんだよ。」

 「え? 偶然に霊波が出せただけの僕が、退治屋だと認識されるんですか?」

 「そうだ、今日から君は物の怪たちに退治屋として認識される。」


 「はぁ・・。でも、それって誤解ですよね、退治屋に認定なんて。

誤解ならそのうちとけるでしょう?」


 その説明にユリが(あき)れて声をあげた。


 「何を暢気(のんき)な事を言っているのよ!」


 「え? だって僕は退治屋じゃないし、誤解ならとけるものでしょ?」


 「あのねぇ、霊波は物の怪にとっては、人が拳銃をもっているようなものなの。

誰だって拳銃でなんか狙われたくないでしょ!

物の怪にとって翼くん、あなたは危険きわまりない人間だと物の怪が認識してしまったの。

この意味、わかる?」


 「え? だって僕、霊波なんて出せないよ?

今日はなぜか出たけど、また出せといわれても無理。

出し方なんてわからないよ?」


 「物の怪からしたら、そんな事はどうでもいいことなの。

彼らからしたら、どうあれ翼くんは危険なの。

偶然だろうがなんだろうが、霊波が出せるのは事実なんだから。

物の怪にとって危険な人間は、消したくなると思わない?」


 「なるほど・・、そうか、そういうことかぁ、うん、納得。」

 「何を暢気(のんき)に納得してんのよ! これから翼くん、命を狙われるわよ!」

 「そうだね。」

 「そうだねって・・、翼くん、あなたねぇ・」


 ユリの言葉を遮り、黙っていた公一郎が口を開いた。


 「翼くん、覚悟したんだね?」

 「はい。」


 「え?」


 ユリは訳がわからず、困惑の声をあげる。


 「ユリ、翼くんは退治屋になると決めたんだ。」

 「な、何をいっているの! 翼くん!」


 「ユリさん、僕はもう物の怪に退治屋だと認識されちゃったんでしょ?」

 「え? ええ、まぁ、そうだけど・」

 「だったら退治屋になって身を守るしかないんじゃない?」

 「そんなこと無い! 私が命にかえても守る!」


 「それじゃ、僕はユリさんの足手(あしで)まといにしかならない。

ユリさんはそれが嫌だと僕に言ったよね?」


 「そ、それは!」


 「それにユリさん、僕が足手まといとなって君に何かあったら、僕はどうすればいい?

僕の気持ちを考えてみて?」


 「!・・・・。」


 ユリが何も言えず、(くちびる)()みしめた。

公一郎は、ユリに声をかける。


 「ユリの負けだね・・。

物の怪に認識された今、退治屋になるのが一番だ。」


 「でも! 翼くんは(やさ)し過ぎる!」

 「そうだね、確かにその通りだ。」

 「だから、私が(たて)になれば!・」


 「いいかいユリ、お前より翼くんの方が退治屋としての力は上だ。

仏具(ぶつぐ)も無しに、()りだけで物の怪を退治したのだからね。」


 「でも、それは小さい物の怪だからよ! 退治屋なんて危なすぎる!」

 「ユリ、冷静になりなさい、物の怪が大きかろうが、小さかろうが同じことだ。」

 「う!・・。」


 「それにユリを助けたいと思う気持ち、そしてそのためには自分も倒れてはいけないという気概(きがい)があれば、退治屋として十分にやっていける。

何よりお前と翼くんは相性(あいしょう)もよい。

よい退治屋になるだろう。

そう思わんか?」


 「そうよ、ユリ、私もそう思うわ。」

 「お母様まで・・・。」


 「ユリさん、僕を信用してくれないかな?

僕はユリさんの力になりたい。

そして約束する。

君を悲しませないと。

君を守るためなら、僕は冷静で非情になれる。

まあ、それには実践と修行が必要だとは思うけど・・。

でも、君が協力してくれるなら、なれる。

いや、なってみせる。

協力してくれるよね?」


 「ばか・・・、そう言われたら、うん、と、言うしかないじゃない・・。」

 「え?」


 「ふふふふふふ、ユリは素直じゃないんだから。」

 「お母様!」

 「はぁ・・、父親の前で惚気(のろけ)るでない、ユリ・・。」

 「の、惚気てなんかいません!」


 「え? 惚気ていたの?」


 翼が驚いた顔をし、素っ頓狂(すっとんきょう)な声を上げた。

そんな翼に喜美が微笑んで答える。


 「そうよ、ユリは翼くんにぞっこんよ?」 

 「え? だ、だって、僕はユリさんから足手まといと言われた男ですよ?」

 「ばか・・。」


 「え? バカって・・。」

 「もう、翼くんのドンカン、ばか、あほ! ああああ、もう!」


 「ユリ、だから父親である儂の前で惚気るでない。 翼くんを(なぐ)りたくなる。」

 「え!! 僕、殴られるんですか!」

 「ああ、そうだ、一発殴らせろ!」

 「やです! 暴力はいけません! 断固反対します!」


 「はぁ~・・・。 あなた、いい加減になさい!!」

 「す、すまん、喜美、つい本音が出てしまったわい。」

 

 「本気だったの、お父様・・。」


 ユリはそう言って、ジト目で公一郎を見た。

公一郎はユリから目を()らす。


 翼はというと・・、背中に冷や汗をかいていた。

物の怪よりも、お父さんの方が怖いと思ったからである。

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