え? カッパだったりして・・・ またか!
カッパと別れた翼は気分を切り替え、デートの待合場所へと急ぐ。
雪はあいかわらず降り続き、足下の雪は徐々にに嵩を増す。
そして夜の帳が下り始め、辺りは暗くなってきていた。
街灯は雪で乱反射され役に立っているとは思えない。
だが道は積もった雪で明るく見えるため、歩くのには困らない。
しかし、車のヘッドライトが眩しくて困る。
それというのも、雪で前が見えづらいせいかアップにして走る車が多いためだ。
迷惑この上ない。
どうせなら雪が車のヘッドライトを拡散し眩しくないようにしてほしいものである。
ほんとうに何も役に立たない雪だと、翼は思う。
やがて翼は橋に辿りつき、橋を渡り始めた。
するとヘッドライトの逆光で黒く見える人影が小走りで、こちらへとやってくる。
「あぶないなぁ雪道で走るなんて、こけてもしらないよ・・・。」
翼はそう呟きながら、呆れた顔をした。
だが・・。
長野市の人は転びそうでこけないのである。
大学時代、この市にスキー帰りに寄ったことがある。
その時、市街地は雪道で観光がてら歩いた時のことだ。
雪で足が滑り怖くて、恐る恐る慎重に、ゆっくりと翼は歩いた。
だが、それを横目にこの市の人達は皆、雪などないかのように早く歩くのである。
いや、歩くというより足を滑らせてスキーをしているかのように進むのであった。
関心した翼はそれをまねた。
そして物の見事にコケたのである。
それも盛大に、両手をアワアワさせて・・・
・・・・
周りの人は、翼がこける瞬間を見ていて笑いながら大丈夫かと助け起こしてくれたのである。
幸いにも雪がクッション代わりをして、倒れても怪我をすることはなかった。
だが、翼にとっては記念すべき黒歴史の1ページとなった。
大変に恥ずかしい忘れたい記憶の一つである。
だから今も急ぎながらも慎重に歩いているのである。
こちらに向かってくる人は、車のヘッドライトが絶えず後ろからあたる。
そのためシルエットのように黒く見えるだけだ。
シルエットから小柄な女性のようである。
しかし不思議であった。
冬で厚着を着ているはずなのに、男が見とれるようなプロポーションであることが見て取れるのだ。
翼は思わず顔を背けた。
女性をまじまじと見つめて、痴漢か何かの類いされたら大変だと思ったのである。
翼の行動は間違ってはいないが、端から見たらちょっとわざとらしい目の逸らし方あった。
俯き加減に歩いていると、やがてその女性らしき人が直ぐ側に来た。
そして横を通り過ぎようとした時である。
女性の足下が目に入った。
「えっ!!」
思わず大声を上げた翼に、女性が驚きギクリとして立ち止まる。
翼は恐る恐る、ゆっくりと顔を上げ、その女性を見た。
女性は驚いた顔で翼を見ていた。
「あ、あの・・。」
女性は戸惑った様子で翼にそう声をかけた。
「私が見えるのですか?」
翼はその言葉に、コクリと頷いた。
翼が先程見た女性の足下であるが、素足だったのである。
それも水かきが付いて。
もうおわかりいただけたであろうか・・。
そう、彼女はカッパなのであった。
今日、二人目?の未知との遭遇である。
その女性はすこぶる美人であった。
冬なのに薄いセクシーな服を着ており、その服のV字カット部分からハチキレンバカリの胸元が見える。
思わず翼はチラリと胸元を見てしまい、慌てて目を逸らす。
「あらまぁ、顔を赤くして、可愛いこと。」
そう言って、その人?は妖艶に微笑んだ。
翼はなんとも罰が悪く、また下を向く。
「ねぇ、君、私が本当に見えるのね。」
「・・・はい。」
「へぇ~・・、百年ぶりかしらね、そういう人は・・。」
「え? 百年ぶり?!」
驚いて翼は顔をあげた。
するとその女性は、すこし拗ねた顔をする。
「坊や、私の年齢のことを考えたでしょ?」
「あ・・、いや、その・・・。」
「ふふふふふふ、まぁ、いいわ。
私達は人と違う世界の住人だもの、驚くのは無理はないわね。
でもね、言っておくけど、私は人間に例えると16歳くらいよ?」
「へっ!!」
翼は素っ頓狂な声を上げた。
いやいやいや! 16歳なんて有り得ないでしょ!
だって妖艶の美女ですよ!
現代の16歳の女性なんて言っては失礼ですけど、今の彼女とくらべたら幼稚園児のように見えますよ?
きゃあ~、このペンダント、かわゆい! だの、ねぇねぇ、この服どう? 可愛すぎない?とか言って、16歳と言うとかわいこぶりっこ全盛期の年齢ですよ!
かわいさだけを求めて、妖艶さなどという言葉はゴミ箱に捨てているんですよ?
おそらく20代の女性でも同じだよ?
それに、このカッパの女性のようなプロポーションの子、まずいない!
いるとしても海外の映画に出てくる女優以外は想像がつきません!
ぜ~ったいに、純日本人ではあり得ません!
そう翼は心の中で呟いた。
そう・・日本中の女性を敵に回すような事を翼は考えたのである。
そんな様子の翼を見て、カッパである女性は声をかける。
「あら? また変な事を考えているでしょう?」
そう言われ、翼は顔をブンブンと横に振る。
その勢いは扇風機も真っ青、頭に積もった雪がふっとんだのである。
ふとんがふっとんだ、どころでは無い勢いであった。
「まぁ、いいわ、ねぇ、私が見えたなら、カッパのオジサンを見なかった?」
「え? あ、はい、見ました。」
それを聞いた女性はグンと顔を近づけ、勢いよく翼に聞く。
「どこで!!」
「あ、いや、ここから300m位の所で・・、チャリに乗っていましたけど。」
「そう! ありがとう!」
そう言って女性は踵をかえして、さきほどカッパがチャリとともに倒れた場所に行こうとした。
それに翼が尋ねる。
「あ、あの、その人が何かしたのですか?」
「あのバカね、私の彼氏なの。」
「え? あ、あのオジサンが彼氏ですか!!」
「ん?! 何? なんか文句ある?」
女性に睨まれ、翼はギクリとした。
「す、すみません!」
「はぁ~・・・、まぁいいわよ。
ねぇ坊や・・・。」
「は、はい!!」
「いいこと、女性と男性の間に年なんて関係ないの。」
「そ、そういうものですか?!」
「ふふふふ、そうよ。」
「し、失礼しました!」
「あら、どうしたの? なにオドオドとしてるよ?
私、怖かったかしら?」
「あ、いぇ、その・・あの・・。」
「そっか、ごめんね、ついカッとしちゃったわ。
でもね、覚えておいて、女性は恋に生きているの。
でもね、そのため恋におちる相手は誰でもいいわけじゃないのよ?
女性の持っている直感、感性をバカにしちゃぁ、いけないわよ?
当然相手の経済力も魅力には入るけどもね。
とはいえ、経済力は二の次になる事もあるけどさ。」
「はぁ・・。」
「いいこと、あなたはペラペラな男になっちゃだめよ?」
「え?」
「見かけや見栄だけの男になるなっていうの!」
「はい!」
「それから見かけ倒しの女に欺されないよう、目を鍛えないさいよ?」
「はい!!」
「うん、分かればよろしい、じゃあね。」
そう言って立ち去ろうとした女性に、思わず翼は声をかけた。
「あ、あの!!」
「?」
「今日、突然、僕は貴方たちが見えるようになったんです。」
「・・・だから?」
「その、どうして見えるようになったのかな、と。」
「ああ、そういう事かぁ・・・。」
「何故そうなったか、知っている事があるなら教えてくれませんか?」
「え? いいじゃない、別に見えたからって問題ないでしょ?
気にする事もないじゃん。」
「い、いや、困るんです!」
「どうして?」
「人と違っていたら困るでしょ?」
「なんで?」
「だって、例えば道を歩いていて突然道をあけたら、何もないのによけている変な人だと思われますよ?
それとか他の人が見えないのに、うっかりあそこにカッパがいるよ、などと言ったら、周りから精神科に行けといわれちゃいます!」
「え~、別にいいじゃん、そんなの。」
「いや! よくない!」
そう言って、今度は翼がその女性に顔を近づけた。
女性はのけぞって、手を前にだす。
「ちょっ!
ど~どうどう! お、落ち着きなさい!」
「あ! す、すみません。」
「まぁ、貴方が何故困るのかはわからないけど・・・。」
ここまで説明して、何故、わからない? と、翼はカクン、と、肩を落とした。
最初に出会ったカッパは、偶然たまたま見れただけで、もう見れることはないと思っていた。
だが、すぐに別のカッパ・・女性を見れたことから、たまたまの偶然、宝くじに当たった確率から、いつでも何処でも”何処でもドア”で、どこにでもいける確率だと確信した。
つまり簡単にいうと、たまたま偶然にカッパが見れたのではなく、日常的に見れるという事である。
翼が見える体質をなんとかしたいと思うのは当然の必然であった。