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異次元邂逅  作者: ずくなし
27/42

迷い その2

 ユリの車の中で、翼は(うつむ)いたまま無言であった。

ユリは運手をしながら、ちらちらと翼を見る。


 やがて車が止まった。

翼はアパートに着いたのかと思い、降りようとしてドアの取っ手に手をかけた。

だが、ドアを開けずにユリに問いかける。


 「ここは・・、何処?」

 「大室古墳(おおむろこふん)・・、公園よ。」


 そう言ってユリは車を降り、小さな川を挟んで芝生が敷き詰められた広場に歩いて行く。


 翼はその様子をボンヤリと(なが)める。

ユリは翼が付いて来ていない事に気がつき、振り向いた。

そして何も言わず、また前を向くと歩き始める。


 翼は一度(うつむ)いてから、すこしだけ顔を上げユリの後を追う。

よく見ると広場を囲むかのように、古墳があちこちに見受けられた。


 ふと気がつくとユリは立ち止まっており、翼を待っていた。

そして翼が直ぐ側まで来ると、また歩き始めながら翼に声をかけた。


 「前に話したわよね、私のご先祖がこの大室古墳の豪族だったと。」

 「え? あ、ああ。」

 「まぁ、眉唾物(まゆつばもの)の話しだけど・・、でもね、私はそうだったかもしれないと思うの。」

 「・・・。」


 「古墳時代は、シャーマン、つまり卑弥呼(ひみこ)のような霊能力者であり、呪術者がいたはずよ。

そして占いなどの霊能力は女性が圧倒的に多いから、おそらくシャーマンは女性。

そしてシャーマンの占いを信じ、集落の人はそれに従い暮らしていた。

つまり、シャーマンは権力者でもあり、人々を霊的な力で導く巫女(みこ)でもあった。

私はそう思うの。」


 「・・そうかもしれないね。」


 「ねえ翼くん、シャーマンは一人で占い、一人で集落の人々をまとめられたのかな?」

 「え?」

 「私、思うの。平安時代に物の怪が横行していたのだから、さらにその昔はもっと居たと。」

 「?」

 「むしろ人々は物の怪と()み分けをして、意外と交流すらあったかもしれないわ。」

 「?・・・。」


 「でも物の怪は人と違うから、災いをもたらすモノも必ずいたはず。

シャーマンは霊能力があるのだから、災いをもたらす物の怪が排除できたと思うの。

でもシャーマン一人だけでは、村人を守れない。

そう私は確信するの。

だって、縄文や弥生時代は自然豊かで、自然は彼ら物の怪に活力を与えてくれるもの。

つまり、パワースポットが今の比ではなかったはずよ。

物の怪が現代より弱いはずがない。格段に強いと思うの。

つまり、人より霊力が強い物の怪が、人と敵対したら人は終わりよ。

シャーマン一人で対処できないなら、シャーマンを守る者、守人(もりびと)がいたに違いないわ。

そして守人は物の怪の退治に特化していたとも思うの。

つまり、今でいう退治屋よ。」


 「え?」


 「この公園にある古墳群の中には、その退治屋の墓があっても不思議はないと思わない?」

 「え? あ・・、うん・・・。」


 「それでね、シャーマンも側にいて守ってくれる人が思い人(おもいびと)であっても不思議ないわ。

だって生死を共にする覚悟と信頼がないと、二人で物の怪相手などできないもの。」

 「?」


 「それでね、守人が物の怪に殺されたら、シャーマンはどうなると思う?」

 「え?」


 「女性はね男性より心の切り替えと、判断力があると私は思うの。

女性にはね、冷静で非情な面が隠れているからよ。

でもね、反面、男性以上に異性に対し執着(しゅうちゃく)し、守りたいという気持ちも強いわ。

だから、思い人の守人が物の怪に殺されたら、それに気を取られ簡単に物の怪の手にかかったシャーマンもいたんじゃないかな?」


 「!」


 「私、思うの。守人はなんとしても自分を守り、シャーマンをさらに守る力がなければならないと。」


 「それって・・、僕がユリさんの足手まといになるという事・・?」

 「そうよ。」


 ユリは、にべもなくそう言いきった。


 「だから翼くん、君は退治屋になってはだめ。

そして自分自信の力で物の怪を近づけず、近づかないように早くなって欲しい。

早く私から離れてくれないかしら。

私は翼くんの護衛ばかりをしてはいられないの。」


 ユリはそう言うと、じっと翼を見つめた。

翼は耐えきれなくなり、目を()らす。


 「さて、帰ろうか。」


 そう言うとユリは(きびす)を返す。

翼は(うつむ)いたまま、何も言わずにユリの後に続いた。


 翼のアパートに着くと、ユリは車から降りず、翼がアパートに入るのを見届けた。

そしてユリは車を走らせる。

関崎(せきざき)橋まで来ると、橋を渡らず道から()れ道路を降りる。

関崎橋の橋脚近く、橋の真下に車を止めた。


 橋の周りは荒涼とした荒れ地だ。

すこし離れたところに千曲川が見える。

そして橋脚から数百メートル離れた先の河川敷は畑だ。

まだ農作業には早い季節なのか、周りには誰もいない。

それを確かめると、ユリはコツンとおでこをハンドルにつけ・・・


 「わあああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 大声を出して泣き始めた。


 「ご・・、ごめん・・翼・・く・・ん!

ま、巻き込みたくない・・の、キミ・・を!

物の怪なんか関わらない人生を! お、送って・・欲しい・・の。」


 そう言って号泣をするユリであった。



 一方、ユリの家のリビングでは公一郎と喜美がお茶を飲んでいた。

しかし二人とも俯き加減で、言葉は少ない。


 ぽつりと公一郎が呟く。


 「お前、これでよかったのか?」

 「ええ、良かったのよ。」

 「そうか・・。」


 そういってまた二人は黙りこむ。


 「ユリは・・・、どうするつもりだろうな?」

 「あなた、ユリは私達の娘よ?」

 「そうだな・・・。」

 「たぶん、翼くんと別れる事を選ぶ・・わ・・。」


 喜美はそう言うと、目から滴がぽたりと落ちた。

公一郎は喜美の手をそっと握る。


 「一族に生まれてしまったユリは、可愛そうだが仕方ない・・。」


 「そう・・ね、あの優しい翼くんならユリの旦那さんにぴったりだったのに。

ユリは物の怪退治に明け暮れて、人の優しさに飢えていたから尚更よね。

翼くんの優しさは、ユリにとって本当に救いだったはずよ。

だから物の怪を見るだけの弱い霊能力だけだったなら、ユリの相手として非の打ち所はないわ。

それなのに、よりによって退治屋の能力を秘めていたなんて、なんて皮肉なの。

退治屋には向いていない翼くんに、なんで退治屋の能力があるのよ。

神様も(ひど)すぎるわ・・・。」


 「もうそれ以上言うな・・、(つら)くなるだけだ。」


 「そうね、でも、翼くんがもう少し非情になれるなら、ユリと居られたかもしれないわね。」

 「ああ、そうだ。でも、それはタラレバだ。」

 「分かっているわよ、そんな事は・・。」


 二人は、そう言うとどちらからとも無く沈黙した。

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