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異次元邂逅  作者: ずくなし
26/42

迷い

 翼は自分のアパートの部屋で一人ボンヤリとしていた。

とっくに日は暮れている。


 真っ暗な部屋で、カーテンも閉めず、ただ、ただベットに横になり天上を見つめる。


 ユリの母、喜美が辛い過去の話しをしてまで、翼に退治屋になることを(あきら)めさせようとした姿が目に焼き付いて離れない。

辛い話しなのに、まるで人ごとのように淡々と話すその姿を。


 「何でそこまでして、俺のことを気遣ってくれるのだろう・・・。」


 翼は自分を思ってくれる優しさに答えられない。

その優しさに対し、罪悪感が渦巻き(さいな)まれ、どうしてよいか分からなかった。



 ----


 翌日の事である。

ユリの携帯が鳴る。

ユリは携帯に表示される番号を見て、出ようか無視しようか迷った。

そして、結局迷ったすえ、出ることにした。


 「もしもし・・。」

 「・・・・。」


 無言であった。

だが、それに対しユリも無言で返す。


 やがて・・・。


 「ユリさん、君のお父さんと話しがしたい。」

 「・・・・。」

 「あれから色々と考えた。」

 「・・・・。」


 「僕は・・・」

 「・・・・。」

 「どうしてよいか、分からない・・・。」

 「そう・・・。」

 「・・・・。」


 「分かったわ、父に翼くんが会いたいことを伝える。」

 「ありがとう・・。」


 ユリは携帯を切って、ため息を吐いた。


 今日は月曜日で、会社に行く支度を調えたばかりであった。

ユリは会社に電話をかけ適当な言い訳をし休暇を取った。

入社以来初めての有給休暇である。



 それから二時間後、翼はユリの車の中にいた。

ユリの実家に向かうためだ。


 翼もユリも一言も話さない。

やがてユリの家に到着し、応接室で翼は一人ソファーに座る。


 暫くして応接室にユリの父、公一郎が入って来た。

翼は立ち上がり、無言で頭を下げる。


 公一郎はそんな翼を見て、肩をすくめた。


 「まぁ、翼くん、座ってくれ。」

 「はい。」


 翼はソファーに座ると、(うつむ)いたまま顔を上げない。

公一郎はため息を一つ吐くと、翼に聞いた。


 「今日は、私に話しがあって来たんじゃないのかい?」

 「・・・はい。」

 「で、話しというのは?」

 「あの・・・。」

 「・・・・。」


 「お()びします。」

 「え? 何を?」


 「お母さんに、辛い話しをさせてしまいました。

ご両親を亡くされた事を。

謝罪は・・、お母さんにするべきだと思いますが・・・。」


 「なるほどね・・・。

妻に直接あって謝罪をしたいが、できない・・か。

妻に会わせる顔がない、と、言うことかな?」


 「はい。」


 「君は妻が話したくない事を話させたと思い、罪悪感を感じてここに来たのかね?」

 「はい。」


 「君は勘違いをしておる。

すべては妻の判断で、君の責任ではない。

今、君が退治屋になれば、物の怪に簡単に殺されると妻が判断しただけの事だ。

ユリの恋人・・、まぁ、恋人と父親としては認めたくはないのだがね・・。

まぁ、それはそれとしてだ・・。

妻はユリの大切な人だから、退治屋に向かない君に退治屋を諦めさせるために話をしただけだ。

妻が決めて話した事であり、君が妻に話すよう仕向けた事ではない。

君が罪悪感を感じる事ではない。」


 「でも・・。」


 「いいかね? これで罪悪感を感じているようでは退治屋など君に無理だという証拠だ。

よいか?

物の怪は霊体といえども意思を持っておる。

もし君が退治屋になったなら、物の怪の気持ちが分かっても退治しなくてはならない場合がある。

冷静な判断ができ、さらに非情でなければならないのだよ、退治屋は。

妻に対し罪悪感で落ち込むような者に退治屋はできぬ。」


 「そうかもしれません。

ですが、僕はユリさんの力になりたかった。

だから退治屋になれる能力が有ると分かって、有頂天になっていたんです。

それがお母さんの辛い過去を話させることになるなんて・・。

でも・・、僕は退治屋になりたい。

ユリさんの力になりたいんです。

僕は退治屋になってはいけないんでしょうか?」


 「わからないのかね?」

 「・・・・はい。」

 「考え方が違うのだよ、退治屋は。」

 「?・・・。」


 「今回の妻に対しての君の謝罪が良い例だ。

退治屋なら、今回の妻が君を退治屋になる事を(いさ)めるために話した事を済まないとは思わないだろう。」


 「・・・。」


 「有り難いと感謝をするだろうな。」

 「え!?」


 「妻は君のためを思って話したのだ。

罪悪感を持って欲しいなどと思ってなどおらぬ。

妻はただ君に退治屋になって欲しくなかっただけの事だ。

そのため、君だからこそ、妻は自分の過去を話し退治屋になる事を(あきら)めさせようとした。」


 「・・・・。」


 「そう考えるならば、謝罪が妻に対する礼儀だと思うかね?」

 「・・・いいぇ。」

 「分かったなら帰りたまえ。」


 「帰る前にお聞きしたいのです。」

 「何をかね?」


 「僕は退治屋になってはいけないでしょうか?」

 「いけないね。」

 「!・・・・、そう・・、です・か、そうですよね・・。」

 「ああ、今の君では無理だ。」

 「分かりました。」


 そう言って翼は席を立ち、公一郎にお辞儀をした。

そして応接室から出ようとドアを開けると、そこにユリがいた。


 翼は目を()らし、玄関へと歩き始めた。


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