デートに誘いたいのだが・・
翌日、翼はユリをデートになかなか誘えなかった。
ユリが退治屋の件で怒っていたからだ。
電話をかけば、確実に怒られたあげく電話を切られる可能性が高い。
でも・・デートはしたい。
携帯をかけようとしては、やめ、また時間を置いて、かけようとしてはやめた。
つまり、ヘタレなのである。
退治屋になりユリの力になりたい。
ユリから守られているだけの立場から、ユリを守れる男になりたいのだ。
でも、ユリは退治屋になることを怒っており、退治屋になる事でユリに嫌われたくない。
どうすればユリを納得させる事ができるか翼にはわからない。
女性とつきあった経験がない翼である。
女心など分かるはずも無く、ましてや女性を納得させなど宇宙人に会う確率より低いのである。
説得する方法が全く思い浮かばずに悩める翼がそこにいた。
そしてため息を吐いて電話をかけるのを諦めようとした時である。
電話がかかってきた。
誰からだろうと携帯の表示を見ると、ユリからであった。
「げっ! ユリさん!?」
女性からの電話に、げっ! は、ないだろう。
それも憧れている女性からの電話である。
まぁ、突然の電話で心構えができていなかったから、わからないわけではないが。
翼は恐る恐る電話に出た。
「も・・、もしもし・・・。」
「あのね、翼くん、今日、これから時間は空いているかしら?」
「え?」
予想外のユリの言葉に、翼はキョトンとした。
そして・・。
え? これって、デートの申し込み?
やった!! 嬉しい!
ん?・・・。
いやいやいや・・待て、待つんだ、俺!
そう・・・・よく考えるんだ。
デートなどという事は、たぶん、無い。
いや、あっては欲しい!
あ~・・、でも、無い、と、思う。たぶん。
だって、昨日、あれほど退治屋の件で怒っていたんだぞ?
怒っていた人が、今日、デートに誘う?
無いよね・・・。
うん、普通は・・・無い。
・・・。
だとすると、何?
もしかして・・
お説教?
お説教か!
お説教だ!!
それは、やだ!
そうだ、それしか無い!
逃げよう!
うん、そうだ、今日は忙しいと言おう!
そう思い翼は口を開きかけた時だった。
ユリが先に話し始める。
「翼くん、お母様・、いえ、母が退治屋の件で話しがあるそうなの。」
「え!?」
「!?・・・」
翼のあまりに予想外だと言わんばかりの反応に、ユリは狼狽えた。
「あの・・、母に退治屋になるための話しを聞きに、翼くんが今日来ると聞いたんだけど。
違うの?」
「あ!! はいっ! そうです! そうでした!」
「もしかして・・、忘れていた?」
「いえ! 覚えています・・です!」
とってつけたように慌てふためく翼に、ユリは疑問に思った。
「翼くん、もしかして退治屋になる事を止めたいんじゃない?」
「え?」
「そっか、そうなのね!
良かった!
なら、そうして!
ね、そうしましょう!
私から、父と母にそう話しておくから。
だから安心していいわよ。
うん! 良かったわ。
安心した。」
「わっ! ま、待って! なる! なるつもり!
じゃない、なるの! 退治屋に!
本当の本当に、なりたいの!」
「え!・・・・、嘘・・。」
「う、嘘じゃない!本当に、本当なの!」
「そう・・・なんだ・・。」
「そうです!! 神に誓って!
なんなら総理大臣に誓ってもいい!
いや、パンダに誓います!」
「パンダ? あの、なんでパンダ?」
「パンダ?」
「そう、パンダ・・。」
「え? 俺、パンダに誓わないといけないの?」
「え? いや、だって翼くん、パンダに誓うんでしょう?」
「え? 何で、俺、パンダに誓わないといけないの?」
「・・・それは、私が聞きたいんだけど?」
「え?」
「・・・。」
暫くして、電話の向こうからため息が聞こえた。
そしてユリは気持ちを切り替えて、翼に話しかける。
「パンダの事は忘れて。で、翼くん、どうするの? 来るの?」
「行きます!」
「じゃあ、時間は何時がいい?」
「今すぐでいいです! あ、でも、歯を磨く時間を下さい!」
「はぁ? あのね、私、今、家に居るの。
貴方のアパートの玄関先にいるわけじゃないわよ?」
「そうなんだ? だったら顔を洗うから、待っててくれる?」
「だ~か~ら~、1分や2分で貴方のアパートに行けるわけがないと言っているの!」
「そうなの? それなら、よかった・・かな?」
「はぁ~・・・、それじゃあ今は10時ちょっとすぎだから、どうしよう・・。」
「そうだね、どうしよう。」
「どうしようって・・・、まぁ、いいわ、それじゃあ午後にしましょ?」
「え! 午後!?」
「え? 何か都合が悪いの?」
「あ、いや、その・・・。」
「何?」
「すぐにでもユリさんに会いたいな、と。」
「え!・・・。」
「だめ、だよね?」
「そ、それは・・・、その、えっと・・。」
「ごめん、急に言い出して。 じゃあ午後2時頃に迎えにきてくれる。」
「え? バカ・・・・、誘ってよ。」
ぽつりと、ユリが小声で呟いた。
だが、あまりに小さな声だったため、翼は聞きのがしてしまう。
翼はユリに聞き返した。
「え? 何? 2時じゃだめなの? なら3時でも・」
「バカ! いいわよ2時で。」
「え?」
「バカ!!」
ガチャリと電話が切れ、プ~、プ~、プ~と無情な音が流れる。
「え? え? ええええええ! え?」
翼は何故、ユリが怒って電話を切ったのかわからなかった。
そして切れた電話に向かって、あわてて話しかける。
「あ、あの! ゆ、ユリしゃん! え? あ、ユリしゃん? あの、その・・。」
焦りに焦り、ろれつが回らず、電話が切れたことにも気がつかず、ひたすらに電話に話しかける翼であった。
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ユリは時間通り2時に迎えにきた。
だが、怒っているようで必要以上に翼に話しかけず、また、話しに乗らない。
翼はそんなユリに、機嫌を直して欲しくて色々と話しかける。
だが、結局、ユリの家についてもユリの機嫌はなおらなかったのである。
 




