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異次元邂逅  作者: ずくなし
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スペシャリストでは無いって、どういう事?!

 ユリは翼に自分がどのような物の怪でも倒せるわけではない事を話し終えると、翼の目を見つめた。


 そしてユリはさらに話しを続ける。


 「でもね、私がこの地域でいままで倒せなかった物の怪はいなかったの。

でも、それはこの地域ではさほど強くない物の怪しかいないだけなのかもしれない。

だから翼くんは、私に全幅(ぜんぷく)の信頼を置かないで欲しいわ。

翼くん自体が物の怪を理解し、物の怪を避けられるようになって欲しいの。

そうなるまで、私が全力で翼くんは守るから。」


 「わかった。」

 「よかった、わかってくれて。」

 「前から聞きたかったんだけど・・。」

 「何?」

 「いつ頃から物の怪の退治をしているの?」


 「小学1年生の時に初めて物の怪退治をしたわ。

退治というよりレビューしたと言った方がおしゃれかしら?」


 そう言ってユリは、悪戯(いたずら)っぽく笑った。

だが、その微笑は(うれ)いを含んだものである。


 翼は小学校1年の頃から、退治をしていたというのに驚いた。

それと同時に、それを話すユリの顔を見て翼は首を傾げる。

(うれ)いを含んだ笑顔に。


 その憂いの訳を、もしかしたらと翼はユリに聞いた。


 「もしかして・・、物の怪退治はできればやりたくないんじゃない?」


 その言葉にユリは目を少し閉じた。

それがユリの心情を物語っている。


 「そうなんだ・・・。でも、せざるを得ない、か・・。」


 「・・・ええ、そうよ。

物の怪の中には本当に退治しなければいけないか迷ってしまうモノがいるの。

でも、人に悪さをする可能性があるなら、ほっとくわけにいかないでしょ・・・。」


 そう言ってユリは(うつむ)いた。


 先程会ったカッパのように、ユリにとって物の怪は友人ともなりうるモノ達だ。

だが危険な物の怪は退治しなければならない。


 だが危険と言っても千差万別(せんさまんべつ)ある。

人のとらえ方で、危険とも、人畜無害ともなり得るのである。

また、ある人には危険と感じても、別の人では全く危険とは感じないかもしれない。

それをユリは一人で判断しなければならないのだ。


 人になど相談できないからだ。

世間や友人は、ユリが物の怪を見ることができ、そして退治をしている事など知らない。

もしそのような事を相談したら、物の怪が見えない人達はユリを嘘つきか、精神疾患だと疑ってしまうだろう。


 だからユリは一人で判断するしかない。

そして、もしかしたらこの先、人に害を与えるかも知れないという、起こるかどうかわからない危険さえも想定しなければならないのだ。

そうしないと、後々、人に害を与えてしまってからでは遅いのである。

だが、そのような物の怪は、ユリとは友達になれたかもしれない。


 しかしユリはあくまで人間であり人間の事を考えなければならない。

だから物の怪との間に一線を引いて、観察し、非情にならなければいけないだろう。

誰か人に相談できれば、多少なりとも心は軽くなる。

だが、できない。

孤独で、辛くて、悲しい事である。


 ユリに退治屋のまねなど止めたら、というのは簡単だ。

しかしユリは覚悟を決めて退治屋をしている。

翼はそれを思うと、なんとか力になりたいと思う。


 しかし・・、今の翼は無力だ。

何もできない。

ただ、言葉をかけるだけしかできないのである。


 翼は、ユリに語りかけた。

極力、明るい声で。


 「ユリさん、物の怪にも(やさ)しいのがいるよね。

あのカッパ達のようにさ。

あのカッパ達もユリさんが好きなんだろうね。

そうじゃなきゃ、カッパのルンさんはあんなにフレンドリーにはならないよね。

物の怪だからと言って差別しないユリさんが、物の怪と向き合い退治をする。

矛盾しているよね。」


 「そう・・、物の怪からみたら(ひど)い女よね。」


 「でも、それにより助けられた人達がいる。」

 「・・・。」


 「でもね、助けられた人達は、ユリさんとは縁もゆかりもない人達だ。

そのような人を、ユリさんは自分の身を危険にさらして守っている。

とてもできることではない。

そして助けられた人達は、ユリさんが助けてくれた事を知らない。

そのため、誰もユリさんに感謝をすることもお礼を言うこともない。

それでもユリさんは、人を助け続ける。

無償の愛という言葉があるけど、そのものだよね。

でも、これほど報われないつらい仕事はないだろうね。

だから、僕は君を尊敬する。

だから君のすることに、僕は無条件で賛同する。

たとえ誰がユリさんの事を何と言おうとも。」


 ユリは翼の言葉を聞き、思わず顔を上げた。

その目に涙が浮かび始める。

だがユリは、涙を流さないように(こら)えた。


 そしてユリは深呼吸を一つした。


 「・・・ありがとう、翼くん。」

 「どういたしまして。鬼教官殿。」


 そう言って翼はユリに敬礼の真似をした。


 ユリは一瞬、呆気(あっけ)にとられ、そして吹き出した。


 「ぷっ! 何それ! 鬼教官て(ひど)くない?」


 「そうかな~? だって僕にとっては鬼教官に間違いないよ。

僕へ物の怪の講義をする時、ユリさんの手に握られたムチが見えたよ。

まあ、幻覚なんだけどね、ムチは。

でも、それほどユリさんは講義に真剣で、怖いんだ。」


 「ふふふふふ、そうね、間違ってはいないかも。」

 「でしょう?」

 「あははははははは。」


 「さて、鬼教官殿、そろそろ小市橋へと出発しませんか?」


 「そうね、でも、さっき私が言った通りにするのよ?

私に何かあった場合、翼クンは私に構わずに私の車に避難をするの。

いいわね?

車には結界が張ってあるから。」


 「え?・・・、あぁ、うん、まぁ、その・・。」

 「()()()()!!」

 「・・・・はい。」


 ユリは渋々返事をする翼に、疑いの目を向ける。

翼は目をそらしながら、わかったから、ちゃんと従うから、と、返事を繰り返した。


 ユリはため息を吐いた後、では、向かいましょうと言って車の方へ歩き出した。


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