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異次元邂逅  作者: ずくなし
17/42

僕を連れて行って!

 ユリが小市(こいち)橋へ行こうとしていた事を確認した翼は、自分を同行させようと説得を始めた。


 「ユリさん、物の怪に出会っても君がいれば僕は安全でしょ?」

 「だめ! 今回は危険すぎる!」


 それを聞いた翼は少し考えこんだ後、ユリに質問をした。


 「ユリさん、僕が物の怪に襲われないよう通勤に同行してくれているよね?」

 「え? ええ・・。」

 「その通勤において、物の怪に出会わないと言い切れる?」

 「・・それは、言い切れないけど?」

 「じゃあ、危険な物の怪と遭遇する可能性も(いな)めないよね?」

 「それは・・まぁ、全くないとは言えないけど・・・?」


 「だったら、今、小市橋にいるかもしれない物の怪に会いに行く方がいいんじゃない?」

 「どうしてよ!」


 「あのね、気構え(きがまえ)も無く初めて危険な物の怪に遭遇したら、僕はパニックになるかもしれないじゃん?」


 「?」


 「会うとわかっている場所に、自分から行くならパニックにならないでしょ?

それに一度、怖い物の怪に遭遇しておけば、落ち着いて対処できるようになると思わない?

経験しておいた方がよいと思うんだけど?」


 「それは・・、そうかもしれないけど・・。」


 そう言うとユリは考えこんだ。

翼が言うのはもっともだと思う。

それに今日の翼は小市橋への動向を諦めてはくれそうもない。

そう考えて、ユリは覚悟を決めた。


 「分かったわ。翼クンを連れて行く。」

 「ありがとう。」

 「でも、約束して! 何があっても物の怪には手を出さないと。」

 「え? あ、それはもちろんだよ。」


 「例え私が襲われても、絶対に手を出しちゃ駄目よ?

もし私が襲われたら、私を見捨てて私の車に逃げ込むの、いい?」


 「え!・・・・。」


 驚く翼を、ユリはジッと見つめた。

そして、翼に念を押す。


 「・・約束、できるわよね?」

 「・・・・。」

 「してもらわないと連れていけないわ。」

 「でも、ユリさんを見捨てて逃げるなんて・・。」


 「じゃあ、翼くんなら私が敵わない物の怪に勝てるの?」

 「い、いや・・、でも、それっておかしくない?」

 「何が?」


 「ユリさんは物の怪が退治できる自信があるから、行くんでしょ?」

 「自信? まぁ、有ることはあるけど?」

 「だよね? なのになんで最悪の事態を想定するのかな?」

 「それは私が物の怪を退治するスペシャリストじゃないからよ。」

 「へ?」


 翼はそれを聞いて、ポカンとした。

ユリは物の怪を退治できると、勝手に思い込んでいただけなのだろうか?


 いや・・、でも通勤や退社時に妖怪に襲われないように自分をガードしてくれているのだ。

物の怪の退治ができるからしてくれているのは確かだ。

なのにスペシャリストではないとはどういう事だろう?


 困惑している翼を見て、ユリはため息を一つ吐く。


 「はぁ・・、いい、これから話すことをよく聞いてね。」

 「え?・・、ああ、うん・・。」


 ユリは理由を話し始めた。


ユリの一族は平安時代から、霊能力の家系として知られていた。

その当時は物の怪が多く、(たた)りや神隠し(かみかくし)が後を絶たない時代である。

そのため、ユリの一族に豪族から白羽(しらは)の矢がたった。

それは物の怪を探し出せという命令である。

ただし探し出した物の怪の退治は命令されていない。


 それには理由があった。


 ユリの一族は物の怪を感じ、探すのには優れた一族であった。

だが退治は苦手であったのだ。

物の怪を探すのと退治するのは別の能力だ。

両方の能力に優れている霊能力者など有り得ないのである。

だから退治は、退治できる一族に任せるのが道理であった。


 付け加えると、ユリの一族は物の怪を探し出し、物の怪を逃がさないように監視をするのを生業(なりわい)としているうちに、自然と物の怪の生態や弱点について詳しくなったのである。


 そのため豪族は、ユリの一族のような探し屋が物の怪を探し出し、退治屋が退治するという共同作業を指示した。

このような事が日本各地で各々の豪族により行われたのであった。


 だが時代が下ると物の怪を退治する一族の数が少なくなった。

退治屋の一族に霊能力を持った跡取りがなかなか生まれなくなったためである。

これは物の怪を退治したことにより、物の怪の数が減った事が要因の一つとされている。

物の怪の数が減ると、なぜ退治屋として生まれる霊能力者が少なくなるのかは分かっていない。


 さらに、仮に潜在的な霊能力をもって生まれてきても、能力が開花せず一生を終えてしまう者が多数いたのである。

もし、ユリの一族が側にいたなら、潜在的な霊能力は開花できたはずだ。

しかし、ユリの一族のように、霊能力を開花させる一族は珍しい。

日本全国を探せばユリの一族以外に居たことはいたのだが、物の怪に襲われたり、天災などに遭い時代とともに姿を消してしまったのである。


 そして退治屋が定住しはじめた事も問題であった。

退治屋は全国を渡り歩く一族であった。

それというのも、退治屋となる一族は探し屋より少なかったため、日本各地から呼ばれては全国を渡り歩いていたのである。

物の怪がいなくなるにつれ、渡り歩くことが少なくなり、やがて定住することになる。

ただし、定住した場所に霊能力を目覚めさせる一族など都合よくいるわけがないのである。


 これが退治屋がいなくなった原因だ。


 では何故、ユリの一族は退治ができるのか・・。

それは、退治する能力が無いわけではないからだ。

ただ、退治屋より退治する能力が格段に劣るのである。


 しかし退治屋が居ない今、ユリは退治屋もせざるをえないのだ。

本来の退治屋が見たら、退治屋もどきだと揶揄(やゆ)された事であろう。


 だからユリは翼に警告をする。


 「このような訳で、私は物の怪の退治は得意というわけではないの。

どのような物の怪でも倒せるというわけではないわ。」


 「・・・。」


 ユリの言葉に翼は押し黙った。


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