表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異次元邂逅  作者: ずくなし
15/42

花見だ!・・まだ早いけど。 で、なぜに此処に?

 季節は冬から春へと移り変わる。

とはえいまだ寒く、三寒四温が収まりかけサクラが三分咲きとなった頃、翼は大分(だいぶ)、物の怪というものが分かり始めた。


 今日は金曜日であり、明日は休みである。

翼とユリはというと、会社の帰り道に寄り道というプチデートをしていた。

寄り道の目的は、咲き始めたサクラを見るためで有る。

つまり、少し早いが夜桜見物だ。


 空を見ると夕焼けが終わりを告げるかのように、一瞬きらめいた後、夜の帳が下り始める。

しばらくすると、逢魔が刻(おうまがとき)と呼ばれる時刻になる。

逢魔が刻とは言葉の通りの時刻である。

つまり魔物と遭遇しても可笑しくない時刻、または魔物が跋扈する時間帯だ。

この時刻は、日が暮れた直後で目が暗闇になれておらず、目と鼻の先に人がいたとしても気がつけない時刻らしい。


 ちょうどその頃に、二人は目的の場所に着いた。

そこは犀川(さいがわ)の堤防沿で、桜並木のある場所だ。

周りには夜桜を照らすのに程良い明かりがない。

住宅街から外れており、街灯もまたサクラを見るには場所が悪く暗すぎた。


 ときおり堤防を通る車が一瞬サクラが浮かび上がらせるが、ヘッドライトが眩しく情緒も何もあったものではない。

二人は車のエンジンをかけたまま、ヘッドライトで桜に照明をあてる。

そして車から降りて、林立する桜並木を肩を並べて二人で見る。


 三分咲きでもあり、満開のサクラを考えると者寂しく感じる。

夜の寒さに、ブルリと震えた。


 そして何よりも寂しいと思うのは、ビールが無い事である。

寒くても、ビールを飲みたいと思うのが飲んべえというものだ。

だが、車できているため、残念ながらお酒はお預けである。

ユリに気を遣った翼である。


 ノンアルコールという手もあるが、アルコールの無いビールはビールではない。

何が嬉しくて酔えないお酒など飲むのだろう?

人によってはノンアルコールに、焼酎などのアルコールを加えると美味しいという人がいる。

ならば、最初から普通のビールなり、なんなりを呑むべきではないだろうか?

などと、どうでも良いことを考える翼であった。


 とはいえ夜桜に手ぶらでは寂しいので、コンビニでジュース、ウーロン茶、ポテトチップスなどを買ってきていた。


 「翼クン、このあたりは安全地帯よ。

物の怪(もののけ)が出てたとしても、貴方が前に出会ったカッパのアベックくらいなの。」


 「ああ、あの冬場に会ったカッパかぁ~、確かに安心かも。」

 「ええ、彼と彼女は物の怪にしては温厚で、人は襲わないからね。」

 「でも、カッパって人を襲うと昔話にあるよね?」

 「ああ・・、尻子玉(しりこだま)の話しね?」

 「そうそう、それ!」


 「彼女らは人を襲って尻子玉(しりこだま)を食べるなんて信じられないと言っていたわよ?」

 「なんで? だってカッパでしょ?」


 「カッパもね、時代とともに生きているの。

人が美味しいものを次々を開発し食べられる現在、なんで尻子玉なんて食べる必要がある!と、言っていたわ。」


 「そう? カッパなのにグルメなんだ・・。」


 そう翼がユリに話しかけた時だ、二人の横の暗闇から声がかかった。


 「ふん! カッパがグルメじゃぁいけないってか?! あぁん、あんちゃんよぉ!」


 その言葉と同時に、突然に暗闇からカッパがのそりと(あらわ)れた。

まさに何もない空間から突然に現れたとしか形容しようがない。

 

 「げっ! カッパだ!」

 「てやんでぇ! それがどうしたってんでぇ!」


 「な、なんでこのタイミングで、此処(ここ)に出るんですか!」


 「出るだとうぉ! 俺らは幽霊じゃねぇんだ!」

 「す、すみません!」


 「ふん! 俺たちがここに来たのは花見に決まってるだろう! このすっとこどっこい!」


 そうカッパに翼は怒鳴られた。

その直後、女性の声が暗闇からした。


 「ダーリン、そう、けんか腰にならないの!

ねえ君、お久しぶりというべきかしら?」


 そう言って妖艶な女性のカッパが、やはり暗闇から突然現れた。


 「あっ! どうも・・です。」

 「アベックでくるなんてね、ふ~ん、これが君の彼女?・・・。 あれ? ユリじゃん?」


 「お久しぶりね、ルン。」


 ユリはそう言ってニッコリした。

どうやらカッパの女性はルンというらしい。

ユリの様子から、なんか友人つきあいをしているかのようだ。

翼は首をかしげる。


 ルンはまじまじと翼の顔をみてユリに話しかけた。


 「へ~、この坊やがユリの彼氏か~。」

 「えっ? ええっと・・、まだ、彼氏と言っていいかどうか・・。」


 ユリは尻すぼみの声でそう答える。

その答えにカッパのオジサンが、翼に何故か驚きの声をあげた。


 「なんだとぉ、おいこら! 

こんな美女にまだ手を出してねぇのか!

この意気地なしが!」


 カッパの親父・・、いや、男性?が、そう怒鳴った。


 「意気地なしって・・、あのね、僕らはつきあい始めてまだ2ヶ月ちょいですよ!」


 「2ヶ月()つきあっていて、手を出さないなんて男の風上にも置けねぇ!」

 「ちょっと、あんた、人間とカッパでは違うみたいよ?」

 「そんな事あるかよ! 男なんざ、女に惚れたら手を出すもんだろうが!」

 「まぁ、そりゃあ、(おす)の本能はそうだろうけどさぁ?」


 そういってルンはちらりと翼を見た。


 「ちょ、ちょっと、ルン! 翼クンに変な事を(けしかけ)けないで!」

 「変な事って・・、あら、ユリは男性とそうなりたくないの?」

 「!・・・」


 ユリはそれを聞いて真っ赤になった。


 「ほらね、ユリ、やっぱりそうなりたいじゃんか?」

 「ち、違います!」


 「ふ~ん、まぁ、どうでもいいわ、私ら物の怪は人間の考えることなんて分からないし、知りたくもないしね。」


 「そうだろう、ルン! 確かにどうでもいいけどよ、あんちゃん、情けねぇ男だなぁ。」


 そう言ってカッパは可愛そうな者を見るような目つきをした。

情けない男とは、ひどい言いぐさである。

そしてカッパの言うアドバイス?は、翼にとっては余計なお世話でも有った。


 確かに男としては、ユリと()()()()()()の関係になりたいのは確かだ。

しかし、ユリに(せま)り嫌われたくないのである。


 それにユリの可憐(かれん)さは、触れるだけでも壊れそうだし、怖れ多いと翼は思う。

できれば祭壇(さいだん)(かざ)り、朝夕晩にお祈りをしたいくらいである。

聖母マリア像のように・・・。

そう思う翼であった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ