それでいいんです、お父さん・・・、でも・・
公一郎は翼がユリに責任はないという言葉に、一度目を伏せた。
そして、公一郎は話し始める。
「翼さん、私の話すことを最後までお聞き下さい。」
「・・・はい。」
「ユリは100年に一人と言われる程の、秀でた霊能力者なんです。」
「え?」
「ですから普通ならば、翼さんの存在的霊能力に気がつかないわけがない。」
「・・・・。」
「だから・・。」
そう言って公一郎はため息をついた。
「翼くん、あなたは普通ではない。」
「え?」
「ユリでは感じることができない霊能力者なのです。」
「それって・・・、どういう意味ですか?」
「ユリほどの霊能力者でも、霊能力を感じられない一族の末裔だという事です。」
「え? はぁ!、そんな事、あり得ません!」
「では、どうしてユリが見抜けなかった上に、さらに貴方がカッパが見えるようになったと?」
「私だけが見えるようになるわけではないでしょ?
カッパが言ってましたよ、他にも見える人がいると。」
「ええ、確かに。
ですがカッパが見えるようになる潜在的霊能力者なら、ユリは確実に分かるのです。
そのためユリは幼い頃から友人を見極めてきたのです。
そのため幼稚園から大学、就職まで存在的霊能力者と接しないよう、それはそれは気を遣ってきたのです。
ですから当主として自信を持って言えます。
あなたの家系は霊能力者を輩出する一族だと。」
「そ、そんな話し家族からも、親戚からも聞いたことなど有りません!」
「霊能力者の家系で、霊能力者が現れる確率が低い一族がいます。
たとえば曾祖父が霊能力者であったとして、その曾孫までは霊能力者が生まれてこないような。
そのような一族では、霊能力を潜在的に持っていても霊能力が死ぬまで現れないことがあります。
ですから霊能力が現れたときに、当主がその者に霊能力について伝える事が多い。
ただ、そのような教えは普通、家長以外は知らないのが普通です。
他の一族に知られないようにするためです。
ですが、これが近年、裏目に出ているのです。
例えば家長から家長へ伝える前に、教えるべき家長が他界してしまった場合です。
また霊能力者が現れたら、先祖が書いた古文書を渡して伝える場合があります。
ですがこの方法では、戦争や火事で古文書を消失したり、古文書の重要さが伝えられておらず捨ててしまったりするのです。
つまり霊能力のある家系だということが、子孫に伝わらないのです。」
「・・・・。」
「ですから翼クン、君の一族は霊能力者が出る一族だという事を忘れていると私は思う。」
翼は唖然とした。
思いもしなかった事である。
「それで君の霊能力なのだが、物の怪が見えるだけではないと思う。」
「え?」
「物の怪を退治できる霊能力の家系なのではないかと。」
「た、退治?! そ、そんな事、僕にできっこないですよ!」
「ええ、修行なしにそのような事は普通できません。」
「ま、まさか私に修行をさせ、物の怪を退治させようとか?!」
「いえ、違います。勘違いしないで下さい。」
「・・・。」
「私が言いたかったのは、物の怪を退治できる霊能力者というのは、そのような力を本能的に無意識に隠すものなのです。」
「?」
「そうしないと、危険な物の怪に霊能力が覚醒するまえに襲われてしまうからです。」
「!」
「つまり君は本能的に能力を隠したため、ユリには見抜けなかったという事です。
そしてユリに近づいたために、君は霊能力が覚醒してしまった。」
「・・・・。」
「このままでは、危険です。
危険な物の怪は本能で君の危険性を感じて、自己防衛のため襲って来る可能性があります。
君が例えその物の怪を退治したり、危害を加えるつもりがなくても。
だから君の霊能力を目覚めさせてしまった手前、その責任を負いユリは君が寿命を全うするまで誠心誠意尽くすという事です。」
「!・・・・・。」
「わかっていただけましたか?」
そう言った公一郎の目には、哀愁がただよっていた。
無理も無い・・・。
自分の娘の幸せを無にする苦渋の選択だ。
父親なら決して決断しないはずの選択である。
翼は顔を伏せた。
暫く考えて顔を上げ、公一郎の目をジッとみつめた。
公一郎は目を逸らさずに、それを受け止める。
翼は落ち着いた様子で、ゆっくりと口を開く。
「お断りします。」
「え?」
「ユリさんの人生を犠牲になどできません。」
「君は物の怪の怖さを知らない。それでは危険過ぎる。」
「だったら物の怪について教えて下さい。
回避する方法、対処する方法を。
そうすればユリさんが犠牲になる必要なんてないでしょ?
私が物の怪を見つけても動じず、危険な物の怪を先に見つけて逃げればいい話しです。」
「君は物の怪が怖くはないのですか? ユリが君に寄り添えば危険はなくなりますよ?」
「物の怪は・・・怖いです。命も惜しいです・・・。」
「なら・」
「でも、だからといって一人の女性の人生を駄目にしてよいなどとは考えません。」
「・・・。」
「正直言うと、私は喧嘩なんてしたことないし、武術には向いてない。
臆病者で嘘を付くことがへたで、物の怪をごまかせる自信はない。
でも、それでもユリさんに無理強いなどしたくはない。
ならば、貴方に対処方法を教えてもらえばいいだけでしょ?」
「・・・なるほどね、ユリが真剣になるわけだ。」
「?」
「わかりました。本当にそれでいいんですね。」
「はい。」
「そうですか・・・。」
「でも・・。」
「でも?」
「ユリさんとの結婚をお父様である公一郎さんが理由はともあれ容認してくれたのに・・。
すっごく残念です。
ううううう、言った手前ではあるけど、後悔がわいてきました!」
「じゃあ、先程の言葉は撤回して、ユリといっしょになるかね?」
「・・・そうしたいなぁ、けど、やっぱ、撤回しません。」
翼と公一郎は視線をを合わせ、二人とも一瞬黙りこんだ。
そして、ほぼ同時に笑い始める。
「わはははははは、君、面白いね、ははははははは!」
「はははははは、はぁ・・、面白いですかね・・? は、はははははは」
公一郎は右手を差し出した。
翼はその手を握る。
「ほんとうに、これでいいんだね?」
「はい、よろしくお願いします。」
固く握手をする二人であった。
 




