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#20【他意はないが下着を新調してみる】

『出掛けるのか?』


 休日の朝10時半、私にしては珍しく午前中から動き出している。着替えを済ませ、メイクをしているとアールが聞いて来た。私は鏡から視線を外さずにメイクしながら、なるべく明るく答える。


「そそ、今日は(みやび)と女子会なの!だから、アールは留守番しててねー」

『ふっ、女子会な。それ、女()でない奴に限って使いたがる言葉だな。』


 私はメイクをしている手を止め、目を細めてアールを睨む。アールは愉快そうに微笑んでいる。


(うっ…)


 アールの笑顔を見て、私の心臓がギュッと収縮したかのように痛む。胸の痛みはすぐに治まった為、私は最後に髪の毛を整える。身支度を済ませた私が玄関のドアを開け、玄関までふわふわと浮いて付いて来たアールに向かって口を開く。


「じゃ、いってくるねー」

『あぁ』


 アールは素っ気なく返事をしたかと思うと、外に一歩踏み出しアールに背を向けた私に言って来た。


(さき)、気を付けろよ。』


(っ!うっ…)


 再度、私の心臓がギュッと収縮する。喉をコクリと鳴らしてから私は振り返り、返事をする。


「…分かった。いってきます。」



※※※※※


 電車に座りながら私の視線は不意に電車の広告を捉える……そして、顎を親指と人差し指で挟み……先程の出来事を考える。最近、私の心臓がギュッと収縮したように痛むのだ。そして、その収縮率は日に日に増えている気がする……ヤバイ……これが所謂……不整脈?!


(キュー○ンを試すべき?)


 私は目に留まった広告を睨みながら考える。不整脈の症状とキュー○ンの効能について検索する…調べれば調べるほどあてはまる…私は不安になり、今日、雅に相談しようと決意する。



※※※※※


「で?何で新調するの?」


 取りあえす早めのランチをしてから買い物でもしようと言う事になり、レストランに入った。注文した食事を待ってる間の雑談で下着を新調したい事を伝えると雅がニマニマと嫌らしい顔で聞いて来た。


「別に?買え替え時なだけで他意はないけど?」

「ふーーーーーん。」


 雅は口が綻ぶのを堪えているかのように口元を震わせながら長い相槌を打つ。——取り敢えず、話を変える。


「雅は何買うの?」

「あー、私は小豆と餅米かな?」

「っ!何でっ!?」


 雅の買い物の内容に驚くと、雅は「ちょっとねー」と含みのある言い方をしてまたもニマニマと笑って来る。今日の雅は何だか絡み難い……


 そうこうしている間に各々の食事が運ばれて来た。久しぶりの外食に私のテンションは上がる。私は窯焼きピザを頬張りながら、電車で悩んでいた事を思い出し雅に相談する。


「不整脈って内科かな?」

「んー、循環器内科とかじゃない?何?何か症状あるの?」


 流石は雅だわー、頼りになる。分からないながらも私よりは知識がありそうだ。


「うん、最近…こう、心臓がギュッて収縮するような痛みを感じるんだよねぇ。」

「あー、まー、うちらも歳だしねー。」


 そう、近年の私達の話題を独占しているのは二次元恋愛と健康話と老後話のスリートップだ。アールに出会った事と私の離婚によって、最近は形を潜めていた話題だが、やはりアラフォーにとっては気になる話題の一つである。


「私、ジム行ってるからかなー?全然平気なんだけど、運動とかしてなくても突然なったりするの?」

「そうそう、特に家に居る時になるんだよねぇ。」

「……ふーーん、症状が起こる時の()()とか、ある?」

「あー、主にアールと話してる時に突然なる事が多いかなー?」

「ふーーーん、もしかして、アールさんの事考えてる時とかもならない?」

「っ!なる!何で雅分かったの……って、雅?」


 私の返答を聞きながら、雅の顔面は笑いを堪えているかのようにピクピクと動いている。そんな雅の様子に私は心配になる。「雅…あんた、顔面痙攣なんじゃない!?」と言うと物凄ーく怒られた。


「で?アールさんの事、名前で呼んでる?」

「あ、いや、普段二人だし…あんまり呼ぶ機会ないんだよね…」

「ちょっと!見放すよっ!」

「呼びます!今日から呼び倒します!」

「よし。じゃ、呼んだ時のこと想像してみて?」


 私は何となく疑心になりながらも素直に想像してみる——(うっ、痛い)どうした事か胸が痛んだ。


「痛い、ギュッってなった!循環器内科受診する前に、先ずはキュー○ン試してみようと思うんだけど、どう思う?」


 雅に問いかけると雅は掌を私に向けて力強く答える。


「あ、大丈夫。ある種、私の()()()()だから。キュー○ンも病院もしなくて良し。」


 流石は雅、頼りになる。しかも「生徒にも偶にいるのよ、こう言う症状」との事だ。雅は中学校の数学教師だが、理系とは言え、そっち(医学)の知識もあったなんて!私はなんて心強い友を持って居るんだ。と、我が身の幸運に感謝する。


「症状のデータを採りたいから、今後は症状が起きた時の状況の()()()()報告してね。」


 と言われ、私は二つ返事でOKした。私の返答に雅は満足そうに微笑みながら頷く。(あー、私は本当に良い友を持ったわー)と、私も雅の嬉しそうな表情を見ながら同じように嬉しくなった。



※※※※※


「で、どんなのにするの?攻めてる系?」


 食事を終え、私達は百貨店の下着コーナーに来ている。


「うーん、取り敢えずサイズ変わってるかもだから、測ってもらいたいんだよねぇ」

「あー、変わるよねぇ。私、最近はもうブラやめて、ブラ付きタンクトップだよ。」

「えっ!そんな胸デカいのに?!大丈夫なの?」


 因みに雅はEで、私はBだ。(……もしかして、魂年齢は胸にも影響して来るのだろうか?)私は雅の胸の谷間をじっと見つめながら考える……


「胸の成長と魂は関係ないと思うよ?」


 考えを読まれてしまった…雅は苦笑しながら私の先程の質問に答える。


「案外イケるよ。それにうちの学校、教員がブラ透けるのとかNGだから、タンクトップなら透けても色気出ないでしょ?」

「はぁ〜、なるほどねー。でも…垂れない?」

「一応ナイトブラ使って対策してるよー。」


 はぁ〜、流石は雅。夜も抜かりが無いとは…私は夜はノーブラ派だ。小さい上に垂れるのは見るも無惨だな……雅の谷間と私の胸を比較しながら自嘲気味な笑いを浮かべていると雅が言って来た。


「私は垂れない為だけど、肉上げ効果もあるみたいよ。ナイトブラ。」

「っ!本当!?」


 私は食い付く。そんな食い付きを見せた私に雅が本日何度目かのニマニマ顔を見せて言って来た。


「咲ってさー、新しい彼氏出来ると下着新調したがるよね?」

「っ!そんな事ないと思うっ!だって今は?離婚して旦那も居なくなりましたが?」

「そーねー、今は旦那は居ないよねー」


 何が言いたいんだ?と横目で雅を睨む。雅は「ふふふ」と含みのある笑いを返して来る。今日の雅はやたらと絡みにくいが、とにかくご機嫌な様子だ。終始笑顔だが、どことなく嫌らしい笑顔だ…


 サイズを改めて測り直し、私はいざ!と、下着を選び出す。——-—が、なかなか決められない………雅に相談する事にする。雅は元々の知識に加え、仕事柄若い子達と接している為、色々と情報通だ。


「ね、雅のお勧めは何かある?」


 私の問いかけに雅の瞳がギラつき、「私に任せてっ!」とそそくさと動き始めた。お勧めを聞いただけのはずが、何故か雅が決めるような流れになってしまった……すると雅がすぐに私を手招きし出す。(どうしたんだろう?)と私は近付く。

 

 「どっちが良い?」


 と、雅が聞いて来た。早っ!流石は雅、決断が想像以上に早いっ。一瞬の間に選び終えていたようだ。


 雅の前にバーガンディと黒の2つの下着が置かれている。やはり色選びに年代を感じる…。10〜20代の頃のパステルカラーは顔と比較すると何処か浮いてしまうからね…寂しいが仕方がない。


 どちらもセクシーな感じだが、コテコテ感がない程度にレースが施され、シンプルだが上品に見える。流石は雅、センスが良い。ただどちらもショーツが解けるタイプの紐パンだった。雅曰く、


「解けるタイプの紐パンはマストなんで。そこから選ぶとコレだった。」


 との事だ。雅の中のショーツの選択肢が()()だったとは…選ぶのが早い訳だ。中学教師の情報網とか皆無だった訳ね…私は細い目で遠くを見ながら下着を着た自分を想像する……そして、個人的に黒の下着を身につけた自分にプロレス感を感じ、バーガンディを選んだ……。



※※※※※


——後日——


ピンポーン


インターホンモニターの[通話]を押す。


「お届け物でーす」

「ご苦労様でーす。玄関のドア前に置いておいて下さい。」


 私はそう伝えて[オープン]ボタンで解錠し、[終了]を押す。『何だ?荷物か?』と言って来たアールに「そうそう」と私は素っ気なく返す。


 そろそろ荷物が置かれた頃だろうと玄関のドアを開けると、目的のモノがそこにあった。荷物を取り、私はリビングではなく寝室に入り、その中身をそっと開ける…


(買っちゃった、ナイトブラ。他意ないけどっ!)



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