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#17【スキル発動?!】三人称視点

※17話【スキル発動?!】を三人称で綴ったものになります。

 ここ数日、咲の心は浮ついている。それは離婚後単調に繰り返すだけの日々にさえも少なからず影響を及ぼす程に——それは、どうせテレワークだからとメイクをする事がなかった顔にポイントメイクがされたり、適当にまとるだけの髪が可愛くアレンジされたり、部屋着が着古した物から電車で出掛けられる程度の見栄えの良い物に変わる程度であったが、「どうせ、どうせ」と色々と女子力を捨てていた最近の咲にとっては大きい変化であった。


 その事は本人も十分理解しており、どうにか自重出来ないかと思案している程である。何故なら、()()()()に決してその事実を悟られてはならないからである。


「はぁ〜」


 咲は悶々と溜息を吐く。ある人物とは、言わずもがなUMA改め、アールである。


 咲はアールの大きくなった姿と、輝くばかりの笑顔にすっかり魅了されてしまったのだ。咲は元来美しいモノが大好きな性分である。それは整った顔に限らず、絵画や彫刻といった芸術作品や、自然が織りなす景色、家具や建築等幅広い。


 咲は自身の中で〈完成された美〉と認識したモノをこよなく愛する傾向にある。但し、それはあくまでも観賞用であり、恋愛のそれとは別である。


 アールの端正な顔立ちに対して〈完成された美〉と認識はあっても鑑賞目的でしかなかった。それは、アールの体長が6センチ程しかないと言うことが大きく関係していた。犬や猫と言うよりは、突然窓から入って来た虫のような軽い存在であったからだ。更には、アールはいつも無表情か怪訝そうな表情を浮かべており、どこか冷たい彫刻のようなモノと感じていた。


(大きくなったUMA…体も逞しくて、何となく良い香りもして、何と言うかこう…存在がリアルだった…)


 アールの名を決めたものの、咲は未だに「アール」と呼ぶ事が出来ずにいる。友人の雅は決めた時点から「アールさん」と呼んでいたが、数ヶ月間「UMA」と呼んで来た咲にとって突然に呼び名を変える事にやはり躊躇いがあった。


 その躊躇いは、呼び慣れないと言うだけで無く、アールが同等の大きさになった事でその存在をリアルに実感した事が大きい。咲は[UMA=未確認生物]とする事で、無意識にアールに線引きをしている。恋愛感情を持ってはイケナイ存在だと——



(あの時…UMA…笑ったよね…)


 咲はアールの笑顔を思い出し、自身の頬が熱を帯びて行くのを感じる。無意識に頬の熱を冷ますように、隠すように両手で抑える。


 大きくなったアールに見惚れ、頬を染めている咲に微笑んだのである。それは「惚れるなよ」といつもの上から目線な物言いだったが、その笑顔はいつもの嘲笑ではなく、純粋な微笑みだった。


(あの時は雅も居たし、会話がシリアス方面なのもあって恋愛脳が発動しなくて良かったけど…これから毎日どう過ごせば良いのーっ)


「はぁ〜」


 咲は再び溜息を吐く。まるで初めて恋を知った少女の様ように、気を抜くとあの日のアールを思い出してしまうのだ。そして、[イケメンと同居]という事実に心の浮つきが止まらないのだ。


(…ダメっ、ときめくな私の心臓!!遠目で見ればただの大きい虫っ!会話をすれば鼻持ちならない生意気な奴っ!どんなに見目麗しかろうが、そもそも原始の魂?が何ちゃら言ってたけど、結局は何かよく分からないUMA(未確認生物)なんだからっ!惑わされるな私っ!!)


 シリアスな雰囲気と、重そうな内容の会話について行けず、アールの誕生や魂について咲は話半分にしか聞いていなかった。〈臭いものには蓋〉精神の咲にとって、アールが何者であろうが、自分の魂がどんなモノであろうが正直どうでも良い事だった。


 咲にとって大事なのはアールに気付かれないよう、今まで通り同居生活を続けることである。


(鎮まれ、私の恋愛脳っ!お花畑作ってる場合じゃないっ!余計な変換機能使わないでーっ)


 あの日以来アールは人の大きさになったことも優しい笑顔を向けて来た事もなかったが、咲のお花畑な脳みそが、あの日のアールに瞬時に変換してしまうのだ。


 咲はそんな自分を鼓舞するように両手に拳を握り、煩悩を抹殺する方法(脳内お花畑変換機能を停止する方法)を思案する。


『おい』


 そんな咲にアールが声を掛けるが、咲は当然のように気付かない。アールはもう一度呼び掛ける。


『咲』


 先程よりも随分と小さな声だったが、名前で呼び掛けると咲の肩がビクリと上がる。名乗ったその日に一度だけ呼ばれたものの、それ以降呼ばれる事のなかった名前を呼ばれ、咲に喜びと羞恥の気持ちが広がる。その気持ちを見抜かれないようアールの方に視線を向け、口を開く。


「何っ?!」


 思いの外強い口調になってしまった事に咲本人が驚いた。しかし、アールは気にせず話し出す。


『お前、最近何かそわそわしてないか?』


 金色の瞳が訝しそうに咲を捉える。


「シテナイヨ」


 咲はしどろもどろに答える。


(そんな事より名前で呼んだっ!!)


 二言目には「お前に」戻っていたが、名前で呼ばれた事で咲の体温が一気に上昇する。


(あー、ダメ…私の脳内にお花がポッポっと咲き始める〜)


 咲は自身の頭の上で手を振り、脳内の花を振り払いながら、アールから視線を外す。するとアールは咲の目の前20cm程の所までふわりとやって来た。


「ナ、ナニ?」


 居た堪れなくなり、アールに問いかけた声は緊張で震えていた。羞恥心から、再びアールを視界から外す。しかし、アールはまたも咲の視界に入る様に移動し、無言のまま咲との距離をジリジリと詰めて来た。咲は緊張し、堪らずゴクリと息を呑む。


『お前、まさか』


 そう呟き、咲の瞳を覗き込む様にアールはどんどん距離を詰めて来る。


(あいつと連絡取り出してる訳じゃないよな?)


 アールは咲の挙動不審な態度を元旦那と連絡をとっている為ではないかと誤解していた。アールは訝しげに咲にジリジリと詰め寄る。咲の鼻先にアールが触れるまで残り5cm程となった時、咲は思わぬスキルを発揮した。


(…焦点がボヤけてUMAの顔が全然分からない…)


「ふはっ!」


 咲は勝ち誇ったかのように笑う。その様子にアールは瞳を開き、浮遊しながら一歩後ろに下がる。


(UMAがどんな表情をしているのか全く分からない!窮地を凌げたー!!)


 咲は満面の笑みで両手を揚げる。そして咲は初めて肉体の老いに感謝する。


(ビバ!老眼っ!!!)


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