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#2【出会い】

今日は住んでいるマンションを3LDKから2DKに住み替える日だ。離婚を決意し、引越し先として下見に来た時に散りはじめていた桜の木。「私の心情を表してるみたい」なんてセンチメンタルに浸った桜の木には、今は青々とした葉桜が茂っていた。


荷物を運び入れ、ある程度の荷解きも終わり、ようやくひと息つけるとソファにもたれかかる。そして、忙しい時間が過ぎてふと考えてしまうのは結婚から離婚に至るまでのことだった。


結婚して10年…正式な離婚にかかったのは約2ヶ月か…早いような長かったような…とにかく精神的に人生で一番重い2ヶ月だったな…


結婚当初から定職にもつかずにふわふわ転職を繰り返し、ギャンブルこそしないがふらっと何処かへ長期で出て行ってはふらっと帰ってくる。

いつもお金に困っていて、お金を渡すのを拒むと数多にいる知人女性達の元へ行く…そんな[夫婦なの?紐なの?]という最低なクズ夫に見切りをつけ、これから自分一人で地に足つけて生きて行かねばいけない…と、そう思っていた。


思っていたけど……ん?目の前には銀髪&金瞳の超絶美形な小人(羽付き)がふわふわ浮いてる。


えっ?ここ?事故物件ってやつ?!


夢か現か…離婚により相当精神的ダメージを受けていたせいなのか…とても現実のものとは思えない生物が目の前を浮いている。


あまりに非現実的な光景と、芸術品のように整った外見を持つ生物を目の前にして思考が全く追いつかない。


『あれ、俺が見えるのか?珍しいな』


目線はがっつりあっているが、思考は停止している私に向かってソレは言って来た。


あ、これ、見えちゃダメ(霊的)なやつだ。


私は青くなる…ショックと共に、恐怖、そして少し遅れてふつふつと怒りが込み上げて来た。


「散々な思いをしながら10年も結婚生活続けて?!断腸の思いで離婚して、これからこの歳で何とか1人で生きて行こうと思ってるのに?!何で?!事故物件!?何で、ここまで不幸がふりかかるわけ?!」


逆ギレた。言葉にすればするほど怒りが増幅して行く。


「何だよ、あの不動産屋!親切ぶりやがって!あんた他行ってよ!何でここに出るわけ?!それとも虫なの?こんなでっかい虫が出るのも嫌だけどね!ここに居る気なら賃料払ってよ!」


言ってやった。呪われても構わない。もはや呪われている最中なくらい不幸だし。いや、離婚は自分の決断だ、あのまま結婚生活を続けるのは地獄だし未来はない。だとしても…今後の人生を思うと明るい未来もまた見えない……なら、もういいや。ここでこいつに殺されようが、狂わされようが、もうどうだってい良い。と言う思いで一気にぶちまけた。


『ヒステリー』


眉間に皺を寄せ、虫けらを見るような目を向けられた。心底鬱陶しいといったその表情に私は更に激昂する。


「不法侵入しておいて何っ!その態度っ!早く出ていって!ここは私の部屋なの!私が借りて、私が家賃払ってるの!私以外の生命体は入ってこないでっ!」


ご近所トラブルになろうが知ったことではない。こっちはもはやおかしくなっているのだ。


そうだ、私は長年に渡る結婚生活でのストレス&離婚から精神を病んだのだろう。


今後の不安から来る日々の鬱憤も込めて、私は怒鳴った。


『ふんっ』


鼻から短く息を吐き、上から見下ろすように私を見てくる。


こういう芸術作品を見に行く場所でなら、穴が開くほど見ていたいけど、今この場所は違う。ここは私の部屋だ。

一人でのんびり過ごせる私だけの空間にこの存在は不必要でしかない。その思いを込めて私は声を低めて告げる。


「早く消えろ」


自分なりにすごんで言ったつもりだが、そいつは気にもとめない様子で、


『ふんっ』


と、鼻から短く息をはく。全くもって態度を改める気はないようだ。腹立たしい。何が腹立たしいって、腹立たしいほどにその感じの悪い態度さえも様になっているじゃないか!


「何なんの?霊なの?妖怪?天使?悪魔?妖精?とりあえず、あんた何なの?」


42年間生きて来てこんな生物の存在は目にしたことも聞いたこともない。こんな異質な存在は気味が悪い。しかも正体不明なんて恐怖すら感じる。せめてこいつが[何者]であるかくらいは把握しておきたい。そう思い問いかけてみた。


『さぁな。』

「は?」


どうやら、答える気はないらしい。


もういいや、面倒くさくなってきた…


私は怒りの沸点は低いが、その怒りを持続させるスタミナを持ち合わせていない。何だか一気に興醒めて来ると、次第に怒りも恐怖も鎮静化してきた。


「UMA(未確認生物)かよ。」


とポツリと呟く。


『俺をビッグフットやチュパカブラと一緒にするのか?!』


と速攻で突っ込まれた。


「何でUMAに詳しいの!」


ブ○ローの描く絵画のような外見から意外な単語が飛び出してツボにハマってしまった。しばらく笑い続けてふと気付く…


こんなに笑ったのいつぶりだろう?


こうして、私と超絶美形のUMAとの同居生活が始まった。

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