表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ハイスペック女子が怒っている。

作者: 津辻真咲


宇宙時代。その台頭が始まってから、100年が過ぎていた。地球は、アンドロメダ地方支部所属の郊外都市。そして、学校は究極の“共学”となった。



「なぁ、俺って……モテると思う?」

宇宙生命体のエイデンは、人類の咲良さくらの頭上で、そう言う。

「頭の上で話すな」

彼女はすたすたと登校中。彼を軽くあしらう。

「咲良!」

「ん?」

咲良はくるっと振り返る。宙に浮くエイデンが邪魔で、彼女の顔は隠れる。

「テスト勉強、手伝って!」

親友のイザベラは、咲良に頼み込む。

「うん、いいよ」

彼女は笑顔で承諾した。

「わーい」

イザベラは咲良に抱きついた。すると、遠くのとりまきたちは、彼女を見ていた。

「さすが資格女王」

「頭いい」

「確か去年、弁護士資格も取ったんだろ?」

「資格総ナメ」

「ホント、ハイスペック女子だよなぁ」

キーンコーンカーンコーン、と予鈴が鳴った。

「あ! 急げ!」



「で?」

咲良は席に座り、頬杖をつく。

クラスはざわざわと、ざわついていた。いつも通り、皆、友達や仲間と会話をしていた。

「俺、告白したい!」

エイデンは、そう咲良へ告げる。

じぃぃぃっと彼女はエイデンを見た。

「誰に?」

「あ! そうだった!」

エイデンは焦る。そして、ちらっと横目で相手を見た。咲良はエイデンの目線の先を見る。

「あ。ソフィー?」

「おはよー」

「おはよ」

ソフィーは笑顔で手を振る。

「遅かったね、大丈夫?」

ソフィーと彼女の友達は会話を続ける。一方、エイデンはぽっと顔を赤くする。

――なるほど、あの子か。

「なぁ」

「?」

「その」

「?」

「お前の家の“科学力”使わせてくれ!」

「!」

咲良は目を大きくして驚く。

「あるんだろ!? 生物学部!」

エイデンは彼女に詰め寄った。

「え、まぁ、研究所だからね」

「だろ!」

「でも」

「?」

「君の期待している、その“遺伝子再構築”の技術は、今の段階ではまだマウス実験中。だから、……死亡していいの?」

咲良はきっぱりと言う。

「え!? 人体実験!?」



その夜。

「本当にいいのか?」

咲良は確認する。

「あぁ」

エイデンはそれに頷く。

「じいちゃんにも立ち会ってもらうけど?」

「分かった」

「今回は、エイデン君、あなたの希望により、この人体実験を行います」

咲良の祖父、正一が再確認。

「はい」

「同意書にもサインをもらいましたので、今から行いたいと思います」

「はい、お願いします」

――わざわざ、人類になりたいだなんて、な。あいつも本気だな。



「さぁ、入ってください」

エイデンは正一の指示に従う。

「説明は以上です。心の準備は大丈夫ですか?」

「はい」

エイデンは正一にそう返事をする。

「では、始めます。3、2、1、……開始」

機器が動き出した。咲良と正一はガラス張りの中を見つめる。

ヒュウ、と機器が出力を落とす。そして、機器のドアが開いた。

「咲良、ありがとう」

エイデンは機器から出てくると、そう言って、はにかんだ。

「ま、がんばれよ」

咲良も彼に微笑み返した。



翌日。予鈴が鳴る。

人々がざわざわざわと話していた。

「あの男子、誰かなー?」

「ちょっとイケメンじゃない?」

「転入生?」

女子たちは彼の見た目の良さに会話が止まない。

「あ」

エイデンは咲良に気付く。

「咲良ぁ!」

彼は、ぱぁっと笑顔になり、咲良に手を振った。

――あいつ、意外とイケメンだな。

咲良は少し、困惑した。

「どうしたんだよぉ」

一方、エイデンはきょとんとしていた。



「もしかして、エイデン君?」

二人は振り返る。すると、そこにはエイデンの思い人、ソフィーがいた。

――ひぇぇぇ!

エイデンはムンクの叫びのように驚いていた。

「ソフィーさん、よく分かったね」

咲良は少し驚いていた。

「声がそうだったから」

ソフィーは、にこっと微笑む。

――さすがだ!

咲良は感嘆。エイデンはムンク。ひぇぇぇ! と、まだ混乱中。

すると、咲良はガシッとエイデンの肩を掴む。

「お前、前回男子2位だったよねぇ」

咲良の怖い笑顔が見えた。

「え、え、え、何がですかぁ!?」

怖がるエイデン。

「そうなの? 頭いいんですね」

ソフィーは笑顔。

「テ」

「テストだよ」

咲良は笑顔で答える。

――ひぇぇぇ! 確かに、そうだけどぉ!

エイデンは再び混乱。

「そういえば、入学式以来、あまり話す機会なかったね。あ、私、今日から友達と図書室でテスト勉強始めるんだけど、一緒に来る?」

ソフィーは爽やかに言う。一方、エイデンはフリーズ。

「え」

「男子1位の大翔君は、ちょっと変わってるし」

ソフィーは苦笑する。

「あぁ。あの」

「美形ナルシスト」

「もう、咲良さん、きっぱり言わないで」

ソフィーは困ったように言った。すると、予鈴が鳴った。

「あ。予鈴なっちゃった。じゃあね」

ソフィーは、タタタタタッと教室へ向かって走っていった。

「……」

エイデンは顔を赤くして立ち尽くした。

「良かったね」

咲良は横目でエイデンに微笑む。

「ありがとう」

彼は俯いて、顔が赤いのを必死に隠していた。



放課後。

――放課後が、来てしまった!

エイデンは内心、動揺する。

「もう、告白して来いよ」

咲良はばっさり、と言う。

「出来るかぁ!」

エイデンはムンクの叫び再び。

「あ」

エイデンは何かを思いつく。

「?」

咲良はけげんそうに彼を見る。

「心理学で、応援して?」

「なぜ」

咲良は真顔で聞く。

「だって」

「?」

「だって」

「?」

「ハイスペックだろぉ!」

「はぁ!? 心理学の博士号は持ってねぇよ!」

咲良は怒った。すると。

……。

二人はある事に気付く。そして、振り返る。

「仲いいんだね?」

ソフィーが笑顔で立っていた。

――ひぇぇぇ!

エイデンはムンクの叫び、再来。

「ごめん。違うから」

咲良は真顔で答える。

「そうなの? てっきり」

「ま、親友だ」

咲良はエイデンと肩を組み、変な敬礼をする。

――冷静に答えてるぅ!

エイデン、混乱中。

すると、ソフィーはくすっ、と微笑む。

「咲良も一緒にしよ? テスト勉強」

すると、どこからともなく、笑い声が聞こえて来た。

「ハハハハハッ! そんなんで勝てるのか? 咲良!」

皆は笑い声の主の方へ向く。すると、そこには美形ナルシストと言われていた、大翔ひろとの姿があった。彼はテストで校内一位である。

「うるせっ!」

咲良は即座にかばんをぶつける。

「いてっ!」

大翔は少し吹っ飛ぶ。

「仲いいわね」

「ホント、そう思う」

クラスの女子たちが呆れ顔でそのやり取りを見ていた。

「?」

一方、ソフィーはきょとんと、それを見ていた。

「お前も負けてるだろ」

咲良は仁王立ちで言い放つ。

「数学だけだろ!」

大翔は起き上がる。

「理系をなめんな」

「俺も、理系だ!」

大翔は咲良の言葉に振り回される。

「咲良、先行くね?」

ソフィーたちが遠くから声をかけた。

「分かった。エイデンに聞きまくればいいから」

咲良は変な敬礼をして答える。

「じゃ、待ってる」

一行がそう言うと、ドアが閉まった。

「さて」

咲良は自分のカバンを持つ。

――こっそり、偵察に。

「待て」

大翔は咲良を引き留める。

「ん?」

彼女は振り返る。

「俺も手伝う」

彼は少し頬を染めて言う。

「ふぅん。じゃ」

「何でだよ!」

彼は焦る。

「だって、美形ナルシストだから、目立つ」

咲良はぴしゃりと言う。

「な、何!?」

「じゃ」

咲良は敬礼をして、去って行った。

「おもしろそうだったのに……」

大翔はその場にうなだれた。



エイデンはソフィーとその女子友達とで図書室へ向かっていた。すると、第一女子軍団がエイデンへ話しかけようとしていた。

「ん?」

エイデンはそれに気付いて、振り返ってしまった。

「私たちも図書室へご一緒してもいいですか?」

第一女子軍団の女子が不安そうに尋ねる。

「うん、いいよ」

エイデンはにっこりと笑顔で答えた。

すると、遠くから、咲良がそれを見ていた。

――はぁ!? みんなに優しくしてんじゃねぇ! ソフィーだけに優しくしろぉ!

ゴォォォと怒りのオーラが上がる。

――他の女子が来るとは! イケメンにしすぎたな、顔。

咲良は怒っていた。

「ありがとう」

第一女子軍団の女子は笑顔でお礼を言う。

「ソフィーさん、よろしくね?」

「うん」

ソフィーも笑顔で答える。

――って、ある意味、すごい事に。

「へぇー、女子仲良さそうじゃん」

……。

「何!? 何でいるんだよ!」

咲良は振り返り、怒る。

「だって、楽しそうだったから」

彼、大翔はしょぼくれて、語尾が小さくなる。

――ったく!

すると、再び、エイデンの方へ向いたのはいいが、彼らは忽然といない。

――見失ったぁ!

「仕方ない、直接、図書室へ行こう」

「よし。俺も行く」

「お前は来なくてよし」

咲良はそう言うと、タタタタッと走って行った。

――校門で結果、待ってみようかな。

大翔は諦めて、校門へと向かった。



図書室前。咲良はそこから、図書室の中の様子をうかがっていた。

――大丈夫かな、あいつ。

「ねぇねぇ、エイデン君」

女子の一人がエイデンへ話しかける。

「何?」

彼はノートから顔を上げた。

「ちょっと、気になる事が」

彼女はニコッと微笑んで言う。

「?」

「さっきは、詳しく聞けなかったんだけど、エイデン君は、咲良さんの事、どう思ってるの?」

その女子は首をかしげ、きょとんと聞く。

「え?」

「だって、今回の人類になれたのだって、咲良さんのおかげなんでしょ?」

「確かに、朝の時点ではさらっとスルーしちゃったけど、人類になるって、すごい技術だよね」

「いつも思ってたんだけど、エイデン君って、咲良さんに甘えてるよね」

「そうそう、お似合いだと思う」

第一女子軍団は目を輝かせて言う。

「……」

ソフィーはエイデンを見ている。

「あ……、え」

彼は言葉に詰まった。

――何!? 早く否定しろよ!

咲良は廊下でイライラしていた。

――本気でソフィーさんの事が! だから、人類にまでなったんだろうが!

「……」

――何で、黙るんだよ! いい加減何か答えないと!

彼女のイライラがつのる。

「実は俺、咲良に頼んだんだ」

「?」

「ソフィーさんに告白したいって。それで人類に」

「え!? そうだったの!?」

「ごめんっ! 私たち勝手に」

女子たちは手を合わせて謝る。

「エイデン君、でも私……」

ソフィーが言いかける。しかし。

「最後まで聞いて?」

「え?」

「俺、ソフィーさんに憧れています。でも、今、気付いた。俺の中の咲良の割合が何より一番占めている事に」

「ひゅー!」

「いいぞー! 行って来いよ!」

図書室にいた男子たちがあおる。

「男子、うるせぇよ!」

「それは、ともかく。さっさと告ってこい!」

女子たちは笑顔で彼を送り出す。すると、図書室のドアが開いた。

「!?」

エイデンは振り返る。

「咲良!?」

「なーにーやってんだー!」

咲良は大激怒。

「だから、告白したよ? ソフィーさんに」

エイデンは言い訳を説明し出す。

「あぁ!?」

「昨日、言ったよ? ソフィーさんに告白したいって」

「だーかーらー……!」

咲良のイライラは高まる。

「今までとは、違うニュアンスで想ってますって!」

エイデンは笑顔で言い放つ。すると、咲良は黙る。

「……」

「ん?」

エイデンは黙った咲良の様子が怖くて、少し焦り出す。

「このやろぉ!」

すると、エイデンは咲良にドカンとカバンで吹き飛ばされた。

「な、何だ!?」

それは校門の大翔の所まで聞こえた。

――おいおい、怒ってどうすんだよ。

大翔は少し呆れながら、図書室の窓を見つめた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ