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探偵と錦鯉  作者: 長村
OL行方不明事件
9/35

一人と一冊、猫の話。

「ところでシュウ。」

「なんだよ。」

「君から“こちら側”の気配を纏わせていることには手を出してもいいかい?」

「は!?」

 観察の視線が強くなったのを感じ、反射的に肩が震えた。クロの言う『こちら側』とは、つまり俺たち人間とは違う世界。妖怪、妖精、神、異世界……その他もろもろ、非科学的存在のすべて。記憶を遡るが、クロとマスター以外の“そちら側”と関わった覚えはない。神社や寺も、数年はご無沙汰だ。

「心当たりがねぇんだけど。」

「では恐らく君が捜査中の案件が“こちら側”を原因としている。最近『猫』にまつわる事件に関わらなかったかい?」

「猫……?」

 それなら、覚えはある。

 逃げた飼い猫を探しに行ったまま、一人の成人女性が行方不明という事件。いつ亡くなってもおかしくないほど年老いた猫が、開いた窓から外へ出てしまった。最も猫を可愛がっていた次女は、仕事終わりに連絡を受けるや否や探しに行った。それから3日間連絡が途絶え、両親が捜索願を出した次第である。一人暮らしの部屋に帰った形跡も、友人知人への連絡も、SNSへの投稿も無し。周辺の監視カメラの映像にも碌な手掛かりは無く、完全にお手上げ状態だった。

 一通りの流れをクロに話すと、俺をじっと見たまま「なるほど」と呟く。

「新聞にも載っていた事件だね。」

「おう。けど、民間人からの目撃情報も今のところ無し。」

 これが人間の摂理からズレた事件なら、納得だ。人間の警察が総力を上げて調べたところで、何も進まないのも頷ける。科学的痕跡を残さないのが、“あちら側”の存在なのだから。

「それでねシュウ。」

「ん?」

「君の言う『老猫』ってこの猫じゃないかい?」

 クロが見せてきた写真は、俺が捜査中に見たものと同じだった。



 クロノ・B・A・アーミテージは『探偵』である。残念ながら、シャーロックホームズのように事件を解決する探偵ではない。クロの仕事のメインは『脱走したペットの捜索』だ。犬や猫を中心に、爬虫類から鳥類まで。行方不明になってしまったペットを探し出し、飼い主の元に届けるのを生業としている。

「行方不明者から、依頼されてたのか?!」

「いいや。依頼してきたのは彼女の甥っ子だ。」

 行方不明者の姉には、一人息子がいる。

 両親と祖父母と一緒に暮らしている彼は、一人暮らしを始めた叔母に代わって猫の面倒を見ていた。猫が脱走した時に「自分も探す」と言ったが、叔母に「夜遅いから」と止められる。しかし最終的に猫ともども行方不明になってしまったことで、彼はペット探しに評判があるクロに依頼をしてきた。老猫が見つかれば、叔母も見つかるのではと信じて。

「…………中学生から金とる、ワケじゃないよな?甥っ子が言い出したことだけど、親と一緒に依頼しに来たんだろ?」

「いいや。依頼してきたのは甥っ子一人だよ。特別枠だからお金は取らないけど。」

「特別枠?」

「彼の母親は猫探しに消極的みたいだしね。」

「ふーん……?まぁ、猫より妹を重視するのは仕方ねぇ話か。」

「いいや。」

 クロはゆっくり、首を左右に振った。その否定が何を意味するのかわからず、俺は首を傾げる。いつものように薄く微笑んだ表情のまま、クロは淡々と語った。

「シュウ。行方不明者の家族をよく見るべきだ。今まで話を聞いた人間のことをよく思い出すべきだ。そうすればシュウならきっとわかるよ。」

「はぁ…………?」

 クロが何を伝えようとしているのか、俺が理解するにはまだまだ時間がかかる。ただ黙って、素直に自分の記憶を探った。


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