表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
探偵と錦鯉  作者: 長村
邪龍呪殺事件
33/35

邪神、その食後。

 視界が開いた時、そこにはカズラさんが一人で立っているだけ。泉の湖面が僅かに揺れているものの、先ほど感じた“気配”も龍泉院満花の姿も既に無い。口元を拭いながら、カズラさんは「……ふぅ」と沈黙を破る。

「二郎系ラーメンってカンジでしたね、流石は山一つ覆う呪詛を振りまいていただけあります。量も質も、文句なしの絶品。ゆっくり味わえなかったのは、残念ですけど。噛み千切られたら痛いでしょうから、丸呑みするしかないなって。」

 淡々と感想を述べ、苦笑いでこちらに振り返った。

「龍泉院満花が痛い思いをする必要は、無いですから。」

 どこか悲し気にカズラさんは湖へ向き直り、両手を合わせる。

「ごちそうさまでした。」

 それは彼女なりの、追悼の言葉だった。





 煮え切らない後日談。

 龍潜山の各地から、行方不明者の遺体が次々に発見された。呪いが消えたおかげで神主一家のことも認識され、自宅にて全員の遺体が見つかる。そこから龍泉院神社にも捜査が入り、彼らが行っていた暗い因習も明らかになった。言うまでも無く地下洞窟も捜査の対象となり、湖の中からも死体が引き上げられた。水中で腐りきっていた遺体は、旅行雑誌のライターだったとのこと。観光地の取材をするうちに、あの湖に辿り着いたのだと思われる。

 事態の深刻さ、異常さから全国的なニュースになった。

 このまま神社が取り壊されるのではと心配したものの、どうやら「神社そのものは残すべき」との声も少なくないらしい。しばらく『解体派』と『保全派』が争うのだろうが、これに関してはどうしようもない。カズラさんも「人間が人間の話し合いで決めることなので」と、首を横に振っていたし。


「龍潜山も龍泉院神社もこの土地の大切な場所だ。神主の一族が途絶えたところですぐに寂れたりしないだろう。」

 いつもの喫茶店。

 クロの語りに、その通りになるだろうと俺も頷く。

「そういえば、あの日記の…………」

「龍泉院満花の名前が読めたのはカズラだったからだろうね。」

 質問を全て言い切る前に、先回りで答えが返された。日記を見つけたのが彼女だったのは、ある意味「運命」だったのだろうか。俺だったら認識阻害で読めなかった筈だし、クロは情報を淡々と処理するだけだっただろう。アレを読んで、心の底から怒りをあらわにできたのは、三人の中で彼女だけ。

「性的搾取に対する同調は女性同士の方が強いだろうしね。」

 あの時の使い魔たちの動きは、主の感情に反応していたから。思い出しながら、結局は何もできなかったなと少し落ち込む。

「警察官になって、家庭内暴力やら児童虐待やら飽きるほど見てきたのによ…………取り乱してばっかで、情けなかったな。」

「そんなことはない。宗教的な思想が混じってくるとまた理解し難くなるから。」

 クロが優しげに、首を左右に振った。まあ、事件の捜査には俺も参加しているし、今回の失態は仕事で取り返していくとする。

 カランカランと、店のドアが開く音がする。ああ、そうだ、忘れるところだった。


()()()()()!お疲れ様でーす!」

()()()()()()も、授業お疲れ。」


 俺に、新しい『友人』ができた。

 年下の可愛らしい、恐ろしくも頼りになる『友人』が。

 この報告をもって、今回の事件は終わりにしよう。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ