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探偵と錦鯉  作者: 長村
邪龍呪殺事件
31/35

邪神、蜻シ縺カ。

『200■年■月■日』

『文字の勉強を一通り完了した。』

『文章の勉強の一環として記録をつけ始める。』


『20■■年■月■日』

『月のものが来るようになったので、子供を作り始めると父に言われた。』



『20■■年■月■日』

『お腹が重くなってきたけれど、母が世話をしてくれるので大きな支障はない。』


『20■■年■月■日』

『子供を産んだ。』

『体の色々なところが痛い。』

『とても疲れた。』



『20■■年■月■日』

『二人目を産んだ。』

『やはり出産は疲れる。』


 読み進めるごとに、ページを捲る手が早くなる。見るに堪えない内容に、早く終わらせたい一心で指が動く。同時に、かつての自分を思い出す。クロに出会う前の、助けを求める行為を忘れていた俺、他者に支配されるだけだった俺と重ねてしまった。そもそも助けを求めることすら知り得ない彼女とは、冷静に考えれば根本から違うけれど。


『20■■年■月■日』

『初めて見る人間が一人で現れた。』


 その一文に、手が止まる。


『おかしいと言われた。』

『間違っていると言われた。』

『逃げようと言われた。』


 クロに間違いを指摘され、異常だと突き付けられた記憶が蘇る。この日記の書き手にも、指摘する者は現れたのだ。差し伸べられた手は、確かに存在した。


『父はその人間を殺した。』


 理解する間もなく、奪われてしまったが。


『忘れろと言われたが、考えられずにはいられない。』

『わたしは“おかしい”?』

『そもそもどうして、父は「忘れろ」と言った?』

『わたしが今日の出会いを覚えていることは、悪い事なのか?』

『だとしたら何故?』

『知りたい。』


 日記はここで終わっているが、後の展開は察しがつく。詳細な手段までは分からないが、彼女は“知ってしまった”のだろう。自分の境遇が、世間一般ではどういう扱いなのかを。いままでの行為が、悪と位置づけられていることを。無知の知…………何も知らなかったことに、気付いてしまった。

「神主一家は、恐らく暴走した彼女に呪殺されたのではないかと。生まれたと書いてある子供も、例外ではないでしょう。」

 ずっと黙っていたカズラさんが、ようやく口を開く。しかしその声色は、ひどく冷めきっていた。

「認識阻害は、彼女自身が「なかったことにしたい」と思っている…………ってコトかなって。自分の在り方を拒絶したことが、呪いとして影響しているんでしょう。」

 最初に聞いた「見ないで」という悲鳴にも、納得できる。社会常識を得てしまったら、自分の存在が醜く思えても仕方ない。自分自身の境遇、実の家族に利用されていた現実、それらに覚えた嫌悪感────全てを知ってしまったショックで、彼女は能力を暴走させてしまった。

「それで…………キッカケもわかったが、どうするんだ?あの子を、どうやって助ける?」

「どうしようもない。彼女を救う方法は無い。」

「えっ。」

「諸悪の根源を衝動的に消し去ってしまった。つまり恨みを晴らす手段を彼女は自分で潰してしまった。それだけでなく無関係の人間を何人も呪い殺している。この事実から神に近しいものになってしまった。彼女を生きたまま無力化することはできないし今から善良な神にすることもできない。」

「それって」

「殺すしかない。」

 キッパリと言われてしまい、絶句する。

 やっぱり違うのかと、肩を落とした。壊れてもなお手を差し伸べられ助けられた俺と、差し伸べられた手が届かず壊れた彼女。あの子は、助からない。

「つまり、私の出番ですね。」

 何も言えないでいると、カズラさんが冷静な口調で沈黙を破った。変わらず、使い魔たちは足元で煮えくり返っている。

「このナワバリのヌシとして、責任を持って終わらせます。」

 俺から日記帳を取り上げる手つきは、口調に反して優しい。

「龍泉院満花(みちか)を、食べることで。」

 日記帳の裏表紙の隅に書かれた名前を、カズラさんは読み上げた。


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