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探偵と錦鯉  作者: 長村
邪龍呪殺事件
30/35

邪神、真相を知る。


『御神体 初潮を確認』

『翌月より繁殖活動を行う』


『一回目の交尾 種:龍泉院■■』


『御神体 懐妊』

『出産 能力の発現ナシ』

『一人目 死亡』


『二回目の交尾 種:龍泉院■■』


『懐妊』

『出産 能力の発現ナシ』

『二人目 順調に成長』


『三回目の交尾 種:龍泉院■■』


『懐妊』

『出産 能力の発現ナシ』

『三人目 順調に成長』



「……交尾…………出産…………」

 何の記録か、察しがついてしまう。けれど、精神が理解を拒否している。頭の中が、整理されることを拒む。理解するなと、本能から警告される。これは、この記録は。クロの手から奪い取るようにして、俺はその記録をパラパラと捲った。



 『四回目の交尾』『懐妊』『死産』『五回目の交尾』『懐妊』『出産』『ナシ』『成長』────『六回目』『懐妊』『出産』『死亡』────『七』『ナシ』────『八』『死産』────『九』────『十』────『十■』────『■■回目』────『■■回目』『■■回目』『■■回目』『■■回目』────『懐妊』『出産』『懐妊』『出産』『成長』『懐妊』『死産』『懐妊』『出産』『死亡』『懐妊』────────。



「神主は、自分の娘と息子を……?」

 眩暈がして、強い吐き気に襲われる。クロは俺の手から記録帳を取り上げて、素早く閉じた。そして、無慈悲に断言する。

「兄妹で性行為をさせていた。より神の血が濃い子孫を作るために。立て続けに神通力の持ち主が生まれるようにしたかったのだろう。」

「なんのために」

「理由は様々な可能性がある。でも一番ありえるのはコレが『日常的に行われていた活動』だからかな。」

「は?」

「さっきも言っただろ?何百年と前から“先祖返り”は管理されていたから今も“そう”した。それだけ。」

「それだけ、って。」

「自分は普通だと思った習慣が他人の目には不可解に映る────現代社会でもありふれた人間の性質だ。ヒトにとって“ずっとそうだった”は強力な理由になるんだよ。」

 そんな「よそはよそ、うちはうち」みたいに、言い切っていい話じゃないだろ。そう口に出したかったが、できなかった。ソレが根幹にあるというのは、きっと真実なのだ。毎年のお祭り、毎月の儀式、会社の飲み会、サービス残業、習慣──悪習。

「習慣は長く続けば続くほど終わりにくくなるものだ。第三者が横やりを入れない限り────これを。」

 比較的新しいページが、俺の前に突き出された。



『侵入者』

『神体への接触』

『排除』

『然るべき儀式の後に献上』



「排除、って。」

「この『侵入者』というのは高確率で一般人だ。彼女の境遇が現代社会において許されないものと分かっていた人間。」

「接触ということは、監禁されているあの子を見つけたのか。」

「だから神主一家は『侵入者』を『排除』──つまり殺した。そして死体を神への供物と銘打って泉に捨てた。」

 あまりにも簡単に、クロは要約してしまう。

「自分の娘を監禁している、それどころか近親相姦も強要している。それを、他人に見られたとなれば…………こうなる、か。」

 小説やドラマなら王道の展開なのだが、胸糞悪いことこの上ない。刑事として、バラされたくない情報が動機の殺人は嫌と言うほど見てきた。聞き飽きた動機、見飽きた現象。けれど、嫌悪感を忘れたワケじゃ無い。込みあがる「気持ち悪さ」を、どうにか飲み込む。

「これが、きっかけで?」

「うん。彼女は知ってしまった。自分の境遇が歪んでいることに。」

「だから、ショックを受けて、暴走した?」

「九分九厘確定かな。」

 その時。


────どぷり。


 後ろで、液体が泡立つような音がした。

 振り返ると、部屋の入口に人影。

「カズラさ────っ!!」

 無言で立つ彼女の足元を、真っ黒い液体が波打っている。前に見せられた、彼女の“使い魔”とやらだ。カズラさんは足元に“ソレら”を纏わせながら、無表情で歩いてくる。ただならぬ気配に戸惑っている俺を無視して、彼女はクロに一冊のノートを差し出した。

「大体の事情は把握したみたいだね。」

 カズラさんは無言でうなずき、そのまま顔を上げない。クロは渡されたノートを、先程までと同じようにペラペラと捲る。

「シュウ。」

「お、おう。」

「君にも読んで欲しい。」

「……わかった。」

 それは、一人の少女の日記だった。


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