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探偵と錦鯉  作者: 長村
邪龍呪殺事件
29/35

邪神、読み解く。

 戸籍が無い、とは。

「あの子は、今の神主の子供で……ってことか?」

 首を傾げる俺に、クロは「そうだよ。」と頷く。

「ずっと昔に生まれた人間の『幽霊』等ではない。現在を生きる人間という話。」

「それはそうだとして…………何で戸籍が無いって断言できる?」

「コレ。」

 クロが、さっき読み上げたものと同じ本を示す。

「何百年も昔から。この神社が建てられた時から。神通力の強い後継者は神主一族によって『管理』されていたそうだ。」

「管理?」

「彼女が“先祖返り”と判明した時期は分からない。しかし恐らく普通の人間と同じ暮らしはさせなかった筈。ハッキリ言って監禁状態で育てられていたと予想できる。」

「監禁って、」

「コレに『先祖返りを胎、種として跡継ぎを作らせていた。』と書いてあった。故に今代の神主もそうしていた可能性が大きい。」

 絶句。

 クロがあまりにもスラスラと語ってしまうので、感情が追い付かない。突っ込めない、聞き返す余裕もない。

 じゃあ、つまり、あの子は。

「生まれた時から“先祖返り”ってのがわかってて、昔からの方法で育てようとしていたってか?そりゃ確かに、戸籍を作る理由が無いな。」

 ともすれば、まともに産婦人科に通っていたかも不明だ。少しでも“そういう子供”が生まれる可能性があるのなら、他人もとい行政に知られるのを避けるだろう。あまりにも非常識な、時代錯誤にもほどがある行動だが。

「次の部屋へ行こう。」

 戸惑っている俺を置いて、クロは本を戻して出入口へ向かう。

「管理と言う以上は『記録』を残している筈だ。」



 書庫の隣は『誰かの部屋』らしかった。本棚が多いことに変わりはないが、机と椅子、箪笥もある。クロの話から考えると、あの女の子か神主自身の部屋だろう。

「神主の部屋かな。」

 箪笥から出てきた浄衣一式で、すぐに選択肢は消えた。他に目ぼしいものは出てこないので、次は机を調べる。一分もしないうちに、机の上に並んだ本の一冊が分厚い日記帳であることに気付いた。

「神主の、だよな?」

「そうだね。失礼して────────うん。ここに“先祖返り”が生まれた時のことが書いてある。」

 クロがまたページをめくり、特定の箇所を俺の目の前にかざす。そこには歓喜に満ちた言葉が、繰り返し綴られていた。


『やっと生まれた。』

『待ち望んだ力の持ち主が、今代に!』

『女というのも都合がいい!男よりも子の血が濃くなる、最高だ!』

『俺が、俺の代が、一族の歴史に名を残せるのだ。』

『これ以上の喜びはあるまい。』


 ジワジワと、怒りが込み上げてくるような文。自分の名誉に囚われた人間が『神主』とは、世も末だ。我慢しきれず、無意識に唇を噛んでしまう。クロは当然のように冷静で、机の引き出しを探っている。

 数秒後、いかにも怪しげな『手帳』が机の上に置かれた。

「これも日記か?」

「いいや。見たところ事務的な記録が書いてあるね。」

 ページを捲る様子を後ろから覗き込めば、確かに何かが箇条書きで記してある。しかし、どうにも文字に目のピントが合わない。

「なんか、掠れてて見えにくいな?この、名前っぽいのが書いてあるところとか…………」

「コレも恐らく“認識阻害”の影響だ。名前のところは注視せずに全体の文章を眺めるように読んでみて。」

「あ、あぁ、なるほど。」

 クロが差し出してくれたページを、なるべく距離をとった位置から読む。老眼の人が、新聞紙を遠ざけて読むような姿勢。名前の読みにくさを無視すれば、どうにか文章の意味が理解できた。


 直後に、理解出ないほうが良かったと後悔する。



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